Kalisway『NOT SO SWEET』を深掘り 令和R&Bの新鋭が示した甘さの裏側

夜のスタジオでネオンが滲むマイクとキーボードの抽象イメージ 楽曲

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チャートを眺めていて、ふと耳に引っかかる曲がある。KaliswayのNOT SO SWEET🛒楽天は、まさにそういう一曲だ。派手にバズって席巻するタイプではなく、プレイリストの中で「これ誰?」と手が止まる種類のR&B。タイトルが示す通り、甘さを装いながら、後味に少しだけ苦さを残す。令和のR&B/ネオソウル系新鋭のなかでも、彼女の名前は最近確実に浮上してきている。

この記事では、歌詞の中身に踏み込まず、サウンドの手触り、アーティストとしての立ち位置、そして日本のR&Bシーンにおける本曲の意味を、事実ベースで整理していく。数字や制作クレジットで確認できないところは正直に「詳細は公式情報を参照」と逃がすが、その代わり、音楽的な文脈は厚めに掘る。

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まず「Kaliswayって誰?」という話から

Kalisway(カリスウェイ)は、カナダ・トロントを拠点に活動するオルタナR&B/ファンクのシンガーソングライター/プロデューサー。R&B、ネオソウル、ジャズ、ヒップホップ、ファンクの境界を自然に行き来する作風で、SNSやサブスク経由で少しずつリスナーを増やしてきたタイプのアーティストだ。細かい経歴や生い立ちについては本人発表の情報に譲るが、彼女の音源を通しで聴くと、明らかに黒人音楽的な語法を「借り物」ではなく血肉として扱っている印象を受ける。

ここ数年、北米のオルタナR&Bシーンは大きな地殻変動の中にある。トロントを中心に、The Weekndやdvsn以降のムードを継ぐ作家群が「英語詞のR&B/ソウル」を更新してきた。Kaliswayはその流れのなかで、女性シンガー的な繊細さと、プロデューサー的な音の作り込みを兼ね備えた立ち位置にいる。バンドマン気質のR&Bというより、宅録的な緻密さを軸にした作り手。ここが、同世代のなかで彼女を独特のポジションにしている。

正直、初めて彼女の音源に触れたとき、トロント発の同時代作品と地続きのトラックの質感に耳を持っていかれた。ミックスの空気感、リズムの前後の揺れ、コーラスワークの重ね方。この「シーンの中心に置いても浮かない」感覚が、いまの若いR&Bリスナーには刺さる。

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『NOT SO SWEET』というタイトルが暗示するもの

タイトルの『NOT SO SWEET』は、直訳すれば「そんなに甘くない」。R&Bというジャンルは、しばしば「甘いラブソング」の代名詞のように扱われてきたが、2020年代のR&Bはむしろその逆で、甘さと苦さを同居させることに価値を置く。SZA、Summer Walker、Kehlani、Snoh Aalegraあたりのラインを思い浮かべればわかりやすい。恋愛の甘い局面だけを歌わない、むしろ痛みや距離感、自分自身への疑いを乗せる。

本曲のタイトルからは、そういう現代R&Bの態度が自然に読み取れる。歌詞そのものは引用しないが、方向性としては「フックの心地よさに油断していると、後半で少し胸を刺される」タイプの作品と捉えるのが妥当だろう。R&Bの伝統的な官能性を残しつつ、リスナーを油断させないための一工夫が、タイトルにも音にも仕込まれている。

サウンドの手触りをほどく

Kaliswayの作品全般に共通する音の特徴を、いくつか挙げてみる。まず、ドラムが前に出すぎない。キックとスネアがルームの空気ごと録られたようなローファイ寄りの質感で、リスナーの体温に近い距離で鳴る。この「近さ」が、彼女のヴォーカルの繊細なニュアンスを損なわない設計になっている。

次に、ベースの扱い。ネオソウル系の作家がそうであるように、ベースラインは単なる低音支えではなく、メロディックな役割を担う。ルート弾きで終わらない、指弾きの粘りやスライドの質感を活かした動きが、コード進行の奥行きを増幅させる。『NOT SO SWEET』もこの系譜にあると聴いて自然だ。

そして、コーラスワーク。Kaliswayの音源では、リードヴォーカルの背後に自分自身の声を複数レイヤーで重ねる手法がよく使われる。倍音の当たり方が独特で、ハーモニーが「ふわっと空間を満たす」というより「レイヤー同士がわずかにズレて呼吸している」ように感じられる。人間らしい揺らぎを残したまま重ねる、というのはミックスの匙加減が難しい部分で、ここに彼女のプロデューサー性が出る。

聴きどころ3点

  • ヴォーカルとトラックの距離感。マイクの近さがそのまま曲の親密さになっている、宅録的な質感。
  • コーラスの重ね方。均質にそろえず、あえて呼吸のズレを残すことで生まれる立体感。
  • タイトルとサウンドの温度差。甘く聴こえる導入と、後半でわずかに冷える空気の設計。

現行オルタナR&Bシーンの中でどこに立っているか

2020年代前半の北米オルタナR&Bは、大きく分けて三つの潮流がある。ひとつは、The Weekndやdvsn以降のトロント系ムードR&Bを更新するタイプ。もうひとつは、Steve LacyやSolange周辺のようにバンドとファンクの生々しさを武器にするタイプ。そして三つ目が、宅録やビートメイクを起点に、SNS/サブスクで小さく強い支持を積み上げていくタイプだ。Kaliswayは明らかに三つ目のライン上にいる。

この三つ目の潮流は、数字が派手に伸びる瞬間は少ないが、プレイリスト経由でじわじわとリスナーが定着していく。TikTokで一発跳ねて消える、というモデルではなく、Spotifyの「Fresh Finds」的な導線や、海外のR&Bキュレーションからの逆輸入的な注目を通じて広がっていく。だから、大手メディアで大きく扱われる前に、コアなR&Bリスナーの間で「知ってる人は知ってる」段階が長く続く。

『NOT SO SWEET』が今チャートに顔を出しているという事実は、この「じわじわ層」が一定の閾値を超えつつあることを意味する。ラジオでのオンエア、プレイリスト追加、各国のR&Bファンからの発見。こういう地味な積み上げが、ある瞬間にまとまってチャート的な数字として可視化される。彼女のキャリアにおいて、この曲は「一気に化ける前の助走」に位置づけられる可能性がある。

発音とグルーヴ、身体で受け取る聴き方

Kaliswayの歌唱は英語詞だが、単に英語のストレスアクセントに乗せているだけではない。子音を弱めに置き、母音の伸縮でグルーヴを作る場面が多く、ラップ的というよりウィスパー寄りのフレージングでトラックに寄り添っていく。この「息の量でリズムを描く」感覚は、Cleo SolやSnoh Aalegraと通じる質感だ。

だから、彼女の曲は歌詞を目で追いながら聴くより、まずは音として身体で受け取ったほうが正しく響く。もちろん歌詞の意味に踏み込む聴き方も後からできるが、初回は「発音自体が楽器」だと思って聴くと、彼女のR&Bとしての完成度がよく見える。

プロダクションと制作環境の話

詳細な制作クレジットは公式情報を参照してほしいが、Kaliswayの作品全般に感じるのは「大きなスタジオで大人数が作った音」ではないという点だ。もちろん実際の制作環境は本人しか知らないが、聴感上、少人数もしくは本人主導で作られた密度の音がする。これはネガティブな意味ではなく、むしろ2020年代のR&Bにおいてはポジティブな特徴だ。

宅録的R&Bの利点は、コンプの掛け方やリバーブの深さといった細部を、作家の美学がそのまま反映できる点にある。委員会的なミックスでは削られてしまう「歪みや揺れ」が残り、それが作品の指紋になる。Kaliswayの音源でも、あえてローエンドを整理しすぎない、あえて残響を長めに残す、といった選択が随所に感じられる。マスの耳に最適化されすぎていない、というのは、R&B/ネオソウルというジャンルにおいては褒め言葉だ。

この方向性は、Steve Lacy や Solange、Cleo Sol あたりの系譜と接続する。派手なフックで殴りに行かず、質感の説得力で聴かせる。メジャー的な物量アプローチとは真逆の方法論だが、サブスク時代のリスナーはむしろこの「小さくて強い音」を発見する快感を覚え始めている。

キャリアのなかでの本曲の位置づけ

Kaliswayのディスコグラフィをたどると、EP/シングル単位で少しずつ音楽的な語彙を増やしてきているのがわかる。初期はよりベッドルーム寄りの内省的なR&Bだったが、最近の音源ではビートの解像度が上がり、コーラスワークもより野心的になっている。『NOT SO SWEET』は、その延長線上で、彼女が「もう一段外に開こうとしている」タイミングの作品と読むのが自然だ。

「開く」というのは、ポップに媚びるという意味ではない。むしろ、コアな部分は保ちながら、ラジオやプレイリスト経由で偶然出会うリスナーにも届く強度を持たせる、という意味だ。イントロの掴み、フックの覚えやすさ、ブリッジの展開。こういう構造的な工夫が、宅録的な質感を残したまま丁寧に組まれている。この「意匠と設計の両立」は、次のフェーズに進むアーティストが必ず通る場所でもある。

チャート上での動きをどう読むか

具体的な順位や再生数の数字は日々変動するし、根拠のない断定はしたくないので割愛する。ただ、ラジオチャートに新鋭のR&B作品が入ってくるという現象自体、いま日本の音楽消費が少し変わってきている兆しとして見ておく価値がある。数年前まで、この種の宅録寄りR&Bはチャート表の上位に顔を出しにくかった。プレイリストで聴かれるだけで終わっていた。

そこに、ラジオ局側のキュレーションが変わり、リスナーの耳も変わり、結果としてこうした作品が「オンエアで刺さる曲」として選ばれ始めている。Kaliswayの本曲がチャートで話題になるのは、彼女個人の勝利であると同時に、オルタナR&Bシーン全体の底が上がってきている証拠でもある。個人的には、この流れはもう少し続くと思っている。

どう聴くのが「正解」に近いか

『NOT SO SWEET』を最大限楽しむための聴き方をひとつだけ挙げるなら、イヤホン/ヘッドホンでの再生をおすすめする。スマホのスピーカーで流し聴きすると、この曲の一番おいしい部分――コーラスの重なり、ドラムのルームの空気、ヴォーカルの子音の処理――が全部潰れてしまう。宅録的R&Bはヘッドホンで真価が出るジャンルだ。

もうひとつ、時間帯としては夜に聴くほうが刺さる。これは陳腐な感想に聞こえるかもしれないが、実際にこの手のR&Bは日中の情報過多な脳ではうまく処理できない。夜、他のタスクを閉じたあとで、テンポの遅い音の細部に耳を向ける時間帯にこそ本領を発揮する。プレイリストのランダム再生では出会えても消費されて終わる可能性が高いので、腰を据えて一枚のEP単位、アルバム単位で追ってみてほしい。

入門動線

Kaliswayの世界をもう少し広げたいなら、まずは彼女自身の他のシングル/EPを時系列で追うのが早い。宅録的な初期音源から現在までの変化を辿ると、『NOT SO SWEET』の音がどこから来たのかが立体的に見える。関連する方向性としては、Cleo Sol『Mother』のようなオーガニックな女性R&B作品を一枚並べて聴くと、彼女の位置づけがより鮮明になるはずだ。

おわりに——甘くない、けど遠くない

『NOT SO SWEET』というタイトルには、リスナーへの一種の宣言が込められているように思う。甘い曲を期待して来た人を、そのまま甘い場所に置いておくつもりはない。かといって、いきなり突き放すわけでもない。少しだけ距離をずらして、あなた自身の温度で聴いてくれ、と言われている気がする。

正直、この一曲だけで Kalisway のすべてが伝わるとは思わない。むしろ、この曲は入口だと捉えたほうがいい。トロント発オルタナR&Bが次のフェーズに入りつつあるいま、その最前線の一人として彼女の名前を覚えておいて損はない。数年後にもっと大きな場所で鳴っているのを聴いたとき、「あのタイミングで気づけてよかった」と思えるタイプの作品だ。まずは夜、ヘッドホンで一度通して聴いてみてほしい。

まずこの作品から聴く

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  • SZA『SOS』 — 甘さと苦さの同居の教科書
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  • Snoh Aalegra『Ugh, Those Feels Again』 — 宅録質感の女性R&B
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  • iri『Sparkle』 — 日本語R&Bの発音研究に
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