いま、JUNGLEをちゃんと聴くべき理由
ダンスミュージックが、また街に戻ってきた。ここ数年、フェスのメインステージからカフェのプレイリスト、TikTokの短いループまで、ソウルとディスコを現代の解像度で鳴らすサウンドがじわじわ支持を広げている。その中心にいるのがロンドン発のJUNGLE(ジャングル)だ。派手なパフォーマンスもゴシップも売りにせず、ダンスと音とビジュアルだけで人を動かしてきた集団。地味なのに、なぜか毎作ヒットする。この不思議な立ち位置こそ、いまのポップスの縮図みたいで面白い。
もともとはジョシュ・ロイド=ワトソン(J)とトム・マクファーランド(T)というふたりの幼馴染から始まった。ふたりの頭文字を並べれば「J」と「T」。バンドというよりプロジェクト、あるいはレーベルとコレクティブの中間みたいな形でスタートし、今は複数のシンガーやダンサー、映像作家を巻き込んだ大所帯として動いている。だからライブに行くと、正面に立つ「JUNGLEというひとり」がいない。中心がぼやけたまま、フロアだけがくっきり熱くなる。
この記事では、彼らのキャリアの流れ、音の作り方、代表作の聴きどころ、そして映像や振付との関係までまとめて掘っていく。名前は知っているけどアルバム単位ではまだ、という人が「よし、頭から通して聴いてみるか」と思える手前まで連れて行きたい。
プロフィールと歩み──覆面から集団へ
JUNGLEが世に出てきたのは2010年代前半のロンドン。デビュー当時、彼らはメンバーの顔も名前もほとんど明かさず、頭文字だけで通していた。SNSでアーティストが自分語りをするのが当たり前になり始めた時代に、あえて「誰が作ったか」を消しにいったのは、いま振り返るとかなり戦略的な選択だったと思う。音そのものと、映像に映るダンサーの身体、それだけで語らせる。人物のキャラよりも、コレクティブとしての「気配」を売る。
初期は英インディー系の名門レーベルXL Recordingsから作品を出し、ここでモダンファンクの担い手として一気に名が広がった。フジロックをはじめ日本のフェスにも早くから登場し、日本のリスナーとの相性の良さも早い段階で証明されている。以降はセルフ・レーベル的な体制へ移行し、リリースのペースと世界観のコントロールを自分たちで握るようになっていく。
ライブ編成はふたりを核に、キーボード、ベース、ドラム、コーラス、ダンサーまで含む大所帯。ステージ上に円形やライン状にメンバーが並び、全員でひとつのグルーヴを回していく。ソロ回しで拍手をもらうタイプのバンドではなく、面で押すタイプ。この構造は、彼らのミュージックビデオ(後述するが、ワンショットのダンス映像シリーズ)とそのまま地続きだ。
ダンスミュージックの世界では、匿名性を武器にするアクトは珍しくない。ダフト・パンクしかり、Sault(ソウルト)しかり。JUNGLEはそこまで極端な匿名主義ではないけれど、「主役はダンサーとリスナーであって、僕らじゃない」という距離感を保ち続けている。派手なフロントマン不在のまま10年以上活動が続いていること自体、いまのポップスでは相当レアだ。
音楽性の核と変遷──モダンファンクの再定義
JUNGLEのサウンドをひとことで言うなら、モダンファンク/ネオソウル/ディスコの現代版。ただし、これは1970年代のアナログ・ソウルを懐かしむタイプのリバイバルではない。彼らはむしろ、90年代のヒップホップがサンプラーで作ったソウル・ループの記憶を経由してから、そこに現代のダンスミュージックのミックス感を重ねている。だから聴くと「新しいのに懐かしい」ではなく、「懐かしい素材を、いま鳴らすとこうなる」という質感になる。
ボーカルはファルセット中心。男性ボーカルが高い音域で歌うことで、性別も年齢も国籍もぼやけていく。この「顔が特定できない声」は、覆面性の音楽版でもある。バックには乾いたクラップ、フィルターを通した鍵盤、丸みのあるベース、そして人力ドラムと打ち込みが半分ずつ混ざったビート。分離が良すぎず、あえて中域を潰したような団子っぽいミックスが、彼ら特有の「フロア用ソウル」の質感を作っている。
作品を追うと、変遷はけっこうくっきりしている。初期はサイケデリック寄りのソウル、中盤で内省的で映画的なムードに深く踏み込み、最新モードではダンスフロア側にぐっと寄せてきた。BPMが上がり、ハウスやディスコのフォームが前面に出てきて、ライブでもフロアがずっと動き続ける構成に変わってきている。「バンド」と「DJセット」の中間みたいなライブ体験は、ここ最近のフェスシーンの空気ともよく噛み合っている。
もうひとつ大事なのが、コラボレーションとの向き合い方。他ジャンルのラッパーやシンガーを客演に呼ぶことが増え、UKソウルやヒップホップの現在地とも接続点を持ち始めた。ゲストが入っても「JUNGLEの音」に聴こえるのは、ミックスの質感とビートの重心が徹底して一貫しているから。器を保ったまま、中身をどんどん更新していく。この設計思想はコレクティブとして生き残る上でも合理的だと思う。
代表作・ディスコグラフィの読みどころ
入口としてまず勧めたいのは、彼らのセルフタイトル作Jungle🛒楽天。デビュー作にして完成度が異常に高い一枚で、モダンファンクとサイケ・ソウルの間で揺れるサウンドが、彼らのすべての起点になっている。曲単位で聴いても強いけれど、通して聴くと「架空の街の一日」みたいなムードが立ち上がってきて、アルバム単位で作る意味を初手からきちんと示してみせた。
次に位置づけたいのがFor Ever🛒楽天。デビュー作の熱量がひと段落した後の、少しビターで映画的な作品。空間を広く取ったミックス、レイトナイト寄りのテンポ、ロマンスと喪失を行き来する空気感。ここでバンドが「勢いだけでは終わらない」ことを証明した。ヘッドフォンで夜に流すのに向いている、たぶん一番大人びた一枚。
そして流れを大きく変えたのがLoving in Stereo🛒楽天。ダンスフロア側にはっきりと舵を切り、テンポを上げ、コーラスワークを厚くし、ゲストボーカルも大胆に取り入れた作品。ラジオ的な短いキラーチューンが並び、シングルカットしやすい構造になっている。ここから彼らのフェスでの動員は明らかにもう一段上がった印象がある。
直近モードの入口としてはVolcano🛒楽天。ハウス、ディスコ、UKガラージまで飲み込んで、より「踊るためのアルバム」に振り切った一枚。ボーカリストの顔ぶれも広がり、コレクティブとしての柔軟さがそのまま音になっている。フロア文脈でこの10年のUKサウンドを追ってきた人ほど、この作品の「まとめ方」に唸ると思う。
楽曲単位で語るなら、初期の高揚感を象徴するBusy Earnin’🛒楽天は外せない。ホーンとファルセットとハンドクラップだけで、なぜかフロアが跳ねるあの感じ。そして中期以降の代表曲としてHeavy, California🛒楽天。淡い光の中を歩くようなグルーヴで、JUNGLEの「夕方の音楽」としての側面がよく出ている。プレイリストで聴くよりも、アルバムの流れの中で来ると効きが違う。
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映像と振付──「もうひとつの本体」
JUNGLEを語るときに音の話だけで終わるのは、正直もったいない。彼らのミュージックビデオ、とくにワンショット(あるいはワンショット風)で撮られたダンス映像シリーズは、もはや作品そのものの一部だ。ストリートで、駐車場で、スタジオで、ダンサーたちが延々と振付を踊り続ける。カット割りをほとんど使わず、ダンサーの身体とグルーヴだけで曲の構造を可視化する。
この手法は、SNS時代の「短くて中毒性のあるループ」との相性が抜群に良かった。曲のいちばん美味しい16小節が、そのままダンス映像として切り出せる。TikTokやReelsで自然と拡散され、フルサイズの曲に流入していく。ミュージックビデオを「曲の宣伝物」ではなく「曲と対等なコンテンツ」として設計しているから、映像が独立して回っていく。
振付を手がけているダンサー/振付家たちとの関係も継続的で、作品ごとに世界観がアップデートされていく。だからJUNGLEを本気で追いかけたい人は、ぜひ公式チャンネルで映像を頭から並べて見てみてほしい。曲順で見るとサウンドの変遷と映像の変遷がぴったり重なっていて、これはこれで別のドキュメンタリーになっている。
カルチャー的な文脈──UKソウルの新しい面
UKのブラックミュージックの系譜を、雑に一本の線で引くとブリット・ファンク、アシッド・ジャズ、UKガラージ、グライム、UKソウル、ジャズ・リバイバル……と流れていく。JUNGLEはこの中のどこか一点に属しているわけではなく、複数の層をつまんで再構成しているタイプ。だからUKの音楽シーンの中で「隣は誰?」と聞かれると意外と答えにくい。Saultのように匿名の集団としての側面、Disclosureのようにダンス寄りに更新される側面、Michael Kiwanukaのようにソウルを現代に接ぎ木する側面、それぞれの隣人性を持っている。
もうひとつ言えるのは、アメリカのモダンファンク(Vulfpeck、Anderson .Paak周辺、Silk Sonicなど)とも別の文脈にいること。アメリカ側がプレイヤーの技巧を前に出して「バンド」を見せるのに対して、JUNGLEはプレイヤーの匿名性を保ったまま「グルーヴの塊」を見せる。だから同じソウル/ファンク文脈でも、体験の質がかなり違う。ライブに行くと、演奏を見に来ているというより、集合的な祝祭に参加しに来ているという感覚に近い。
日本のリスナーとの相性の良さも、ここに関係していると思う。シティポップやフリーソウル的な文脈で80’sソウル/ディスコを愛してきた層、Nulbarichやsuchmos、藤井風などモダンなブラックミュージック解釈を続けてきた国内バンドを聴いてきた層、その両方にすっと入ってくる。UKの音なのに、日本の夜のドライブにハマる。この越境性は、彼らの覆面性と切り離せない。
いまチャートで見せている位置
JUNGLEはいわゆる「1曲でメガヒットを叩き出すタイプ」ではなく、アルバム全体でファンベースを厚くしていくタイプのアクトだ。だからチャート上の見え方も、瞬発力よりロングテール型に近い。フェス出演やツアーが動くたびに再生数が積み上がっていく、ゆっくり育つ数字。数字の派手さで語られにくいアーティストだけれど、逆に言えば数字が落ちにくい。
ラジオやプレイリスト経由で新規リスナーが定期的に流入してくる導線もかなり強い。ドラマや広告、映像作品への楽曲提供も継続していて、生活のBGMとして耳に入るチャンスが多い。ラジオ番組のチャートで名前を見かけたときに「一発屋じゃないやつが、また上がってきた」と感じたら、その裏側にはこのじっくり型の設計がある。
いま彼らを聴くのは、単に流行に乗るというより「この10年のUKダンスミュージックが、ポップスの真ん中でどう定着したか」を確かめる作業でもある。派手な事件はないけれど、確実にシーンの一部を作ってきた人たち。地味に強い、というのがいちばん正確な言い方だと思う。
これから聴くならどこから
初めての一枚で迷ったら、まずは自己紹介がわりのデビュー作から入るのが素直で早い。「モダンファンクってこういうことか」が一発で伝わるし、ここに彼らのすべての種がまかれている。そこから時系列で追いかけると、内省フェーズ、フロア開放フェーズ、ダンス全開フェーズと、聴こえ方の変化が自分の中で地図になる。
もし最初から「踊れるやつをくれ」という気分なら、最新モードの方から入って、あとから初期に遡るのもあり。順番はどっちでもいい。むしろ、行き来してほしい。JUNGLEはアルバムを重ねるほど、過去作の聴こえ方まで塗り替えていくタイプのアクトだから、往復して初めて像が結ぶ。
そしてもうひとつ、ぜひやってほしいのが「映像とセットで聴く」こと。曲だけで聴いていた頃と、ワンショットのダンス映像を通して見た後では、同じ曲の印象が変わる。彼らはそれを狙って作っている節がある。プレイリストとYouTubeを行き来しながら、自分の好きな一曲を見つけてもらえたら、この記事の役目はだいたい終わりです。あとは、夜のうちに一枚通しで聴いてみてください。
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