60年以上ステージに立ち続けているロックバンドは、そう多くない。ザ・ローリング・ストーンズは1962年ロンドンで産声を上げ、途中でメンバーを喪いながら、それでもツアーとレコーディングを止めなかった。2023年秋に18年ぶりのオリジナル・スタジオ・アルバムが出て、世界のロック・ファンが一斉に色めき立った。あの記憶がまだ新しい。
チャートの上位に、いま彼らの名前がまた戻ってきている。80代のミック・ジャガーとキース・リチャーズが、20代のリスナーに新曲を届けている——この事実がどれほど異様なことか、少し立ち止まって考えたい。ビートルズが解散した年に生まれた人がもう還暦を迎えているのに、ストーンズは今日も現役だ。
このアーティストの要点
- ザ・ローリング・ストーンズは1962年にロンドンで結成された英国のロックバンドで、ブライアン・ジョーンズ、ミック・ジャガー、キース・リチャーズを中心に始まった
- ブルースを出発点にロックンロールの原型を作り、『Exile on Main St.』(1972)などで批評的頂点に達したとされる
- 2021年8月24日、ドラマーのチャーリー・ワッツがロンドンで80歳で他界。以降のレコーディングにはスティーヴ・ジョーダンが参加
- 2023年10月、18年ぶりのオリジナル・アルバム『Hackney Diamonds』をリリース
- 詳細なディスコグラフィ・ツアー日程は公式サイトを参照
始まりはロンドンのブルース愛好会だった
ザ・ローリング・ストーンズは、シカゴ・ブルースに取り憑かれた若者たちが集まってできたバンドだ。1962年、ブライアン・ジョーンズが音楽誌Jazz Newsに広告を出してR&Bバンドのメンバーを募ったところから物語は始まる。そこにミック・ジャガーとキース・リチャーズが合流し、チャーリー・ワッツとビル・ワイマンが加わって、ロンドンのクラブで演奏を始めた。マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフの曲をコピーするところから、彼らのキャリアはスタートしている。
初期のストーンズは「ビートルズの対極」として売り出された。清潔で愛想の良いビートルズに対して、ストーンズは無愛想で反抗的で、親を怒らせる存在——という戦略的なイメージ作り。実際に本人たちがどこまで自覚的だったのかは分からない。ただ結果として、この二極化は英国音楽シーンの記号になった。1960年代半ばの英国では、どちらのファンかで学校のグループが割れた、という話は複数の回想録にも残っている。
1969年、創設メンバーのブライアン・ジョーンズがバンドを離脱、直後にプールで死去。享年27。この空白にミック・テイラーが加わり、後にロン・ウッドへとバトンが渡る。ドラムのチャーリー・ワッツは50年以上バンドの背骨であり続けた。2021年8月に他界するまで、彼のスウィングするドラミングがストーンズのグルーヴの核だった、と多くのミュージシャンが証言している。
正直に言うと、私は10代の頃、ストーンズをうまく聴けなかった。ビートルズの完成された多層コーラスに耳が慣れていたせいだ。20代の後半になって『Beggars Banquet』を車の中で流したとき、なるほど、と思った。この音楽は集中して聴くものじゃなくて、暮らしの隙間で鳴っている方が似合う。理屈じゃない。
音楽性の核 — ブルースを軸に、崩し続けた60年
ストーンズの音楽性を一言で言うなら「崩したブルース」だ。教科書通りに演奏せず、テンポも音程もどこか揺れている。この揺れが彼らの署名になった。キースのギターは、6弦を外した5弦のオープンGチューニングを多用することで知られる。この独特のチューニングから生まれるリフが、バンドの音の骨格を作っている。
1960年代後半、彼らはブルース・カヴァー中心のバンドから、オリジナル曲を書くソングライター・チームへと変わっていった。ジャガー/リチャーズ名義の作品群がここから量産される。1968年のBeggars Banquet🛒楽天でルーツ・ロックに立ち返り、続く『Let It Bleed』『Sticky Fingers』『Exile on Main St.』の4作は、批評家の間で「ストーンズの黄金期4部作」と呼ばれることが多い。
1970年代半ば以降、ストーンズはディスコ、レゲエ、パンク以後のニュー・ウェーヴまで、時代の音を貪欲に取り込んだ。批評家からは「迷走」と言われた時期もある。ただ、ライブ映像を見ると分かるが、彼らはどんなジャンルの曲でも最終的には「ストーンズの音」に落とし込んでしまう。この吸収力と、譲らなさの共存が面白い。
聴きどころ3点
- キース・リチャーズの5弦オープンGチューニングによる、他の誰にも真似できないリフの粘り
- チャーリー・ワッツの、ハイハットを少しだけ遅らせるスウィング感——これがバンド全体のグルーヴを決めていた
- ミック・ジャガーのヴォーカルの「崩し方」。譜面通りではなく、譜面を裏切ることで生まれる緊張感
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代表作 — 4部作と、それ以降
結論から書くと、ストーンズを1枚から入るならExile on Main St.🛒楽天(1972)が最も評価が高い。この作品はBeggars Banquetから続く一連の批評的成功作の頂点として位置付けられ、多くの批評家からストーンズの最高傑作と見なされてきた。フランス南部のヴィラの地下室でレコーディングされたという逸話も有名で、ダブル・アルバム全18曲、ブルース、ゴスペル、カントリー、ロックンロールが渾然一体になっている。
Let It Bleed🛒楽天(1969)は、60年代の終焉を刻印した1枚。ブライアン・ジョーンズが最後に参加した作品でもあり、次のギタリスト、ミック・テイラーが加入した過渡期のアルバムでもある。時代の空気がそのまま音になっている、と言えばいいだろうか。ヴェトナム戦争と公民権運動、ヒッピー・ムーヴメントの黄昏——そういう文脈を知って聴くと、また違う顔が見える。
Sticky Fingers🛒楽天(1971)は、アンディ・ウォーホルがデザインした本物のジッパー付きジャケットで知られる。「Brown Sugar」「Wild Horses」といったキラー・チューンが並び、バンドが自身のレーベル「Rolling Stones Records」から出した最初のアルバムでもある。この作品でサックスにボビー・キーズを大々的に導入し、ストーンズのサウンドに管楽器の暖かみが加わった。
そして2023年10月20日、18年ぶりのオリジナル・スタジオ・アルバムHackney Diamonds🛒楽天がリリースされた。プロデューサーはアンドリュー・ワット。レコーディングは2019年から2023年にかけて行われ、ジャンルはブルース・ロック、収録時間は48分23秒、レーベルはPolydor、全12曲。チャーリー・ワッツの遺した演奏が2曲に収録されているとされ、残りの多くはスティーヴ・ジョーダンがドラムを担当している。
個人的な感想を書くと、『Hackney Diamonds』は「老人が老人らしく作った枯れたアルバム」ではなかった。むしろ音圧はうるさいくらいで、ミックの声も年齢を感じさせない。80代でこれを出してくる、という事実そのものがロックの一つの答えになっている気がする。
チャーリー・ワッツの喪失、そして続くこと
2021年8月24日、チャーリー・ワッツがロンドンで亡くなった。80歳。バンドは半分レコーディングが進んだ状態でチャーリーを喪い、キース・リチャーズはBillboardのインタビューで、新しいドラマーのスティーヴ・ジョーダンとともにアルバムを完成させると語った。
スティーヴ・ジョーダンは、キース・リチャーズのソロ・プロジェクト「X-Pensive Winos」で1980年代からドラムを叩いてきた人物で、チャーリー本人が生前「もし自分に何かあったらスティーヴに」と指名していた、という報道もある。真偽は本人たちにしか分からないが、少なくとも音楽的な信頼関係は長い年月をかけて積み重なっていた。
チャーリー無きストーンズはストーンズなのか——ファンの間では議論があった。私自身、2021年秋の”No Filter”ツアー再開のニュースを聞いたとき、少し複雑な気持ちだった。ただ、そのツアー映像を後で見て、考えが変わった。スティーヴ・ジョーダンはチャーリーの真似をしていない。彼は彼のスタイルで叩き、バンドはそれに合わせて少しだけ形を変えている。これがロックバンドの生存戦略なんだと思う。
ビル・ワイマンは1993年にバンドを離脱しているので、現在のオリジナル・メンバーはミック・ジャガーとキース・リチャーズの2人。ロン・ウッドは1975年から参加しているので、彼を含めた3人が現在のコアだ。この3人で60年前のロンドンのクラブから続く音楽の記憶を運んでいる、と思うと不思議な気持ちになる。
カルチャーへの影響 — ロックの「原型」を作った人たち
ストーンズが後世に残した最大の遺産は「ロックバンドとはこう振る舞うものだ」というテンプレートを作ったことだ、と私は思っている。ステージでのミックの動き、キースの立ち姿、バンドの序列、ツアーの規模感、スキャンダルとの付き合い方——これらは後のロックバンドの参照点になった。エアロスミス、ガンズ・アンド・ローゼズ、オアシス、プライマル・スクリーム。誰もがどこかでストーンズを通過している。
日本での影響も長い。日本武道館公演は1990年に初めて実現したが、それ以前から日本のロック・ミュージシャンにとってストーンズは仰ぎ見る存在だった。忌野清志郎のRCサクセションや、佐野元春、佐藤タイジのシアターブルック、そして数え切れないロックンロール・バンドが、キースのリフとミックの歌唱を自分なりに翻訳してきた。
もう一つ、彼らが残したのは「バンドを続ける」という価値観だ。60年以上、名前を変えずに、コアメンバーの一部を保ちながらツアーとレコーディングを続けている音楽グループは世界的にも稀。ミック・ジャガーは1943年生まれ、キース・リチャーズは1943年生まれ、ロン・ウッドは1947年生まれ。この年齢でアリーナ級のツアーを回っているという事実自体が、後のミュージシャンへのメッセージになっている。
いまチャートに戻ってきていること
『Hackney Diamonds』のリリース以降、ストーンズの楽曲がストリーミングと各国チャートで再び動いている。旧譜の「Paint It Black」「(I Can’t Get No) Satisfaction」「Gimme Shelter」といった代表曲は、映画やドラマ、ゲームの挿入曲として使われるたびに新しい世代のリスナーを獲得してきた。TikTokで断片が使われて再ブレイクする、というのは他のクラシック・ロックにも起きている現象だが、ストーンズは特にその頻度が高い。
2024年には北米ツアー”Hackney Diamonds Tour”が行われた。80代の2人がスタジアム規模の会場で2時間以上のセットを回す。この事実だけでニュースになるべきで、実際、各都市の地元紙が特集を組んだ。日本での公演予定は本記事執筆時点で公式発表を確認できないため言及しない(詳細は公式サイトを参照)。
チャートの上位に往年のバンドが戻ってくるとき、そこには2つの読み方がある。ノスタルジアで動いているのか、それとも新作そのものが強いのか。ストーンズの場合は両方だ。旧譜のカタログの厚みと、新譜のクオリティが同時に効いている。この二刀流ができるバンドは、いま世界にほとんど残っていない。
ジャガー/リチャーズという不思議な相棒関係
ストーンズの音楽の中枢には、ミック・ジャガーとキース・リチャーズという2人の対照的な人物がいる。ミックはロンドン・スクール・オブ・エコノミクス出身で、経済的にも計算高く、バンドのビジネス面を長年仕切ってきた。キースはその対極にいる人で、音楽以外のことにはほとんど関心を示さない、という印象が長年語られてきた。この2人がぶつかりながら60年以上バンドを維持している、という事実そのものが奇跡に近い。
1980年代には仲違いの時期があり、それぞれソロ活動に流れた。キースの1988年のソロ作『Talk Is Cheap』は、実はストーンズ本体よりも評価が高かった時期がある。ミックのソロ作は商業的にはあまり奮わず、この落差が2人の関係をさらに複雑にした——という話は複数の伝記に書かれている。2010年にキースが出版した自伝『Life』では、ミックへの率直な批判も含まれていて、ロック史上でも稀な内部証言になった。
それでも、この2人はステージに立てば呼吸が合う。この不思議さがバンドという生き物の本質なんだと思う。個人的にも尊敬してるし、憎らしく思うこともある。でも音を出すと合う——長く続いた人間関係の全部に共通する何かがそこにある気がする。
ライブバンドとしての凄み
ストーンズを語るうえで外せないのが、彼らがライブバンドである、という事実だ。スタジオ盤で聴くよりも、ライブ音源で聴いた方が良い曲がたくさんある。1970年のライブ盤『Get Yer Ya-Ya’s Out!』や、1972年のツアーを記録した『Ladies and Gentlemen: The Rolling Stones』は、その最良のサンプル。ステージの上で曲がどう変形していくか、テンポがどう揺れるか、キースのギターがどう狂うか——スタジオ盤とは別物の音楽が鳴っている。
1989年の”Steel Wheels”ツアー以降、ストーンズは巨大な舞台装置を組んだスタジアム・ショーの様式を確立した。舞台美術、照明、映像、音響のすべてが大規模化し、その後のU2やコールドプレイのスタジアム・ツアーの原型を作ったと言っていい。ただし、機材が大きくなっても、ステージの中心にはギターとドラムと歌がある。この単純さを守り続けているのが偉い。
2024年の”Hackney Diamonds Tour”の映像を何本か見たが、80代のミックがステージを走り回っている。走り方は昔と少し違うけれど、走っている。この年齢でこれをやる意味を、本人がいちばん分かっているんだと思う。ロックンロールは走り続けることでしか成立しない——それをステージで証明してみせている。
これから聴くならどこから
ストーンズを初めて聴く人からよく相談される。「どこから入ればいいですか」と。私の答えは決まっていて、時代を絞って3ステップで潜るのが結局いちばん効率がいい、と思っている。全カタログをいきなり漁っても、迷子になるだけ。
まずこの作品から聴く
- Exile on Main St. — 黄金期の頂点
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入門動線
- まずこの1曲: 「Gimme Shelter」(1969年『Let It Bleed』収録)。イントロのギターとメリー・クレイトンのコーラスで、ストーンズが何を作れる人たちかが3分で分かる
- 次にこの1枚: 『Sticky Fingers』(1971)。「Brown Sugar」「Wild Horses」「Can’t You Hear Me Knocking」——キラー・チューンが並び、聴きやすさとバンドの深さの両方を体験できる
- 深めるならこの1枚: 『Exile on Main St.』(1972)。ダブル・アルバムで最初は取っつきにくいが、2周目から化ける。ストーンズの全貌が詰まっている
この3枚をくぐったら、あとは自分の趣味で枝分かれしていい。70年代後半のディスコ寄りの『Some Girls』(1978)へ行くか、80年代のポップな『Tattoo You』(1981)へ行くか、あるいは最新作『Hackney Diamonds』で「いま」の彼らを聴くか。どこへ行っても、根っこにあるブルースの匂いは変わらない。
60年以上、同じバンド名で、同じ2人(と1人)が音を鳴らし続けている。この事実の重みは、聴き込むほどに効いてくる、と思ってます。急がずに、暮らしの隙間で流してほしい音楽です。


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