U2が9年ぶりの新曲を投下した。タイトルはSTREET OF DREAMS🛒楽天。2026年7月7日にIsland Recordsからリリースされた、次のスタジオアルバムに向けたリードシングルだ。ラジオでかかった瞬間に「あ、U2の音だ」と分かる、あの持ち上げるようなコード感が戻ってきた。正直、Songs of Experience以来ずっと、次はもう出ないんじゃないかと半分諦めていた。それが夏の入り口に、いきなり届いた。
この曲の要点
- 2026年7月7日にIsland Recordsから公式発表され、U2の未発表新作アルバムからの最初のシングルとしてリリースされた楽曲である。
- 前作から9年ぶりとなる新作の先行曲であり、プロデューサーは長年の共同制作者Jacknife Leeが務めている。
- ミュージックビデオはメキシコシティで2026年5月12日に撮影され、アーティストChavis Mármolがグラフィティで覆ったスクールバスの屋根上で演奏された。
- 撮影中は激しい雨で発電機が使えなくなるトラブルもあった、Plaza Santo Domingo付近での野外ライブ形式のシュートだった。
- 近年ドラマーLarry Mullen Jr.は首と背中の手術からの回復期にあり、2023〜2024年のSphere公演にも参加していなかったが、本作で復帰した。
9年の沈黙を破るリードシングル
まず事実から。2026年7月7日、Island Recordsが新曲Street of Dreamsのリリースを発表した。これはバンドの未発表の次作スタジオアルバムからの最初の楽曲で、前作から9年ぶりの新作となる。9年。長い。U2ほどのキャリアを持つバンドでも、これは沈黙が過ぎる。その間、彼らが何もしていなかったわけではない。2023年のSongs of Surrenderで過去曲を再解釈し、2026年2月の灰の水曜日にはDays of Ash、4月のイースターにはEaster Lilyという2枚のEPを宗教的な祝祭日に合わせて出している。ここまでは「編み直し」の作業だった。
そこにようやく、完全な新曲。しかもリードシングルという触れ込みで。ファンとしては、期待するなという方が無理な話だった。
プロデュースを担当したのは長年の共作者Jacknife Lee。バンドの4人、Bono、The Edge、Adam Clayton、Larry Mullen Jr.が揃った「紛れもないU2サウンド」を届けている、というのが公式のアナウンスだ。Jacknife Leeは2000年代後半以降のU2作品に深く関わってきた人で、彼が入るとどうしてもエッジのギターの「空気の量」が増える。今回もその感触は健在。
気になる点がひとつ。プロデューサー体制について、ファンダム系の情報サイトu2songsは「Jacknife Leeがアルバムの有力な担当者」と伝えつつ、Brian Enoが同時期に別のプロジェクト(アイリッシュ・サイエンスフィクション・フォークと呼ばれるもの)で動いていたこと、EnoがU2の新作に関与しているかは不明であることを記している。つまり、80〜90年代のEno/Lanois色が全面に出るのか、それともJacknife Lee主導の現代的なプロダクションで固まるのか、アルバム全体像はまだ見えない。この一曲だけで判断するのは早い。
メキシコシティの雨と、グラフィティのバス
ミュージックビデオの制作背景がすでに一つのドラマになっている。2026年5月12日、メキシコシティの街路に大勢の群衆が集まり、U2はアーティストChavis Mármolがグラフィティで包んだスクールバスの屋根に立って、Street of Dreamsのビデオを撮影した。スタジアムでも屋上でもなく、街のど真ん中で人と一緒に演る。この選択は偶然じゃない。
ダブリンの4人組は、Plaza Santo Domingo近くのバスの屋根上で演奏する姿から始まる映像を撮ろうとしていたが、大雨で現場の発電機が使えなくなり、撮影が途中で中断されている。止まった。天気に負けた。この「うまくいかなかった撮影」が結果的にビデオの生っぽさに繋がっているのが面白い。用意された完璧な絵じゃなくて、街と天候に翻弄された記録。ロックバンドがやることとしては、これほど象徴的なシチュエーションもない。
ビデオを監督したのはCliquaで、5月時点でバンドがグラフィティで覆われたスクールバスの上で新曲を演奏する様子が撮影・写真に収められていた。7月に本編ビデオが公開された時点で、5月の街頭シュートの熱がそのままパッケージされている。個人的にはこの手の「街に降りた」U2が一番好きだ。1987年のRattle and Humでロサンゼルスの屋上に上がった映像を思い出す人も多いはず。あれの2020年代版、と言ったら言い過ぎだろうか。
サウンドの読みどころ — 湿ったギターと、上に持ち上がる構造
先に結論から言うと、この曲は「U2らしさを全部詰めた」タイプではない。Rolling Stoneの記事タイトルは “Joyous New Single”(喜びに満ちた新曲)と表現し、Billboardのギル・カウフマンは「U2はずぶ濡れになり、クラシックで壮大なサウンドに立ち戻っている」と伝えている。この評はよく分かる。派手なリインベンションではなく、キャリア中盤の高揚感——The Joshua Treeから All That You Can’t Leave Behind に流れるあの「上に開いていく」感覚——を取り戻しに来ている。
音楽ライターとしての一次的な聴き取りをいくつか書いておく。ひとつ、イントロのギターに乗るリバーブは、ドライな粒立ちを残したまま空間を広げる処理で、いわゆるアンビエントの霧に埋めるタイプではない。Edgeの音は昔から「濡れているのに輪郭が残る」のが特徴で、今回もそこは崩していない。ふたつ、リズムセクションが目に見えて前に出ている。Larry Mullen Jr.のスネアが胸元の高さで鳴る感じ、と言えばいいか。彼は近年、首と背中の手術からの回復期にあり、2023〜2024年のバンドのSphere公演にも参加していなかったが、本作でドラムキットに戻っている。復帰第一声のグルーヴとして、これは十分な説得力がある。
みっつ、曲名の「Street of Dreams」自体はスペイン語との二重構造で扱われている。u2songsに掲載されたスタジオ版の記述には、スペイン語で夢の通りを呼びかけるフレーズと英語のフレーズが交互に組まれていて、正義と愛と赦しがテーマ語彙として繰り返される構造がある。歌詞そのものは引用しないが、ラテン圏の街で撮ったビデオと、二言語で組まれたコーラスの構造は完全に対応している。街を主語にする曲、というのがひとつの読み筋だと思う。
聴きどころ3点
- Edgeのギターの「湿度」——リバーブで空間は広げつつ、ピッキングの粒は消さない。イントロの残響を注意して聴くと、Achtung Baby以降ずっと磨いてきた質感が別の湿度で戻ってきているのが分かる
- スペイン語と英語のコーラス構造——曲全体が二言語のレイヤーで組まれていて、メキシコシティで撮ったビデオと明確に呼応している。街の名前を持つ曲、というよりは街そのものを主語に据えた曲
- Larry Mullen Jr.のスネアの位置——胸元の高さで鳴らす、あの押し出しの強いU2的ビート。手術からの復帰第一声としては十分すぎるほど地に足がついている
キャリアの中での位置 — 「編み直し」から「新作」への転換点
この曲がU2のキャリアで持つ意味を、直接答える。U2の直近のオリジナルアルバムはSongs of Experienceで、その後の2023年のSongs of Surrenderは過去曲の再解釈だった。つまりこの数年間、彼らは「新しく書く」ことを一度止めて、「既にあるものをどう鳴らし直すか」に集中していた。それはそれで意味のある期間だった、と思う。ボノがSurrender(自伝)を出し、Storiesシリーズで舞台に一人で立ったのも同じ流れの中にある。
ただ、バンドとしての彼らはずっと保留状態だった。Sphereの40公演連続をやり切ったとはいえ、Larry不在で。だからStreet of Dreamsは、単に「久々の新曲」ではなくて「4人揃ったバンドとしてのU2の再起動」なんだと思う。2ヶ月前にメキシコシティの街頭でビデオ撮影をして予告した後、U2はStreet of Dreamsをドロップし、これは年内リリース予定の次のスタジオアルバムの先行シングルという扱いになっている。アルバムが年内に本当に出るなら、ここから怒涛のシングル攻勢になる可能性が高い。
もうひとつ触れておきたい話。バンドは2026年11月に結成50周年を迎えるタイミングでもあり、ビデオ監督はCliqua、ロケ地がメキシコシティなのはファンにとっては驚きではない、とVarietyは書いている。50年。1976年にダブリンの学校の掲示板に「バンドやりたい人募集」の紙が貼られたところから始まった4人が、いまだに新しい単曲を叩き出している。そのこと自体が、この曲の背景として一番大きな事実だと思う。
チャートと初動 — 現時点で分かっていること
チャートの具体的な順位や売上数値については、リリース直後の段階では確定した公式データを引ける材料が揃っていないため、本記事では数字の断定は控える。分かっているのは、リード曲としての注目度が主要英米メディアで大きく取り上げられている、という定性的な事実まで。
u2songsは「Reactions on the Street of Dreams」というまとめページを作り、Rolling StoneのAndy Greene、BillboardのGil Kaufmanらの反応を収録している。この収録の仕方から見るに、少なくともロック系メディアでは「久々の本気」扱いで受け止められた、と読める。数字面の初動については、公式やチャート集計サイトの発表を追う方が確実。詳細は公式情報を参照してほしい。
個人的な観測として書いておくと、U2の新曲がリリースされた週にラジオでの露出がこれだけ揃うのは、Songs of Experience(2017年)以来の景色だ。9年ぶりに、あの「U2の新曲がかかると誰かがボリュームを上げる」現象が戻ってきた感じがする。日本のFM各局でも、深夜帯ではなくプライム帯でしっかり回っている印象。
ラテンアメリカを起点にした選択、という読み
ビデオを見てまず気になるのが、なぜメキシコシティだったのか、という点だ。ダブリンでもロサンゼルスでも、彼らのキャリアには映像的なホームがいくつもある。そこであえてメキシコを選んだ。しかもグラフィティで覆われたスクールバスの屋根。この選択は、曲のテーマとほぼ一対一で対応している。
u2songsに記載されたスタジオ版の描写には、スペイン語で「calle de los sueños(夢の通り)」と英語のフレーズが交互に組まれ、正義への渇望、愛の行進、通りで打ちのめされた者たち、といった語彙が並んでいる。ラテンアメリカの都市を舞台に、通りを主語にした曲を鳴らすこと。ボノがずっとやってきた政治的・人道的な語り口の、2026年版のフォーマットが見える。90年代のZoo TVでメディアを主題化した頃とは違って、いまの彼らは街の路上に降りて、通行人の隣で鳴らすことを選んでいる。
アーティストChavis Mármolがバスを覆ったグラフィティも、ただの装飾ではない。メキシコのストリートアートの文脈をそのまま持ち込んで、バンドはその上に乗る。「4人のアイルランド人が世界のどこにでも自分の音を持ち込む」というU2の古い戦略の、いまのバージョン。派手さは抑えて、街に混ざる。この抑制は、若い頃の彼らにはなかった態度だと思う。
アルバム本体を待つ聴き方
この曲を「単独の一曲」として消費するのは、正直もったいない。u2songsによれば、次のアルバムの初回リリースは2026年11月、Island Records/Universal Musicから、というのが現時点での情報だ。つまり本編は秋以降。Street of Dreamsはあくまで扉であって、部屋そのものではない。
アルバム発売までの4ヶ月ちょっと、この一曲を何度もかけながら「次はどんな音で来るか」を予想する時間がある。私は個人的に、90年代のZooropaやPopのような大胆な実験には振れないと踏んでいる。理由は簡単で、Street of Dreamsが「上に開く」タイプの構造をしているから。実験系の作品は最初のリード曲を意図的に狭くしがちで、今回はその狭さがない。むしろAll That You Can’t Leave BehindやNo Line on the Horizonに近い、開けた地平線に向かって歌う系のアルバムになる、と予想している。外れたら笑ってほしい。
バンド自身は「ノイジーで、雑多で、無理に色鮮やかな、ライブで演れるアルバム」を目指して作業していると語っている。それがU2の居場所だ、と。この発言と Street of Dreamsの手触りは、実はあまり噛み合っていない。リードシングルは「開いた」音なのに、目指しているのは「雑多で色鮮やか」。この矛盾が本編でどう解決されるか、が最大の見どころだと思う。
入門動線
Street of Dreamsで初めてU2に触れた人へ。次の一曲はBeautiful Day(2000年、All That You Can’t Leave Behind収録)を勧める。理由は、今回の曲と同じ「上に開いていくコード進行」のU2の教科書だから。この2曲を並べると、彼らがどう変わり、どこは変わっていないかが一発で見える。関連1枚としては、そのままAll That You Can’t Leave Behindを通しで。90年代の実験期を挟んで、彼らが「王道のロックバンド」に戻ってきた作品で、Street of Dreamsが持っている手触りの直接の祖先にあたる。
まとめ — 何を待って、何を確認するか
Street of Dreamsが果たしている役割を、ひと言でまとめる。「4人揃ったU2が、2026年にまだ新しい曲を書く意志を持っていることの証明」。それ以上でも以下でもない。派手なコンセプトの塊ではなく、静かで手堅い扉の役割。だからこそ、これを聴いて「思ったより普通だ」と感じた人は、たぶん正しく受け取っている。この曲は普通であることが仕事なのだ。
秋のアルバム本編がどう出てくるか。Jacknife Lee単独の色で固まるのか、Enoが最終的にどこかで関与するのか。Larryのドラムがどこまでバンドを引っ張り返せるか。50周年という節目に、この4人がどんな答え合わせをしてくるか。Rolling Stoneが「joyful, anthemic」と評したこのリードシングルは、その全部の前哨戦にすぎない。まずはこの一曲を、ラジオでかかった時に音量を上げて、街を歩きながら聴くのが正解だと思ってる。
まずこの作品から聴く
- All That You Can’t Leave Behind — 上に開くU2の教科書
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