チャートを何週も追っていると、順位そのものより「その週に誰が話題として名前を呼ばれるか」の方が面白い。LE SSERAFIMは、2022年のデビュー以降ずっとその”呼ばれる側”に居続けているグループだ。派手にトップを独走するというより、常に半歩前に立っている。今週の並びの中で彼女たちの名前を見つけたときに毎回思うことがあって、それを先に一文で書いておく。
彼女たちが売っているのは『完成品としてのアイドル』ではなく、揺らぎながら鍛え上げる過程そのものだ。
この一文を軸に、今回はLE SSERAFIMの輪郭を辿り直したい。デビュー曲の頃から追ってきた人にとっては当たり前の話も混ざるはずだが、途中で必ず「そこはそう読むのか」と思ってもらえる角度を差し込むつもりで書いた。にわか的な絶賛でも、上から目線の総評でもない、ライブ映像を巻き戻しながら書いたメモに近い温度で進める。
このアーティストの要点
- LE SSERAFIMはSOURCE MUSIC所属、HYBE傘下の5人組ガールグループで、2022年5月2日にミニアルバム『FEARLESS』でデビューした。
- メンバーはサクラ(宮脇咲良)、キム・チェウォン、ホ・ユンジン、カズハ、ホン・ウンチェの5人。宮脇咲良とキム・チェウォンはIZ*ONE出身。
- グループ名は「I’m Fearless(私は恐れない)」のアナグラム。恐れの否定ではなく、恐れを抱えたまま前に出るニュアンスを名前自体が背負っている。
- 日本デビューは2022年11月。韓国と日本の両市場で並行して活動する体制を初期から敷いている。
- 2023年『UNFORGIVEN』、2024年『EASY』と、コンセプトの振れ幅を毎リリース広げてきたのが最大の特徴。
今チャートの並びの中で、彼女たちがどう見えるか
結論から言うと、LE SSERAFIMは”新譜が出た週だけ跳ねるタイプ”のグループではない。カムバック直後の初動が強いのは当然として、彼女たちの面白さは、リリースから何ヶ月経ってもプレイリスト上での稼働が落ちきらないところにある。ストリーミング時代のグループとして、ここは見落とせない設計思想だ。
K-POPガールグループの直近数年を並べて聴き直すと、面白い分岐が見えてくる。90年代・2000年代のR&Bやシティポップに寄せる路線、ハイパーポップ寄りにひたすら情報量を詰める路線、そしてトラックの余白を活かして”歌ではなく雰囲気”で持たせる路線。LE SSERAFIMは、この3つのどれか1つに寄り切らずに、シングル毎に軸足を入れ替えてきた。だから週間チャートの中での立ち位置も、”ジャンル欄では捉えられない”位置に落ち着く。
数字の細かい上下は週によって揺れるが、彼女たちに関しては順位よりも「どの曲が今週リスニングされているか」の内訳を見た方が本質に近い。最新曲だけでなく過去のシングルが同じ週に同時に走っている、それがLE SSERAFIMの今のチャート上の姿だ。
プロフィールと歩み、2022年5月2日から始まった線
LE SSERAFIMは、韓国SOURCE MUSICが手がけたHYBE傘下のガールグループ。2022年5月2日、ミニアルバム『FEARLESS』でデビューした。デビュー時は6人体制だったが、活動初期に1名が脱退し、以降は5人で走っている。この過渡期を経てからのグループの動きの速さは、正直に言って想定以上だった。
メンバーはサクラ(宮脇咲良)、キム・チェウォン、ホ・ユンジン、カズハ、ホン・ウンチェ。宮脇咲良とキム・チェウォンはIZ*ONEを経てのデビューで、K-POP文脈と日本のアイドル文脈の両方の”手続き”を知っている二人が中心に居ることは、後々の楽曲コンセプトの選択にも効いてくる。カズハはバレエ、ホン・ウンチェは最年少としてダンスの推進力、ホ・ユンジンは英語と歌の芯、と、5人それぞれが違う”通貨”を持っている構成だ。ここは他グループと比べても均等分業型ではなく、役割が尖っている。
日本デビューは2022年11月。韓国デビューから半年でJポップ市場への進出線を引いたスピード感は、HYBEの日本展開全体の中でも早い方に入る。翌2023年には韓国で『UNFORGIVEN』、2024年には『EASY』と、毎回コンセプトの棚を組み替えてくる。この”組み替えの頻度”が、ファンダムの中での話題を切らさない燃料になっている。
2024年にはCoachellaのステージにも立った。ここでのパフォーマンスと歌唱については賛否を含めて議論が起きたが、そのこと自体が”LE SSERAFIMは表現の議題になるグループだ”という証明でもある。無風で終わったわけではない、それが重要だと私は思っている。
音楽性の核と、その変遷
まず結論。LE SSERAFIMの音楽的な核は「強気の宣言をしながら、その強気の裏側にある傷や迷いを消さない」というトーンにある。歌詞を引かずに書いても、この二層構造は音の作りから聴き取れる。前に出るビートに、少しだけ湿った質感のシンセや弦、そして低音域で走るベースが、宣言の言葉を”独白”に近づけていく。
デビュー期のFEARLESS🛒楽天は、この二層構造の設計図みたいなミニアルバムだった。表題曲はパンクの骨組みを持ちながら、Y2Kのメロディ感覚に片足を残していて、”強気の宣言”を”時代の匂い”で包む処理が上手い。ここで彼女たちがまず提示したのは、K-POPガールグループ第4世代の中でも輪郭が濃い”ペルソナ”だった。
2022年10月のANTIFRAGILE🛒楽天で、そのペルソナが一気に伸びる。ラテンのリズムとヒップホップの縦ノリを噛み合わせたトラックは、当時のK-POPガールグループの中でも早い実装で、ここでLE SSERAFIMは”時代のトレンドに乗る側”から”トレンドの入口を開ける側”に位置を変えた。私は初期からこの曲を推してきたけれど、聴くたびに「よくこのタイミングでこのビートを引き受けたな」と思う。
2023年のUNFORGIVEN🛒楽天は転機の作品だ。西部劇のモチーフを持ち込み、Nile Rodgersのギターまで招き入れて、”逃亡者の物語”としてグループのナラティブを立てた。表題曲そのものよりも、アルバム全体で見せた”物語の厚み”の方が個人的には効いた。ここから彼女たちの音楽性の重心は、”顔つき”ではなく”視線の先”に移る。
2024年EASY🛒楽天は、その視線の先が”余白”に降りてきたシリーズだった。ミッドテンポで、詰め込まずに聴かせる。K-POPの主流が”情報量の勝負”に傾く中で、あえて引き算に振ったこの選択は、彼女たちの音楽性が”跳ねる力”だけでなく”留まる力”を持っていることの証明になった。今のK-POPシーンで、この引き算を成立させられるガールグループは多くない。
聴きどころ3点
- 低音域の”独白ライン”、キム・チェウォンやサクラの低い帯域が、宣言の裏で常に独り言のように走っている。これがLE SSERAFIMの湿度を作っている。
- フォーメーションダンスの”斜めの動線”、正面ではなく斜め方向に抜ける振り付けが多く、5人の重心の移動そのものが1つの楽器のように機能する。
- ブリッジで一度”落とす”設計、サビ→ブリッジで音を薄く抜き、そこにホ・ユンジンやカズハの表情が刺さる構成。ここが彼女たちの曲の心臓部だ。
代表作・ディスコグラフィの読みどころ
結論から言えば、LE SSERAFIMのディスコグラフィは”1枚で完結しない読み方”を要求してくる。1stから最新作までを線でつなぐと、”名乗り→拡張→物語化→減速→再加速”という起伏がはっきり見える。1枚だけ聴いて評価するのはもったいない設計だ。
デビューEP『FEARLESS』は、”名乗り”のアルバム。表題曲以外の収録曲まで含めて、後の作品で拡張される音の芽が全部入っている。特にB面のミッドテンポ曲は、2024年の『EASY』期にジャンプするための助走になっていて、初期作を今聴き返すと”あ、ここから引き延ばしていたのか”と分かる瞬間がある。
『ANTIFRAGILE』は、拡張のアルバム。表題曲のインパクトが強いので見落とされがちだが、収録された他のトラックでは、シンセポップやR&Bに寄せた質感の実験が同居している。この時点で彼女たちは”表題曲のジャンルだけで語られたくない”という意志を音で見せていた。
『UNFORGIVEN』は、物語のアルバム。西部劇のイメージをジャケットやMVだけでなく音そのものに染み込ませていて、K-POPガールグループのアルバムとしては珍しく”視覚と音の温度が一致している”作品だ。ここで彼女たちは、コンセプトを衣装ではなく音で説明する力を手に入れた、と私は見ている。
『EASY』は、減速して掴んだ体温のアルバム。攻める曲を作れるグループが、あえて力を抜いた曲を作れる、このスライドが、キャリアの持続力を決める。K-POPの歴史を振り返っても、”減速の一枚”を上手く着地させられたグループだけが、5年後・10年後の位置に立っている。
そして日本オリジナル曲群も外せない。日本語詞の載せ方に無理がなく、韓国曲のトーンをそのまま日本語で言い換える作業に振り切っていない。ここは彼女たちの二言語運用の巧さで、Jポップの土俵に寄せすぎもせず、K-POPの直輸入でもない、独自の翻訳ラインを引いている。
LE SSERAFIM の関連作品・グッズ
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カルチャー的文脈、第4世代の”見せ方の政治”の中で
K-POPガールグループ第4世代は、NewJeans、IVE、aespa、(G)I-DLEなど、それぞれが”何を売るか”を明確に分けている世代だ。NewJeansが2000年代初頭の”軽さ”を、IVEが王道の華を、aespaが世界観の拡張を、(G)I-DLEが自作の解放感を担うなら、LE SSERAFIMは”強気の宣言と、その裏側の傷”を担っている。この棚の埋め方は他の誰にも代替されない。
Coachella 2024でのステージは、その担当領域が世界規模でテストされる瞬間だった。パフォーマンスの評価は割れたが、そこで露呈した課題も含めて、その後の彼女たちの作品には”生歌”への意識が明らかに反映されている。批評を糧にできるかどうかは、グループの寿命を左右する。ここは彼女たちが正しく反応した局面だと思う。
それから、宮脇咲良とキム・チェウォンがIZ*ONEを経てここに合流している事実は、単なる経歴の一行として片付けるべきではない。IZ*ONEの終了から数年、K-POPのガールグループの見せ方は激変した。その激変の前後を”両方経験している”メンバーが2人いるグループは、他にほぼ存在しない。この時代を跨いだ視座が、コンセプトの選択に効いている、と私は読んでいる。
日本市場との距離感も特徴的だ。K-POPグループの日本進出は、初期は”翻訳”、その次は”並行運用”、そして直近は”日本独自のトーン設計”へと段階を上がっている。LE SSERAFIMはこの3段階目に一足早く踏み込んだグループの一つで、日本語楽曲のリリック処理や露出の選び方に、他のK-POPグループとは違う滑らかさがある。
数字の外側で、彼女たちが積み上げているもの
結論を先に。LE SSERAFIMがこれまで積み上げてきたのは、”1曲の大ヒット”ではなく”複数曲がプレイリストに残り続ける状態”だ。この違いは、キャリアの折れ線グラフを想像するとよく分かる。単発の山ではなく、緩やかに上がる背景の海抜そのものが上がっている。ここが強い。
ライブ映像を並べて見ると分かるが、彼女たちのステージングはこの2年で明らかにフォーマットが変わった。初期の”完璧なフォーメーション”重視から、”間を活かす”演出への移行。EASY期のパフォーマンスは、以前の彼女たちなら埋めていた1〜2秒の空白を、あえて残している。この余白は、生歌の負荷を減らすためだけでなく、5人のキャラクターを立てるための空間でもある。
ファンダム側の動きも面白い。SNSでの反応を追っていると、彼女たちに寄せられる感想は”かっこいい”より”分かる”の方が多い。強気の宣言に憧れるというより、その裏の迷いに共鳴している。これは第4世代のガールグループのファンダムの中でも、独特のトーンだ。
チャートの数字は週によって上下する。それは他の全アーティストと同じことで、LE SSERAFIMの評価軸にはならない。彼女たちの位置は、”新譜が出ていない週にもプレイリストで名前が呼ばれ続けている”という事実の方に、より正確に現れている。
これから聴くならどこから、入門の順路
結論から書く。時系列で追うより、”温度差”で追う方が彼女たちの面白さは掴みやすい。冷たさから温度が上がってくる順に並べると、輪郭が立ち上がる。
まずこの作品から聴く
- FEARLESS — 始まりの一枚。輪郭がここに全部ある
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入門動線
- まずこの1曲:『ANTIFRAGILE』。LE SSERAFIMの音の設計思想が一番わかりやすく詰まった1曲。ラテンのリズムに乗せた強気のトーンから入るのが、初回の印象として最適。
- 次にこの1枚:『UNFORGIVEN』。表題曲だけでなく、アルバム全体を通して”物語として音を聴く”体験を得られる。ここで彼女たちのスケール感が変わる。
- 深めるならこの1枚:『EASY』。攻めた後の余白のアルバム。ここまで聴くと、彼女たちが単なる”強いグループ”ではなく、”強さの見せ方を選べるグループ”だと分かる。
この順路で聴き終わったら、デビュー作『FEARLESS』に戻ってほしい。初期作を最後に聴き直すと、”最初から全部の要素が入っていた”ことに気づいて、少し寒気がするはずだ。私は書きながら実際にこの順で聴き直してみて、デビュー曲のイントロで一度手が止まった。全部ここから始まっていた、と。
もう一つ、個人的な聴き方を書き添えておく。私はEASY期の曲を、夜に部屋の明かりを少し落として聴くことが多い。攻めの曲を昼に聴くのは当たり前として、彼女たちの引き算の曲は”生活のBGM”としても普通に強い。K-POPガールグループの曲でここまで日常に馴染むのは珍しく、ここに気づいてから彼女たちの評価軸が自分の中で一段上がった。ライブ映像で拳を上げる曲だけがLE SSERAFIMではない。これは長く追っている人ほど、ある時期からじわじわ実感する話だと思う。
彼女たちのMV演出についても一言。初期作の視覚設計は”鋭さ”の一点に振っていたが、UNFORGIVEN以降の映像は”物語の断片”を差し込む作り方に変わっている。カメラワークは寄りと引きの往復が増え、5人の顔だけでなく背景や小道具に意味を持たせる。ここもグループの成熟の指標として見ておきたい点だ。音だけでなく、映像の情報設計まで込みで一つの作品として立っている。
最後にもう一度書いておく。彼女たちが売っているのは、完成品としての姿ではなく、揺らぎながら鍛え上げる過程そのものだ。だから今週のチャートで名前を見つけたら、順位の数字よりも、”今週はどの曲でそこに居るのか”を先に見てほしい。そこにLE SSERAFIMの本当の現在地がある、と思っている。


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