1990年3月11日放送の J-WAVE「TOKIO HOT 100」を振り返る回顧コラムです。当時のチャート上位曲を手がかりに、その週の音楽シーンを読み解きます。
本サイトは非公式のファンサイトです。チャートデータの出典:J-WAVE「TOKIO HOT 100」(1990年3月11日放送回)。
この週の音楽シーン
1990年3月11日放送の「TOKIO HOT 100」を振り返ると、時代の空気そのものが音に刻み込まれているのがわかる。1位に輝いたのはジャネット・ジャクソンの「ESCAPADE」。前作「リズム・ネイション1814」からのシングルで、ジャム&ルイスとのタッグによるダンサブルなグルーヴに、開放感あふれるメロディが重なった一曲だ。80年代を通して培われたブラックミュージックのビート感覚と、90年代に向かうポップスの華やかさが交差する瞬間を象徴するナンバーだったと言えるだろう。厳しいメッセージ性を持った前作から一転、逃避行を歌うようなタイトル通りの軽やかさは、湾岸戦争前夜という緊張感を孕みつつも、まだバブルの余韻が残っていた当時の空気とどこか響き合っていたのかもしれない。
TOP10全体を眺めても、この時期ならではの多国籍な広がりが見えてくる。2位のロクセットはスウェーデン出身、4位のミリ・ヴァニリはドイツ発のプロジェクトで、いずれもヨーロッパ勢がアメリカのチャートを賑わせていた時代の証人だ。特にミリ・ヴァニリは後年、口パク騒動でグラミー賞を剥奪されるという音楽史に残る事件を起こすことになるが、この時点ではまだ「ALL OR NOTHING」のようなハイエナジーなポップソングで人気を博していた。ロクセットの「DANGEROUS」も、エッジの効いたロックとポップの融合という意味で、80年代型のアリーナ・ロックが洗練されていく過程を感じさせる。
3位のリチャード・マークスは、実直でメロディアスなアダルト・コンテンポラリーの旗手として、この時期の女性人気も高かったシンガーソングライターだ。5位のポーラ・アブドゥルは振付師からポップスターへと転身した象徴的存在で、ダンスミュージックとMTV文化が密接に結びついていた時代を体現している。6位のフィル・コリンズはジェネシス以来のキャリアを持つベテランとして、ソロでも安定した存在感を放ち続けていた。
一方で7位のダイアン・リーヴスや9位のアース・ウィンド・アンド・ファイアーの存在は、単なる流行の消費ではなく、ジャズやソウルのルーツを大切にするリスナー層がこの番組を支えていたことを物語る。8位のリサ・スタンスフィールドはイギリスのソウル/ダンスシーンから登場した新鋭で、10位のバーシアはポーランド出身、ソフトなジャズポップで独自の地位を築いていた歌手だ。こうして見渡すと、アメリカのメインストリームだけでなく、ヨーロッパのポップ、そしてジャズ/ソウルの系譜までもが一つのチャートに同居していたことがわかる。
1990年という年は、80年代の様式美が完成形に達すると同時に、次の10年へ向けた新しい潮流が静かに芽吹き始めていた時期でもある。ジャネット・ジャクソンの「ESCAPADE」が1位に立ったこの週のTOP10は、まさにその過渡期の豊かさと多様性を凝縮したような顔ぶれだった。当時ラジオの前でこの曲を聴いていたリスナーにとって、それは単なるヒットチャートの一コマではなく、時代の転換点を耳で確かめる貴重な体験だったのではないだろうか。
1990年3月11日付 TOP10(出典:J-WAVE TOKIO HOT 100)
- 1位 ESCAPADE — JANET JACKSON ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 2位 DANGEROUS — ROXETTE ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 3位 TOO LATE TO SAY GOODBYE — RICHARD MARX ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 4位 ALL OR NOTHING — MILLI VANILLI ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 5位 OPPOSITES ATTRACT — PAULA ABDUL ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 6位 I WISH IT WOULD RAIN DOWN — RHIL COLLINS ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 7位 NEVER TOO FAR — DIANNE REEVES ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 8位 ALL AROUND THE WORLD — LISA STANSFIELD ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 9位 HERITAGE — EARTH WIND AND FIRE ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す
- 10位 BABY YOU’RE MINE — BASIA ▶ YouTube Music / Spotify / 🛒 Amazonで探す / 🛒 楽天で探す


コメント