山本彩『ブルースター』を今こそ聴き直す—初アニメ主題歌が残した設計図

夜の青い光と星を思わせる抽象的なイメージ。花びらのシルエットが淡く重なる 楽曲

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山本彩「ブルースター」は2024年3月27日に配信された曲だ。あの時は「アニメ『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』のED、初のアニメ主題歌」という枕詞で紹介されることが多かった。今聴き直すと、印象が変わる。この曲は「うまく歌える人」から「自分で書ける人」への移行を静かに宣言した一枚だ。順位や話題性の外側で、彼女がこの1曲に何を仕込んでおいたのか、数年経ったからこそ見えてくる補助線が、いくつかある。

ブルースター🛒楽天が置かれていたのは、2024年2月〜4月の「3ヶ月連続配信」企画の真ん中。第1弾「Nocturnal」、第2弾「ブルースター」、そして4月の第3弾「Bring it on」、この3曲が並んで、当時のアルバム『&』へと繋がっていく流れだった。その後の彼女、ユニバーサル移籍、亀田誠治プロデュース、を知った耳で聴くと、この曲は「移籍前の最後の助走」に当たる。だから今、改めて掘っておきたい。

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この曲の要点

  • 山本彩「ブルースター」は2024年3月27日配信リリース。3ヶ月連続配信企画の第2弾。
  • TVアニメ『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』(通称『まどめ』)のエンディングテーマ。山本彩にとって自身初のアニメ主題歌書き下ろし。
  • 作詞・作曲を山本彩本人が手がけ、編曲は杉山勝彦らが参加。ヒロイン・ネフィの心情に寄り添ったバラード。
  • MVは2023年「Bring it on」に続いてフカツマサカズが監督。壁に映る影で「心を閉じていた私が心を開いていく様子」を表現。

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まず事実の骨格を、静かに置き直す

結論から言うと、この曲を語るときに外してはならない事実は3つだけだ。配信日、タイアップ、作家クレジット。ここが揺れると、後追いの読みも揺れる。

「ブルースター」は2024年3月27日にデジタル配信でリリースされた。3ヶ月連続配信リリースの第2弾という位置づけで、第1弾が2月28日配信の「Nocturnal」、第3弾が翌月の「Bring it on」。この3ヶ月間、山本彩は毎月1曲ずつ、違う顔の楽曲を投下し続けていた。「Nocturnal」は踊り出したくなる愉快な曲として作られたアッパー系、「ブルースター」は儚いバラード、「Bring it on」は光と影・表と裏を扱う二面性の曲、並べてみると、意図的に振れ幅を作ってきた3連投だとわかる。

タイアップはTVアニメ『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』のエンディングテーマ。原作は結城涼のライトノベルで、アニメは2024年4月4日からTOKYO MX、MBS、BS朝日で放送された。この起用が、山本彩にとって自身初のアニメ主題歌だった。ここが重い。アイドルグループ出身のシンガーが、ソロで、しかも自作で、初めてアニメの世界観に呼ばれた、数字より、この事実のほうが後々効いてくる。

作詞・作曲は山本彩本人。編曲には多くのヒット曲を手がけてきた杉山勝彦を筆頭に迎え、共作クレジットには尾上榛の名前もある。ここは押さえておきたい。「歌う人」ではなく「書いた人」として、アニメの現場に入っている。

なぜ「今こそ」聴き直す価値があるのか

2024年3月の時点では、「初のアニメ主題歌」という新規性が話題の中心だった。ただ、その後の彼女の動きを踏まえて振り返ると、この曲の重心は別のところにあったのだと気づく。

その後、山本彩はユニバーサル ミュージックへ移籍。移籍第一弾シングル「イチリンソウ」では亀田誠治が編曲・プロデュースに就き、本人がレコーディングでギターも担当するという、より「作家/プレイヤー」寄りの立ち位置へ舵を切っている。この流れを知った上で「ブルースター」を聴くと、ここですでに作詞・作曲の全部を自分で握り、外部の熟練編曲家と組んで曲を成立させる形が試されていたことがわかる。移籍後の展開は、突然変異ではなかった。3ヶ月連続配信という助走期間の中で、彼女は自分の作家性を、少しずつ外部に見える形にしていた。

もう一つ。「初のアニメ主題歌」という肩書きは、実は取り扱いが難しい。アイドル出身のシンガーがアニソンをやると「意外性」で語られがちで、そこで消費されて終わる例も多い。だがこの曲は、そうならなかった。ヒロインの心情に寄り添うバラードとして、アニメ本編と静かに接続する設計になっていて、山本彩の側もこの曲を「珍しい仕事」ではなく、自分の作家性の延長線上に置いていた。だから残った。今、アニソンプレイリストの中に混ぜても浮かない。むしろ、彼女のカタログの中で最も「他の誰かに歌わせても成立する強度」を持っている一曲になっている。ここが後追いで効いてくるポイントだ。

サウンドの読みどころ、バラードの”骨組み”の話

結論。この曲のバラードとしての強さは、装飾ではなく骨組みにある。派手なストリングスや壮大なサビで泣かせに来る作りではない。もっと引き算的だ。

アニソンEDのフォーマットは1分30秒前後の尺で世界観をまとめ切る必要がある。配信版はフルサイズで4分弱ある。この長さのバラードを、退屈させずに、しかも過剰に盛り上げずに聴かせるのは、実はかなり難しい。杉山勝彦の編曲は、ここで手数を絞る方向を選んでいる印象がある。Aメロは声とピアノの距離を近く保ち、Bメロで空間を広げ、サビでようやく帯域を持ち上げる。教科書的だが、教科書通りにやるのが一番難しい構成だ。

山本彩の声質は、もともと中域に芯があってビブラートを浅く扱えるタイプ。バラードでこの声を使うとき、リバーブを深く掛けすぎると輪郭が溶けて、逆に浅すぎるとアイドルっぽさが残る。この曲のミックスは、その中間の「少しだけ濡らす」加減で処理されている。ヒロイン・ネフィの「心を閉じていた私が開いていく」という物語に沿わせるための距離感の設計で、ここが上手い。

作曲面で面白いのは、サビのメロディが上に伸びていくのに、感情としては「開放」ではなく「そっと差し出す」方向を向いていることだ。同じ音域の上昇でも、勢いよく突き抜ける書き方と、静かに手を伸ばす書き方があって、山本彩は後者を選んでいる。この選択が、アニメのヒロインの心情、エルフの少女が、少しずつ心を許していく過程、と噛み合っている。曲が物語を追い越さない。

聴きどころ3点

  • Aメロの声とピアノの距離感、リバーブの掛かり方が浅い。歌の芯が前に出るぶん、詞の”呼吸”がそのまま聴こえる。イヤホンで聴くと差がはっきりわかる。
  • サビ入りの一瞬の間、盛り上げるためのタメではなく、次の言葉を”選び直す”ような沈黙が置かれている。バラードとして珍しい判断。
  • ラストサビ後の減衰、大団円で締めない。ヒロインの心情がまだ揺れている余白を残して終わる。アニメEDとして本編に戻す設計。

この曲は、いつ効くのか

ファンの間ではもう共有されている話かもしれないが、この曲は夜、部屋の明かりを1段落とした後の時間に効くように設計されている気がする。朝の通勤で流すには繊細すぎるし、日中の作業BGMには前に出すぎる。深夜のアニメ枠のEDに置かれていた曲、というのは、時間帯の話だけじゃなくて、聴き手の心拍数の話でもあると思う。

個人的な話をすると、この曲は「Bring it on」の後に聴くと化ける。「Bring it on」の光と影のテーマを浴びた耳で「ブルースター」に戻ると、儚さの中に微かな強度があるのが聴こえてくる。逆順で聴くと、また違う。3ヶ月連続配信の3曲は、順番によって印象が変わる作りになっていて、ここは今からでも試せる楽しみ方だ。

キャリアの地図の中で、この曲はどこに立つのか

アイドル時代のヒット、卒業後のロック寄りの試行、そして本人作家としての本格化、山本彩のキャリアはいくつかのフェーズに分けられる。「ブルースター」はその中で、「本人作家としての本格化」フェーズの、真ん中よりやや前に位置している。

この時期の彼女は、東阪ホールツアーを終えて、5月からのアジアツアー(広州・上海・台北等)に向かうタイミングにいた。国内でシンガーソングライターとしての活動幅を広げつつ、海外の現場に出ていく直前。ソロで初めてアジアを回るツアーの直前に、初のアニメ主題歌をリリースしている、この並びは偶然ではなく、明らかに「外に出ていく側の武器」として3ヶ月連続配信が組まれていたと読める。

その後のユニバーサル移籍と亀田誠治との仕事は、この時期の助走がなければ成立しなかったはずだ。「イチリンソウ」で”いつの日か枯れるのであれば強く生きたい”という強い意志のメッセージを、本人ギター・亀田プロデュースで打ち出せたのは、その前段階で「作詞作曲を全部自分でやり、外部の編曲家と組んで完成させる」経験を積んでいたから。「ブルースター」は、その経験の代表例だ。

だから、いま彼女のカタログを追う人に対して、この曲の紹介の仕方はこうなる。「初のアニメ主題歌」ではなく、「移籍前に、彼女が自分の書き方を試して見せた1曲」。数字ではなく、書き手としての立ち位置の証拠。

「初のアニメ主題歌」だったことの、もう少し細かい話

結論。アニメ主題歌の仕事は、ただ「アニメの絵に合う曲を書く」だけでは終わらない。原作の温度、監督の切り取り方、放送枠の時間帯、視聴者層の年齢、複数の変数を同時に扱いながら、なおアーティスト自身のカタログとしても成立させる必要がある。「ブルースター」は、この難しい方程式にきちんと向き合った跡が残っている曲だ。

『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』は、タイトルの強さで判断されがちだが、物語自体はヒロイン・ネフィが少しずつ心を開いていく丁寧なプロセスを描く作品だ。ED曲に求められるのは、視聴者を”戻す”機能、1話分のドラマを受け止めて、静かに現実に返す役割。ここでバラードを選んだのは正解で、しかも作詞作曲を主題歌担当のシンガー本人がやることで、アニメ側の意図と歌詞世界の齟齬が生まれにくい構造になっている。外部作家が書くと、どうしても「アニメ用に書かれた曲」感が残る。自分で書いた曲は、自分のカタログにも自然に馴染む。ここが後々効いた。

もう1つ。深夜アニメのEDという枠は、実は音楽的な自由度が高い。ゴールデン帯のドラマ主題歌のように”分かりやすいサビ”を要求されない。バラードを、余韻中心の設計で通せる。この枠だったからこそ、山本彩は「引き算」を選べた、という言い方もできる。タイアップ先の性質と、書き手の作家性が、たまたま良い方向にハマった1曲。

MVの話、影で表現するという選択

MVはフカツマサカズが監督を務めた。2023年の「Bring it on」に続く指名で、映像面でも継続性がある。

MVで採用されているのは「壁に映る影」を使った表現。心を閉じていた”私”が、大切な人との出会いによって心を開いていく過程を、直接的な人物描写ではなく影の動きで見せる手法だ。アニメのED映像との棲み分けとしても賢い判断で、アニメ側がキャラクターの絵を出すぶん、実写MVは人物の輪郭を敢えて曖昧にする。歌詞の世界と映像の距離感が、ちょうどいい。

ここでも「引き算」の感覚が徹底されている。豪華なセット、多カット、ダンス、バラードのMVで盛りに来る手はいくらでもあるのに、影1つで通した。この判断ができるアーティスト側とスタッフの信頼関係が、映像から漏れている。

チャートと”聴かれ方”の話

正直、この曲は「配信初週で爆発した」タイプの曲ではない。3ヶ月連続配信の1曲としてリリースされ、アニメの放送とともに少しずつ聴かれ、アルバム『&』の文脈に吸収されていった。数字で殴る種類の曲ではないし、そう作られてもいない。

ただ、TOKIO HOT 100のようなラジオ発の指標や、アニメEDとしての継続再生、プレイリスト経由の流入を含めた「じわじわ効くタイプ」の聴かれ方をした曲だと言える。バラードは短期の爆発より、長期の定着で勝つ。この曲は、後者の設計で作られている。だから、数年経った今、こうして振り返って書ける。

解釈が分かれる論点、「アニソン」の看板をどう扱うか

この曲を巡って、ファンの中でも意見が分かれそうなポイントを1つだけ置いておきたい。

「ブルースター」を”アニソン”としてカタログに残すのか、”シンガーソングライター山本彩のバラードの一曲”としてアーティスト・カタログの本流に据えるのか。ここは意見が割れると思う。アニソンとして扱うと、『まどめ』のED曲という座標が最初に立って、作品と一緒に語られる。アーティスト曲として扱うと、3ヶ月連続配信の中で、あるいは『&』の1曲として、他の楽曲との関係で語られる。

個人的には、後者に寄せて聴きたいと思ってる。彼女がわざわざ「初のアニメ主題歌」を自作で受けた意味は、「アニソンをやった」ではなく「自分の曲がアニメに使われた」という向きだったはずだから。ただ、これは絶対の正解じゃない。アニメの記憶とセットで残す聴き方も、間違いなく正しい。ここは聴く人ごとに置き場が違っていい曲だ。

この曲以降、山本彩のバラードはどう変わったか

「ブルースター」以降、彼女のバラード曲を並べて聴くと、共通する設計思想が見えてくる。過剰なストリングス、盛り上げるためのコード進行、分かりやすい泣き所、こういった”バラードあるある”を、意図的に避けるようになっている。代わりに置かれるのは、声と最小限の伴奏の距離感、そして余白。「ブルースター」で試された引き算のバラード観が、以降の楽曲に持ち越されている。

これはユニバーサル移籍後の「イチリンソウ」を聴くと、より鮮明になる。亀田誠治編曲・本人ギターというクレジットのもと、”いつの日か枯れるのであれば強く生きたい”という強度のあるメッセージが、決して派手ではないミディアム・ナンバーに乗せられている。売り出しの第一弾シングルなら、もっと分かりやすい仕上げにする選択肢もあったはずだ。それをしなかった。「ブルースター」で示した引き算の作家性を、移籍後も貫いた。ここで初めて、”3ヶ月連続配信”の意味が完全に接続する。

逆に言うと、あの時期に「ブルースター」を書いていなければ、移籍後にいきなり亀田誠治と組むというカードは切りにくかったかもしれない。作家として何ができるかを、外部に示す必要があった。その提示が、この曲だった、と思ってる。

入門動線

「ブルースター」から山本彩のソロ活動に入るなら、次の1曲は同じ3ヶ月連続配信の「Bring it on」。同じMV監督フカツマサカズによる映像との対比で、この時期の作家性の輪郭がつかめる。関連1枚はアルバム『&』、3ヶ月連続配信の3曲が着地したアルバムで、この時期の全体像が見える。その先で、ユニバーサル移籍後の「イチリンソウ」(亀田誠治プロデュース)へ進むと、シンガーソングライター山本彩の”いま”に繋がる。

まとめ、後から効いてくる、静かな一枚

「ブルースター」は、配信当時のニュース価値では「初のアニメ主題歌」に集約された。ただ、その後の山本彩のキャリアの動き、アジアツアー、ユニバーサル移籍、亀田誠治プロデュース、を通り抜けた耳で聴くと、この曲が本当に置いた石は別のところにあったとわかる。

それは、彼女が「歌う人」から「書く人」へ、自分の重心をずらす作業を、外に見える形でやってみせた曲だった、ということ。派手な宣言ではなく、儚いバラードの姿で。だから今、この曲を”アニソン”の棚に置くか、”シンガーソングライター山本彩”の本棚に置くかは、聴く人が決めていい。どちらに置いても、この曲は成立する。それが、この1曲の強度の答えだと思ってる。

まずこの作品から聴く

  • Bring it on — 同じ企画・同MV監督の続編
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  • Nocturnal — 3ヶ月連続配信の第1弾
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  • アルバム『&』 — この時期の到達点
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  • イチリンソウ — 移籍後の現在地
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