ELMIENEという声 R&Bの新しい古典を作る英国の歌い手

夜のスタジオに置かれたヴィンテージマイクと真鍮の反射、暖色の照明が滲む抽象イメージ アーティスト

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いま、ELMIENEを聴くべき理由

ここ数年、UKのソウル/R&Bシーンから出てきた新しい声のなかで、ELMIENE(エルミーン)の名前を挙げる人は多い。ストリーミング時代の若手アーティストにありがちな「短い尺で刺さる曲」を作るタイプではなく、じっくり歌を聴かせるタイプ。SNSでバズった一曲だけで消費されず、アルバム単位、EP単位で世界観を組み立ててくる。この地味に見えて実は難しいことをやってのけているのが、今のELMIENEの立ち位置だと思う。

チャートの上位に居座り続ける派手なポップスとは違って、彼の曲はプレイリストの中でふと空気が変わる瞬間に現れる。ドライブの帰り道とか、夜中に洗い物をしてる時とか、生活のトーンを一段落ち着かせるような音楽。派手ではないのに耳が離れない。この「離れなさ」が、今チャート周りで彼の名前がじわじわ広がっている理由なんだと思う。

UKの音楽メディアや同業のアーティストからの評価も早かった。SZAのツアーに帯同したり、大御所からの言及があったりと、業界内の耳から先に届いたタイプ。派手なプロモーションよりも、「良い曲を書く人」として静かに信頼されてる。この記事では、そのELMIENEという歌い手の輪郭を、経歴・音楽性・作品の順で丁寧に追ってみる。

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プロフィールと歩み ロンドン近郊から世界へ

ELMIENEはイングランド出身のシンガーソングライター。スーダンにルーツを持ち、UKで育ったバックグラウンドを持つ。10代の頃からSNSでカバー動画を投稿し、そこから注目を集めていった典型的な「Z世代の入り口」を通ってきた人でもある。ただ、面白いのはそこから先の進み方で、バイラルの勢いをそのままダンスポップに転がすのではなく、あえて古いソウル・R&Bの語法に降りていった。

彼を語る時によく引き合いに出されるのがD’Angeloの名盤Voodoo🛒楽天との近さ。若手アーティストのSNSカバー動画で選ばれるレパートリーとしては渋いし、そこでの歌声の説得力が「この人はただ流行りに乗ってるんじゃない」と業界に思わせた。以降、UKのレーベルと契約し、EPを重ねながら着実にファンダムを広げてきた。

ライブでも評価を上げてきたタイプで、大きな会場のオープニングアクトから始まり、単独公演の規模を静かに上げてきた。派手なステージ演出よりも、バンドのグルーヴと歌そのものでねじ伏せる古典的なやり方。ロンドンや欧州のフェス、そして北米でのツアー参加を通じて、UK外での知名度も上がっている。詳細な経歴・所属レーベル情報は公式サイトを参照してほしい。

スーダンにルーツを持つUKアーティスト、という自身のバックグラウンドについても、彼はインタビューで折に触れて言及している。政治的なメッセージを声高に叫ぶタイプではないけれど、自分がどこから来たか、どんなコミュニティに支えられているかを大事にしている姿勢は音源からも伝わってくる。この「自分の根っこを消さない」感覚は、今の若い世代のR&Bシンガーに共通する空気でもあると思う。

音楽性の核 ネオソウルの血をどう現代に引き直すか

ELMIENEの音楽性を一言で言うなら「90年代後半〜00年代初頭のネオソウルを、2020年代の音像で鳴らし直している人」。参照点として名前が挙がるのはD’Angelo、Bilal、Musiq Soulchild、Anthony Hamilton、Lauryn Hillあたり。ゴスペル由来の歌唱、ジャズやファンクを飲み込んだ生楽器のグルーヴ、そしてヒップホップのビート感覚が同居する、あの時代の音の質感だ。

ただ、彼はレトロ復刻ではない。ドラムの鳴りやリバーブの掛け方は明らかに現代のもので、Sampha、Cleo Sol、Sault周辺のUKソウルの空気を吸っている。ローがしっかり出ていて、ヴォーカルは前に張り出しすぎず、部屋の空気ごと録ったような立体感。ハイファイに磨きすぎない、少しラフな質感を残す作り方がむしろ今っぽい。

歌唱スタイルも、いわゆるメリスマ全開の技巧派とは違う。むしろ抑えるところは徹底的に抑えて、必要なところで一気に開放する。フレーズの語尾の処理、息の抜き方、子音の残し方みたいな細かい部分にこだわりがあって、聴き込むほど「歌の作り込みで勝負してる人だな」と分かる。派手なフックで押し切るのではなく、曲全体の呼吸で聴かせるタイプ。

テーマ的には、若い世代らしい恋愛の機微を扱いながらも、コミュニティ、家族、信仰、故郷への想いといった一段深いモチーフを混ぜてくる。ここが同世代のR&Bシンガーとの差別化ポイントで、単なるベッドルームR&Bでは終わらない厚みを生んでいる。歌詞の内容そのものはここでは踏み込まないが、聴いていて「人生を積み重ねた人の歌だ」と感じる瞬間が多い。まだキャリアの初期なのに、この老成した感じは不思議だ。

代表作の読みどころ EPで組み立てられた世界観

ELMIENEはフルアルバムを乱発するタイプではなく、EP単位で丁寧に世界観を積み上げてきた。入り口として多くのリスナーが最初に触れるのがMarking My Time🛒楽天。ここに入っている楽曲群で「あ、この人は本物のソウルシンガーだ」と気付いた人は多いはず。ミッドテンポの曲を軸に、生バンドの温度感で歌を聴かせる構成が徹底されている。

もう一枚の重要作がThe Jecolia EP🛒楽天。タイトルからしてパーソナルな匂いが強く、家族や祈りに近いモチーフが全体を通底している。プロダクションはより実験的で、ゴスペル的なコーラスワークや、アフロ・ディアスポラ的なリズムの引用も見え隠れする。1枚目で見せた「良いソウルシンガー」の像から、もう一歩踏み込んで「作家性のあるアーティスト」へと軸足を移した作品と言っていい。

シングル単位ではGolden🛒楽天が入り口として機能してきた。SNS経由で広がりやすい親しみやすさと、ソウルミュージックとしての深さを両立している一曲で、ライブでも大事に扱われている曲。初めて聴く人にはまずこの曲、と勧めやすい。

近作ではSudan & Everything After🛒楽天のようなプロジェクトで、自身のルーツにより直接的に向き合った作品も発表している。ここでの音楽的な広がりは大きく、ソウルという枠に閉じずアフリカ大陸の音楽との対話を試みている。キャリアを追っていくと、彼が単に「良い声の人」ではなく、作品ごとに自分の立ち位置を更新している作家であることが分かってくる。個々のリリース詳細は公式サイトの記載を参照するのが確実だ。

同時代のシーンとの関係 UKソウルの新章

ELMIENEが位置しているのは、UKのブラックミュージックが再び世界的な影響力を取り戻している潮流の真ん中。Sault、Cleo Sol、Little Simz、Sampha、Jorja Smithといった名前が並ぶあの一帯だ。ジャズ、ソウル、R&B、ゴスペル、アフロビーツが分野を超えて交差していて、プレイヤーもプロデューサーも重なり合っている。US中心だったブラックミュージックの重心が、少しUK側に寄っている感覚が2020年代にはある。

その中でELMIENEは、比較的「歌もの」寄りのポジション。ジャズ側に振り切るでもなく、ヒップホップ側に振り切るでもなく、ど真ん中のヴォーカル・ミュージックとしてのソウルを更新している。この立ち位置はレアで、シーン全体の中でも珍しい役回りを担っている。

USのアーティストとの繋がりも早かった。SZAのツアーへの参加は象徴的な出来事で、大きな会場でオーディエンスをつかむ経験を早い段階で積んでいる。またD’Angeloが自身のSNSでカバー動画に反応した、という業界内で語られる逸話も、彼の実力がジャンルの本場で認められている証拠のひとつ。若手なのに、シーンの縦の系譜の中で自然に扱われているのが強みだ。

UKのR&B新世代というと、Cleo SolやRAYE、Jorja Smithらの女性シンガーの活躍が話題になりがちだけど、男性ヴォーカリストとして正統的なソウルを歌える人材は実は多くない。そこにELMIENEがきれいにハマった。彼の存在によって、UKソウルの男性側の層がぐっと厚くなったと言っていいと思う。

ライブとレコーディングの温度差が小さい人

個人的にELMIENEで一番好きな部分がここ。ライブ映像を観ると分かるけど、スタジオ音源とライブでの歌の温度がほぼ変わらない。むしろライブの方が少し力が入って、フレーズが伸びやかになる。バックのバンドが優秀なのもあるが、彼自身の身体性・呼吸法がしっかりしている証拠だと思う。

今どきのポップシンガーだと、スタジオ音源のプロダクションに歌が支えられているタイプが少なくない。ライブになると急に細く聴こえたり、キーを落として歌ったりする。ELMIENEはそこがブレない。ソウル/ゴスペルの現場で鍛えられてきたヴォーカリストの強さがある。この「生で聴いても崩れない」ことは、長く聴き続けられる歌い手かどうかの分水嶺だと思ってる。

ライブ演奏の編成もクラシックなソウルの流儀に近い。ドラム、ベース、キーボード、ギター、コーラスというシンプルな編成で、打ち込みや同期に頼りすぎない。バンドとの呼吸で曲が伸び縮みするタイプの演奏で、同じ曲でも日によって違う顔を見せる。この余白の残し方が、彼の音楽をライブ向きにしている大きな要因だ。

今チャートで彼が置かれている場所

ELMIENEはメガヒットで一気にトップに駆け上がるタイプではなく、ロングテールでじわじわ影響力を広げるタイプ。だからチャートの読み方も少し違っていて、瞬間最大風速よりも「毎週どのくらいの人が新規に発見しているか」の方が指標として意味を持つ。プレイリスト経由での流入、映画やドラマへの楽曲提供、他アーティストとのコラボといった経路から、少しずつリスナーが増えていく。

日本でのラジオオンエアや洋楽チャート周辺での動きも、そうした「じっくり広がる」流れの一部として捉えるのが自然だ。数字が跳ねる時期と跳ねない時期の差はあるが、どちらにしても脱落しないでシーンに留まり続けているタイプ。派手さで消耗しないぶん、5年後10年後も名前が残っていそうだと個人的には思ってる。

今のUK/USのR&Bチャート全体を見渡すと、SZA、Brent Faiyaz、Giveon、Daniel Caesar、Steve Lacyといった顔ぶれがトップ層を占めている。ELMIENEはそこにこれから食い込んでいける数少ない男性シンガーの一人だと思う。まだ入り口が広く空いているタイミングで彼を聴き始められるのは、リスナーにとってはむしろラッキーだ。

これから聴くならどこから 入門のための順番

初めて聴くなら、まずは代表シングルから入って、そのあとEP単位でまとめて聴くのがいい。1曲だけだと「良いシンガーだね」で終わってしまうけど、EPの通しで聴くと空気の作り込みが伝わる。夜、部屋を暗くして通しで流すのが一番合う音楽だと思う。

入り口として選びやすいのは、SNSでの反響も大きかったキャッチーな曲。そこで気に入ったら、ルーツに向き合った近作に進むと世界観の広がりが見えてくる。逆に最初からルーツ寄りの作品に入ると少し重く感じる人もいるかもしれない。順番を選べるのが今の配信時代の良さでもある。

個人的な聴き方としては、ELMIENEを1枚だけで聴かず、Cleo Solや Samphaのアルバムと並べてプレイリストを作るのがおすすめ。UKソウルの2020年代の空気がまるごと味わえる。派手さで殴りにこない音楽の良さって、こういう並べ方をした時に一番伝わる気がしてる。

まだ日本での知名度は、実力に比べて控えめ。だからこそ「早めに見つけておきたい人」として、名前を覚えておいて損はないアーティストだ。5年後に大きな会場でライブを観る時、「EPの頃から聴いてた」と言えるのはちょっと嬉しい。ELMIENEはそう思わせてくれるタイプの歌い手だ。

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