チャートに新しい風が入ってきた。IVEの日本4枚目のEP、その表題曲だ。2026年5月27日に発売された日本4th EP『LUCID DREAM』のタイトル曲であるLUCID DREAM🛒楽天は、これまでの”揺るぎない自己肯定”のIVE像から一歩引いた、内省と揺らぎの手ざわりを持つ曲になっている。先行配信は5月20日。私は最初に聴いたとき、イントロのシンセパッドの残響でヘッドホンを付け直した。空気の粒子が細かい。そう感じた。
この曲の要点
- IVEの日本4th EP『LUCID DREAM』(2026年5月27日/Starship Entertainment)の表題曲で、5月20日に先行配信された。
- 作詞はシンガーソングライターのeill、作曲はJonah Renna・BAVA・Paris Alexa・samUIL(Decade+)・MLITE、編曲はJonah Renna。
- EPの期間生産限定盤ジャケットはホラー漫画家・伊藤潤二による描き下ろしで、収録曲「JIGSAW」がテレ東系ドラマ24『ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-』の主題歌。
- リミックスは第1弾を☆Taku Takahashi(m-flo)、第2弾をShin Sakiuraが担当し、2週連続で配信された。
まず、この曲の輪郭を掴む
結論から言えば「LUCID DREAM」は、IVEが日本市場向けに描いた”覚醒夢”のポップスだ。「夢」というモチーフを、現実逃避のための場所ではなく、自分自身と向き合い、感情に正直になるための空間として表現した楽曲——公式が示したこのステートメントが、そのまま曲の設計図になっている。
ここが面白いところで、K-POPの日本オリジナル楽曲は「日本語で歌ってもらってありがとう」的な処理でお茶を濁されがちだった。この曲はそうじゃない。日本語詞の質感が主役を張っている。作詞はeill。日本のシンガーソングライターとして自身の作品でも夢と現実の境界を書き続けてきた書き手で、依頼の筋がまず綺麗だ。
作曲陣も豪華。作曲はJonah Renna、BAVA、Paris Alexa、samUIL(Decade+)、MLITE、編曲はJonah Renna。多国籍のトップライナー/プロデューサーが集まって書いたトラックに、日本語の情景をeillが乗せる。EPには表題曲のほか、App Storeキャンペーンソングの「Fashion」、日本オリジナル曲「JIGSAW」なども収録されていて、”日本活動の第二章”感がはっきり出た布陣になっている。
先行配信の順序も、意識して組まれている。「Fashion」が4月3日、「LUCID DREAM」が5月20日。EP本体は5月27日。3週間ずつずらして体温を上げていく設計だ。
サウンドの読みどころ——シンセパッドの粒とドラムの引き算
結論を先に書くと、この曲の音の主役は「引き算」だ。派手なドロップやEDM的なビルドアップではなく、余白を作って声を際立たせる方向にプロダクションが向いている。Jonah Rennaの編曲が上手い。
イントロのシンセパッドは、リバーブが長めに取られている。ただ、単純に濡らしているだけじゃなくて、高域を軽く削って湿気を抑えている感触がある。夢の空気というより、明け方の窓ぎわの光に近い。ここが「lucid(明晰な)」というタイトルの音的な体現だと思う。曖昧じゃなくて、輪郭のある夢。
Aメロはボーカルを前に出して、ドラムをかなり後ろに引いている。キックが体に来るタイプではなく、リズムはむしろハイハットとパーカッションの粒で作られている。この作り方はTikTokや短尺動画で流れたときに声が抜けるので、いまのK-POPが日本市場で選びやすいセッティングだ。Bメロからサビにかけてはコードがワンステップだけ明るく開くのが分かる。転調というほどではない、ほんの半歩。この”半歩”の設計が、覚醒夢というモチーフとよく合っている。
サビは、ユニゾンとハモの重ね方が上品。IVEはメインボーカルの帯域にもう1〜2声を薄く貼るのが基本設計だが、この曲ではハモの音量がかなり控えめに置かれている。前作までのアグレッシブなユニゾンとは違う、囁きに近い密度。私はここで、IVEというグループの”次の一手”を聴いた気がした。
聴きどころ3点
- イントロ〜Aメロの空間処理:湿度を抑えた長リバーブと、ハイハット主体の軽いビート。ヘッドホンで聴くと粒立ちが違う。
- Bメロ→サビの”半歩の転調感”:明確な転調ではないのに、光の量が変わる。コードの解決の仕方に注目。
- ハモの音量バランス:メインの帯域をあえて空けている。IVE従来の”押し”より”引き”を採用したミックス設計。
eillの日本語詞と、IVEの声の相性
この曲の日本語詞は、eillが担当している。ここは書いておきたい。K-POPグループの日本オリジナル曲は、翻訳臭さや”日本語ラップの拍が合わない”問題が起きがちだが、この曲はそれが少ない。単語の切れ目と拍の頭がきちんと合っている。
テーマは、公式が示している通り”夢に潜って、自分と向き合う”方向。IVEはデビュー以来「LOVE DIVE」「I AM」「Kitsch」など、自己肯定と自己プレゼンテーションの曲で世界を取ってきたグループだ。だから今回のような揺らぎを含んだテーマは、新機軸に近い。歌詞の内容は公式音源で確かめてほしい(引用は避ける)。
ボーカルの割り振りも、いつもと少し違うと感じる部分がある。低音域を担当するメンバーが前面に出る時間が長い。これはテーマ的にも音的にも正しい選択で、覚醒夢の低いつぶやきを表現するには、突き抜けるハイトーンより喉の奥で鳴る中低域のほうが向いている。個人的にはここが一番好き。
伊藤潤二のジャケットと、EP全体の文脈
結論から言うと、このEPは”夢と不穏さ”という一本の縦串で組まれている。「LUCID DREAM」単体では甘い覚醒夢のポップスだが、EP全体を通して聴くと違う顔が見える。
象徴的なのがジャケット。期間生産限定盤は伊藤潤二がメンバーとIVEの公式キャラクター「MINIVE(ミニブ)」を特別に描き下ろしたジャケットで、封入フォトカードも伊藤潤二の描き下ろし仕様になっている。世界的なホラー漫画家がK-POPグループのビジュアルを手がけるのは相当に珍しい。
さらに、EP収録の「JIGSAW」がテレ東系ドラマ24『ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-』の主題歌に決定している。7月3日深夜24時12分スタートで、伊藤潤二の傑作選をオムニバス形式で実写化する作品だ。つまり、ジャケット・ドラマ主題歌・EPコンセプトの3つが、伊藤潤二を軸にして一本の線でつながっている。
「LUCID DREAM」を単曲で聴くのも当然アリ。ただEPを通して聴くと、明晰夢というテーマがなぜ選ばれたか、その意味が立体的に見えてくる。IVEは日本市場に、単発の”かっこいい曲”を落とすフェーズを卒業したのだと思う。
IVEというグループのキャリアで見る位置づけ
ざっくり言うと、この曲はIVEの”表現の幅を広げる”曲だ。ヒットを狙って一気にラインを引くタイプの曲ではなく、次の3年を見据えて設計されている。
2021年12月の「ELEVEN」でデビュー、2022年の「LOVE DIVE」でグローバル級のヒットを取り、2023年には1stアルバム『I’ve IVE』を出した。ここまでは”完成された自分”を歌うグループだった。強くて綺麗で、憧れの対象。少なくとも、そう提示されていた。
近年のIVEはそこから少し舵を切っている。日本4th EPの表題曲としてこの内省的な曲を選んだのは、そのシフトの明確なマイルストーンだ。K-POPのグループが5年目前後に必ず通る”次のアイデンティティ”の選定を、IVEは日本市場でやりに来た。個人的には、ここで揺らぎを描ける器の広さを見せられたことが、このグループの息の長さに直結すると思ってる。
そう。もう”かわいい”や”かっこいい”だけで括れないフェーズに入っている。
リミックス2連発——☆Taku TakahashiとShin Sakiura
この曲のリリース戦略で注目すべきは、リミックスだ。IVEが日本オリジナル楽曲のリミックス音源をリリースするのは、今回が初。2週連続で配信された。
第1弾は☆Taku Takahashi(m-flo)。日本のダンスミュージック文脈で長く現場を張ってきた人選で、K-POPの日本ローカライズにこれ以上ないタイプの起用。第2弾はShin Sakiuraが担当し、フューチャーファンクの要素を取り入れ、グルーブ感あふれるアップテンポビートと軽快なシンセベースとギターで仕上げている。原曲の”引き算”に対して、Shin Sakiura版は思い切って足し算に振っている。これが面白い。
1曲をリミックスで違う顔に着せ替えるやり方は、Spotify・Apple Music時代の王道だ。プレイリスト供給の間口を広げつつ、原曲のリーチも維持できる。IVEがこれを日本オリジナル楽曲でやってきた、というのは、日本市場を本気で耕しに来ている証拠だと思う。片手間の”日本語も歌います”ではない。
個人的なおすすめの聴き順は、原曲→☆Taku版→Shin Sakiura版。同じメロディが3回、違う輪郭で立ち上がる。夢の中で同じ景色を違う光で見ているような聴後感になる。
MVと、ビジュアルの手ざわり
MVについても触れておきたい。MVはストーリー仕立てとなり、光を活用した幻想的なムードで構成されている。夢の中を彷徨って、自分自身の何かを探していく流れ。
ライティングが特徴的で、KーPOPのMVで多用される”顔が完璧に光る”標準ライティングとは違う設計になっている。半分影になる、輪郭が霞む、そういう”顔がはっきり見えない”カットが多い。これは覚醒夢というテーマに対するビジュアル的な回答として、かなり誠実。
衣装も、これまでのIVEのタイトル曲とは違うトーン。詳細は公式MVで見てほしいけれど、”夢の中の自分”というテーマに沿った、質感重視の選び方になっている。
この曲を、どんなときに聴くか
結論を書く。この曲は”派手な週末”より”平日の夜”に向いている。
私は最初、通勤の電車で聴いて、これはこの環境じゃないなと思った。もう一度、家に帰って照明を落として聴き直して、腑に落ちた。この曲の湿度は、生活音を止めた部屋のほうがよく届く。とくにイントロのパッドの尻尾が、電車のノイズだと消えてしまう。
逆に、疲れてやる気の出ない朝には合わない。カフェイン代わりのIVEを聴きたいなら「LOVE DIVE」や「Baddie」のほうがいい。「LUCID DREAM」は、少し感情を整理したい時間、もしくは寝る前の1曲。あるいは、EP全体を通しで聴く”アルバムモード”の入り口として。
プレイリストに入れるなら、K-POPの中でもトラックが引き算で作られた曲——たとえばLE SSERAFIMのバラード寄りの曲や、aespaの内省曲——と並べると流れが綺麗に繋がる。ここは好みの世界だけど、私はそう組んでる。
入門動線
「LUCID DREAM」から広げるなら、まずはEP収録の「JIGSAW」を聴いてほしい。ドラマ『ストレンジ』主題歌として作られた日本オリジナル曲で、こちらはミステリアスな中毒性のあるサビが売り。表題曲の”内省”に対して、”不穏”を担う一曲だ。関連1枚としては、IVEの1stフルアルバム『I’ve IVE』(2023年)を。デビューからここまでの”完成された自分”の到達点で、そこと『LUCID DREAM』を比べると、IVEというグループの現在地が立体的に見える。
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まとめ——覚醒夢のポップスは、ラジオの朝より夜に効く
「LUCID DREAM」は、IVEというグループの語彙を確実に広げた曲だ。ヒットチャートで上位を取ることそれ自体より、この曲が”IVEの次の3年”の入り口になっているという事実のほうが大きい。少なくとも私はそう聴いた。
eillの日本語詞、Jonah Rennaを筆頭とする多国籍プロダクションチーム、伊藤潤二のジャケット、テレ東ドラマ『ストレンジ』とのタイアップ(”JIGSAW”経由)、☆Taku TakahashiとShin Sakiuraのリミックス。ひとつひとつが単発では成立するのに、パズルとして繋げるとひとつの絵になる。この曲は、その絵の中心にある。
チャート上の動きの詳細は日々変わるので、最新の順位や記録は公式チャートで確認してほしい。ただ、この曲を「日本市場向けの一過性の曲」と受け取るのは、たぶんもったいない。夜、部屋の明かりを落として、もう一度聴いてみてほしい一枚。
まずこの作品から聴く
- LUCID DREAM (EP) — 本曲を含む日本4th EP本体
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