初めてJorja Smithの声を聴いたとき、正直「10代の子がこの重心で歌うの?」と戸惑った。低めのハスキーな響き、母音の伸ばし方の余裕、フレーズの終わりでほんの少し引くタイミング。若さで押し切る歌ではなく、聴き手に考える隙を残す歌だった。UKソウルの新世代を語るうえで、彼女の名前を外すのはもう難しい。
チャートの並びを眺めていても、Jorja Smithの曲は独特のポジションにいる。派手なトレンドの先端ではないのに、いつの間にか長く残る。ラジオで流れれば耳が止まるし、プレイリストに入れておくと数か月後にまた聴きたくなる。今回はこのシンガーの歩みと音楽性を、UKのシーンごと掘り下げてみたい。
ウォルソールから世界へ ― プロフィールと来歴
Jorja Smithはイングランド中部、ウェスト・ミッドランズのウォルソール出身。ロンドンでも南部の港町でもなく、内陸の小さな街から出てきたシンガーだ。父親がミュージシャンだった環境で育ち、幼少期からピアノや歌に触れていたと本人が語っている。学校ではクラシックの合唱にも参加していたそうで、あの独特の発声の土台にはたぶん、そういう地道な訓練がある。
10代のうちから曲を書き溜め、ロンドンに出てからカフェで働きながら音源を発表していた話は有名。転機になったのは2016年に自主で公開した楽曲Blue Lights🛒楽天だった。UKの警察と若者の関係を主題にした社会性のある一曲で、SNSやブログを中心にじわじわ広がり、業界の耳を捉えた。この時点で、彼女はまだ十代後半。
その後、DrakeのプレイリストやモニターでBlue Lightsが取り上げられたことが世界的な注目に繋がる。北米市場からのアクセスが一気に増え、UKローカルの逸材から国際的な新人へと位置づけが変わっていった。2018年には映画『Black Panther』のサウンドトラックにKendrick Lamarとの共演で参加。ハリウッド規模の作品に若手UKソウルシンガーとしてクレジットされる、これは本当に大きい。
同じ2018年、ファーストアルバムLost & Found🛒楽天をリリース。BRIT Awards のBritish Female Solo Artistを翌年受賞し、Mercury Prize にもノミネート。ここまでの動きが、キャリア初期の骨格になっている。派手なメジャー戦略というより、良い曲を積み重ねたら結果として世界が振り向いた、という順序。順序が逆じゃないのがJorja Smithらしい。
音楽性の核 ― ソウル、ジャズ、レゲエの交差点
Jorja Smithの音楽を一言でジャンル分けするのは難しい。R&Bやソウルと呼ばれることが多いけれど、聴き込むほど枠がずれる。ジャズの和音の使い方、レゲエのビートの跳ね方、UKガラージやドラムンベースの空気感、そこにアコースティックなシンガーソングライターの骨格が乗っている。全部が全部強く出るわけではなく、曲ごとに配合が変わる。
声そのものの特徴は、まず音域の使い方。ハイトーンで張り上げて聴かせるタイプではなく、中低域を丁寧に鳴らす。子音を強くぶつけず、母音を長めに置く。この歌い方はエイミー・ワインハウスとよく比較されるが、より現代的で、ヒップホップ以降のリズム感が骨に染みているのがJorja Smithの側だと思う。
もう一つ大きいのが、リリック(歌詞世界)のテーマの選び方。恋愛の機微を書くときも、社会的な視点を書くときも、対象と適度な距離を取る。ドラマチックに演出しすぎず、生活の解像度で語る。これがUKソウルの伝統でもあり、彼女の同世代 ― CleoやLittle Simz、Mahaliaあたりとも共有する感覚だ。派手さより誠実さで勝負する系譜。
プロダクション面では、共作者にMaverick Sabreの名前が挙がることが多い。UKソウル/レゲエ寄りのソングライティングを支える存在で、Jorjaの楽曲のあの落ち着いた質感はこのタッグ抜きには語れない。あとはDJ Fresh、Stormzy、Burna Boyといったジャンル横断の顔ぶれとコラボしている点も見逃せない。UKの現行シーンで、彼女はハブの役割も果たしている。
聴きどころ3点
- ハイトーンで押さず、中低域で語る歌唱。母音の余韻と間合いの取り方に集中して聴くと発見が多い。
- R&B、ジャズ、レゲエ、UKガラージが同じ皿の上に乗る配合。ジャンルより「質感」で音楽を組み立てている。
- 私生活の目線と社会的な目線が地続きになる書き方。恋の歌でも街の歌でも、姿勢が変わらない。
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代表作・ディスコグラフィの読みどころ
キャリアの入口はやはりBlue Lights🛒楽天。ダブステップ以降のUK特有のベースの重みと、ソウルの歌唱がひとつに溶ける瞬間があって、これがJorja Smithの原点になっている。テーマは重いけれど、歌そのものは驚くほど静か。この落差が彼女のシグネチャーだ。
初期の代表曲としてもう一つ挙げたいのがOn My Mind🛒楽天。プロデューサーPreditahとのタッグで、UKガラージのビートに乗せた一曲。しっとり系の印象を持たれがちなJorjaだが、ダンスフロアでも成立する曲を早い段階で出している。この振れ幅を知らないと、彼女を「バラードの人」と誤解してしまう。
ファーストアルバムLost & Found🛒楽天は、若手のデビュー作としては驚くほど落ち着いている。ヒットを狙って詰め込むタイプではなく、自分の書き溜めた曲を編み直したような構成。アコースティックな曲、ヒップホップ的な曲、ジャズ寄りの曲が並んでも違和感がないのは、歌の重心が一貫しているからだと思う。
2021年のEPBe Right Back🛒楽天は、フルアルバムの合間に出された小品集ながら中身が濃い。制作環境が制約された時期に、身近な機材とアイデアで作られたような親密さがある。ファンの間で評価が高く、キャリアの「休符」ではなく「橋」として機能した作品だ。
そしてセカンドアルバムFalling or Flying🛒楽天(2023年)。DameDameとの共同プロダクションで、サウンドの質感がぐっと前に出た。デビュー作の内省的な色から、もう一歩開いた場所に立とうとしている作品。Lila IkéやJ Hus、GhettsといったUK/カリブ圏のアーティストとの共演も収録されていて、彼女がこの数年に築いてきた人脈がそのまま音になっている。
コラボレーションを追うだけでも1本の記事になりそうなくらい豊富。Kali UchisとのやりとりやBurna Boyの楽曲への参加は特に有名で、ラテン、アフロビーツ、UKソウルを横断する立ち位置を体現している。単発の客演がここまで似合うシンガーは、同世代でもそう多くない。
UKソウル新世代の中でのポジション
2010年代後半のUKは、ヒップホップとR&Bの周辺が一気に活性化した時期だった。Stormzyを筆頭にしたグライム勢の第二波、Little Simzのようなラップの新基準、Sampha、Celeste、Ellaといったソウル系の書き手たち。Jorja Smithはこの群像の中で、たぶん一番「歌」に軸足を置いている人だ。ラップやプロダクションで自己主張するより、声そのもので勝負するタイプ。
比較対象としてよく引き合いに出されるのがエイミー・ワインハウス。声質、佇まい、UK出身の白人シンガーがブラックミュージックのイディオムを深く吸収している点、確かに重なる。ただ個人的には、Jorjaの方がずっと引き算の人だと感じる。エイミーがドラマを増幅させる歌手だとしたら、Jorjaはドラマを冷ますことで逆に浮かび上がらせる歌手。世代の違いもあるし、性格の違いもあるだろう。
もうひとつ触れておきたいのは、彼女がキャリア初期からアフロビーツやレゲエ、ダンスホールの回路に自然にアクセスしてきたこと。UKの音楽シーンはカリブ、西アフリカとの繋がりが太い土壌がある。そこにきちんと足を置いているシンガーで、しかも「借り物」に聴こえない。Burna Boyやポップカーン、Popcaanといった名前が並んでも、Jorjaの歌はちゃんとその真ん中に立てる。
映画・映像との親和性も高い。前述の『Black Panther』サウンドトラックだけでなく、いろいろな映像作品に彼女の曲が使われている。あの声質は映像の余白にとても合う。BGMとして機能しつつ、意識を持っていく力もある。これは持って生まれた才能に近い部分だと思う。
今のチャートで見えてくる立ち位置
いま週ごとのチャートを眺めていて興味深いのは、Jorja Smithの曲が話題作の隣にすっと存在していることだ。ヒップホップの派手なリリースが並ぶ中に、彼女の落ち着いた楽曲が並んでいると、ラインアップの温度が一度整う。プレイリストの構成上、こういう「重心を戻せる」アーティストは重宝される。
ストリーミング時代のリスニング傾向を考えると、Jorjaのスタイルはむしろ有利な部分もある。1曲でガツンと決めるより、通勤や在宅作業のBGMとして長く回される音楽。派手な瞬間最大風速ではなく、平均風速で勝つタイプ。だから彼女の楽曲は、リリース直後だけでなく、数か月・数年単位で聴かれ続ける。
アワードの実績もそれを裏付けている。BRIT Awardsの受賞歴、Mercury Prizeのノミネート、Ivor Novelloへの評価。数字だけを追いかけたキャリアではなく、批評的な支持を積み重ねたキャリアだ。この方向性を10代のうちに選び取れた判断力は、ちょっと普通じゃない。
これから聴くならどこから ― 入門ガイド
Jorja Smithを初めて聴く人にどこから薦めるか、というのは意外と難しい。バラードから入ると「静かなシンガー」の印象で止まってしまうし、コラボ曲から入ると本人の輪郭が掴みにくい。個人的にはやはり原点であるBlue Lights🛒楽天を最初に置きたい。彼女がなぜ登場した瞬間から注目されたのか、この一曲でだいたい伝わる。
まずこの作品から聴く
- Blue Lights — 原点にして最重要曲
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入門動線
- まずこの1曲:Blue Lights。声の芯と社会的な視線が同居する、Jorjaのすべてが凝縮された原点。
- 次にこの1枚:Lost & Found。10代で書き溜めた曲を編み上げた、驚くほど成熟したデビュー作。
- 深めるならこの1枚:Falling or Flying。制作面での視野が広がり、UKソウル以外の回路も鳴らす2作目。
この3ステップで一通り輪郭は掴める。あとは客演曲を掘っていくと、彼女の交友関係と守備範囲の広さが見えてくるはず。Burna Boyとの共演、Kali Uchisとの共演、UKのラッパーたちとの共演、それぞれで違う顔を見せる。それでも「Jorja Smithだ」とすぐ分かる、その一貫性がやっぱりすごい。
正直、こういうタイプのシンガーは今の時代あまり出てこない。バズを狙わない、ジャンルの流行に流されない、10代から自分の重心を持って歌える。派手な打ち上げ花火ではなく、長い夜の照明みたいな存在。今週のチャートで名前を見かけて気になった人は、ぜひ数曲だけでいい、腰を据えて聴いてみてほしい。たぶん、思ったより長い付き合いになる。


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