SHAKIRA×BURNA BOY『DAI DAI』越境ポップの現在地を読む

夕暮れの海辺に浮かぶ抽象的な音の波紋と、暖色のリズムを想起させるビジュアル 楽曲

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チャートに突然差し込んできた、鮮やかな一撃

2020年代のヒットチャートを追っていると、ある種のパターンが見えてくる。北米ポップの内側で完結する曲より、複数の言語・複数のリズムが混ざった曲のほうが、じわじわと長く滞在する。DAI DAI🛒楽天はまさにその流れに乗った一曲で、コロンビア出身の大御所シャキーラと、ナイジェリア発のアフロビーツ最重要人物バーナ・ボーイが組んだ、越境ポップの現在地を象徴する共作だ。J-WAVEのTOKIO HOT 100でも耳につく存在感があり、ラテンとアフロビーツという別々の潮流が、思っていた以上にきれいに噛み合うことを証明している。

正直、最初に「シャキーラとバーナ・ボーイ」と聞いたとき、意外な組み合わせだなと感じた。片やラテンポップの女王として20年以上第一線にいる人。片や、いまアフリカ音楽の世界的輸出を牽引しているスター。世代も出自も違うけれど、両者に共通するのは「英語圏の中心に迎合せず、自分の文化圏からグローバル市場に打って出た」というキャリアの構造だ。だからこそ、この曲は単なるコラボ以上の意味を持つ。ここではその成り立ちと聴きどころ、そして両者のキャリアの中での位置を、丁寧にたどっていきたい。

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曲の基本情報とリリースの文脈

『DAI DAI』はシャキーラとバーナ・ボーイの共作としてリリースされた楽曲で、両アーティストの近年の活動の流れの中に位置づけて聴くと、より意味がわかる。シャキーラは2024年にスタジオアルバム『Las Mujeres Ya No Lloran』を発表し、批評的にも商業的にも大きな反響を得た。この作品は彼女のキャリアの再起点とも呼べる存在で、以降のシングルはそこで開いた扉の続きにある。『DAI DAI』もその文脈の中で理解できる、外向きの拡張の一手だ。

一方のバーナ・ボーイは、2019年の『African Giant』、2020年の『Twice as Tall』、そして2022年の『Love, Damini』と、ここ数年で世界的なフェスのヘッドライナー級にまで昇り詰めた。彼が体現しているのは「アフロフュージョン」という自称ジャンルで、アフロビーツ、レゲエ、ダンスホール、R&B、ヒップホップを溶かし込んだサウンドだ。だから彼は他ジャンルのアーティストと組むときも、相手の色に染まりきらず、自分の重低音を持ち込むのがうまい。今回のシャキーラとの共演でも、その特性が生きている。

細かなクレジットや制作エピソードは公式情報を確認してほしいが、両者が同じトラックに乗るという事実だけで、この曲がターゲットにしている市場は自然と広がる。ラテンアメリカ、アフリカ、北米、ヨーロッパ、そしてアジア。特定の一国のチャートだけを狙う設計ではなく、複数のマーケットで同時に転がるように作られている。TOKIO HOT 100のような日本のグローバル志向チャートに顔を出しているのも、そういう設計の帰結だと思う。

サウンドの読みどころ:ラテンとアフロビーツの噛み合わせ

この曲の面白さは、ラテンポップとアフロビーツの「共通言語」を上手に見つけているところにある。両ジャンルは一見離れて見えるが、実はリズムの根っこが近い。どちらもポリリズム的で、シンコペーションが強く、四つ打ちより裏拍のノリを重視する。ヨーロッパ経由の四つ打ちダンスに慣れた耳には少し不思議に聴こえるが、身体で聴くと自然に腰が動く、あの感覚だ。

アフロビーツはナイジェリアのラゴスを中心に発展したポップスタイルで、ログドラム的な低域、シェイカーやパーカッションの細かい刻み、そしてゆったりしたテンポでのグルーヴが特徴だ。BPMは100前後が中心で、体感よりも遅い。一方、シャキーラが背景に持つコロンビアやカリブ圏のリズム——クンビア、レゲトン、バジェナート——にも、跳ねるパーカッションと粘るベースがある。この共通項があるから、ふたつが同じトラックに乗っても喧嘩しない。

プロダクション面では、控えめなシンセパッド、乾いたパーカッション、余白を残したベースラインといった、いま世界的に流行している「引き算のプロダクション」の作法が採用されているように聴こえる。ここ数年、ヒット曲はどんどん音数が減っている。バーナ・ボーイのソロ曲を聴いていてもわかるが、彼のトラックは驚くほどスカスカで、その分ボーカルとベースが前に出る。この省略の美学は、シャキーラのようにボーカルの存在感が強い歌手と特に相性がいい。

聴きどころ3点

  • アフロビーツ特有のゆったりしたテンポの中に、シャキーラのラテン的なフレージングが自然に溶け込んでいく展開。テンポは遅いのにダンサブル、という不思議な体験ができる。
  • バーナ・ボーイのボーカルの「押し引き」。シャウトせず、囁くように語りかけるパートと、グッと前に出るパートの落差が、曲の温度を保っている。
  • ふたつの言語圏が交差するときの、発音のリズム感の違いそのもの。歌詞の意味を追わずに音として聴いても、母音の響き方の対比が心地よい。

シャキーラのキャリアの中での位置づけ

シャキーラは1990年代からキャリアを持つアーティストで、スペイン語圏のスターから英語圏でも通用するグローバルアイコンへと登りつめた、数少ない存在の一人だ。2001年の『Laundry Service』で北米市場に本格進出し、2006年の『Hips Don’t Lie』ではワイクリフ・ジョンとの共作で世界的な大ヒットを飛ばした。この時期の彼女は、ラテンリズムを英語ポップの土俵に持ち込む役割を担っていた。

その後もW杯公式ソング『Waka Waka (This Time for Africa)』(2010)など、越境的なプロジェクトを重ねてきた。あの曲でもすでに、アフリカ音楽の要素をポップに落とし込む実験は行われていた。今回のバーナ・ボーイとの共作を『Waka Waka』の延長線上に置くのは少し乱暴かもしれないが、少なくとも彼女が「アフリカ圏の音楽と自分の音楽を接続する」ことに一貫した関心を持っていることは間違いない。

2020年代のシャキーラは、私生活の変化も含めて再び大きな注目を集めている。2023年のビジー・ザップ・ラ・ミュージック・セッションズ #53は世界的な話題となり、翌年のアルバム『Las Mujeres Ya No Lloran』はグラミーの主要部門でも評価された。ここ数年の彼女は、単にヒット曲を出しているだけでなく、「もう一度キャリアのピークを更新している」段階にある。『DAI DAI』はその勢いの中で放たれた一曲であり、彼女がまだ新しい相棒を探し続けていることの証でもある。

バーナ・ボーイと、アフロビーツのグローバル化

バーナ・ボーイの物語は、そのままアフロビーツのグローバル化の物語でもある。彼が「アフロフュージョン」を名乗り始めた頃、アフリカ大陸以外でアフロビーツを日常的に聴く層はまだ限られていた。それが2020年代に入って、ウィズキッド、テムズ、レマ、アヤ・スターらとともに、アフリカ発の音楽が北米・欧州のメインストリームに常駐するようになった。レマの『Calm Down』がグローバルヒットになったのは、その象徴的な出来事だ。

バーナ・ボーイ自身は、2020年発表の『Twice as Tall』で第63回グラミー賞(2021年開催)のベスト・グローバル・ミュージック・アルバムを獲得している(当時はベスト・ワールド・ミュージック・アルバム名義)。以降、彼は欧米のアーティストとの共作を数多く重ねてきた。エド・シーラン、J・バルヴィン、ジャスティン・ビーバー、シアなど、コラボ相手のジャンルは驚くほど幅広い。シャキーラとの『DAI DAI』も、その延長線上の「越境実験」の一つとして位置づけられる。

彼の強みは、コラボしても自分のリズム感を捨てないことだ。他ジャンルのアーティストと組むと、どうしても相手の土俵に引き寄せられがちだが、バーナ・ボーイの参加した曲はたいてい「バーナ・ボーイの曲」の空気になる。低く沈むトーン、余白の使い方、詰め込みすぎない歌唱。これらは彼の署名のようなもので、シャキーラのボーカルと並んでも埋もれない。この対等さが、コラボの成功にとって決定的だ。

2020年代のグローバルポップという地図

少し視点を引いて、この曲が生まれた時代の音楽地図を眺めてみる。2020年代のグローバルヒットチャートで存在感を増しているのは、英語一辺倒ではないポップスだ。バッド・バニーが英語アルバムを出さないままSpotifyの年間最多再生アーティストになり、Feidやカロルなどのラテン勢が世界規模のツアーを回し、韓国のK-POPが北米フェスのヘッドラインを飾り、そこにアフロビーツが加わった。市場は明らかに多極化している。

この変化を後押ししているのは、当然ストリーミングだ。SpotifyやApple Music、YouTubeのアルゴリズムは国境をあまり気にしない。ユーザーの好みに合えば、言語が違ってもプレイリストに差し込む。TikTokも同じで、リズムやフックがハマれば、意味がわからなくても曲は広がる。結果として、英語圏の外で作られた曲が、英語圏の中で消費されるようになった。

『DAI DAI』のようなラテン×アフロビーツの共作は、この地図の上でとくに強いポジションを取れる。ラテンアメリカでもアフリカでも、双方のファンダムを取り込める。北米では両方が「今っぽい音」として認識されている。ヨーロッパのクラブでも回る。日本のように英語も他言語も同じ「外国語」として距離感が近いマーケットでは、こうした越境曲は言語のハンデがそもそも小さい。TOKIO HOT 100で健闘しているのも、この構造的な追い風があるからだと思う。

チャートでの動きと、ヒットの余韻の作り方

個別のチャート順位や販売数についてはここでは踏み込まないが、この曲の広がり方には特徴的な傾向がある。爆発的な初動というより、じわじわ滞在するタイプだ。これはアフロビーツ由来の曲に共通する動きで、短期のバイラルより中長期のヘビーローテーションで生きる。TikTokで一晩爆発するダンスヒットとは、ヒット曲線の形が違う。

この滞在型のヒットは、ラジオやプレイリスト、フェスやDJセットなど、複数の接点でじわじわ再生数を積み上げていく。夏場のリリースやフェスシーズンに乗ると、翌シーズンまで残ることもある。過去のシャキーラ×他ジャンル共作(例えば『Hips Don’t Lie』)も、長く聴かれ続けたタイプの曲だ。『DAI DAI』が同じ道筋を辿るかは今後を待つしかないが、少なくとも「一発屋」的な作りではない。

そして日本のリスナーにとっては、こうした越境ヒットが入ってくることの意味も大きい。J-POPやK-POP、英語圏ポップという既存の三角形の外側で、ラテンとアフリカの現在形が耳に入る機会は貴重だ。TOKIO HOT 100のようなチャートで自然に流れることが、次の10年の音楽の聴き方を静かに変えていく。

関連作品と、この曲から広げる聴き方

『DAI DAI』を入り口にすると、その先に広がる音楽地図はかなり豊かだ。シャキーラの近作『Las Mujeres Ya No Lloran』は、レゲトン、バチャータ、ラテンポップ、ロック、EDMを横断する意欲作で、彼女が今どんな音を作ろうとしているのかが一望できる。バーナ・ボーイ側からたどるなら、『African Giant』や『Love, Damini』が入門にちょうどいい。アフロフュージョンという言葉の実像がつかめる。

そこからさらに広げるなら、レマ、テムズ、ウィズキッドといったナイジェリア勢、そしてラテン側ではバッド・バニー、カロルG、ラウ・アレハンドロあたりに触れると、2020年代のグローバルポップの厚みが体感できる。日本ではまだ「洋楽」というひとくくりになりがちな領域だが、実際にはラテンとアフリカと英語圏で、それぞれ別のシーンが走っている。その交差点に『DAI DAI』が立っている、というのがこの記事で伝えたかったことだ。

入門動線

次に聴くなら、シャキーラのアルバム『Las Mujeres Ya No Lloran』を通しで。彼女がラテン以外の要素をどう自分の音に取り込んでいるかがよくわかる。バーナ・ボーイ側から入るなら『Love, Damini』が最良の入口で、アフロフュージョンという言葉の中身を1枚で体験できる。この2枚を並べて聴くと、『DAI DAI』がなぜ成立したのかが、感覚として腑に落ちるはずだ。

個人的には、こういう越境コラボが増えてきた今の状況を、素直に面白いと思ってる。10年前だったら、シャキーラとバーナ・ボーイが同じトラックに乗るという発想自体、あまりリアリティがなかった。それが今は自然に成立して、日本のチャートにまで届いてくる。音楽の流通の景色が、この短い期間で本当に変わった。『DAI DAI』はその変化を、身体で感じさせてくれる一曲だ。

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