羊文学「GO!!!」を今聴き直す 静けさの奥にあった攻めの合図

夜の街を走り抜ける光のトレイル、青いネオンと疾走感を暗示する抽象イメージ 楽曲

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羊文学GO!!!🛒楽天を今また聴いている人が、思ったより多い。リリース当時はアルバムのなかの一曲、しかも先にアニメ主題歌になった別曲の影に隠れがちだった曲だ。それが2年経って、聴かれ方が変わってきた気がする。囁きの羊文学というラベルの裏で、この曲は最初から拳を握っていた。ようやくそう聴ける時間が来た。

この記事は、当時の紹介ではなく、今の羊文学の位置から「GO!!!」を振り返る後追いの再読だ。何が見えていなかったのか。何が今なら言えるのか。順に書いていく。

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この曲の要点

  • 「GO!!!」は羊文学が2023年11月8日に先行配信した楽曲で、3rdフルアルバム『12 hugs (like butterflies)』(2023年12月6日リリース)に収録されている。
  • 作詞・作曲は塩塚モエカ、編曲はバンド名義(羊文学)。
  • 同アルバムには、TVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」エンディングテーマ「more than words」も収録。「GO!!!」自体は大型タイアップを伴わないアルバム楽曲として発表された。
  • 前作『our hope』が第15回CDショップ大賞2023 大賞〈青〉を受賞した直後のリリースで、バンドの評価が一段上がった局面の曲。

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「もう一つのリード曲」だった、と今なら言える

結論から書く。「GO!!!」は当時アルバムのオープナー的な役割で先行配信されたが、その意味は今の方が大きく見える。というのも、『12 hugs (like butterflies)』は事実上「more than words」を軸に語られがちなアルバムだった。呪術廻戦渋谷事変のED、8月末から地上波で流れ続けた曲、当然そうなる。ただ、そのぶん「GO!!!」の役割は少し霞んで見えた。

今アルバムを頭から通すと、印象が違う。「more than words」がドラマの余韻として機能する曲だとすれば、「GO!!!」はアルバム自体を前に押し出すエンジンとして置かれている。塩塚モエカの声が普段より前に出て、リフが太く、テンポの背骨がしっかりしている。囁くようなミドルテンポの浮遊感で語られてきたこのバンドが、明確に「走る」ことを選んだ数分間だ。

音楽ナタリーはリリース時、この曲を「混沌のなかでも力強く進んでいくたくましさがみなぎっている楽曲」と紹介していた。当時読んだときは通り一遍のリリース文に見えた。今読むと、割と正確な要約だった。混沌、というのがポイントで、羊文学の攻めの曲は決して単純な「元気ソング」ではない。混乱を混乱のまま抱えて前に出る。この二枚舌みたいなバランスが、後の羊文学の攻めモードにずっと引き継がれていく。

だから今、この曲は「もう一つのリード曲」として聴き直せる。むしろアルバムの推進力を担っていたのはこっちで、「more than words」は情緒の錨だったのかもしれない。並列。

3分半のなかにある、静けさと爆ぜ方の設計

サウンドの話をする。歌詞は扱わないが、作りの話ならできる。

「GO!!!」は3分半に満たない曲だ。羊文学の代表曲群と比べると短い。この短さは意図的だと思う。冒頭からギターの輪郭が細めで、ドラムが下からグッと押し上げる立ち上がり。塩塚モエカのボーカルは、いつもの空気を含んだ声質を残しつつ、母音の芯を少し太くして真ん中に置いてある。囁きの層は残っているけれど、聴かせるのは芯の方だ。この歌い分けの切り替えが、あとの塩塚モエカのソロ的な仕事にも繋がっていく気がしていて、その入口として聴くと相当おもしろい。

Aメロは抑える。Bメロで少し前のめり。サビでは音数を増やさずに、コードの重さと歌のロングトーンで一気に景色を開く。この「音数を増やさずに開く」やり方が、羊文学のサビ設計のいちばん巧いところで、「GO!!!」でもそのまま効いている。派手なブレイクや大サビの跳ね上げに頼らない。淡々と、しかし着実に、視界がひらけていく感じ。ここが好きなファンは多いはずだ。

河西ゆりかのベースが、思ったよりずっと歌っている、ということも改めて書いておきたい。ライン取りが単純な追随ではなく、コーラス的にメロディに絡む。フクダヒロアのドラムはハイハットのニュアンスで曲の温度を管理していて、サビでシンバル一発に頼らずキープしていく。派手ではない。でもこの三人のバランスが崩れると「GO!!!」は途端に安っぽくなる曲で、そこを崩さないのがこのバンドの強みだ。

タイトルの「!!!」を三つも重ねているわりに、音は叫ばない。これも今聴くと大事なポイントで、羊文学が「攻める」ときは、音量ではなく密度で攻めるのだと分かる。

聴きどころ3点

  • サビでボーカルが「押す」瞬間。羊文学のサビは基本「開く」設計だが、この曲は数フレーズだけ明確に前に押しにいく。ここが情動のピーク。
  • 間奏〜ラストサビへの戻し方。派手なギターソロは置かず、リズム隊のグルーヴでテンションを一段上げてサビに戻す。バンドサウンドの筋肉。
  • 3分台の短さ。長尺の余韻で泣かせるタイプの曲ではなく、走り抜けて置いていく設計。ループ再生されやすい理由はここにある。

キャリアの中での位置──「静」の羊文学から、二枚舌のバンドへ

キャリアの中での「GO!!!」の位置は、後から見ると分かりやすい。この曲は、羊文学が「静のバンド」と呼ばれる時代の終わりに置かれた曲だ。

2020年8月にF.C.L.S.(ソニー・ミュージックレーベルズ内)からメジャーデビューして以降、羊文学は「1999 / 人間だった」の限定生産シングルでのヒット、『our hope』でのCDショップ大賞〈青〉受賞と、確実に評価を積んできた。ただ、外からの印象としては「アルペジオ主体の、内省的で美しい曲を書くバンド」という像が強かった気がする。実際、「光るとき」(TVアニメ『平家物語』ED)が広く知られたことで、その印象は補強された。

そこに「GO!!!」が置かれた意味は、当時思っていたよりずっと大きい。この曲は、羊文学が「静だけのバンドではない」ということを、シングル表題ではなくアルバムの中で静かに宣言している。宣言、と書いたが、当時はそこまで大きく響かなかった。「more than words」の方が話題だったし、そこに含まれる感情の重心が違いすぎて、GO!!! は「明るい方の曲」として消費されがちだった。

2年経って、羊文学のライブがどんどんスケールを広げ、塩塚モエカが個人としても声を届ける場面が増えた今、「GO!!!」を聴き直すと、あれは「二枚舌のバンド」への切り替えスイッチだったんだな、と思う。片方の口で祈るように歌い、もう片方の口で走れと言う。両方が同じ人物から出てくることが、このバンドの奥行きだ。「GO!!!」はその片側の口が、初めてはっきり形になった曲のひとつだった。

後追いで言えるのはここだ。当時、私はこの曲を「勢いのある一曲」としてしか聴けていなかった。今なら、これはバンドの重心が動いた瞬間の記録として聴ける。そういう曲が、アルバムに一曲入っているかどうかは、キャリアを長く見るときに結構効いてくる。

「GO!!!」はどう聴かれているか──夜寄りの、走り出す前の一曲

この曲、たぶん夜に効いている。朝の曲ではないと思う。

羊文学の攻めモードの曲を、日が高い時間帯にかけると、少しだけ音の細さが目立つ気がする。ミックスがそれほど詰め込んで作られていないぶん、環境音の多い明るい時間だと輪郭が薄くなる。ところが夜、部屋の照明を落として、あるいはイヤホンで街を歩く時間に鳴らすと、この曲の疾走感が本来の距離感で届く。3分半という長さが、駅から家までの徒歩と妙に合う。走り出す前の助走にちょうどいい曲、として設計されている気がする。

ライブでの機能もそこに近い。羊文学のライブは、静かな曲でお客を吸い込み、攻めの曲で一気に空気を入れ替える構成が多い。「GO!!!」はその「入れ替え」の役割で置くと、直後の曲がぐっと立つ。単体でクライマックスを担う曲ではなく、流れを作る曲。設計思想としてこっちの方が長持ちする。この位置に良い曲を持てているバンドは、実は多くない。

あくまでこれは、作風から推す個人的な読みだ。ただ、ファンの人が「なんとなく夜に流してる」「イヤホンで歩いてるときによく戻ってくる」と感じているなら、その直感は多分、この曲の設計と合っている。

チャートでの動きより、聴かれ続けた事実の方が大きい

「GO!!!」は、明確なチャートの主役ではなかった。アルバム楽曲の一つとしてのリリースで、大型タイアップも公表されている限りでは付いていない。当時のオリコン、ビルボードジャパンの単曲チャートを大きく賑わせたわけでもない。

ただ、この曲が「アルバム内で残った曲」であることの方が、後から見るとよほど重要だと思う。アルバム収録曲は基本的に、リリースから半年もすれば急速に再生数の傾きが緩やかになる。それでも、リード級のシングル曲と一緒にアルバム楽曲が長く聴かれ続けるとき、そのアルバムはコアなリスナーに深く刺さっている。「GO!!!」がそうやって聴かれ続けているというのは、順位以上に価値のあるサインだ。

だから、この曲を語るのに順位はいらない。むしろ、順位で説明できない曲だからこそ、羊文学のディスコグラフィのなかで「攻めモードの原型」として長く参照されていく気がする。数字ではない何かを、この曲は最初から狙って作られている。

解釈が分かれるところ──「GO!!!」は前向きな曲か、そうでないか

ここは意見が分かれるところだ。歌詞に触れずに書くと、「GO!!!」を「前向きな応援ソング」として聴いている人と、「混乱を混乱のまま置き去りにする、諦め混じりの疾走曲」として聴いている人がいる。私は後者寄りに聴いている。ただ、前者の聴き方が間違っているとは全く思わない。

羊文学の攻めモードの曲は、大抵「走る根拠が薄い」ところから走り出す。走る理由が明確な曲ではなく、走らないと立っていられない曲、と言った方が近い。ここの体温の受け取り方は、聴き手の状態に強く依存する。だからこの曲は、聴くタイミングで顔を変える。1年前と今で聴こえ方が違うファンは、多分結構いる。

ここは断言せずに残しておきたい。あなたにとって、この曲は今どっちの表情をしているだろうか。時期をまたいで聴き返すと、羊文学の曲は答えを変えてくることがある。

ここから広げる──同アルバムの奥と、羊文学の他の顔へ

「GO!!!」から広げるなら、まずは収録元の12 hugs (like butterflies)🛒楽天を頭から一度通してほしい。「more than words」だけを繰り返し聴いてきた人ほど、アルバムとしての設計に驚くはずだ。「GO!!!」が担っていた推進力の役割、そこから他の曲がどう配置されているかが見える。

そのあと、対極として前作の『our hope』を聴くと、羊文学が「静の側」で何を積み上げてきたかがはっきりする。CDショップ大賞〈青〉受賞の力は伊達ではなく、「GO!!!」の助走がここまでで既に十分あったことに気づく。逆順で辿ると、GO!!! が地続きだと分かる。

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入門動線

  • 次の1曲:「more than words」──同アルバムから。攻めの GO!!! と情緒の more than words を並べて聴くと、羊文学の二枚舌が一発で分かる。
  • 関連1枚:『our hope』──静の側の完成形。ここから『12 hugs (like butterflies)』に進むと、「GO!!!」の位置がはっきりする。

羊文学は、ゆっくり届くタイプのバンドだ。「GO!!!」もそういう曲で、リリース時にきちんと届かなかった人にも、あとから届く余地が残されている。今この記事を読んでいるなら、たぶんもう届き始めている。あとは何度か夜に流して、自分の距離を測るだけでいい。

まずこの作品から聴く

  • 12 hugs (like butterflies) — GO!!! の全体設計が見える収録元
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  • more than words — 同アルバムの情緒の錨
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  • our hope — 静の側の到達点
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  • 光るとき — 羊文学の入口としての定番
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