まず耳を素通りしなかった。夏の頭にリリース情報が流れてきて、あ、戻ってきたんだ、と思った。(sic)boyがDOOMSDAY🛒楽天でやっていることは、派手なカムバックではない。むしろ逆で、メジャーで広げた景色を、狭い部屋に持ち帰って鍵をかけ直す。DOOMSDAYはそういう曲だ。
この曲を語るとき、避けて通れない事実がひとつある。(sic)boyがニューシングル“DOOMSDAY (Prod. KM)”を7月22日にリリースし、本作は4thアルバム『DOUKE』以来の新曲にして、インディーズ回帰第1弾作にあたるという点だ。しかも組んだ相手は、いま新しく見つけてきた誰かではない。初期から一緒にやってきた男である。
この曲の要点
- (sic)boyのインディーズ回帰第1弾シングルとして2026年7月22日に配信リリースされた楽曲。
- プロデュースは、キャリア初期から共作を重ねてきたKM。制作中のEPからの先行シングルにあたる。
- 直前の作品はメジャーでの4thアルバム『DOUKE』(2025年)で、今作はその流れをいったん切って別レーンに入り直す位置づけ。
- ジャンルはヒップホップを土台に、オルタナティブ/エモ/ラウド・ロックの質感を溶かした彼の一貫したスタイル上にある。
「回帰」という言葉の重み
結論から書く。この曲は、キャリアの巻き戻しではなく、意図的な仕切り直しの音がする。日本語圏で「インディーズ回帰」というワードが乗ると、どうしてもロマンチックに響く。売れなくなったから戻ったとか、業界に嫌気が差したとか、外野はストーリーを付けたがる。ただ(sic)boyの場合、単純な二項対立で語る対象ではない。メジャーで実装した規模と、インディーでしかできない小回りを、両方持ったまま組み直す動きに見える。
言い換えると、DOOMSDAYは「離脱の曲」ではなく「再配置の曲」だ。メジャーで得た解像度を捨てず、しかし判断のスピードを取り戻す。そのために、まず1曲だけ、鋭く短く出した。EP先行という形式そのものが、この判断のスピード感を音源より先に語っている気がする。
(sic)boyは2023年にメジャー・デビューを果たし、2026年よりインディーズに回帰、(sic)boyのDOOMSDAYへ向けた新たなストーリーがスタートしようとしているという並びで、DOOMSDAYはその「仕切り直しの第一声」に立っている。
メジャーでやった時間が無駄だったという話ではない。むしろ、あの3年間で得た知名度や制作規模を全部持ったまま、自分でハンドルを握り直したというのが正確な読み方だと思う。だから曲名が「終末」なのに、聞こえてくる音には、諦めよりも荷造りの手つきに近いものがある。
アーティストがメジャーからインディーへ移るとき、往々にして「原点回帰」というワードが乗る。ただ(sic)boyの場合、原点はもうすでに彼自身のスタイルとして完成しているので、戻る場所というより、雑音を減らして音源に向き直る場所、と言った方が近い。
KMという相棒、その意味
DOOMSDAYを語るうえで、プロデューサー・KMの存在は外せない。ここは核心。キャリア初期から制作を共にしてきたプロデューサーのKMと再びタックを組んで制作中だというEPからの先行シングルである以上、この曲は「二人の関係のリセット」ではなく「二人の関係の更新」を聴く曲になる。
KMがどれだけ深く彼の音に食い込んでいるかは、過去作を追っていた人なら知っているはずだ。ラッパーの(sic)boyとプロデューサーのKMは新たなタッグ作『CHAOS TAPE』を完成させ、サウンドの監修すべてをKMが担ったという事実がまずある。1枚まるごとひとりのプロデューサーが握るというのは、ラップの現場では意外と少ない。オムニバス的にビートを集めた方が「シーンっぽく」なるからだ。
そこをあえて閉じた。CHAOS TAPE以降、KMと(sic)boyは何度もタッグを組み直している。1stアルバム『CHAOS TAPE』のサブスク合計再生回数は2500万を突破し、(sic)boyがKis-My-Ft2への楽曲提供も行うなど、アンダーグラウンドからオーバーグラウンドまでマルチに活躍していることは、二人の座組がスケールに耐えることの証明でもあった。
その相手を、メジャーを離れた最初の1曲でまた呼び戻している。ここが重い。契約や座組の話ではなく、音のルーツの話としてのKM再合流だ。
もう少し踏み込むと、KMはビートメイカーというより「音の設計士」に近いタイプだと思う。(sic)boyの声のクセ、息継ぎの入る位置、母音の伸ばし方、そのひとつひとつを織り込んだうえでビートの空間を切り分ける。だから他のプロデューサーが同じ声を扱うと、どうしても声が浮くか埋もれるかのどちらかに寄る。KMの手にかかると、声と伴奏の距離が奇妙にぴったり合う。DOOMSDAYはその「距離のぴったり感」が、しばらくぶりに戻ってきた1曲でもある。
ちなみに、KMのプロダクションを外から見ていて面白いのは、彼が自分の作家性を前に出しすぎないことだ。「これがKMのビートです」という個性の押し付けがない。だから相手が(sic)boyだろうと、他の客演相手だろうと、まず相手の重心をこわさない。この職人性がずっと崩れていない。
サウンドの読みどころ
(sic)boyのサウンドをフラットに説明するなら、ヒップホップの骨格に、ロックの傷が入っている、という言い方になる。オルタナティブ、エモ、ラウド・ロックの要素やメロディアスなフローをヒップホップに落とし込んだスタイルで稀有な存在感を放つという評は本人像とほぼズレていない。DOOMSDAYもこの延長線上にあり、いきなり作風を変えて驚かせる曲ではない。
ただ、ラウドさの置き方が違う気がする。ラッパーのDOOMSDAYは、ギターや歪みを前に出すというより、空気の湿度で不穏を作るタイプに寄っている。爆発ではなく、静電気。BPMを激しく振らずに、隙間で殺しにくる曲だ。
KMのプロダクションを追ってきた耳で聴くと、彼が得意な「声を楽器として置く」処理がここでも効いている。別の曲のシャウトだけ持ってきて、エフェクト的な使い方をしたりもしていると過去のインタビューで語られていた発想は、CHAOS TAPEに限らずKM×(sic)boyの通奏低音だ。DOOMSDAYでも、ボーカルが素材のように扱われる瞬間が何度かある気がする。歌が主役なのに、歌をパーツとして扱う。この矛盾がKMの手つきだ。
もうひとつ、ロー〜ローミッドの重心。ここが「終末」というモチーフを、大げさなオーケストレーションではなく、体の内側で低く鳴らす装置になっている。低いところで曲を支えるのはヒップホップの流儀で、そこに乗るメロディはエモの流儀。DOOMSDAYはその配合比を、ロック側に振り過ぎず、ラップ側に寄せ切りもしない、ちょうど彼の名前が意味するところの位置に置いている。
聴きどころ3点
- ボーカルの質感の使い分け:ラップの発話、メロディの発声、そのあいだの中間ゾーンをどう滑るか。ここが(sic)boyの生命線で、DOOMSDAYでも中間ゾーンの比率が高い。
- KMのビートの間(ま):詰め込む人ではなく、抜く人。何が鳴っていないかを聴くと、この曲の輪郭が見える。
- 「終末」を騒がしくしない選択:曲名から想像する派手な破滅とは違う、静かな終わりの音像。曲の温度が低い方向に設計されている。
キャリアの中で、この曲が置かれた位置
結論を先に書けば、DOOMSDAYはキャリアの折り返しに立つ曲だ。ここまでの流れを事実で並べ直しておく。2020年にリリースした1stアルバム『CHAOS TAPE』が話題となり、翌年のSpotify RADAR: Early Noise、Apple Music Up Next、YouTube Music Sessionsに選出されるなど、その音楽性は各所から高い評価を獲得。ここが第1章の助走。
その後メジャー・デビューを経て、4thアルバム『DOUKE』(2025年)に至る。DOUKEはメジャー体制で組み上げた総集編的な位置にある作品で、シーンの中でのプレゼンスを一段引き上げた。DOOMSDAYはその直後に置かれる。つまり、規模の頂点に達したところで、一度その規模から降りて、自分の手の届く範囲でもう一度音を作り直す、という流れの中に立っている。
この置き位置は、単純な「メジャー疲れ」の物語ではない。むしろ、メジャーで得た解像度の高いプロダクション経験を、今度はインディーの機動力に接続する試みに見える。EPからの先行シングルという形も、アルバム主義に戻ったのではなく、小回りのきくフォーマットを選び直したということだと思う。
もうひとつ、彼の周辺の座組で見逃せないのが、Spotify RADAR: Early Noise、Apple Music Up Next、YouTube Music Sessionsといった、各プラットフォームの新人プッシュ枠を早い段階で通過していた点だ。ここを通ったアーティストは、単に再生数を伸ばすというより、プラットフォーム側の「これから育てたい」リストに載る。その優遇の記憶があるアーティストが、あえて独立して身動きを軽くしたときにどんな曲を出すか。DOOMSDAYはこの角度からも読める1曲だ。それも、プラットフォームに乗る派手さではなく、あえてそこから半歩下がる音として。
もっと言えば、Kis-My-Ft2への提供のような「別ジャンルへの越境仕事」を経てきた作家的経験も、今の(sic)boyの土台にある。自分名義の曲だけで完結する作家ではなく、他人の声に自分の音楽性を差し込んできた人。その視点が戻ってきたときに、DOOMSDAYの引き算の作り方の説明もつく。全部盛りにしない選択は、他人の曲を書いた経験のある人の選択だ。
どう聴かれる曲か
結論から言えば、これは朝や昼のプレイリストに置きづらい曲だ。DOOMSDAYは夜、それも遅めの時間、外音のない部屋に効くタイプに設計されている気がする。派手にテンションを上げにくる曲ではないから、通勤中や作業BGMに紛れると、輪郭が薄まる。逆に、イヤホンで、周りが静かな時間帯に、音量を控えめに置くと化ける曲だ。
もうひとつ、ライブで聴いたときにどう化けるかも楽しみのひとつだ。(sic)boyのライブは、音源よりも一段ラウドに寄る印象がある。DOOMSDAYはスタジオ版だと静かな終末だが、フロアに持ち込まれた瞬間、静かさの中の圧が拡張されるはずだ。ここは、次のツアーや現場で答え合わせをしたい。
初期からのファンにとっては、KMとの再タッグというだけで前のめりになれる1曲だと思う。同時に、DOUKEで初めて(sic)boyを知った層には、そこから一歩掘るための入口になる。両方の耳に別のフックが用意されているのが、この曲のうまいところだ。
「終末」というモチーフの選び方
タイトルの話に少し戻る。DOOMSDAY、直訳すれば審判の日・終末の日。この語を、キャリアの再スタートに乗せているのが面白い。破滅と再出発を同じ紙に書いた、という選択だ。
ヒップホップにおいて終末モチーフは珍しくない。ただ、多くはビートの派手さやリリックの過激さで「派手な終わり」を演出する方向に流れる。DOOMSDAYはそこに逆張りしている。派手にせず、湿らせる。声を張り上げず、含ませる。この温度の選び方に、KMとの再タッグの意味が出ている気がする。二人でしかできない静けさ、という言い方が近い。
加えて、2020年代半ば以降のリスナー環境も味方している。長尺の派手な曲より、湿度の高い短めの曲のほうが繰り返し再生される傾向がある。DOOMSDAYは、この空気に自然にフィットするサイズ感でも設計されているように聞こえる。
もう一段付け加えるなら、日本のオルタナ寄りのヒップホップは、ここ数年、派手さより「肌ざわり」で選ばれる方向にゆっくり動いている。ラウドさよりも湿度、勢いよりも余韻。(sic)boyはその流れの中心にいたわけではないが、DOOMSDAYで結果的にその潮流の内側に立っている。狙って合わせにいったというより、彼自身の温度がもともとそこにあった、と言った方が近い。
解釈が分かれるところ
ひとつ、書いておきたい。この曲の温度をどう読むかは、聴き手でかなり分かれると思っている。
ラウドで攻撃的な(sic)boyを期待していた耳には、DOOMSDAYはやや静かに響くはずだ。逆に、DOUKEでメロディ寄りに触れた層には、ラップ側に少し戻ったように聴こえるかもしれない。どちらも正しい。ここが割れることこそ、この曲が「回帰」ではなく「更新」だという証拠でもある。
自分は、あえて派手にしなかった選択に強く肩入れしている。ただ、これは音源1曲だけで完結する話ではない。EP全体で聴いたときに、DOOMSDAYの静けさがどう位置づけ直されるか。そこまで含めて評価が固まる曲だと思う。だから今は、断定より保留のほうが誠実だ。
入門動線
DOOMSDAYからさらに(sic)boyを深掘るなら、まずはKMとの原点にあたる1stアルバムCHAOS TAPE🛒楽天を1枚通しで。ここに、DOOMSDAYで再合流した二人の初期衝動が全部詰まっている。そのうえで、直近のメジャー期の到達点として4thアルバムDOUKE🛒楽天を並べて聴くと、いま彼が「何を持ってインディーに戻ったのか」の輪郭がくっきり見える。もう1枚踏み込めるなら、KMとの共作『Wasted EP』も推したい。二人のあいだの距離感の変化が短いパッケージで見える。
まとめに代えて
DOOMSDAYは、シングル単体の再生数だけで語ると取りこぼす曲だと思う。ここには、CHAOS TAPEからDOUKEまでの5年強と、そこから先へ向けたEP、その全部の重心が乗っている。単曲の点ではなく、キャリアの線を折り曲げる関節みたいな1曲。
だから、この曲を初めて聴く人には、まず1回、明るい時間に流し聴きしてほしい。そしてもう1回、夜に、部屋を暗くして、音量を控えめにして聴き直してほしい。同じ曲とは思えない距離感で戻ってくるはずだ。そこまで含めてDOOMSDAY、という提案の曲だと思っている。
チャートでの動きや、続くEPの中身は、まだこれから見えてくる。詳細は公式情報を追いたい。ただ、この1曲でひとつ確かなのは、(sic)boyが「戻ってきた」のではなく「もう一度、自分側から始め直した」ということだ。DOOMSDAYはその第一声である。
まずこの作品から聴く
- CHAOS TAPE — KMとの原点、全曲プロデュース作
▶ Amazon / 楽天 で探す - DOUKE — メジャー期の到達点となる4th
▶ Amazon / 楽天 で探す - Wasted EP feat. KM — KMとの共作EP、耳ならし用
▶ Amazon / 楽天 で探す - 爆撃機 — KMプロデュースのシングル代表格
▶ Amazon / 楽天 で探す
※リンクはアフィリエイト(広告)です。

コメント