チャートを眺めていて、久しぶりに「あれ、この曲は少し違うな」と思わせられた。IVEのLUCID DREAM🛒楽天は、いわゆる”K-POPガールズグループの日本タイトル曲”のセオリーから半歩ズラした場所に立っている。派手なフックで殴りにこない。「夢」というモチーフを、現実逃避のための場所ではなく、自分自身と向き合い、感情に正直になるための空間として表現した楽曲。コンセプト文だけ読むと抽象的だが、実際にイヤホンで再生してみると、その言葉の意味がわりと素直に腑に落ちる。
IVEといえば、ELEVEN、LOVE DIVE、I AM。強い主語で世界を掴みにいくグループ、というイメージが強い人が多いはず。私もそうだった。ところがこの曲は、主語が一度うちに折り返す。外に向かう矢印が、内側に返ってくる感覚。派手なパフォーマンス曲を待っていたリスナーは、最初の30秒で少し戸惑うかもしれない。でも、その戸惑いが後から効いてくる、という珍しいタイプの日本オリジナル曲だと思う。
この曲の要点
- 「LUCID DREAM」はIVEのJAPAN 4th EP『LUCID DREAM』のタイトル曲で、2026年5月27日にEPが発売、タイトル曲は5月20日に先行配信された日本オリジナル楽曲。
- 同EPには「Fashion」(App Store「どんな一歩も、App Storeと。」キャンペーンソング)、「JIGSAW」(テレ東ドラマ24『ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-』主題歌)を含む日本オリジナル3曲と、日本語バージョン3曲が収録されている。
- 期間生産限定盤のジャケット写真は、ホラー漫画家・伊藤潤二による描き下ろしイラスト。
- タイトル曲は、日本オリジナル楽曲としてIVE初のリミックス企画が行われ、7月1日に☆Taku Takahashi(m-flo)、7月8日にShin Sakiuraのリミックスが2週連続で配信された。
- Billboard JAPANのアルバムセールスチャートでは13.9万枚で首位を獲得している。
タイトル曲「LUCID DREAM」の基本情報:EPと日本オリジナル曲の位置づけ
まず前提を押さえておく。楽曲「LUCID DREAM」は単発シングルではなく、EPのタイトル曲だ。2026年5月にリリースされた日本4th EP『LUCID DREAM』のタイトル曲で、EP本体は5月27日発売。タイトル曲自体は5月20日に先行配信されている。ここが最初のポイント。先行配信から本体リリースまでの1週間で、リスナーの受け取り方の輪郭が決まる、というK-POPの日本展開でよくある設計だ。
収録内容も具体的に見ておきたい。「LUCID DREAM」、「Fashion」、「JIGSAW」の日本オリジナル3曲に加え、「REBEL HEART -Japanese ver.-」「ATTITUDE -Japanese ver.-」「Thank U -Japanese ver.-」の日本語バージョン3曲を収録する構成。全6曲、日本オリジナルと日本語版が半々。この比率をどう読むかは人それぞれだが、私は「日本市場に対して、翻訳ではなく作品として向き合いにきた」意思表示だと感じた。
「Fashion」はApp Storeの「どんな一歩も、App Storeと。」キャンペーンソング。「JIGSAW」はテレ東系ドラマ24『ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-』の主題歌として、伊藤潤二の世界観に寄り添う曲として書き下ろされた。期間生産限定盤のジャケットは伊藤潤二描き下ろしで、EP全体としての企画性がかなり尖っている。タイトル曲「LUCID DREAM」は、この3曲の中で最も”自分の内側”に向くトラック、と位置づけると分かりやすい。
EP名と同名曲というのは、宣伝的には強い一方でリスクもある。タイトル曲がEPの気分を代表しきれていないと、作品としてぶれる。今回はぶれていない。ここは書いておきたい。
サウンドの手触り:ドリーミーな質感と、Y2Kを匂わせるトラックメイキング
個人的な話をひとつ。5月20日の先行配信日、仕事終わりに帰りの電車で初めて聴いた。金曜の夜、22時過ぎ、山手線の内回り。人がまばらな車両で、思わず1曲リピートで3周した。IVEの日本タイトル曲でこういう聴き方をしたのは初めてだった。派手さで押してこない代わりに、聴き終わったあとに”もう一度確認したい”と思わせる余白がある。この余白の作り方が、今作の設計の肝だと思う。
結論から書けば、この曲は「音数を足す」より「音を漂わせる」方向で設計されている。ミキシングを聴くとよく分かる。ボーカルが常に薄いリバーブで一段奥に置かれていて、輪郭を立てすぎない。K-POPのタイトル曲は、リード・ボーカルをかなり前に出して、シラブルを潰さないミックスにするのが定石。この曲はその定石から半歩下がっている。ドリーミー、という形容が公式でも繰り返されるのは、たぶんそこの手触りに由来する。
BPMは中速、ビートは重心を沈めている。ドロップで急に加速する構成ではなく、フックに向かってじわりと視界が開けていく作り。IVEのこれまでの日本タイトル曲を並べて聴くと、この曲だけ空気が明らかに違う。これまでの日本タイトル曲とはまた変わった雰囲気や衣装が垣間見える作品、という公式コメントは、映像だけの話ではなく、音そのものにも当てはまる。
面白いのは、リミックスまで含めて聴くとオリジナルの設計思想が逆側から見えてくる、という点。☆Taku Takahashi(m-flo)が手がけたリミックスは、Y2Kの雰囲気が感じられるレトロな要素と、R&Bテイストが合わさったドリーミーなUKガラージで、華やかなストリングスサウンドと2ステップビートの軽快なグルーブ感が特徴的、という手触り。原曲がすでにY2K〜UKガラージの語彙と親和性の高い骨格を持っているからこそ、このリミックスが自然に接続する。日本オリジナル楽曲でIVEがリミックス音源をリリースするのは今回が初で、しかも☆Takuと、Shin Sakiuraを連続で並べる座組みは、素直に強い。
聴きどころ3点
- ボーカルの奥行き設計。サビでも声を前に出しきらない、リバーブとディレイで”薄い霧”を張る処理。イントロで一度その霧の濃さを測ってから、Aメロに入ると理解しやすい。
- ビートの”抜き”。キックが常に鳴り続けるのではなく、ブレイクで意図的に抜ける瞬間がある。フックの手前で低域が一瞬なくなり、そこから戻ってくる導線が気持ちいい。
- ハーモニーの重ね方。コーラスの積み方が、K-POP的なユニゾン強調ではなく、少しずつ違う音を重ねるレイヤー方式。ヘッドホンで聴くと左右で違う声が薄く滲む。
「夢」というモチーフが指す先。IVEのキャリアで何が変わったのか
コンセプト面での要点はシンプルで、”夢”を逃げ場としてではなく、自分と会いに行くための場所として扱っている、というところ。「夢」というモチーフを、現実逃避のための場所ではなく、自分自身と向き合い、感情に正直になるための空間として表現した楽曲だと公式は説明している。この言い方は、これまでのIVE的な”憧れられる主体としての私”の系譜からは、明らかに一歩ズレる。
デビューから4年ほど経った。IVEはずっと”完成された自分”を提示するグループだった。それが強みでもあった。ELEVEN、LOVE DIVE、I AM、Kitschの流れを追いかけたリスナーなら分かるはず。全部、外に開かれた曲だ。世界を掴む、憧れの視線を跳ね返す、そういう強度で成立していた。
「LUCID DREAM」は、その強度を捨てていない。強度は残したまま、視線だけを内側に振っている。ここが微妙で面白い。強い声を持っている人が、あえて少し声量を落として話す、あの感じに近い。パフォーマンス力を持て余さずに、コンセプトで押さえ込んでいる。
日本市場での展開という文脈も無視できない。日本の音楽リスナーは、”完成された強さ”よりも”揺らぎのある人物像”を長く愛する傾向がある、と個人的には感じている。J-POPの歌詞論争でよく出てくる話だ。IVEが日本オリジナル曲でこの方向を選んだのは、単にサウンドの流行を追った結果ではなく、市場の受け止め方まで含めて設計した気配がある。
EP全体の企画:伊藤潤二コラボと日本オリジナル3曲の並べ方
EP全体の企画設計は、率直に言って、日本市場向けのK-POP EPとしてかなり練られている部類だと思う。3つの日本オリジナル曲がそれぞれ違う入口を用意している。「LUCID DREAM」は内省、「Fashion」は前向きな一歩、「JIGSAW」はドラマとの連動でミステリアスな側面。この3方向で、既存のIVEファンにも、K-POPに詳しくない日本の視聴者にも、複数の接点を作っている。
特に伊藤潤二コラボは、企画としての振り切りが目を引く。『ストレンジ -伊藤潤二の夜も眠れぬ奇妙な話-』は、ホラー漫画家・伊藤潤二の傑作選をオムニバス形式で実写ドラマ化した作品で、そのために日本オリジナル曲「JIGSAW」が書き下ろされ、『LUCID DREAM』期間生産限定盤のジャケット写真も伊藤潤二の描き下ろしとなる。K-POPガールズグループの日本盤ジャケットとしては相当異色。「かわいい」でも「クール」でもない、”不穏さ”に振ったビジュアル。
この不穏さは、実はタイトル曲「LUCID DREAM」の音像とも連続している。夢の中で自分に会う、というコンセプトは、方向次第で悪夢にも接続する。「JIGSAW」の伊藤潤二的世界観と、「LUCID DREAM」の内省の間には、細い線がつながっている。EPを1周聴くと、この線がぼんやり見える設計になっている。ここが今回のEPの一番よくできているところ、と思う。
App Storeキャンペーンソングの「Fashion」だけは、明るく前向きな入口として独立させている。バランスの取り方が上手い。3曲を同じトーンで揃えなかったのが、EPとしての厚みにつながっている。
リミックス2週連続配信の座組み:☆Taku Takahashi と Shin Sakiura
この曲の話をするうえで、リミックス企画は避けて通れない。日本オリジナル楽曲のリミックス音源をリリースするのは、IVEにとって今回が初。しかも2週連続、しかも日本のプロデューサー2組を並べる、という座組み。企画としてはっきり”日本の音楽シーンとの接続”に振っている。
第1弾の☆Taku Takahashi(m-flo)は、日本のダンスミュージック史を語るうえで外せない一人。Y2Kの雰囲気が感じられるレトロな要素と、R&Bテイストが合わさったドリーミーなUKガラージ、華やかなストリングスと2ステップビートの軽快なグルーブ感、という手触りは、原曲の”夢”のモチーフをフロアに接続する翻訳になっている。原曲の内省を残しつつ、身体を動かせる方向に開き直している。7月1日配信。
第2弾のShin Sakiuraは、日本のR&B・エレクトロニック領域で近年もっとも注目されるトラックメイカーの一人。「LUCID DREAM (Shin Sakiura Remix)」が7月8日に配信リリースされている。Shin Sakiuraの起用は、原曲のアンビエントな空気感をさらに濃くする選択で、☆Takuの”外向き翻訳”とShin Sakiuraの”内向き深化”、という2種類の再解釈を並べたことになる。この対比が企画として非常に上手い。
UKガラージの再解釈という流れは、日本でも近年、若手プロデューサーが継続的に触れている領域。IVE本体がこの語彙に接続してきたことは、K-POPの世界的なトレンドとしても筋が通っている。2020年代半ばの2ステップ再評価の流れは、PinkPantheressの浮上以降、無視できない大きさになっていた。そこに乗った、というより、そこと会話した、という距離感。
ふつう、リミックス盤は宣伝の消耗品として扱われがち。今回のように、1曲を軸に日本のプロデューサーを並べて2週連続で聴かせる形は、リスナーに「原曲をもう一度聴き直させる」導線として機能する。私はこの2週で3回、原曲に戻った。
チャートで見る「LUCID DREAM」。Billboard JAPAN首位が示すもの
数字の話も少し。Billboard JAPANのアルバムセールスで『LUCID DREAM』は13.9万枚で首位を獲得している。K-POP日本盤EPの初週セールスとしては、上位クラスの数字。この数字が意味するのは、単に売れた、以上の話で、日本市場での”作品として買われた”証拠でもある。
ここで書いておきたいのは、タイトル曲「LUCID DREAM」のような内省寄りのトラックが、パッケージ全体の販売を牽引できたという事実。派手なアッパー曲でなくても、EPの顔として機能した。これは重要。K-POPの日本盤EPは、タイトル曲のインパクトで初動を作る戦略が主流だったが、今回はコンセプトの深さで作品を売った形になっている。
チャート上の動きだけを見ればK-POP勢が上位に並ぶのは珍しくない。ただ、内側に振ったコンセプトの日本オリジナル曲がこの規模で受け入れられたことは、次の日本活動の設計にも影響するはず。個人的な予想としては、この方向はもう1、2作は続くと思う。
関連作品と次に聴くならこの並び
「LUCID DREAM」を気に入ったら、EP内の「JIGSAW」を続けて聴くのがいい。原曲と伊藤潤二の世界観がつながって、EP全体の企画意図が見えてくる。「Fashion」は明るい対比として最後に置くと、6曲通してのバランスが整う。
過去作を辿るなら、日本語バージョンで収録された「REBEL HEART」「ATTITUDE」を含む3rd EP『IVE EMPATHY』の系譜に戻るのがおすすめ。IVEが日本市場でどうタイトル曲の座組みを変えてきたのか、時系列で追えるはず。
「Lucid Dream IVE」の関連作品
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まずこの作品から聴く
- JAPAN 4th EP『LUCID DREAM』 — 本曲を含む全6曲の企画盤
▶ Amazon / 楽天 で探す - JIGSAW — 伊藤潤二ドラマ主題歌の同EP曲
▶ Amazon / 楽天 で探す - Fashion — App Storeキャンペーンの明るい対比
▶ Amazon / 楽天 で探す - 3rd EP『IVE EMPATHY』 — 日本語版元曲を含む前作
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入門動線
「LUCID DREAM」からIVEの世界に入るなら、次の1曲は同EP収録の「JIGSAW」。ドラマ主題歌としてのフックと、伊藤潤二コラボの企画性で、”内省と不穏”のラインが理解しやすくなる。関連1枚としては、3rd EP『IVE EMPATHY』を挙げたい。「REBEL HEART」「ATTITUDE」の原曲(韓国語版)を聴いてから日本語バージョンに戻ると、IVEの日本語適応のプロセスが立体的に見える。
まとめ:強さを維持したまま、視線だけを変えた1曲
「LUCID DREAM」は、IVEというグループの強さを一段引き算した、というより、強さの向きを変えた曲だと思う。外向きだった矢印を、いったんうちに折り返す。その折り返しの角度が絶妙で、内省に振りすぎず、パフォーマンス性も残っている。だから、EPのタイトル曲として機能したし、Billboard JAPANのアルバムセールスで首位を取る作品の顔にもなった。
リミックス2週連続配信、伊藤潤二コラボ、App Storeキャンペーン。EP全体の企画設計まで含めて眺めると、この1曲は”日本での次の章”の入口として作られている。次にIVEが日本で何をやるのか、少し楽しみになる作品。個人的には、Shin Sakiura Remixを夜に聴くのが一番好きです。


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