JENNIEの新曲Less Than a Lover🛒楽天がチャートに現れたとき、まず耳を惹くのは音数の少なさだった。Ruby期のポップな重量感を知っている耳には、ほとんど余白のように聴こえる。この曲は「恋人未満」の関係を歌ったのではなく、恋人未満のまま夏を終わらせる決断の音を鳴らしている。そこが面白い。
2026年7月24日、Columbia Records/Odd Atelierからの配信リリース。Rolling Stoneによれば6月のGovernors Ballで初披露され、Roskilde、Open’er、Mad Coolと欧州フェスを経て正式音源が届いた流れになる。ライブで先に鳴らして、あとから録音物が追いつく——このシーケンス自体が、いまのJENNIEのモードを示している気がしている。
この曲の要点
- 『Less Than a Lover』は2026年7月24日、Columbia Records/Odd Atelier経由でリリースされたJENNIEのソロ・シングル(収録時間3分38秒)。
- プロデュースはCashmere Cat(Magnus August Høiberg)とTyler Spry、ボーカルプロデュースはJelli Dorman。共作者にBibi Bourelly、Deb Never(Deborah Jung)ら。
- Billboard Global 200に初登場26位、Bubbling Under Hot 100に7位でチャートイン。
- ミュージックビデオはスペイン・ジローナで撮影、写真家Choeeyが監督。ラストに「To Be Continued」タグ。
- 2ndアルバムに向けたリードシングルとして位置付けられている。
基本情報:どこで、誰と、何を録ったのか
クレジットを開くと、この曲が「JENNIE個人の作家性」寄りに設計されているのが見える。共作者はJENNIE、Bibi Bourelly、Deb Never(Deborah Jung)、Jelli Dorman、Tyler Spry、そしてCashmere Cat(Magnus August Høiberg)。プロデュースはTyler SpryとCashmere Catの二人体制で、Jelli Dormanがボーカルプロダクションに入る。Songfactsほかの資料によると、Tyler Spryはギター、ベース、パーカッション、シンセ、Wurlitzerピアノまで自ら演奏している。
Bibi BourellyはRihanna「Bitch Better Have My Money」の共作者として知られるライター、Deb Neverはインディー・ロック/オルタナ側の書き手。この二人がJENNIEの隣に並ぶのは、それだけでソングライティングの重心が動いている合図でもある。プロモ資材には「Directed, Written and Music Created by Jennie Kim」と明記されていて、企画・作詞・音楽制作のトップに彼女の名前が置かれている。ソロ独立レーベルOdd Atelierの運営意志が、クレジットの並びににじむ。
Cashmere Catはノルウェー出身のプロデューサーで、Ariana Grande、The Weeknd、Kanye Westと仕事をしてきた人物。彼が主導するとトラックは、しばしば「余白の設計者」の顔を見せる。Tyler Spryはカントリー/アメリカーナ側の名前でも知られていて、この2人が同じ卓に座った瞬間、ジャンルの座標が一つ内側にズレた——そこがLess Than a Loverの最初の面白さ。
サウンドの読みどころ:3分38秒の”引き算”
結論から書くと、この曲は「サビで爆発しない」設計になっている。Rubyの中の何曲か、たとえば「Mantra」や「ExtraL」のような音圧の押し出しはここには無い。代わりに、Wurlitzerの丸い電気ピアノ、ローファイに録ったギターの残響、抑えたパーカッション、そしてほとんど呼吸みたいなJENNIEのヴォーカルが並ぶ。イントロの数秒でBPMが判定できないくらい、リズムが宙に浮いた状態から始まる感覚がある。
面白いのはミックスの左右の使い方で、ギターとキーボードが中央からわずかに外れた位置に置かれ、真ん中にはヴォーカルとほのかなリバーブテールしか無い。これはCashmere Catがしばしば取る配置で、聴き手の視線が自然にヴォーカルへ落ちる。「豪華なプロダクションが主役を奪わない」——本作をIndie Pop寄りに聴かせている一番の理由は、たぶんここ。
ヴォーカルのプロダクションはJelli Dormanが担当。ダブルトラッキングを敢えて薄めに、ブレスをほぼ切らずに残している。囁きに近い声量から少しだけ張るところまで、ダイナミクスの幅がとても狭い設計。ここに「これは告白ではなく独白」というトーンが宿っている。K-POPのソロ曲がしばしば取る「感情のクレッシェンド」を、この曲はやらない。やらないことで、テーマが立つ。
聴きどころ3点
- WurlitzerとギターのLo-Fiな肌ざわり:Tyler Spryが弾き重ねたキーボードとギターは、意図的にわずかなヒスと歪みを残してある。「深夜に窓を開けて録った」ような温度感で、これがドリームポップ的な質感を作っている。
- サビの”上がらない”設計:ふつうポップ曲はサビで音数と音圧を上げるが、本作はサビでもテクスチャがほぼ変わらない。代わりにコーラスワークが薄く重なる。ここで初めて「複数の自分」が現れる構造。
- アウトロの余韻:曲終わりの数秒、楽器が一つずつ抜けていき、最後にリバーブテールだけが残る。MVラストの「To Be Continued」タグとリンクしていて、”終わっていない”感触を音でも設計している。
テーマ:夏、ジローナ、そして関係に名前をつけない選択
歌詞世界には踏み込みすぎず、公開されている情報だけで書く。Billboard Philippinesによれば、楽曲とMVはスペイン・ジローナを舞台にした夏の恋の物語を辿り、JENNIE演じる主人公は最終的にコミットメントを避け、「a little bit less than a lover」の位置に留まる選択をする。共演はTaiwan生まれ/ソウル拠点のモデル、Nah Kai。写真家Choeeyが監督を務めた。
ここで一つ、聴取者としての観察。K-POP女性ソロが「関係にラベルを貼らない」ことを主題化するとき、それはしばしば「弱さ」や「不安」として提示される。Less Than a Loverはそのどちらでもない。関係に名前をつけない、と決めているのは主人公の側で、そこには自己保存の冷たさより、夏の時間の限定性への理解のほうが強く鳴っている。ジローナという、ソウルでもニューヨークでもLAでもない場所を選んだのも、この距離感と噛み合う。
MV末尾の「To Be Continued」タグは、シングル単体で読むと少し不思議に映る。これは2ndアルバムに向けたシリーズ構成の予告と読むのが妥当で、Rubyが確立した「一人称の物語」路線を、次はもう少し長い時間軸で書きに行く合図——と私は受け取っている。
キャリアの座標:Rubyから、そのあと
2025年3月のデビュー・アルバム『Ruby』は、JENNIEを「BLACKPINKの一員」から「作家性を持つソロアーティスト」へと切り替える作品だった。Dominic Fikeとの「Love Hangover」、Doechiiとの「ExtraL」、そしてタイトル曲「Mantra」まで、ジャンルの幅が広く、コラボの視野も広かった。あの一枚はショーケース的な機能を担っていた、と考えるとしっくりくる。
そのあとに出たのが、Tame Impalaを迎えた「Dracula (JENNIE Remix)」。STARNEWSによれば、この曲はBillboard Hot 100で5位、Pop Airplayで1位まで到達している。K-POPソロ女性としては歴史的な位置だ。この文脈でLess Than a Loverが出てくると、普通は”次のヒット”を狙って音圧を積む選択をする。だがJENNIEは逆を選んだ。ここが、この一曲の一番大きな意思決定だと思う。
ヒットの直後に、あえて引き算をする。それはRubyの拡張版を作るのではなく、次のアルバムの空気を先に鳴らしにいく、ということでもある。プロデューサー陣を集約し(Cashmere Cat/Tyler Spryの2人)、テーマを狭く絞り(夏、ジローナ、名前を付けない関係)、演奏まで一人の手数で回す。散らかしたRubyの反対側に、あえて立っている。
チャートの動き:数字の外側にあるもの
数字の話も押さえておく。Soompiによれば、Less Than a LoverはBillboard Global 200に26位で初登場、Bubbling Under Hot 100に7位でチャートイン。ARIA、Canadian Hot 100など各国のチャートにも入っている(詳細はWikipediaの該当ページ参照)。BillboardのFavorite New Music投票では、この週のトップに選ばれた。
ただ、この曲の価値は順位で読むと半分しか見えない。Dracula(Remix)の直後、しかもアルバムのリードでもない「アルバムに向けたシングル」という位置づけで、この温度感のトラックを出してGlobal 200の20番台まで持っていったこと自体が、ソロJENNIEの現在地を示している。爆発しないサビでもチャートに残せる——これはRuby以前のJENNIEでは、たぶん取れなかった戦い方。
数字はスナップショットに過ぎない。この曲でJENNIEが積んでいるのは、シングル単体の順位ではなく、2ndアルバムの土台になる「作家としての手触り」だと思う。To Be Continuedの意味は、たぶんそこにある。
ライブから録音物へ:フェスで先に鳴らした意味
この曲の作られ方でもう一つ注目したいのは、リリース前にライブで先に披露する順序を取ったこと。Governors Ball(6月7日、NY)、Roskilde(7月3日、デンマーク)、Open’er(7月4日、ポーランド)、Mad Cool(7月9日、スペイン)。約1ヶ月かけて欧州の大型フェスで音を試し、7月24日に音源化する。この動線は、K-POPソロというよりも、インディー/オルタナ側のアーティストの動き方に近い。
ライブで先に鳴らすと、曲は”完成品”として届く前に、観客の反応を織り込みながら仕上げられる。私見だが、Less Than a Loverが最終盤でここまで音数を絞れているのは、フェスの野外で音を鳴らしてみて「これでいい」と確認できた自信の裏返しに聴こえる。大きな音圧で押さなくても、3万人の観客の意識を中央に集められる——その手応えが録音物に反映されている。
ちなみにOpen’erやMad Coolはロック/オルタナ寄りのラインナップで、K-POPソロが単独枠で立つ場所としては珍しい。この選択自体も、次のアルバムの立ち位置を先に示す動きだと思ってます。
ジローナ、そしてChoeeyのカメラ
MVの舞台がスペイン・ジローナである点にも、少し触れておきたい。バルセロナから北へ約100km、中世の旧市街と川に囲まれた町。観光地の派手さはなく、石畳と暖色の光と、水面のゆらぎで構成された場所。この曲のプロダクションの「余白の多さ」と、街の輪郭がよく噛み合う。
監督のChoeeyは写真家出身で、静止画の間合いを動画に持ち込むタイプの作家。カット割りは意図的にゆっくりで、瞬間の表情ではなく、その前後の”間”を映す。JENNIEのMVには過去、派手なコレオや大掛かりなセットが多かったが、本作はほぼ日常のスケール。共演のNah Kaiとの距離感も、演技というより「その場に居合わせた二人」の距離で撮られている。
ここで音とMVが一つの主題を共有しているのが見えてくる。「大きく振らない」——楽曲もヴォーカルもカメラも、全部この一点で揃っている。これは偶然ではなく、Directed, Written and Music Created by Jennie Kimの署名の意味だと思う。
解釈が分かれるところ:これは”成長”なのか、”回避”なのか
ここは正直、聴き手のあいだで割れる論点だと感じている。ある人は、Rubyでポップの最前線を張ったJENNIEが、次のフェーズとしてIndie/Dream Pop的な作家性へ深く潜ったと読む。ある人は、Dracula級のヒットの後にあえて音数を落としたのは、次のアルバム前の”温存”だと読む。どちらの読みも、この一曲だけでは決めきれない。
私自身は前者寄りに聴いているけれど、後者の読みも否定はできない。ここが割れるのは曲が悪いからではなく、むしろ、この曲が「決めきらないこと」を主題にしているからだ、と思ってます。関係に名前をつけない主人公と、キャリアに名前をつけないアーティストが、同じ音の中で重なっている。そう読むと、この曲の輪郭が少し違って見える。
入門動線
この曲から広げるなら、まずJENNIE自身の「Dracula (JENNIE Remix) with Tame Impala」を。Less Than a Loverが選ばなかった”音圧の道”がここにある。対比で聴くと、7月の判断の意味が見えやすい。もう一枚踏み込むなら、アルバム『Ruby』(2025)を通して。この一枚を経由してからLess Than a Loverに戻ると、”引き算”の意味がまた変わる。
プロデュース側から辿るなら、Cashmere Catの仕事——Ariana GrandeやThe Weekndでのプロダクション——を聴くと、彼の”余白の設計”の一貫性がわかる。書き手側からはBibi Bourellyの過去の共作、Deb Neverのソロ作を触っておくと、Less Than a Loverの言葉の重心がなぜここに落ちたのか、輪郭がはっきりする。
まとめ:夏の3分38秒を、あえてこう録るということ
チャートの数字も、フェスの初披露も、MVの舞台もそれぞれ話題として強い。ただ、この曲の芯にあるのは、Draculaの余熱の中でJENNIEが「爆発しないサビでいい」と決めたその一点だと感じてます。関係に名前を付けない選択と、音楽に名前を付けない選択が、同じテンポで進んでいる。
2ndアルバムの姿はまだ見えない。To Be Continuedの続きが、この温度のまま来るのか、また別の顔で来るのか。少なくとも、この3分38秒はその序文としてよく機能している。夏の終わり、深夜のプレイリストの真ん中あたりに、静かに置いておきたい一曲。
まずこの作品から聴く
- Ruby (JENNIE) — ソロ作家性の原点
▶ Amazon / 楽天 で探す - Dracula (JENNIE Remix) with Tame Impala — 音圧側の対比軸
▶ Amazon / 楽天 で探す - Love Hangover (with Dominic Fike) — Ruby期の代表曲
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