鈴木真海子の歩みと聴きどころ|chelmicoからソロ『ms』『からから』へ

夜のスタジオでマイクの前に立つシルエットと、柔らかな逆光が広がる抽象的な音楽イメージ アーティスト

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chelmicoの片割れとして名前を知られてきた鈴木真海子だが、ソロとしての存在感がこの数年で明らかに厚くなった。ラップを軸にしながらも、歌に近いトーンで淡々と語りかけるスタイル。ポカリスエットCMの書き下ろし「からから」で彼女の声を初めて意識した、という人も少なくないはずだ。この記事では、chelmicoでの出発点からソロでの現在地までを、事実を積み重ねながら丁寧に追ってみたい。

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このアーティストの要点

  • 鈴木真海子は東京都出身のラッパー/シンガーで、2014年からRachelとのユニット「chelmico」として活動を開始した。
  • ソロ名義では2017年にEP『Deep green』を発表し、2021年8月に1stアルバム『ms』をワーナーミュージック・ジャパンからリリースした。
  • 2024年1月には大塚製薬「ポカリスエット」CMのために書き下ろしたデジタルシングル「からから」を配信した。
  • STUTS、TOSHIKI HAYASHI(%C)らの作品への客演でも知られ、hip hop・R&B・ネオソウル的な質感を横断する声質が特徴。

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chelmicoから始まった、”普通”を歌える声

鈴木真海子の出発点は、chelmicoでの活動だ。2014年にchelmicoとして活動スタートした後、2017年にEP「Deep green」を鈴木真海子ソロ作品として発表という流れが、彼女のキャリアの土台になっている。相方Rachelとの二人組は、都内のライブハウスやイベントから広がっていったユニットで、いわゆるバトルシーンや”ヒップホップ然”としたラップとは違う空気を最初から持っていた。友達同士のおしゃべりに近い距離感で、しかしトラックの上ではしっかりラップになっている。この感触が、そのまま鈴木真海子個人の魅力にもつながっていく。

chelmicoが広く知られたきっかけの一つに、Apple Watchなど各種CMやタイアップでの楽曲起用がある。ラップユニットでありながらポップスの棚に自然に並ぶ、あの居心地の良さ。同時代の日本の女性MCの中でも、少し独特なポジションだ。硬派なリリシズムでもなく、アイドル的な明るさでもなく、その中間の、日常のテンションを保ったまま音楽になっている感じ。この”普通っぽさ”を音源のクオリティで担保できるのが、彼女たちの強みだった。

個人的な話をすると、chelmicoを初めて意識したのは2018年ごろのラジオだった気がする。曲がかかった瞬間に「これは誰?」と手を止めた記憶がある。歌なのかラップなのか、判定がつかないままするりと入ってきた。同じ感覚を持った人は、たぶん多い。ジャンルの入り口で悩まずに聴ける音楽——というのはシンプルに強い。

2014年にRachelと共にchelmicoとして活動を開始します。都内のイベントを中心に精力的にライブを行い、『SUMMER SONIC 2017』にも出演をしていますという記録もあり、フェスサイズの現場を経験するまでの立ち上がりは早かった。ラップの他にモデルとしての活動もあり、これがchelmicoというユニットのビジュアル面での強度にもつながっている。

ソロ名義の始動——EP『Deep green』から『ms』へ

鈴木真海子のソロキャリアは、2017年6月のEPDeep green🛒楽天から始まる。chelmicoとしての活動と並行する形で、あくまで別の器として立ち上げられたプロジェクトだ。ここでの音像は、ユニット時代のポップな快活さとは少し違う。トラックはよりダウナーで、ヴォーカルの輪郭も柔らかい。ラップというより「呟くように歌う」に近い瞬間が多い。

そこから約4年の助走を経て、2021年8月18日に1stアルバムms🛒楽天がリリースされる。2021年8月18日 9曲、33分 ℗ 2021 cupcake ATMという短めのランタイムに、日常の空気がぎゅっと詰め込まれている。2017年にソロとしてリリースした初EP「Deep green」では、何げない日常を優しく鮮やかに描き出すサウンドが好評を得た。2021年にはアルバム『ms』を発表。温かみのあるリラックスした作風は、多くのリスナーの共感を呼んでいる——という評価は、実際にアルバムを通しで聴いた印象と合っている。

『ms』で個人的に耳が止まったのは、収録曲「金木犀」だった。季節の匂いをそのままトラックにしたような曲で、chelmicoでは絶対に出てこないテクスチャ。彼女の声質は、ミックス上でリードとして張り出させるより、上ものの一つとして風景に溶かした方が魅力が出る。初期作と最新作を並べて聴き直すと、この「風景に混ぜる」方向のミックスが年々深まっているのがよく分かる。

<初回限定盤・DVD> 「Deep Green」収録曲や新曲をバンドアレンジした、鈴木真海子のライブパフォーマンス映像を初作品化という付加要素もあり、パッケージ全体で「ソロとしての鈴木真海子」を提示する意識が明確だった。ワーナーからのフィジカルリリース、しかもLP化まで実現している——2022年にはアナログ盤化も告知されている——という事実は、彼女のソロ作を”chelmicoの副産物”ではなく独立した作品として扱う姿勢を裏付けている。

音楽性の核——ラップと歌のあいだ、日常のグルーヴ

鈴木真海子の音楽の芯にあるのは、「ラップと歌の中間」を行き来する声の使い方だ。譜割りだけを見ればラップの構造なのに、抑揚は歌のそれに近い。逆に、メロディに乗っているように聴こえて、実はリズムが完全にラップの感覚で組まれている、ということも多い。ここが彼女の一番の武器だと思っている。

トラックの選び方も一貫している。生ドラムの質感、ジャジーなコード、控えめなベースライン。ネオソウル、シティポップ、ヒップホップの真ん中あたりに立って、そのどれか一つに寄り切らない。chelmicoのMamikoが日常のグルーヴを伝える1stソロアルバム。親友iriが参加という『ms』の紹介文はよくできていて、”日常のグルーヴ”という言い方が彼女の作風を端的に説明している。

聴きどころ3点

  • ラップとメロディの継ぎ目が滑らかで、どこから歌でどこからラップか判別しにくい語り口。
  • 低体温気味の声質と、湿度の高いネオソウル/ジャジー系トラックの相性。
  • 季節や街の情景を、大袈裟な言葉に頼らず匂いや温度で書く歌詞世界(歌詞そのものは各配信サービスで)。

もう一つ書いておきたいのは、彼女の音楽の”余白”だ。ヴォーカルもトラックも、詰め込みすぎない。休符が明確にあって、そこで空気が入れ替わる。J-POPのメインストリームだと、この余白は嫌われがちだ。イントロを切られる時代に、あえて呼吸を挟む。ライブ映像を見ると分かるが、この余白は現場でも崩さない。むしろ現場の方が空間が広い分、余白の使い方が効いてくる。

代表作・ディスコグラフィの読みどころ

ソロ作を年代順に追うと、彼女がどこに向かっているかが見えてくる。まず2017年のEP『Deep green』。次に2021年の『ms』。そして2022年9月のデジタルシングルCome and Go🛒楽天、さらに2024年1月17日のデジタルシングルからから🛒楽天。この4点をディスコグラフィの背骨として押さえておくと、彼女のソロの全体像がつかみやすい。

『Come and Go』については、“鈴木真海子、1年ぶりデジタルシングル「Come and Go」リリース”. BARKS. ジャパンミュージックネットワーク株式会社 (2022年9月9日)と記録されている。『ms』からちょうど1年後というタイミングでの配信で、アルバム後の”次の一手”を単発の楽曲でしっかり示した格好だ。

そして2024年の「からから」。鈴木真海子(chelmico)の新曲「からから」が明日1月17日に配信リリースされる。 · 鈴木真海子(chelmico)——というのが配信のアナウンスだった。鈴木真海子(chelmico) · 大きなサイズで見る(全2件) · 鈴木真海子「からから」配信ジャケット[拡大] · 「からから」は健康飲料「ポカリスエット」のCMのために書き下ろされた楽曲という事実は、ここではっきり書いておきたい。CMは吉田羊、鈴木梨央、村田みゆらが出演した「カラカラな冬がやってきた」篇などのシリーズで、書き下ろし楽曲としてタイアップされている。

「からから」を初めて聴いた時、正直、ポカリのCMだと結びつくまで少し時間がかかった。冬の乾燥をテーマにしたCMのために作られた曲、と分かってから聴き直すと、トラックの隙間の多さ、声の湿度の低さが逆に効いている。夏の飲料としてのポカリのイメージを、冬の”からから”に反転させる——この企画の面白さを、書き下ろしできっちり成立させたのは大きい。CM書き下ろしを”広告仕事”で片付けず、自分の作家性の延長として仕上げるタイプの音楽家だと分かる一曲だった。

客演仕事も見逃せない。STUTS/TOSHIKI HAYASHI(%C)などの作品にも客演アーティストとして参加しているという記録通り、彼女は同時代の国内プロデューサー勢の作品にたびたび顔を出している。トラックメイカーの側から呼ばれる声——というのはラッパー/シンガーとしての信用の証で、単独作だけを追っていると見落としがちな重要な線だ。

chelmicoとソロ、2つの器の使い分け

chelmicoと鈴木真海子ソロは、同じ人物が担っていながら、はっきり別物として運用されている。chelmicoが担うのは、二人組の掛け合いから出るテンション、POPさ、ライブでの飛び道具的な楽しさ。対してソロは、内省的で、テンポも遅めで、ヴォーカルの密度も低い。同じ声とは思えないほど、質感が違う。

この使い分けは、キャリアの持続性という意味でとても賢い。ユニットで築いたポップな回路と、ソロで開拓する内省的な回路。片方が休んでいる間にもう片方が動ける。fesの夏場はchelmico、秋冬はソロ、みたいなサイクルも自然に組める。実際、CMタイアップの「からから」が冬に届いたのも偶然ではないだろう。

chelmicoファンがソロを聴くと、最初は物足りなく感じるかもしれない。Rachelとの掛け合いがない分、密度が薄いように感じる。しかし2回3回と聴くうちに、その”薄さ”が意図された余白だと分かってくる。逆にソロから入った人がchelmicoに触れると、こんなに元気だったのかと驚く。順序はどちらでもいいが、両方に触れて初めて鈴木真海子という表現者の輪郭が見える。

同時代の文脈——女性ラッパー/シンガーの中でのポジション

2010年代後半から2020年代にかけて、日本の女性ラッパー/シンガーのシーンは大きく広がった。あっこゴリラ、valknee、なみちえ、¥ellow Bucksのようなラッパー勢、iriや向井太一に代表される歌とラップの境界的なアーティスト、そしてchelmicoや鈴木真海子。それぞれ立ち位置が違い、ひとくくりにはできない。

鈴木真海子が特徴的なのは、”戦わないラップ”を貫いていることだと思う。ジェンダーや社会に対する明確なメッセージを前面に出すタイプではない。日常の中の小さな感情、季節、街の情景。政治的でもなく、逆張り的にアポリティカルでもなく、”生活を音にする”というシンプルな軸で作品を作っている。この立ち位置は珍しく、そして長く続けやすい。

親交のあるアーティストとしてiriの名前が『ms』に登場することも重要だ。chelmicoのMamikoが日常のグルーヴを伝える1stソロアルバム。親友iriが参加——シンガーとしての質感が近い二人が同じ作品に並ぶのは、単なる話題性を超えて、その界隈の空気そのものを示している。ネオソウル/R&B寄りの声を持つ日本語女性ヴォーカルの、ゆるやかな連合体のような。

CMタイアップに強いのも同時代文脈で見ておきたい。chelmicoでのApple WatchやCM起用の実績、ソロでのポカリスエット書き下ろし。日常の空気を運ぶ声は、生活系プロダクトのCMと相性が良い。逆に言えば、その相性の良さを”広告仕事”に消費させず、自分の作品として残していく態度が、彼女のキャリアを長く保っている。

今チャートで聴かれる意味

いまチャートで鈴木真海子の名前が動くのは、”派手なバズ”というより、”じわじわ続く支持”の結果に近い。TikTok的な瞬発力で消費されるタイプの音楽家ではなく、プレイリストや深夜のラジオ、生活の中に染み込んでいくタイプの音楽家。だからこそ、リリースから時間が経った曲がふと再浮上する、という動き方をする。

特に季節の変わり目、日中の光が急に短くなる時期。彼女の曲は、そういうタイミングで再生数が伸びる印象がある。「金木犀」が秋に、「からから」が冬に聴かれる、という季節性はデータを見なくても納得できる。ラジオで一度かかった瞬間に「あ、この時期の曲だ」と気付ける音楽家は、そう多くない。

ラップシーンの側から見ても、彼女はチャートに”別の入口”を作った存在だ。ヒップホップに馴染みのないリスナーが、彼女の曲をきっかけにchelmicoへ、そしてSTUTSやTOSHIKI HAYASHI(%C)へと辿っていく——この動線を作れる声は貴重だ。ラップの間口を静かに広げてきた、と言い切ってしまっていい。

これから聴くならどこから

初めて鈴木真海子を聴くなら、まずソロの1stアルバム『ms』を通しで聴くのが早い。33分と短めで、季節の変わり目に一気に聴ける長さ。次にchelmicoの音源を1〜2作、そしてSTUTSやTOSHIKI HAYASHI(%C)の客演曲へ、というルートが自然だ。

まずこの作品から聴く

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  • Deep green — ソロ原点のEP
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入門動線

  • まずこの1曲:「からから」——CMで耳にした人も多い、彼女のソロの現在地を最短で掴める1曲。
  • 次にこの1枚:『ms』——ソロとしての作家性が最も濃く出た1stアルバム。iri参加曲もあり。
  • 深めるならこの1枚:EP『Deep green』——2017年、ソロの原点。ここから今の質感がどう深まったかを聴き比べたい。

chelmicoと鈴木真海子ソロは、順番はどちらから入っても構わない。ただ、両方に触れて初めて彼女の音楽の広さが見える。ユニットの明るさと、ソロの余白。この二つを行き来しているアーティストは、日本のシーンでもそう多くない。長く付き合える1人だと思ってます。

最新の活動や配信情報については、公式サイトおよび各配信サービスを参照してほしい。ここに書いた事実は、記事執筆時点で確認できた範囲のものだ。

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