King GnuのSLUMBERLAND🛒楽天を、いま2020年代半ばの位置から改めて聴き直すと、当時の「攻めたリード曲」という説明では足りない何かが見えてくる。「白日」以降の景色を知ってから戻ると、この曲は最初の一撃というより、あとで意味が確定する序章として鳴っていた。
ここで一つ、後追いで言えることを置いておきたい。SLUMBERLANDは「メジャー1曲目」ではなく、常田大希という人の”公と私”を分けるための境界線として今こそ機能している。
この曲の要点
- 「Slumberland」は2018年12月14日に先行配信、2019年1月16日リリースのメジャーデビュー2ndアルバム『Sympa』のリード曲。作詞・作曲は常田大希。
- MVは映像ディレクターOSRIN(PERIMETRON)が手がけ、拡声器を持つ常田、パペットを従える井口理という異物感の強い画で構築されている。
- 『Sympa』はオリコン週間アルバムランキングで最高4位を記録。この直後にドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』主題歌「白日」で大ブレイクへ繋がる。
- のちにmillennium paradeバージョンも存在し、常田自身が曲の解釈を更新し続けている数少ないKing Gnu曲でもある。
「メジャーデビュー曲」ではなく「線引き」だった
SLUMBERLANDは、King Gnuがソニー傘下のAriola Japanから世に出るときの1曲目だ。ただし、当時これを「これから売れていくバンドの名刺」として聴いた人は、たぶん少数派だったと思う。むしろ拡声器を持って歌う常田、パペットを操る井口という映像の異物感に、「これで大丈夫なのか、このバンド」と半信半疑で見ていた人のほうが多かったはずだ。実際、自分もそうだった。
ところが「白日」以降の景色を知ってから戻ると、まったく違う読みが立ち上がる。この曲は、これから「白日」で国民的な場所へ行くバンドが、行く前に自分たちの過激さを封じ込めて記録しておいた。そういう線引きの装置だった気がする。SLUMBERLANDより後の日常が、あまりにも公共的になりすぎるのを、常田はどこかで予感していたのではないか。
だからこそ、リード曲でありながら、シングルカットの主戦場には出ていない。テレビの前で歌う曲ではなく、アルバムの入り口で待ち構える曲として置かれた。この配置は、いま振り返ると異様に戦略的だ。
Sympaという盤の”入口”としての設計
『Sympa』というアルバム名は、フランス語で「感じのいい」を含意しつつ、日本語で言えば共鳴者・支持者。つまり、メジャー1枚目のタイトルに「わかってくれる人」と付けている時点で、このバンドは最初から全員に向けて作っていない。SLUMBERLANDはそのアルバムの、事実上のオープニングトラックだ(1曲目「Sympa Ⅰ」はごく短い序奏で、実質的にはSlumberlandが幕を開ける)。
イントロのシンセの入り方を聴いてほしい。粒の粗いパッドが遠くで鳴っていて、そこにベースがぬっと立ち上がる。この、ステージ袖から歩いて出てくるような入り方は、「白日」の切なくもキャッチーな冒頭とはまるで違う設計思想だ。SLUMBERLANDは、扉を開ける曲であって、扉の中で立ち止まって歌う曲ではない。
だから、この曲を単曲で聴いてピンと来なかった人がいても、それは当然だと思う。Sympa全体という空間の中で、はじめて呼吸の意味が出る曲として作られている。
常田大希の”公と私”の境界線として
いま2020年代半ばから振り返ると、常田大希というアーティストのなかにはKing Gnu、millennium parade、PERIMETRON、そしてソロプロデュース仕事が同居している。「白日」「一途」「SPECIALZ」あたりで彼を知った人には想像しづらいかもしれないが、SLUMBERLANDが出た時点では、この分業体制はまだ言語化されていなかった。
SLUMBERLANDの何が興味深いって、この曲がすでに”millennium paradeでやることになる音”を、King Gnuの中で先取りしていることだ。実際、のちにmillennium paradeバージョンも存在するように、常田自身がこの曲を「両方の名義でやり直せる曲」として位置づけている節がある。
つまりSLUMBERLANDは、常田がまだ「公と私」を分けていなかった時期の、両者が同じ場所に立っている貴重な瞬間だ。ここから先、彼はKing Gnuで大衆に届き、millennium paradeで実験を続け、椎名林檎らとの共作で越境していく。その分岐の前夜が、この曲に閉じ込められている。そう思って聴くと、拡声器で歌うMVの意味も違って見える。あれは、代弁者ではなく拡声器を持った個人、の記録だ。
サウンドの読み ロックバンドの皮を被ったコレクティブの音
SLUMBERLANDのサウンドは、いわゆる4人組ロックバンドの音として聴くと違和感が残る。新井和輝のベースはジャズ/ヒップホップ的な譜割で、勢喜遊のドラムはビートメイカー的な粒立ちで打ち込みのように鳴らす。井口理のファルセットと常田のシャウトが交錯する部分は、コーラスワークというよりトラックの中の2声として設計されている。
ここが面白い。バンドの生演奏なのに、聴こえ方はトラックメイカーが組んだビートに近い。あとから振り返ると、これは常田がmillennium paradeで本格化させる方法論の萌芽だった。「バンドかトラックか」ではなく、「バンドという編成でトラックを鳴らす」。SLUMBERLANDは、その考え方がまだ生々しく試作されている段階の記録で、だから今聴くと荒さが残っている。ただ、その荒さが良い。
後年の「一途」や「SPECIALZ」のような、ミックスまで完全に磨き上げられた楽曲と並べると、SLUMBERLANDは意図的に角を落としきっていない。これは技術の問題ではなく、「メジャー1枚目のリード曲でここまで削らないでおく」という判断だったはずだ。人当たりの良い音にすることは、この時点でもいくらでもできた。あえてしなかった。
聴きどころ3点
- イントロの”入場感”:シンセパッドとベースが、扉を開けるように前に出てくる数秒。Sympaというアルバム全体の入り口として設計されている。
- 井口理のファルセットと常田のシャウトの往復:後年のKing Gnu曲では役割分担が明確になるが、ここではまだ2人が同じレイヤーでぶつかっている。ぶつかり方に生々しさがある。
- リズム隊の”打ち込み的”ドライブ:新井のベースラインと勢喜のドラムが、バンドの演奏なのにトラックのように聴こえる瞬間。millennium parade以降の常田サウンドの原型がここにある。
OSRINが担ったMVの異物感 PERIMETRONという共犯
SLUMBERLANDを語るとき、映像を担ったOSRIN(PERIMETRON)の存在は外せない。拡声器を持つ常田、パペットを従えて狂気を放つ井口、そのすぐ横で堅実に演奏を刻む新井と勢喜。このコントラストの強い画は、楽曲の解釈をだいぶ規定している。曲だけを聴いていた人と、MVを見てから曲に戻った人では、SLUMBERLANDの温度感はたぶん違う。
面白いのは、OSRINが率いるPERIMETRONが、その後もKing Gnuとmillennium paradeの映像面をずっと伴走していく点だ。SLUMBERLANDのMVは、この関係が本格的に走り出す最初期の記録でもある。「白日」の淡い光のMVも、「一途」の情熱的な映像も、SPECIALZの世界観も、系譜としては全部このPERIMETRONの手仕事の延長線上にある。
だから、SLUMBERLANDのMVを今見返すと、映像的な「若さ」がある。まだ手数を絞りきっていない、盛り込みの多い画。ただ、その盛り込みが後の洗練の元素になっている。ここも”あとから意味が確定する”要素のひとつだ。
「白日」の前と後で意味が変わった曲
SLUMBERLANDが今こう読めるのは、間違いなく「白日」があったからだ。2019年2月にドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』主題歌として発表された「白日」は、King Gnuを一気に紅白のステージまで運んだ。あの1曲がなければ、SLUMBERLANDは”よくできた尖った曲”として、Sympaのリード曲以上の意味を持たなかったかもしれない。
だが「白日」以降にSympaに戻ってきたリスナーは、SLUMBERLANDを聴いて、「あ、このバンドは最初からこれをやりたかったのか」と気づく仕組みになっている。「白日」で入って、「一途」で確認して、遡ってSLUMBERLANDに辿り着く。この動線が、結果的にKing Gnuというバンドの奥行きを担保している。
2019年1月時点では、この曲は”入り口”だった。でも2020年代の視点からは、この曲は”奥”にある。同じ曲が、時間の経過で位置を変える。そういうことがKing Gnuの曲には稀にあって、SLUMBERLANDはその代表例だと思う。
朝に効く曲ではない、夜の後半に効く曲
この曲、朝の通勤時に流して気持ちよくスイッチが入る類の曲ではない気がする。むしろ、夜の23時過ぎ、その日一日の摩擦がまだ体に残っているタイミングで、イヤホンで聴くほうが輪郭が立つ。拡声器のイメージ、パペットの群れ、少し陰のあるベースライン。このあたりが全部、日中の光より夜の照明の下で本領を出すようにできている。
あと個人的な感覚だが、車の中でも化けない曲だと思っている。ステレオ環境で”整った音”として鳴らすより、ヘッドホンで少しラフに、ミックスの粒を耳の中で組み立てるように聴くほうが、この曲の設計と噛み合う。ライブでの音圧を思い出させる聴き方、と言い換えてもいい。ファンで、なんとなく再生順の後ろに追いやっていた人は、シチュエーションを夜側に振ってみるといい発見があるかもしれない。
キャリアの中での位置 “通過点”ではなかった
King Gnuを語るとき、Sympa期は「白日」ブレイクの前史として簡潔に触れられがちだ。ただ、SLUMBERLANDに関しては、通過点として扱うと大事なものを取り落とす。この曲は、King Gnuというバンドが「大衆に届く音」と「実験を残す音」を、ひとつの楽曲の中に同居させられた最後の瞬間かもしれない。
「白日」以降、King Gnuとしての楽曲はどんどん役割が明確になっていく。ドラマ主題歌、アニメ主題歌、CM曲。それぞれに求められる機能を高水準で満たしていく。同時に、実験的な部分はmillennium paradeへ移し替えられていく。この分業は素晴らしいのだが、SLUMBERLANDのように「両方が同じ楽曲の中で殴り合っている」瞬間は、もうKing Gnuでは滅多に見られない。
その意味でこの曲は、キャリア年表の最初のほうに置かれる印ではなく、キャリア全体を照らし返す小さな光源として、今も機能している。
まだ解釈が分かれるところ リード曲の”意味”
ここは書き手として断定しないでおきたい。SLUMBERLANDを「メジャー1枚目のリード曲としては攻めすぎ」と読むのか、「メジャー1枚目だからこそこれを置いた」と読むのか。この二択は、たぶんファンの間でも意見が割れる。
自分はどちらかというと後者の読みに寄っているが、前者の「もう少しキャッチーな曲でスタートしていたら」という見方も、後年の売れ方を考えると説得力がある。「Prayer X」(アニメ『BANANA FISH』ED)のような曲をリード扱いにしていた世界線もあり得た。そうしなかった選択が、いまのKing Gnuを作った。ここまでは言えるが、それが正解だったかどうかは、まだ言い切らない。
ライブでの育ち方 スタジオ版と少しずれていく曲
SLUMBERLANDは、ライブで演奏されるたびに、少しずつ形が変わってきた曲でもある。バンドとしての体力が上がり、会場が大きくなるにつれ、この曲の”暴れ方”は変化していった。2019年頭のツアーで聴いたときと、東京ドーム規模の会場で聴くときとでは、同じ曲でも空間の埋め方がまったく違う。
これは、SLUMBERLANDがもともと”設計に余白のある曲”として書かれていることの証拠だと思う。スタジオ版で完成させきらず、ライブで拡張する余地を残して置く。常田がその後の楽曲でもたびたび使う手つきの、初期の実例がここにある。だから、Sympa音源のSLUMBERLANDと、ライブ映像や配信で見つかるSLUMBERLANDは、比べて聴いても面白い。
加えて、常田がmillennium paradeでSLUMBERLANDを再解釈したバージョンが存在することも、この曲の”開かれ方”を示している。同じ曲を、別名義でもう一度組み直せる。それだけの構造的な余地が、この曲には最初から仕込まれていた。
入門動線
SLUMBERLANDから広げるなら、まずは同じ『Sympa』収録の「Flash!!!」へ。SLUMBERLANDの流れをそのまま加速させたような楽曲で、Sympa期のKing Gnuの温度が続けて掴める。もう一枚遡るなら、インディー時代の1stアルバム『Tokyo Rendez-Vous』。SLUMBERLANDがなぜあの形でメジャーの入り口に置かれたのか、原点を辿ると腑に落ちるはずだ。そして横に広げるなら、常田大希のもうひとつの顔・millennium paradeへ。SLUMBERLANDに埋め込まれていた実験のベクトルが、そこで別名義として独立していく過程が見える。
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まとめ 序章の意味は、あとから確定する
音楽の面白いところは、リリース時点で確定した意味が、時間の経過で書き換わることだと思ってます。SLUMBERLANDはまさにその一例で、2019年1月には「メジャーデビューアルバムのリード曲」というラベルだったものが、いまは「King Gnuと常田大希の分岐前夜」というラベルに変わっている。
この書き換えは、リスナー側が勝手にやったのではなく、常田自身がその後のキャリアで書き換えていったものだ。だから、この曲を今聴き直すことは、そのままKing Gnuというバンドの現在地を確認することでもある。「白日」で知って、その先の一途やSPECIALZまで来た人ほど、Sympaの1曲目に戻ってみてほしい。序章の意味は、あとから確定する。
まずこの作品から聴く
- Sympa — SLUMBERLAND収録の原典
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