星野源『2』を今あらためて聴く イ・ヨンジと組んだ2分40秒の意味

夏の東京の路上と、シンセサイザーが並ぶ小さなスタジオを重ねたイメージ 楽曲

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星野源がアルバムGen🛒楽天の中に置いた「2 (feat. Lee Youngji)」を、リリースから少し時間を置いて聴き直している。出た直後は「韓国のラッパーとのコラボ」という切り口ばかりが目立った曲だ。半年、一年と経つと、この2分40秒に込められたものが違って見えてくる。『2』は派手なコラボではなく、星野源が“ひとりで完結しない音楽”に静かに舵を切った証拠だ。そう思っている。

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この曲の要点

  • 「2 (feat. Lee Youngji)」は2025年5月14日リリースのアルバム『Gen』収録曲で、韓国のラッパー・イ・ヨンジをフィーチャーした楽曲。
  • Music Videoは2025年9月に公開。監督は映像作家の石井英之、撮影は東京で行われた。
  • 2025年9月13・14日にソウル・オリンピック公園オリンピックホールで開催された『Gen Hoshino presents MAD HOPE』アジアツアーの韓国公演で、イ・ヨンジがゲスト出演し「2」と「恋」を披露した。
  • 曲の長さは約2分40秒。アルバム『Gen』の中でも特に人気の高い1曲として紹介されている。

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いまチャートに戻ってきた理由

アルバム曲がしばらく経ってからチャートで動く、というのは、ストリーミング時代ならではの現象だ。「2」もそれに近い。タワーレコード オンラインの記事では、この曲はアルバム『Gen』収録楽曲の中でも特に人気の高い一曲と紹介されている。5月のリリース時点で完結せず、9月のMV公開、9月のソウル公演、その先へと熱が転がり続けた曲、という言い方が近い。

面白いのは、シングルカットされて派手に打ち出されたわけではないところだ。アルバムの奥に置かれた一曲が、ゆっくり浮上してくる。ここに星野源の現在地が出ている気がする。ヒットの作り方を知り尽くしている人が、あえて“じわじわ”を選んでいる。

Spotifyの再生数は執筆時点で500万を超えている。数字としては派手ではない。ただ、この曲の生き方は数字の伸び方より、聴かれる場面の広がり方に出ている。夜のドライブで流している人、ジムでかけている人、韓国語話者のリスナー——聴かれる文脈が最初から複数ある。それが後半年で効いてくる。

アルバム『Gen』の中での位置

結論から言うと、「2」はアルバム『Gen』の“開いた扉”のような役割を担っている。星野源が自分の名前をアルバムタイトルに冠したことの意味と、この曲の存在は深く関係している。

『Gen』は2025年5月14日リリース。星野源が自分のファーストネームをそのまま冠したアルバムだ。自伝的に閉じるのではなく、「Gen」という名前を器にして、外の人を招き入れる作品になっている。「2」で韓国のイ・ヨンジ、他の収録曲で海外のミュージシャンとの共演が並ぶ。アルバム名が「Gen」だからこそ、共演者が“Genの家に来た客”のように機能する。

その中で「2」は、招いた客と一番くつろいで話しているような曲だ。緊張感のあるコラボではない。ふたりで台所で立ち話しているような近さがある。だから、アルバムを通して聴いたときに、この曲の後で耳のガードが下がる。全体を柔らかくする役目を、この2分40秒が担っている。

アジアツアー『MAD HOPE』のタイトルとも呼応している。THE FIRST TIMESの記事によれば、星野が『Gen Hoshino presents MAD HOPE』アジアツアーで初の韓国・ソウル公演行った際には、ヨンジがスペシャルゲストとして登場し、そこで「2」と「恋」がステージで並んだ。アルバム、ライブ、MV、そして客演——複数の面がひとつの曲に集まっている。

「今こそ言える」ことがある——後追いで聴く『2』

リリース時に多くのメディアが書いたのは「星野源、韓国アーティストとコラボ」という切り口だった。それは事実だが、いま振り返ると、そこじゃない気がしている。

2016年の「恋」から2018年の「アイデア」あたりまで、星野源はほぼひとりで完成させる人だった。作詞、作曲、編曲、演奏、ミックスの多くを自分の視界に収める。国民的な曲を、その手作業の密度で作ってきた。振り返ると、あの時期の作品は“星野源の頭の中”を精密に外に出す作業だった。

「2」はそれと逆をやっている。頭の中を出すのではなく、頭の外に扉を開ける。イ・ヨンジという、日本語のポップスの文脈からは離れた人を呼び込み、彼女の言葉のリズムを曲の骨格に組み込む。ひとりで閉じない。ここが後から効いてくる。

2020年代前半、星野源はドラマ主題歌やCM曲で日本のシーンの中心にいた。その位置は、しかし居続けると重くなる。アルバム『POP VIRUS』(2018)で一度極点に達した「ひとりで作り込むポップス」の路線を、ここでほどいている。『2』は派手なコラボではなく、星野源が“ひとりで完結しない音楽”に静かに舵を切った証拠だ。この一文を書きたくてこの原稿を書いている、と言っていい。

面白いのは、その舵切りが宣言的でないところ。マニフェストめいたコラボ曲ではなく、アルバムの中に自然に置かれている。だから当時は気づかれにくかった。いま『Gen』を通して聴くと、この曲がアルバムの重心をひとつ動かしていることがわかる。

サウンドの読みどころ——2分40秒に詰めた設計

短い。まず、それが強い。2分40秒。今のポップスの標準からするとむしろ普通の長さだが、フィーチャリングを含むコラボ曲としては短めだ。長尺で二人分の見せ場を作るのではなく、必要なところだけを残す設計になっている。

イントロの入り方が、いい意味で無愛想だ。派手なフックで始まらない。会話に途中から加わるような、既に始まっているグルーヴに耳がのっていく感覚がある。ここが星野源の意地だと思う。「聴かせよう」とせず、「もう鳴ってるから、乗ってきて」と言う。

イ・ヨンジのラップが入るタイミングも、押し出しが強くない。日本語と韓国語のフロウが、勝ち負けを作らずに並ぶ。フィーチャリング曲でありがちな「主役の後にゲストがバースで沸かす」構造とは違って、二人分のトーンが同じ地面に立っている。歌モノとラップの境目を、意図的にぼかしている。

ミックスも、聴くたびに感心する。声の粒立ちが強すぎない。ボーカルを前に出しすぎず、伴奏の中にほどよく沈める。ヘッドフォンで大音量にすると、部屋の中で二人が並んで歌っているような距離感になる。派手なコンプで潰したポップスの音像とは違う、生活に近い音の作り方だ。

聴きどころ3点

  • 2分40秒という尺の判断:フィーチャリング曲を長引かせず、必要なものだけを置いた編集の潔さ。もう一度再生したくなる短さに設計されている。
  • 日本語と韓国語のフロウの重ね方:ゲストを立てて主役を引く従来型ではなく、二つの言語のリズムを対等に並べる作り。国境の跨ぎ方が押し付けがましくない。
  • ボーカルを前に出しすぎないミックス:スター同士の見せ合いではなく、部屋で並んで歌っているような距離感。派手さより親密さを優先した音像。

この曲がどう聴かれているか——生活に接地した読み

結論を先に。「2」は、朝や夜のはっきりしたシーンより、“移動中”に効くように設計されている気がする。

電車の乗り換え、家から駅までの徒歩、コンビニまでの5分。生活の隙間を歩いている時間に、この曲の尺と重さがちょうどはまる。2分40秒は、駅から改札を抜けてホームに立つまでにちょうど1回聴ける長さだ。歌詞に張り付かなくても曲のグルーヴだけで気分が変わる。そういう聴き方に耐える曲だと思う。

MVも実はそれを補強している。タワーレコード オンラインの記述では、都心の路上や夏の陽光が降り注ぐ埠頭、高速道路を望むビルの屋上、シンセサイザーが並ぶホーム・スタジオ等、多彩なロケーションで楽曲を歌う2人の姿が、どこか懐かしいストリート感のある映像で記録されているという。定点的な物語映像ではなく、移動の映像として組まれている。「2」は移動の曲、として設計されているんじゃないか、と思う。

断定はしない。ファンの人がそれぞれ持っているシーンがあると思う。夜のドライブ、ジムのアップ、洗い物中のBGM——聞き方は分かれていい。ただ「なぜこの曲がリピートに耐えるのか」を考えたとき、私はこの“移動の曲”という補助線が一番腑に落ちている。

もうひとつ気づいたことがある。「2」は歌詞に張り付かないでも成立するが、意識を向けたときにも意味が増える二段構造になっている。日本語話者にも韓国語話者にも、それぞれ入り口がある。飛ばし聴きに耐えて、じっくり聴きにも耐える。この“聴かれ方のレンジの広さ”が、じわじわ効いてくる曲の共通条件だと思う。ここに気づくと、リピート数の増え方の意味が少し変わって見える。

イ・ヨンジという選択——なぜ彼女だったのか

Lee Youngji(イ・ヨンジ)は韓国のラッパー。近年はYouTubeのトーク企画「NO PREP」などで海外のポップスターとの共演を重ね、K-POPの枠外にいるアーティストとしても存在感を強めている。この曲でのフィーチャリングを、「話題性のための海外アーティスト起用」と読むと、たぶん見誤る。

彼女の魅力は、良い意味で“ジャンルの匂いが薄い”ところにあると思っている。ゴリゴリのヒップホップの人でも、ポップの人でもなく、その中間を器用に往復する。星野源の音楽は、ジャンルの純度を尊重するタイプではなく、複数のジャンルを混ぜて自分の色にする作り手だから、相性がいい。ジャンルの匂いが薄い者同士だから、日本語と韓国語がぶつからない。

ソウル公演でイ・ヨンジが「恋」を一緒に披露した、というエピソードが個人的にはずっと引っかかっている。2016年の代表曲を、2025年の海外の共演者と、海外の会場で歌う。9年前の曲が別の文脈で立ち上がり直す瞬間だ。「2」というコラボは、その瞬間を作るための伏線だったとも読める。

ここで思うのは、コラボ相手を選ぶ基準が「話題」ではなく「同じ体温」にあるのかもしれない、ということ。フィーチャリング曲を数字のカードとして使う時代に、そうじゃない選び方をする人が国内のトップにいる。地味だけど、これはけっこう大きいことだと思っている。

キャリアの中での意味の変化

星野源のキャリアを大雑把に3つに区切ると、SAKEROCK時代のインストの人、「恋」までの国民的ポップの人、そして『POP VIRUS』以降の「ポップスの内側を作り替える人」だと思っている。「2」はその3つ目のフェーズの、次の段階にある。

『POP VIRUS』(2018) は、ひとりの中で日本語のポップスとブラックミュージックの語彙を混ぜ切った作品だった。「アイデア」「Pop Virus」「Get a Feel」——構造が細かく、聴くほど発見がある。ただ、あの密度は続けると疲弊するタイプの作りでもある。

『Gen』はそこから力の抜き方を見つけた作品に見える。全部ひとりで作り切らない。他者を招く。名前を器にして開く。「2」はその変化を象徴する1曲だ。だから、この曲をリリース時に「韓国のラッパーとのコラボ」で片付けてしまうと、キャリアの折り目を見逃す。半年経ってから改めて聴くと、その折り目の音がはっきり聴こえる、と思っている。

もうひとつ言うと、この曲は「短さで勝負する」という意味でも、キャリアの中で新しい。長尺で構造を作り込むのが得意な人が、あえて2分40秒に収めた。ストリーミング時代の尺感に迎合したのではなく、「必要なものだけ残す」ことに手応えを見つけた作り方だと思う。この省略のセンスが、今後の作品にも効いてくる予感がある。

付け加えると、SAKEROCK時代の身体性が、この曲でひっそり戻ってきている気もする。歌モノのポップスに軸足を移してからは表に出にくかったバンド的なリズムの気持ちよさが、「2」のグルーヴには残っている。ひとりで密度を上げる路線とバンドの気持ちよさが、10年以上かけてもう一度接続された曲、という読み方もできる。ここも、リリース時には見えにくかった補助線だと思う。

MVが持つ意味——石井英之が撮った「東京」

MVを監督した石井英之は、近年の日本の音楽映像で存在感を強めている作家。Real Soundの記事にもある通り、韓国のラッパー Lee Youngji(イ・ヨンジ)をフィーチャーした同楽曲のMVは、東京で撮影されている。ここが個人的に大事なポイントだ。

ソウルではなく東京で撮ったこと。ソウル公演がある文脈の中で、映像は東京で作った。この非対称が面白い。相手の街に行くのではなく、こちらの街に来てもらう。共演者を招く、というアルバム全体のコンセプトが、MVのロケ選びにまで一貫している。

映像のトーンも、観光地としての東京ではなく、生活としての東京だ。埠頭、屋上、ホームスタジオ。夜景の名所ではなく、日常の中の光の当たり方が選ばれている。K-POPのMVが持ちがちなハイパー装飾的な画作りとも違う。ここに音の設計思想がそのまま出ている。派手にしない、生活の近くに置く。

解釈が分かれるところ——あえて残しておきたい問い

ここは書き手として断定しない部分。「2」というタイトルの読み方は、たぶん人によって違う。ふたり、対、次のフェーズ、続編——どの読みも成立する余白がある。

私は「ふたり」と読んでいる。ひとりで作ってきた人が、ふたりで作ることを選んだ曲だから。ただ、聴く人によっては全然違う読みがあるはずで、そこはこの曲の懐の深さだと思う。数字のタイトルは、意味を限定しないから強い。

もうひとつ、答えを出したくない問いがある。星野源の“国民的”という位置は、この先どう変わるのか。国内に閉じずアジアに開いていくとき、「星野源」というブランドの意味は少しずつずれていく。それは失うことなのか、獲得することなのか。「2」はその境目に置かれた曲だから、答えは今出さなくていいと思っている。

入門動線——ここから広げるなら

「2」から星野源の世界を広げるなら、次の順で聴いていくと繋がりが見えると思う。

入門動線

  • 次の1曲:同じアルバム『Gen』収録のMad Hope🛒楽天。アジアツアーのタイトルにもなった曲で、「2」の直前後で聴くとアルバムの流れが体で掴める。
  • 関連1枚:アルバムPOP VIRUS🛒楽天(2018)。“ひとりで作り切っていた”時期の到達点。ここと『Gen』を並べると、この7年の作り方の変化がわかる。
  • もう1歩:Lee Youngji側の楽曲。彼女がどんな声質と間の取り方をする人か知ってから「2」に戻ると、二人の混ぜ方の巧さが違って聴こえてくる。

まずこの作品から聴く

  • Gen — この曲を収めたアルバム
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  • POP VIRUS — ひとりで作り切った到達点
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  • — ソウル公演で共演した代表曲
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  • アイデア — 作り込み期の代表作
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2分40秒に何を聴くか

最後にもう一度書いておきたい。「2」は、リリースから時間を置いて聴いたときに、意味が増えていく曲だ。派手なコラボの一発ではなく、星野源の作り方の変化を静かに記録した1曲として。

アルバム『Gen』を通して聴く時間があるなら、「2」の前後で音の抜け方がどう変わるかを意識してほしい。ソウル公演の映像に触れる機会があれば、「恋」を海外のラッパーと歌う星野源を見てほしい。9年前の代表曲が、まったく違う文脈で立ち上がる瞬間に、この「2」というコラボが伏線として効いていることに気づけると思う。

2分40秒。もう一回、再生ボタンを押してみる。

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