UKのトリオ、Jungleがまた新しい一手を出してきた。曲名はSomeday, Somewhere🛒楽天。派手な仕掛けはない。むしろその「派手じゃなさ」に、キャリアを重ねてきたバンドの落ち着きが見える一曲だ。夏の終わりに窓を開けて流したくなる、そういうタイプの曲。個人的には、Bluetoothスピーカー1台とキッチンの換気扇の音だけの空間で聴くのがいちばん似合うと思っている。金曜の夜21時、洗い物を片付けながら流す。それくらいの温度感が合う。
この曲の要点
- 「Someday, Somewhere」はUKのモダンソウル・プロジェクトJungleによる新シングル。
- Jungleの中核はJosh Lloyd-WatsonとTom McFarlandで、近年はLydia Kittoが主要ボーカリストとして参加している。
- Jungleは2014年のセルフタイトル作でMercury Prizeにノミネートされ、以降『For Ever』『Loving in Stereo』『Volcano』と作品を重ねてきたバンド。
- 本曲はバンドの伝統的なモダンソウル路線を継承しつつ、ボーカルの存在感を軸に据えた作り。
- 2023年の「Back On 74」がSNSでバイラル拡散して以降、Jungleはフェス層と作業BGM層の両方を抱えるプロジェクトになっている。
「Someday, Somewhere」というシングルの立ち位置
まず結論から。この曲は「Jungleが得意とするものを、迷わず、そのままやる」タイプの一曲だ。実験に走らず、拡張もしすぎない。British trio Jungle——Josh Lloyd-Watson, Tom McFarland, Lydia Kittoによる新シングル「Someday, Somewhere」、というシンプルな座組が、そのままサウンドの印象と重なる。
Jungleというバンドを一言で言うと、「2020年代のロンドンから発信されているモダンソウルの参照点」だ。90sのフィリー、70sのディスコ、UKブロークンビーツ、そして現行のインディーR&B。このあたりの引き出しを、たまに全部混ぜて出してくる。今回の新曲でも、その引き出しの使い方に大きな変更はない。ただ、選び方は前より慎重になった気がする。
「Volcano」期の彼らが持っていた、フロア寄りの押しの強さは今回は控えめだ。かわりに、ボーカルとリズムの隙間で会話させるような設計に振っている。歌モノとして聴かせる意識が、より前に出ている。ヘッドフォンで聴くと、ボーカルとバックのミックスバランスがはっきり真ん中に寄っているのがわかる。ダンスフロアで踊らせる曲というより、家で聴いて情景を作る曲だ。
私は最初、これを地味だと感じた。3回目でようやく耳が馴染んだ。4回目で気持ちよくなった。5回目でループボタンを押した。多くのJungleの曲がそうであるように、この曲もスロースターターだ。
音のディテール——リバーブとBPMの選択
まず耳が持っていかれるのは、Lydia Kittoのボーカル処理だ。ドライではない。かといって空間で溺れさせもしない。プレートリバーブっぽい短めの残響を、ボーカルの後ろに薄く一枚敷いている感触。70年代のフィラデルフィア・ソウル、たとえばSigma Sound Studios期の残響感を、2020年代のヘッドフォン基準にチューンしたような聞こえ方だ。EMTプレートの香り、と言い換えてもいい。
BPMはおそらく100前後。正確には計っていないが、体感で90台後半から100台前半のあたり。この帯域は、Jungleが一貫して得意にしているレンジで、歩くよりわずかに速い、腰が自然に動く速度だ。彼らの「Busy Earnin’」から「Back On 74」まで、多くの代表曲がこの近辺に落ちている。狙いを外していない。
そう。ここが大事。Jungleは「Jungleとしての心地よさ」を裏切らないバンドだ。ドラムは生っぽさとプログラムの中間で、キックの位置がわずかに前ノリ。ベースはメロディの下でうねる。ハイハットは細かく刻まず、余白を残す。定型と言えば定型なのだが、この定型を20代の頃から10年以上磨き続けてきたのが強い。
気になるのはコーラス処理。Jungleは常に、コーラスの重ね方でトラックの厚みを作ってきた。メインボーカルの左右に、うっすらオクターブ違いや3度違いの声を重ねる。この重ね方が絶妙で、ゴスペル的な熱には振らず、あくまでシルクの手触りに寄せる。「Someday, Somewhere」でもこの手癖が生きている。むしろ、前作より重ねが薄い分、ひとつひとつの声の存在感が際立って聞こえる。
アレンジ面で好きなのは、ブレイクの入れ方だ。Jungleの曲は、フルの状態で押し切らず、途中でリズム隊を一度抜く場面を作ることが多い。この「抜き」があるから、戻ったときのグルーヴがより濃く感じられる。今回も、その手癖は健在。ミックス的にも、抜きの部分でボーカルとギターだけを残し、キックが再入する瞬間に体温が一段上がる設計になっている。
聴きどころ3点
- Lydia Kittoのボーカルに薄くかかったプレート系リバーブ。声の芯を残しつつ空間を作る、絶妙なウェット量。
- BPM100前後の腰が動く速度感。派手なドロップに頼らず、8小節単位の反復で気持ちよさを作る構造。
- ベースラインとキックの前ノリの噛み合わせ。ラウドネスを上げなくてもグルーヴが体に入ってくる。
Jungleというプロジェクトの成り立ち
Jungleを初めて聴く人のために、簡単に整理しておく。中心はロンドン出身の幼なじみ、Josh Lloyd-WatsonとTom McFarland。デビュー当初は正体を明かさないミステリアスなスタンスで話題になった。2014年のセルフタイトル作『Jungle』は、その年のMercury Prizeショートリストに入り、シーンでの立ち位置が一気に固まった。
その後、『For Ever』(2018)、『Loving in Stereo』(2021)、『Volcano』(2023)とアルバムを重ねる。特に『Volcano』からのシングル「Back On 74」は、TikTokを起点に世界的なバイラルに拡散し、ダンス映像込みで彼らのブランドを2020年代の若い世代にも刻み込んだ。この一件でJungleの認知は、モダンソウル好きの狭い界隈から一段抜けたと思う。私の周りでも、それまでJungleを知らなかった30代前半の同僚が「あの踊ってるやつのバンドね」と言うようになったのは、この時期だ。
ボーカルのLydia Kittoは、近作から前面に立つメンバー。彼女の声色は、太くもなく細くもなく、ちょうどトラックの真ん中に置きやすい質感で、Jungleのアレンジと相性が非常にいい。今回の新曲でも、Josh、Tom、Lydiaの3人という座組でクレジットされていることからも、この体制が現行Jungleの標準形になったと考えていい。
付け加えると、Jungleはずっとダンサー集団との共同制作を重ねてきたユニットでもある。MVでは実在のダンサーがワンテイクで踊りきる映像が多く、これがそのままバンドの視覚アイデンティティになっている。音だけでなく、映像を含めた「Jungle体験」を設計してきたグループだ。この視点は「Someday, Somewhere」を聴くときも忘れないでおきたい。曲単体だけでなく、リリース後に出てくるビジュアル込みで評価が固まっていくバンドだからだ。
「Someday, Somewhere」というタイトルが持つ気配
タイトルの直訳は「いつか、どこかで」。歌詞そのものには触れないが、この二語が並ぶだけで、多くのリスナーは特定の情景を頭に浮かべると思う。私は真夜中のバス停を思い浮かべた。人によっては、空港のロビー、あるいは古いラブレターかもしれない。
この曖昧さは、Jungleが一貫して選び続けてきたテーマの手触りにも近い。彼らの過去の曲——「Julia」「Heavy, California」「Truth」「Back On 74」——いずれも、具体的な物語よりも、状況の質感や色を残す作りだった。今回もその系譜にある。
断片。余韻。名前を出さない誰か。この3つで曲を成立させるのがJungleの語り口で、「Someday, Somewhere」というタイトルは、まさにその文法に沿っている。人によっては、この曖昧さを物足りなく感じるだろう。だがJungleは、明確な物語で射抜くよりも、聴き手の記憶に着地させる作り方をずっと選び続けてきた。そこは変わらない。
キャリアの中での位置づけ——攻めない、という選択
正直に書くと、私はこの曲に最初「攻めていない」と感じた。『Volcano』のあの熱量の直後だから、期待の方向が違ったのかもしれない。だが3〜4回聴き直して、印象が変わった。
Jungleは、シーンの流行に合わせて音像を大きく振るタイプのバンドではない。むしろ、フックの見せ方、ボーカルの置き方、ダンスビデオの演出。そういう周辺の要素で時代性を取り込むのが上手いユニットだ。「Someday, Somewhere」は、その周辺演出の中でも「歌そのものを聴かせる」方向に舵を切った一曲に聴こえる。派手な新機軸ではなく、地力の見せ方を変えたリリースだと思う。
アルバム単位で考えるなら、この曲は次のフルレングスへの布石のひとつなのかもしれない。EUPHORIAのレビューでも「confidently stays true to」——自分たちに忠実である、という表現が出てくるのは象徴的だ。冒険よりも、確信のリリース。そう受け取っている。
キャリアの尺で見ると、Jungleは2014年から数えて10年以上を経て、ブレイク直後の勢いを維持したまま、逆に足元を固めるフェーズに入っている。バイラルの波は掴んだが、そこに引きずられずに、自分たちの音を出す。そういう時期に必要なタイプのシングルが、今回のこれだ。
チャートとリスナー動向——数字ではなく、聴かれ方の話
個別のチャート順位や再生回数は、公式の集計を確認してほしい。ここで書きたいのは数字の話ではなく、Jungleというプロジェクトが2020年代半ばに獲得している「聴かれ方」だ。
「Back On 74」のバイラル以降、Jungleは、フェスのメインステージで盛り上がる層と、深夜の作業BGMで彼らを流す層の両方を抱えるようになった。この二層のどちらにも刺さる曲、というのはなかなか設計しづらい。だが今回の新曲は、ちょうど両方の真ん中を狙って置きにいっているように聴こえる。ダンサブルすぎず、内省的すぎず。プレイリスト適性は高い。
都市の音楽情報を扱う番組との相性も良い曲だと思う。金曜の夜、車で首都高を流しながら聴くのに違和感がない。私自身、この原稿を書きながらループで20回以上流したが、飽きなかった。BGMとして「消える」タイプではなく、ちゃんと耳の隅に居続けるタイプの曲だ。
ストリーミングの時代の曲としてもよくできている。イントロは短く、ボーカルが早めに入る。3分台前半でまとまり、リピート再生が自然に成立する。プレイリスト経由でJungleに初めて触れる層にとっても、間口が広い設計になっている。
Jungleの美学——「モダンソウル」という言葉の使い方
Jungleはよく「モダンソウル」というタグで括られる。ただ、この言葉の意味は人によってブレる。70年代後半にDJ Randy Cozensあたりが提唱したUKのクラブ的な「モダンソウル」もあれば、2010年代以降のインディー・ソウル/ネオソウルを指す使い方もある。
Jungleの場合、両方だ。70年代フィラデルフィアやディスコの語彙を、2020年代のインディー・プロダクションで再構築する。ここに、UKのブロークンビーツやガラージのリズム感覚が薄く混じる。「Someday, Somewhere」も、この配合比の中にきちんと収まっている。
まあ、そういうことだ。Jungleを聴くことは、この配合を追体験することとほぼ同義で、その配合が心地よい人にとってはずっと安定した供給源であり続けている。今回の新曲も、その供給を裏切らない。
他のUK同時代アーティストと並べるなら、Poolside、Rüfüs Du Sol、Metronomyあたりのプレイリストに違和感なく入る質感。ただJungleが独特なのは、ゴスペル/ソウルのボーカル的な”人間の声”を、機械的なリズムの上に真ん中に据える設計思想だ。ここが同ジャンルの他プロジェクトと決定的に違うところで、「Someday, Somewhere」でもこの設計は貫かれている。
プロダクションを支える”手癖”の話
Jungleの音の核は、Josh Lloyd-WatsonとTom McFarlandの共同プロダクションにある。二人はほぼ全曲を自分たちの手で書き、録り、ミックスまで手を入れているタイプのユニットだ。ここが今のシーンの中で意外と貴重で、外部プロデューサーに音像の主導権を渡さないから、アルバム間でトーンがぶれない。「Someday, Somewhere」も、その”手癖”の延長にきちんと乗っている。
手癖と書いたが、これはネガティブな意味ではない。長年一緒に音を作ってきた二人だからこそ生まれる、無意識の判断の積み重ねだ。キックの深さ、ハイの残し方、コーラスの被せ位置。この判断が毎回一定だから、Jungleの曲は「1音鳴った瞬間にJungleだとわかる」。この識別性は、ストリーミング時代の膨大なプレイリストの海で、リスナーに掴まれ続けるうえで大きな武器になる。
そういう意味で、新曲を評価するときに「新しさ」を過剰に求めるのは、Jungleというプロジェクトには少しズレた物差しかもしれない。彼らに求められているのは、革新ではなく、更新だ。今回の一曲も、更新の一手として静かに機能している。
入門動線
「Someday, Somewhere」で初めてJungleに触れた人は、次に「Back On 74」を聴いてほしい。ダンスビデオごと味わうのがおすすめで、Jungleというプロジェクトの視覚と音の一体設計が理解できる。そのうえで、アルバム『Volcano』(2023)を1枚通しで聴くと、彼らのアレンジの引き出しが一気に見える。逆に落ち着いた側から入りたい人は、『Loving in Stereo』(2021)から入るとダメージが少ない。
まとめ——確信のリリースとしての一曲
「Someday, Somewhere」は、ど派手な新章の幕開けではない。だが、Jungleが10年以上磨いてきたモダンソウルの現在地を、迷いなく提示した一曲だ。派手さがないぶん、耳の奥に残る。プレイリストに入れておくと、季節をまたいで聴ける種類の曲だと思ってます。
個人的には、これがフルアルバムへの前振りであるかどうかがいちばん気になっている。もし次のアルバム収録曲であれば、その中でこの曲が果たす役割——序盤の呼吸を作るのか、中盤で息を整えるのか——が楽しみだ。ここは自信ないが、たぶん中盤に置くと綺麗にハマる。そんな性格の曲だ。
Jungleを追いかけてきた人には、「変わらない安心」の一曲として。初めて触れる人には、「深追いしたくなる導線」の一曲として。どちらの角度からもハマる余地があるのが、この曲の懐の深さだ。しばらくローテーションから外せそうにない。
まずこの作品から聴く
- Volcano — 現行Jungleの到達点アルバム
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