LE SSERAFIM『iffy iffy』を今読み直す 自己受容へ舵を切ったB面の意味

淡い光がゆらぐ抽象的な水面のイメージ。ミラーボールのような反射が静かに散っている 楽曲

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LE SSERAFIMのiffy iffy🛒楽天、リリース当時は「アルバムの中の良曲」くらいで通り過ぎた人も多かったはずだ。私もそうだった。ところが2026年の後半に入って、この曲がプレイリストに戻ってくる回数がやたら増えた。理由を考えて、はっと気づく。強がりの「Fearless」から、揺れを抱えたまま進む「fearless」へ。iffy iffyは、その言い換えが起きた小さな踊り場だ。

この記事は最新曲の紹介ではない。PUREFLOW pt.1🛒楽天が出て半年以上経った今の位置から、あのB面5曲目を振り返って「今ならこう読める」を残しておく後追いのメモに近い。当時は聴き逃しかけた微差が、その後の曲と並べたときに急にくっきり見えてくる。そういう曲は、キャリアの折れ目に置かれていることが多い。

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この曲の要点

  • 2026年5月22日リリースのLE SSERAFIM 2ndスタジオアルバム『PUREFLOW pt.1』の5曲目に収録された楽曲。曲尺は2分9秒。
  • アルバムのタイトル曲は「BOOMPALA」、先行シングルとして4月24日に「CELEBRATION」が公開された中で、iffy iffyはシングルカットではないB面トラック。
  • 『PUREFLOW』は”powerful”のアナグラムで、メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』の一節「For I am fearless, and therefore powerful」からテーマ着想を得ている。
  • レーベルはSource/YG Plus/Geffen、プロデューサーには13、Pär Almqvist、Evan Blair、Dan Farber、”Hitman” Bang、Softest Hard、Tropikillazらがクレジットされている。
  • タイトル曲ではなくアルバム内曲でありながら、海外レビューでは「リードシングルとして機能してもおかしくないほど良い」との評価も出たダンスカット。

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「iffy」を自分の名前にする、という選択

結論から書く。iffy iffyの核は、「不確か」をネガティブから引き剥がして、自分の呼び名にしてしまう身振りにある。

英語の”iffy”はもともと「怪しい」「決めかねている」といった含みの単語だ。ふつうポップスなら避ける語感で、少なくとも自分を指して重ねる言葉ではない。それを2回重ねてタイトルにする時点で、この曲は「揺らぎを消す」方向を放棄している。海外の学生メディアが「So I choose iffy, iffy, that’s me(だからiffyを選ぶ、それが私)」というフレーズを引きながら、自己受容と”iffy”を抱きしめる姿勢を軸に読んでいるのは、この曲を語るうえで一番わかりやすい入口だ。

面白いのは、デビュー時の彼女たちが真逆の姿勢で登場したことだ。「FEARLESS(自己宣言)→ANTIFRAGILE(ストレスで強くなる系の借用)→UNFORGIVEN(他者に赦しを求めないアウトロー)→EASY(難しいことを軽く見せる技術)→CRAZY(無鉄砲な自己確信)→HOT(迷わず飛び込む)」というのが、これまでのコンセプトの通し線だ。全部、「揺らがない」側の言葉である。iffy iffyはそこに、揺らぐことを許可する側の語彙をひとつ差し込んだ。この差し込みが、あとから効いてくる。

そう。デビュー時の「Fearless」は、恐れがない、という宣言だった。iffy iffyの「fearless」は、恐れを持ったまま前に出る、に微妙に書き換わっている。同じ単語でも、意味の重心が違う。この0.5歩の移動を、アルバム全体でやろうとしたのがPUREFLOW pt.1だと私は読んでいる。

2分9秒という尺の意図

まず尺の話をしたい。2分9秒。TikTok以降のK-POPで短尺化は珍しくないが、アルバム全体でも27分01秒/11曲という編成の中に置かれると、この短さが「使い方」の話に見えてくる。

iffy iffyはイントロで押しつけがましく盛らない。シンセの粒が細かく、ローが軽い。ハンドクレップ的な処理と乾いたスネアで、体重を後ろに引いた感じのグルーヴを作る。ここが好き嫌いの分かれ目で、リード級の派手さを期待すると肩透かしを食う。逆に、リビングで小さく鳴らしていても最後まで聴き通せる密度で作られている。短い。そこがいい。

Aメロからサビへの入り方も、山を作らずスライドする。転調で驚かせるタイプではなく、ヴォーカルの重ね方と間の取り方でジャンプを表現している。海外レビューで「滑らかで重ねられたヴォーカルワークが深みを与え、随所に散らされた自信あるアドリブが、プロダクションと噛み合っている」と評されたのは、まさにこの設計を指しているように思う。派手なフックで殴らずに、質感で持っていく。この作り方は、リード曲「CELEBRATION」や「BOOMPALA」とは対照的だ。

私が気になったのは、サビの母音処理だ。「iffy iffy」のフレーズは、i音の連続で口の中が狭くなる。ここに広い母音のアドリブが被さって、口の開閉のリズムがそのまま曲のグルーヴになっている。ダンスカットなのにダンスビートに寄り切らないのは、この母音の設計に理由がある気がしている。

アルバム全体の中での「5曲目」という位置

iffy iffyが5曲目に置かれたことも意味を持つ。曲順を追ってみる。1. Pureflow(インタールード的な語り)、2. BOOMPALA(タイトル曲)、3. CELEBRATION(先行シングル)、4. Creatures(青さのあるダンス曲)、5. iffy iffy。前半のクライマックスを2曲目・3曲目で使い切った直後の、いったん体温を下げるための曲として置かれている。

これは編集としては王道の配置なのだけれど、iffy iffyの場合、単なる「休憩」に落ちない。CELEBRATIONの「ハイエネルギーなテクノサウンドと重めのハウスビート、クリーンなヴォーカル」で高い温度に一度連れて行かれたあと、iffy iffyでいったん「揺れていい」に降りてくる。この温度の落とし方が、アルバムのコンセプトを裏で支えている。

ちなみに、Apple Musicの紹介文が言うように『PUREFLOW』は”powerful”のアナグラムで、フランケンシュタインの「恐れなきがゆえに、強い」を出発点にしている。この文言、単体で読むと勇ましいのだけれど、pt.1の実像はもっと湿度がある。恐れなき、ではなく、恐れを認めた上での強さ、に近い。iffy iffyはその「認めた上で」の側にはっきり立っている曲だ。だから、順番的にも思想的にも真ん中に置かれた。

今のLE SSERAFIMの位置から振り返る、当時見えなかったもの

ここが本題。当時iffy iffyを聴いて、私は正直「まあ好きだけど、B面だな」と流していた。ところが半年以上経ってプレイリストに残っているのはこの曲で、CELEBRATIONではない。理由を後追いで考えると、キャリアの流れが答えを出している。

先に引いた通し線をもう一度見る。FEARLESS→ANTIFRAGILE→UNFORGIVEN→EASY→CRAZY→HOT。この並びは、外に対して「私はこうだ」と宣言する角度で貫かれていた。強い言葉、強い動詞。ところがPUREFLOWで、初めてベクトルが内側を向く。海外の批評サイトが「”Fearless 2.0″のエラ(era)」と呼んだのは正しくて、これまでの「Fearless」を単に強化したのではなく、意味を書き換えた。恐れを打ち消すのではなく、恐れと並走する。

iffy iffyは、その書き換えを一番小さな単位でやっている。タイトル曲BOOMPALAが外向きの派手さで書き換えを宣言するのに対して、iffy iffyは自室のトーンで書き換えを実行している。この二枚重ねが効いていて、片方だけだと成立しにくい。だから、リード曲の話題が落ち着いたあと、iffy iffyが長く残る。

もうひとつ、当時は気づきにくかった補助線を引いておく。前作『EASY』の頃、彼女たちは自分の内面と向き合うフェーズに入っていた、と複数のレビューが振り返っている。「PUREFLOW pt.1は、『EASY』の時期に自分たちの精神と対峙したあと、感情的に立て直しての完全な自己肯定期に入った」という総括はわかりやすい。EASYで下がり、CRAZY・HOTで一度勢いを取り戻し、PUREFLOWでそれを内向きに再定義する。iffy iffyはこの再定義の内側を、ダンスカットの体裁で見せた曲だ。

「揺らぎ」を歌にする難しさ、をこの曲はどう回避したか

ちょっと横に逸れる話をしたい。ポップスで「揺らぎ」「不確かさ」をテーマにするのは、実はかなり難しい。歌詞側もサウンド側も、放っておくと湿ってしまう。バラードに寄って重くなるか、あるいはメッセージ性を強く出しすぎて説教くさくなる。この二つの罠を、iffy iffyはダンスカットの体裁で綺麗に回避している。

回避の鍵は、テンポの選択にあると聴いている。BPMを速すぎず遅すぎずの中域に置き、ビートを重くしない。ダンスに寄せながらも、体重は乗せない。この温度設定が、「揺らいでいい」というメッセージを重さから救っている。もしこれを80BPM台のR&Bバラードで作っていたら、たぶん自己肯定というより自己憐憫寄りの曲に聞こえていた。逆に130BPMのハウスに寄せていたら、CELEBRATIONと機能がかぶって、「もう一つの派手な曲」になっていた。中庸の温度に落とし込んだからこそ、揺らぎが自然に聴こえる。

歌詞側の作り方もこれに呼応している。歌詞そのものは引用しないが、テーマ的には「不確かさを否定しない」というトーンで一貫していて、拳を握って何かを乗り越える系の語彙を使っていない。ここが上のBPM選択と同じベクトルで、湿らせない・押し付けない、を通している。この一貫性は編集の勝利で、コンセプトが末端まで届いている証拠だ。

プロダクションの手触り──派手なフックを避ける勇気

音の作り方の話に戻る。iffy iffyのプロダクションは、K-POPのリードシングル文法から意図的に半歩離れている。

アルバム全体のクレジットには、13、Pär Almqvist、Evan Blair、Dan Farber、”Hitman” Bang、Softest Hard、Tropikillazといった名前が並ぶ。HYBE周りの中心的な作家陣と、外部の実力派プロデューサーが混ざるいつもの布陣だ。iffy iffyがどの手による曲かの詳細は公式情報を参照するとして、聴感上わかるのは、「フックのラインをあえて刺さない」という判断が働いていること。サビでスクリーム的な音圧を上げず、シンセの帯域は中域に集めて、ヴォーカルの表情に空間を空けている。

この設計が意味を持つのは、他の収録曲と並べた時だ。海外リスナーが「PUREFLOW Pt.1はLE SSERAFIMのこれまでで最も予測不能で個性主導のプロジェクトに感じる。全てのアイデアが完璧に実行されているとは思わないが、このアルバムが際立つのは、異なるサウンドを恐れず試している点だ」と書いたのは象徴的で、iffy iffyの「刺さないサビ」はその実験のひとつと読める。ヒットの安全策から一度離れて、質感で残る道を選んだ。この選択が、リード曲より寿命の長い曲を作った、というのが私の暫定の結論だ。

聴きどころ3点

  • 母音の設計:i音で狭くした口を、アドリブの広い母音で開放する。ダンスカットなのにダンスに寄り切らない粘りは、この母音のオン/オフから来ている。
  • サビで音圧を上げない判断:K-POPの定石を半歩外し、ヴォーカルの表情に空間を残した設計。ヘッドホンで聴くと中域の抜け方が別物に聞こえる。
  • 2分9秒という尺:短尺ゆえに繰り返し聴くと構造の細部が耳に馴染む。プレイリストで長く残る曲の典型的な設計。

この曲が「効く」場面──夜、静かな移動、迷いのあるとき

ファンの反応を眺めていて感じるのは、iffy iffyが「昼のダンスキラー」としてではなく、夜寄りの曲として聴かれている、ということだ。BOOMPALAやCELEBRATIONが人前・パーティ・ステージの曲だとすれば、iffy iffyは終電のシートや、部屋の照明を一段落とした時間に効いてくる曲として設計されている気がする。

これは短さとも噛み合っていて、2分9秒は迷いの真ん中で一度深呼吸するのにちょうどいい長さでもある。何かを決めきれずに、そのまま眠る前に一回だけ流す、みたいな聴き方。あるいは、朝の準備の途中で「今日は迷ってていい」と自分に許可を出すための一曲。抽象評価じゃなくて、生活の中の「置き場所」がある曲だ。断定はしない。ただ、この曲を聴き続けている人の多くは、たぶん「揺れていい」を確認したい瞬間にこの曲に戻っている。そういう仕掛けの作品として置かれている、と読んでいる。

チャート・話題の広がり方について

チャートの話は最小限に留める。iffy iffyはシングルカットではなく、アルバム『PUREFLOW pt.1』のB面トラックとしてリリースされた。先行シングル「CELEBRATION」(2026年4月24日)とタイトル曲「BOOMPALA」がプロモーションの中心で、iffy iffyはその陰に置かれた曲だ。

ただし、B面の生き残り方は近年変わっている。ストリーミング時代のアルバム曲は、リリース直後のピークではなく、数ヶ月〜半年かけて評価が固まる。海外レビューの中に「iffy iffyは、リードシングルとして機能してもおかしくないほど良い、もうひとつのシンセを重ねたダンスカット」という記述があるように、リスナー投票的な評価では上位に食い込んでいる。日本での具体的なチャート順位は各種公式データを参照してほしいが、少なくともファンダムの中では「あの5曲目」の存在感が半年経っても落ちていない、というのは確度の高い観察だ。

ここで生まれる論点をひとつ残しておく。リード曲より寿命の長いB面をどう扱うか、はK-POPが構造的に抱える問題だ。プロモの都合上、シングルカットには派手さと即効性が要る。一方でリスナーの記憶に残るのは、質感で作られた曲だったりする。iffy iffyはその両者のズレを、たぶん一番きれいに示した最近の例のひとつだ。この曲を巡って「B面が本命」的な議論が起きるのは、健全なことだと思っている。

入門動線

iffy iffyが気に入ったなら、次に聴く順番として提案したいのはこうだ。まずアルバム冒頭のPureflow🛒楽天(同名インタールード)に戻って、フランケンシュタイン由来のテーマがどう宣言されているかを聴き直す。iffy iffyが「宣言の後の実装」であることが分かる。そのうえで、以前のアルバムEASY🛒楽天の同名タイトル曲に飛ぶ。内面と向き合う時期の彼女たちの語り口と、PUREFLOWでの再定義がどう繋がっているかが、一本の線になって見える。

もう一歩広げるなら、ヒップホップの同曲名クロス、たとえば2022年1月14日リリースのChris Brown「Iffy」(アルバム『Breezy』先行曲、RCA/CBE、プロデュース:OG Parker、Smash David、Blaq Tuxedo)と並べて聴いてみるのも面白い。同じ単語を、R&B/バウンス/トラップの枠で扱った時と、K-POPのシンセポップで扱った時で、「iffy」に持たせる感情がここまで違うのか、とわかる。LE SSERAFIM側の「iffy」は自嘲でも色気でもなく、静かな肯定に振れている。この語のニュアンスをジャンル横断で追いかけると、iffy iffyの位置がさらにくっきりする。

「Fearless」の意味がキャリアの中でどう書き換わってきたか。iffy iffyはその履歴の中でも、一番小さな声で、一番大きな書き換えをやった曲だ。半年後、一年後にもう一度戻ってきたときに、たぶんまた別の読み方が生まれる。そういう強度で置かれている。今、そう感じている。

まずこの作品から聴く

  • PUREFLOW pt.1 — iffy iffy収録の2ndフル
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  • BOOMPALA — 外向きの書き換え宣言
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  • CELEBRATION — 先行シングルの高温側
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  • EASY — 内省期の対比軸として
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