JENNIE『like JENNIE』を今なら読める、BLACKPINKからの独立宣言

赤いスタジオライトの下で回るレコードと、金属的な光沢のあるマイクスタンドのイメージ 楽曲

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2025年3月にリリースされたlike JENNIE🛒楽天を、いま改めて聴き返している。あの時期の話題性、ソロ・デビュー・アルバム『Ruby』のリード曲、Diploのプロデュース、TikTokでのダンスチャレンジ。それらを通り抜けた今、この曲は当時よりむしろ大きく響く。『like JENNIE』は自己紹介ではなく、この2分3秒でしか成立しないスケールの主張だった。その後の『Handlebars』や『Less than a Lover』まで含めて時系列で並べ直してみる。すると、この曲がJENNIEというアーティストのキャリアの結節点だったことが見えてくる。

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この曲の要点

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「BLACKPINKのJENNIE」から「JENNIEというレーベル」へ

まず時系列を整理しておく。『like JENNIE』は2025年3月7日、ソロ・デビュー・アルバム『Ruby』のタイトル・トラックとしてOdd AtelierとColumbia Recordsから同時リリースされた4枚目のシングルだ。先行シングルは『Mantra』『Love Hangover』『Extra L』と続き、ラストに本人の名前を冠したこの曲が置かれている。順番として、これはかなり意味深い。自己紹介から始めるのではなく、周辺曲でモードを提示したあとに、名を冠した曲で締める。

後追いで読むと、この配列は2023年に自身のレーベルOdd Atelierを設立し、その後Columbia Recordsと契約したという事業側の判断とセットで理解したほうがいい。BLACKPINKの一員として世界最大級のガールズ・グループを背負ってきた人が、自分の名前でレーベルを立てる。そのレーベルからの最初のフルレングス、その表題曲。「like JENNIE」というタイトルは、単なる自己言及ではなく、レーベル名と近い水準で機能する固有名詞の宣言だった、と今なら言える。

当時はまだ「BLACKPINKのJENNIEのソロ」として消費された部分が大きかった。でも、その後リリースされた『Less than a Lover』を2025年7月にリリースし、Tame Impalaのコラボまで含めて動き続けている流れを見ると、『Ruby』とその表題曲は「単発のソロ・プロジェクト」ではなく、独立事業の初期プロダクトだった。この視点で聴き直すと、曲の中に埋め込まれた自信のトーンの意味が変わる。

Diploという選択。2分3秒に何が詰め込まれているか

プロデューサーの選択は、この曲を読む上でおそらく一番の補助線だ。プロデュースはDiplo、Leclair、Jaxxtone。作曲・作詞にはJennie、Tayla Parx、Amanda “Kiddo A.I.” Ibanez、Zico、Thomas Wesley Pentz(Diplo本人)、Jorge Alfonso Sr.が参加している。ヒップホップとブラジリアン・ファンクとフォンクを掛け合わせた設計、というと言葉としては派手だが、実際に耳で追うと構造はもっとシンプルで、金属的な質感のキックとハイハットの粒立ちが前に出て、そこにJENNIEの声が薄いレイヤーで乗る。

Diploは2024年にZicoと『Spot!』で組んでいるので、この人選は流れとして自然だ。『Spot!』はDiploとZicoが共同で手がけた2024年の楽曲で、『Like JENNIE』はその延長線上の再タッグにあたる。ここが後追いで見ると面白いところで、K-popの内側からアメリカのメインストリーム・ダンスの語彙に橋を渡す仕事を、Zicoは2020年代前半から積み上げてきた。JENNIE側にとってDiploを選ぶことは、ソロ・アイドルの選択というより、Zicoが敷いてきた導線に乗ってグローバルなクラブ・ミュージックの言語で自己言及する、という設計上の判断だった。

特にサビ前後のキックのミックスは、K-popの女性ソロ曲としてはかなり攻めた低域処理をしている。イントロのブレイクからサビに落ちる瞬間、ハイのアタックを刻んだあとに深いキックが来る。この構造は完全にDJ/クラブの発想で、ラジオよりフロアを意識している。だから2分3秒という長さも納得がいく。収録時間は2分3秒。ここはストリーミング時代の短尺トレンドと片付けたくない。フロア用のワンフレーズを、そのまま完成品として提出した、という感覚のほうが近い。

baile funkとphonkが選ばれた理由

ジャンル表記としてはヒップホップにブラジリアン・ファンクとフォンクが加わる。この配合は、2020年代半ばのグローバル・ダンスの潮流をかなり正確に捉えている。baile funkはブラジル発、phonkはメンフィス系のサンプル文化を経由してTikTokで爆発した音像。どちらも「重心が低い」「BPMが速すぎない」「ループの快感で持たせる」という共通点がある。

K-popのシングル曲は伝統的に、EDM/ハウス/トロピカルを軸にした「明るく上に抜ける」プロダクションを選びがちだった。BLACKPINK自身、その系譜の一部を代表してきたグループでもある。その中で『like JENNIE』が選んだのは、明確に「下に沈む」音の重心。ここが、後追いで聴くと決定的に意味を持ってくる。Billboardが2025年のベストK-popソングに本曲を選び、金属的な質感のbaile funkとphonkのハイブリッド・プロダクションの上で、キャリア最鋭のラップを繊細な自信の表情で乗せている、と評したのは、この重心の選択を的確に言い当てている。

『Ruby』というアルバム全体を通して聴いても、この曲だけがやや異質だ。アルバムの1曲目はFKJとの『INTRO : JANE』で、柔らかく夢のように軽い質感から始まる。そこから12曲かけて、Doechii、Dua Lipa、Childishらを迎えたコラボが並ぶ。その中で表題曲だけが、金属質のキックで沈む。アルバムを一度通した後にこの曲だけをリピートすると、輪郭がさらにくっきり浮かぶ設計になっている。

チャートの動き、数字が語らなかったこと

数字の話をしておく。『like JENNIE』はBillboard Hot 100に初登場83位、Billboard Global 200に初登場5位という結果でスタートした。Hot 100の83位は、単独のK-pop女性ソロとしては十分健闘した数字だが、突出とまでは言えない。むしろ意味があるのはGlobal 200の5位のほうで、こちらはBillboardの側から「BLACKPINKメンバー4人の中で最も高いGlobal 200初登場」と評価されたポイントだ。

アルバム全体で見ると、『Mantra』はBillboard Global 200とCircle Digital Chartの両方で3位まで上昇し、UKシングル・チャートでは37位を記録して韓国人女性ソロとして史上最高位を更新している。数字だけを追うと、リード曲は『Mantra』のほうが上、ということになる。ただ、そこで話を終えてしまうのはもったいない。

『like JENNIE』は全世界のストリーミング累計再生数が2億回を突破MVは公開から約2か月で1億回再生を突破と、単独指標で見ればどれも十分に大きい。でも、この曲の本当の効き方は、そうした瞬間最大風速の数字より、「アルバムのタイトル・トラック」としての残り方にある気がする。半年後、1年後にプレイリストの中でこの曲を選ぶ動機は、順位よりも「JENNIEらしさが2分に凝縮されている」という質感の記憶のほうだ。

今なら言える、この曲の位置

後追いで一番面白いのは、この曲がリリース直後に受け取られた「自信満々のフレックス曲」という読みが、今聴くと少し違って響く点だ。当時は「BLACKPINKのJENNIEがソロで自己主張」という文脈で消費されていた。でも、その後のリリースの流れを並べる。『Handlebars』でDua Lipaと組み、『Extra L』でDoechiiと組み、7月には『Less than a Lover』をリリースする流れと並べると、『like JENNIE』はキャリアの中で「自己紹介の曲」というより「自分の輪郭を一度硬く固めるための曲」だったと読める。

面白いのは、その後の曲でJENNIEはむしろ輪郭をどんどん柔らかくしていく方向に動いていることだ。『Less than a Lover』のR&B寄りのトーンや、Tame Impalaとのコラボでのサイケデリックな浮遊感。あれらは『like JENNIE』でいったん「自分の名前を最も硬い音像で刻印した」からこそ、対比として機能している。硬く固めた土台があるから、その後で柔らかい方向に動いても、輪郭がぼやけない。

個人的には、この曲は「深夜の運転中に急に化ける曲」として設計されているような気がしている。日中にイヤホンで聴くと、正直やや攻撃的で、2分3秒の短さも物足りない。ただ、車のスピーカーで低域が体に届く環境で、しかも周囲が静かな夜だと、キックのアタックとハットの粒立ちが完全に別物に聴こえる。フロアでかかったときの効き方を、そのまま個人の空間に持ち込めるように設計されている、という感覚。ファンの方はぜひ一度、環境を変えて聴き直してほしい。

聴きどころ3点

  • キックの重心。サビに落ちる瞬間、ハイのアタックから深いキックに切り替わる処理。K-popの女性ソロ曲としてかなり低い位置に重心を置いている。
  • 2分3秒の設計。ワンフレーズをフロア用に完成させた作りで、無駄がない。短尺化トレンドに乗ったのではなく、必要なだけの長さに削った印象。
  • 韓国語の混ざり方オールイングリッシュのアルバムの中で、この曲だけが韓国語をラインに織り込んでいる唯一のトラック。名前を冠した曲に母語を残したことの意味を、耳で確かめてほしい。

『Ruby』というアルバムの中での位置

アルバム『Ruby』は2025年3月7日リリース、Odd AtelierとColumbia Recordsからの発表。参加コラボレーターはDoechii(『Extra L』)、Dua Lipa(『Handlebars』)、Childishらと、2020年代半ばのグローバル・ポップの主要人物が並ぶ。この人選自体、Odd Atelierが単なる個人事務所ではなく、A&R機能を持つレーベルとして立ち上がっていることの証明でもある。

アルバム全体で聴くと、『like JENNIE』はちょうど「中盤の頂点」に配置されている。序盤のFKJとの浮遊感、コラボ曲での多面的な表情、そして表題曲での「重心の低い自己言及」。この曲は、アルバムの中で「他人と組まずに自分の名前だけで立つ」トラックとして機能している。共作者の名前は並んでいても、聴感としては圧倒的にJENNIE単独の曲。ここも、レーベル・オーナーとしての彼女の立ち位置を反映している。

そう。BLACKPINKの他のメンバーもこの時期にBillboardチャートで存在感を示していた。ROSÉが2024年11月に『APT.』でBruno Marsと、12月に『Toxic Till The End』でHot Shot Debutを獲得しているという並列した動きも含めて、2024〜2025年はBLACKPINK4人それぞれのソロ活動が同時多発した時期だった。その中で、レーベル設立まで踏み込んだJENNIEの動き方は、他の3人と比べても事業設計として一歩踏み込んでいる。

『Spot!』からの導線、Zicoという結節点

ここで少し寄り道して、Zicoの話をしたい。Zicoは2024年にDiploと『Spot!』で組んでおり、『Like JENNIE』はその再タッグにあたる。K-popの内側からアメリカ側のプロデューサーと自然に橋を架けられる作曲家・ラッパーは、2020年代半ばの時点でそう多くない。Zicoはその中でも、自身のソロ・キャリアとプロダクション両輪で動ける稀有な存在だ。

JENNIEがDiploと組むにあたって、Zicoが共作クレジットに入っている意味は大きい。単なるゲスト参加ではなく、韓国語と英語のライン設計、フロウの詰め方、K-popの語感とアメリカのヒップホップ/ダンスの語感を橋渡しする仕事。この橋渡しがあるからこそ、『like JENNIE』は「アメリカ向けに擬態したK-pop」でも「アメリカ人が作った韓国風の曲」でもなく、両方の言語で違和感なく響くハイブリッドとして着地している。

この構造は、今後のJENNIEの動きを予測する手がかりにもなる。Odd Atelierが今後、韓国の作家陣とアメリカ側のプロデューサー陣の間で橋渡し的なA&Rを続けていくなら、『like JENNIE』はそのフォーマットの原型として振り返られることになる、と思っている。

入門動線

次に聴くなら『Mantra』。同じ『Ruby』からのリード曲。Billboard Global 200とCircle Digital Chartで3位、UKシングル・チャートで韓国人女性ソロ最高の37位を記録した曲だ。『like JENNIE』の硬質な自己言及と対比すると、『Mantra』の軽さと開放感が際立ち、JENNIEというアーティストの振れ幅がわかる。関連1枚は当然『Ruby』。13曲かけて、Doechii、Dua Lipa、FKJまで含む多彩な共演者を配置しつつ、中央に『like JENNIE』を置く構成そのものが、Odd Atelierの初期A&R思想の見本になっている。

この曲が残すもの、ファンへの問い

最後に、この曲について結論を出しきらない形で置いておきたい論点がひとつある。『like JENNIE』は、JENNIEの「自己言及の曲」なのか、それとも「Odd Atelierというレーベルの初期表明の曲」なのか。この二つは似ているようで違う。前者ならこの曲は個人史のマイルストーンで、後者なら事業の第一号プロダクトだ。

個人的には後者寄りに読んでいる。ただ、これはファンの中でも意見が割れる論点だと思う。BLACKPINKからの延長線上で聴く人にとっては明らかに前者だし、その読み方が間違っているわけでもない。むしろ、この曲が同時に両方として機能してしまうところに、JENNIEというアーティストの現在地の面白さがある。数字の順位でこの曲を評価するフェーズはもう過ぎていて、これから先の彼女のリリースを、この2分3秒がどう照らし返してくるか。そちらのほうを長い時間軸で見届けたい。

いまこの曲を初めて聴く人にも、リリース当時に何度も聴いていた人にも、共通してお勧めしたい聴き方がひとつある。『Mantra』→『Extra L』→『like JENNIE』→『Less than a Lover』の順で並べて、時系列で通して聴くこと。半年強の間にJENNIEの声の使い方がどう変わっていったかが、耳で追える。『like JENNIE』はその真ん中に、動かない支点として立っている。

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  • Ruby — 本曲収録のソロ・デビュー・アルバム
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  • Mantra — 『Ruby』先行リード曲。対比で聴きたい
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  • Extra L — Doechiiとの共演。振れ幅の証明
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  • Less than a Lover — 本曲後の2025年7月シングル
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