スウェーデン中部の地方都市から出てきたバンドが、いまヨーロッパのアリーナで映画のような舞台を組み立てている。SMASH INTO PIECES——名前だけ聞くと直訳の勢い任せに見えるけれど、実際の音は違う。メロディがしっかり歌えて、ギターは重く、シンセと映像がバンドの世界観を裏で支える。今週のチャートに顔を出しているのを見て、あらためて聴き直した人も多いはずだ。
この記事では、彼らが何者で、どこから来て、なぜ今このタイミングで日本のリスナーに刺さっているのかを、事実ベースで整理していく。歌詞の引用はしない。作品の位置づけと音楽性、ライブの演出、そしてどこから聴けば入りやすいかを、順を追って書いていく。
このアーティストの要点
- SMASH INTO PIECESは2008年にスウェーデン・エレブルーで結成された5人組ロックバンド。
- ドラマーのAPOC(Apocalypse DJ)はLEDを仕込んだ黒いフルフェイスマスクで素顔を出さないアノニマスなキャラクターとして活動している。
- 2023年のスウェーデン国内予選メロディフェスティバレンにシングル「Six Feet Under」で参戦し、決勝で3位という結果を残した。
- ジャンルはポップメタル/オルタナティヴメタル/オルタナティヴロック/エレクトロニックロックにまたがり、シネマティックな映像演出とセットで語られる。
- 2022年にはWithin TemptationとEvanescenceの「Worlds Collide」アリーナツアーにスペシャルゲストとして帯同した。
エレブルーの5人組——結成からいまに至るまで
まず出自から。SMASH INTO PIECESはスウェーデン・エレブルーで2008年に結成された。エレブルーはストックホルムから西へ200kmほど、人口15万人規模の地方都市で、決して音楽産業のど真ん中ではない。ここから世界規模のバンドが出てきた、というのがまず面白いところだ。
結成メンバーはヴォーカルのChris Adam Hedman Sörbye、リズムギターのPer Bergquist、リードギターのBenjamin Jennebo、ベースのViktor Vidlund、ドラムのIsak Snow。この5人で始まった。1stシングル「Fading」は2009年のリリースで、スウェーデンのシングルチャートで33位まで上がっている。地方の若いロックバンドの1曲目としては、悪くない滑り出しだった。
その後、2013年に1stアルバム、2015年にセカンド、と順当に作品を重ねていくのだが、バンドの見た目が一気に「今のSMASH INTO PIECES」になったのは、2015年前後のメンバー交代がきっかけだった。ドラマーが交代し、新しいドラマーは「Apocalypse DJ」——通称APOC——として、素顔を出さず、LEDを埋め込んだフルフェイスマスクと黒いローブで登場する匿名キャラクターに設計された。エイリアン・アンドロイドのようなビジュアルは、以降のバンドの記号として定着していく。
ベースのViktor Vidlundも後に脱退し、現在の公式ラインナップはChris Adam、Benjamin Jennebo、Per Bergquist、APOCの4名として案内されている。5人体制から4人体制への移行は、バンドの音の再設計とも重なっていた。ギター2本+ドラム+ボーカルという骨格を残しつつ、ベースラインや低音の一部をシンセとプログラミングに寄せていく、いまの音の作り方に地続きだ。
個人的な話をすると、初めて彼らのライブ映像を通しで見たとき、真っ先に「これはバンドを見ているのか、SFの舞台を見ているのか」と混乱した。ステージ後方の大型スクリーンにAPOCの物語がずっと投影されていて、曲と曲の間にも世界観が続いている。ライブがそのまま一本の映像作品として組まれている感覚だ。ライブハウスというより、シアター。
レーベルはSonyやGainの名前が公式情報として挙がっているが、地域や作品ごとに配給の座組が変わることもあるため、詳細は公式サイトで確認してほしい。北欧のバンドがメジャーとインディの流通を器用に使い分けながら国際化していく典型例でもある。
音楽性の核——メロディックロックとエレクトロの折衷
音の話をする。SMASH INTO PIECESはポップメタル、オルタナティヴメタル、オルタナティヴロック、エレクトロニックロックといった複数のタグで語られる。要は、ハードなギターとキャッチーな歌メロを軸に、シンセと打ち込みが常に脇を固めている構造だ。北欧メタルの重さと、ユーロポップの整った歌メロ。この2つの折衷が、この国の他のヘヴィなバンド——たとえばIn FlamesやAmaranthe——とも違う独自の位置を作っている。
初期作と最新作を並べて聴き直すと、変化が分かりやすい。2013年前後の音は、いわゆるポストハードコア/メロディックメタルコアのフォーマットに近く、ギターリフの主張が強い。それが2017年のRise and Shine🛒楽天あたりからシンセの比重が上がり、2020年のArcadia🛒楽天ではエレクトロニカ寄りのプロダクションと壮大なコーラスが同居する構成が完成する。ロックバンドが映画音楽の作り方を学んだ、という言い方が近いと思う。
Chris Adamのボーカルは、シャウトを主武器にしない。ミドルレンジで芯のある歌い方で、サビでは思い切り開ける。歌モノとして成立するから、メタル耳じゃないリスナーにも届く。ここが日本での受け方にも効いていると思っている。
もう一点、リズム設計が特徴的だ。生ドラムのAPOCが叩くグルーヴの上に、EDM/トラップ的なプログラミングを重ねる曲がある。四つ打ち系のキックの上をギターリフが走る、みたいな構成が普通に出てくる。ロックとダンスミュージックの境界を疑わずにまたぐ姿勢は、Bring Me the HorizonがPost以降にやってきたこととも近いが、SMASH INTO PIECESはもう少しメロディの歌謡性が強い。ここが好き嫌いの分かれ目でもあり、日本のリスナーが入りやすい理由でもある。
プロダクション面で言うと、彼らの曲は「ヘッドホンで聴くと発見が多い」タイプだ。センターに歌とギター、少し離れた位置にコーラス、外側にシンセパッドとSE。左右の広がりの中で、常に何かが鳴っている。スタジアム向けの音作りをしつつ、ヘッドホン再生も破綻しない。ここは制作の丁寧さが効いている。
聴きどころ3点
- 重いギターの下でシンセとプログラミングが常に動いていて、単純なメタルにも単純なEDMにもならない絶妙な折衷。
- Chris Adamの歌の芯の強さ。シャウトに頼らず、サビで一気にスケールを広げる歌唱設計。
- APOCの存在を含めた「バンド=物語」という設計。楽曲だけでなくMVとライブ演出まで一続きの世界。
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代表作・ディスコグラフィの読みどころ
結論から言うと、入り口に向いているのは『Arcadia』(2020年)とA New Horizon🛒楽天(2021年)の2作。ここでバンドのシネマティックな側面が完成しているからだ。以下、時系列で読みどころを追う。
『Unbreakable』(2013年)はデビュー作。まだ「今の」彼らではないが、メロディックなヘヴィロックとしての基礎が全部詰まっている。次のThe Apocalypse DJ🛒楽天(2015年)はタイトル通り、APOCというキャラクターが本格的に登場する転換点のアルバム。ここでバンドのビジュアル・アイデンティティが決まった。以降のバンド史は、このアルバムの前と後で分かれる。
『Rise and Shine』(2017年)から音の重心が明確に変わる。シンセが前に出て、コーラスの作り方も北欧ポップの感覚が入ってくる。続く『Evolver』(2018年)で、その方向性はいっそう推進された。そして2020年の『Arcadia』でエレクトロニックロックとしての完成度に到達する。個人的に一番リピートしたのはこの1枚で、朝の車内でずっとかけていた時期がある。冬のスウェーデンの空気感が音に出ている、と勝手に思っている。
2021年の『A New Horizon』は、コロナ禍の制作環境の中で作られた作品で、映像作品と一体で発表された点が印象的だ。楽曲単位のフックの強さより、アルバム通しての起伏で聴かせるタイプ。ここでバンドは「アルバムを一本の物語として設計する」フェーズに完全に入った。
2022年のDisconnect🛒楽天は、パンデミック以降の空気を反映した作品として語られることが多い。同じ2022年にリリースされたシングル「Throne」は、YouTubeでバイラルに広がり、彼らの国際的な知名度をもう一段引き上げた。そして2023年、シングルSix Feet Under🛒楽天でスウェーデンの国内予選メロディフェスティバレンに参戦し、決勝で3位。曲はAndreas “Giri” Lindbergh、Benjamin Jennebo、Chris Adam、Jimmy “Joker” Thörnfeldt、Joy Deb、Linnea Deb、Per Bergquistら北欧ポップの職人たちと共作されている。ロックバンドがユーロビジョン系のショーで戦うのは近年増えているが、その中でも記憶に残るパフォーマンスだった。
ここから先の新作については、リリースペースが早く、シングル単位でも動きが多いため、正式な発表情報は各自公式サイトで確認してほしい。バンドのカタログは配信サービスで一通り追える。順に聴いていくと、2013年と2023年で音がここまで変わるのかと驚く。同じバンド名で、ここまで別物になれるという事例としても面白い。
ライブとステージ演出——「映画のなかに入る」体験
SMASH INTO PIECESを語るうえで、ライブ演出の話を外すわけにはいかない。バンド自身がプレスキットで、シネマティックなプロダクションと物語・映像要素をシームレスに融合させ、まるで映画の中に入り込むようなライブ体験を作ると言い切っている。実際に映像を見ると、これは誇張ではない。
ステージ後方の大型LEDには、APOCが主人公として登場する近未来的なショートフィルムが常時流れる。曲ごとにチャプターが切り替わり、演奏はそのサウンドトラックとして機能する。バンドをただ観に行くのではなく、90分の一本の作品を体験しに行く感覚に近い。ここまで統合的にやっているロックバンドは、そう多くない。
もう少し具体的に演出の話を掘る。バンドはAPOCというキャラクターを主人公にした継続的なストーリー——ざっくり言えば「近未来のディストピアで、匿名のDJが音楽を通じて何かを取り戻す」系の世界観——を、MV/ライブ映像/SNS投稿を横断して展開している。1本のアルバムが1本の映画で、次のアルバムはその続編、という構造だ。日本のバンドで言えば、コンセプトを常にビジュアルとセットでやってきた聖飢魔IIやMAN WITH A MISSIONの世界観設計に近い部分もある。ただ、SMASH INTO PIECESは映像制作を内製かそれに近い体制でやっているらしく、更新頻度と密度が段違いだ。
2022年には、Within TemptationとEvanescenceが組んだアリーナ規模の合同ツアー「Worlds Collide Arena Tour」にスペシャルゲストとして帯同している。この2組の下で戦えるバンドは限られる。ゴシックメタルとオルタナティヴメタルのど真ん中に、北欧のエレクトロ寄りのロックが入っていくのは対バン的にも面白い組み合わせだった。オランダやドイツ、イギリスの大型会場を回るツアーで前座を務めた経験は、その後の彼らのアリーナ対応力を確実に底上げしている。
近年は「SMASH FOR KIDS」という、子どもに向けて全面的にアダプトされつつ大人も同様に楽しめるツアーも回している。バンドの世界観を家族単位で共有できるように設計されていて、大人が観ても十分成立する内容だという。この発想は、単なる子ども向けイベントではなく、キャラクターとストーリーを持ったバンドだからできる展開だ。ロックバンドの寿命を「その世代の10年」で終わらせず、次の世代に受け渡す仕組みを自分たちで作ろうとしているように見える。長い目で見た、賢いブランド運営だと思う。
カルチャー的な文脈——北欧ロックのなかの立ち位置
スウェーデンは人口1000万人規模の国だが、輸出しているポップ/ロックの量は世界屈指だ。ABBA、Roxette、In Flames、Ghost、Amaranthe、Avicii。ジャンルは違えど、共通するのは「メロディの強度」と「制作の緻密さ」。SMASH INTO PIECESもこの系譜のなかにいる。ヘヴィなギターの上に、歌えるメロディを乗せることを絶対に諦めない。
ソングライティングの陣容を見ても、そのハイブリッド性が分かる。「Six Feet Under」の共作者リストにいるJoy DebとLinnea Debは、これまで何度もメロディフェスティバレン用の楽曲を書いてきた作家陣で、ユーロビジョンやスウェーデンのメインストリームポップに深く関わっている。そういう作家とロックバンドが一緒に曲を作る、というのは日本のシーンからすると意外な組み合わせに見えるかもしれない。でも北欧ではこの距離感が普通だ。ポップスの作家とロックバンドが同じテーブルで作業する、いわゆる「Cheiron以降のスウェーデン式」を、ロック側でやっているとも言える。
もう一つ、匿名ドラマーAPOCの存在を、Ghostのボーカリスト(初期のPapa Emeritus)や、初期のSlipknotのマスクといった系譜と並べて語ることもできる。素顔を出さないメンバーがバンドの物語装置になる、という手法自体はロック史に前例があるが、そこにSF的なLEDマスクと連続する映像を組み合わせた点で、彼らのやり方はかなり2020年代的だと言える。TikTokやYouTube Shortsで断片的に映像が拡散する時代に、「マスクの顔がキャッチーで、動くと光る」というのは強烈な武器になる。
そしてもう一つ大事なのが、彼らが「Melodifestivalen 3位」というポップフィールドの実績を持ちながら、ロックの現場でも通用している点だ。この二重の在籍感は、日本のシーンだとBABYMETALやONE OK ROCKがやってきたことに近い。ロックの外の耳を、ロックの現場に連れてくる力。それがバンドの成長速度をここ数年一気に加速させた。
今チャートでの立ち位置
今週のチャートで名前が挙がっていること自体が、彼らにとっては珍しくなくなってきている。2020年前後から、SpotifyやYouTubeを中心にストリーミングでの再生が積み上がり、シングル単位のヒットが継続的に出ているからだ。特に「Six Feet Under」以降は、ロックのメイン層の外——ユーロビジョン経由で彼らを知ったリスナー——にもリーチが広がっている。
日本での存在感も、じわじわ上がっている。ラウドロック/メロディックメタル系のリスナーがまず反応し、そのあとにアニメーションMVや映像演出に反応するアニメ/ゲームカルチャー層が入ってきた印象だ。ヘヴィだけど怖くない、シンセが効いていて映像映えする、ボーカルの歌がちゃんとメロディックである——この3点は、日本のリスナーが海外ロックを受け入れるときの条件と綺麗に噛み合っている。
チャートの具体的な数値は週によって動くので、順位はここでは触れない。ただ、単発ヒットで終わらず、複数のシングルで名前が回っている点が、今のSMASH INTO PIECESの強さだ。1曲当たりの寿命が短くなっているストリーミング時代に、バンド名で回っているのは大きい。プレイリストの中で「あ、また彼らか」と気づかれるフェーズに入っている。
これから聴くならどこから
ここまで読んで気になった人向けに、入り口を整理しておく。長いキャリアがあって作品数も多いので、最初の1曲・1枚を間違えると印象が定まらない。以下のルートを推奨したい。
まずこの作品から聴く
- Six Feet Under — 今の彼らを最短で掴める1曲
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入門動線
- まずこの1曲:「Six Feet Under」。バンドの今の姿——重さ、メロディ、映像演出——が2分59秒に凝縮されている。
- 次にこの1枚:『Arcadia』(2020年)。エレクトロニックロックとしての完成度が最も高い1枚で、通しで聴ける。
- 深めるならこの1枚:『Disconnect』(2022年)。パンデミック期を経たバンドの内省と外向きのエネルギーが同居している。
そこまで聴いて興味が続けば、『The Apocalypse DJ』(2015年)まで遡って、キャラクター誕生の瞬間を確認するのがおすすめ。逆順に聴くことで、なぜ今この形に落ち着いているのかが立体的に見えてくる。逆に、最初にデビュー作から順に聴くのは、正直あまりお勧めしない。今の彼らの真価は2020年以降にある。
SMASH INTO PIECESは、地方都市の若者たちが始めたバンドが、17年かけて「一本の映画のようなライブ」にたどり着いた事例だ。歌える曲がある、重い音がある、映像がある、そして匿名のドラマーがいる。この4つが揃っているロックバンドは、世界的にも数えるほどしかいない。今週チャートで名前を見かけたのをきっかけに、ぜひ1曲、通しで聴いてみてほしい。思っているより、たぶんずっと歌モノです。


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