BillyrromのSALTARE🛒楽天が、じわじわと届いている。派手に跳ねるというより、聴いた人の生活の中に自然と入り込んでいくタイプの広がり方だ。ブラックミュージックを土台にしてきた6人が、地中海の光を借りて自分たちの躍動を翻訳した一曲。順位の数字より、この翻訳の仕方の方が本作の芯を突いている気がする。
チェコの街並みで撮られたMVも含めて、この曲は「どこで聴くか」を問い直してくる。夏の午後、窓を開けた車の中。あるいは終電間際の駅前。ラテンのリズムは、意外と日本の日常に馴染む。
この曲の要点
- Billyrromのメジャーセカンドシングル「SALTARE」のミュージックビデオが公開された楽曲で、2026年7月29日に配信リリースされた。
- 前作”Boogie”に続くメジャー2ndシングルとなる本作”SALTARE”は、夏の陽射しや地中海の風景を思わせる開放感と、ラテン調のリズムが溶け合うダンサブルなアップテンポナンバー。ラテン語で「踊る」を意味するタイトルのもと、「人生を踊る」というテーマを、軽快なビートとBillyrromらしい洗練されたバンドサウンドで表現している。
- MVはチェコで撮影、現地の美しい街並みと異国情緒あふれる風景が楽曲の開放的なムードを鮮やかに映し出している。
- Billyrromは今年4月に「グローバルパートナーシップ」として〈UNIVERSAL MUSIC〉への所属を発表したばかりの6人組。
「踊る」というラテン語を、あえて日本のバンドが選んだ意味
タイトルのSALTAREは、ラテン語で「踊る」を意味する語。イタリア語のsaltareにも受け継がれていて、跳ねる・飛ぶ、といった身体の弾みまで含んだ動詞だ。日本のバンドが、英語でも日本語でもなくラテン語を選ぶ。ここに、この曲の一つ目の面白さがある。
英語のdanceは意味が広がりすぎている。ダンスミュージック、ダンスフロア、あらゆる文脈を背負って擦り切れている単語。それに対してSALTAREは、日本の耳にはほぼ「初出の音」として届く。意味を知らずに聴いても、S・A・L・T・A・R・Eという音のリズム自体が、もう跳ねている。タイトルの音節がすでに曲の身振りになっている、と言ってもいい。
「あなたはあなただからね」というメッセージとともに、自分らしく生きることを肯定する、生命力に満ちた1曲に仕上がっているとされる本作。生き方の肯定というテーマは、下手をすると説教くさくなる。それをラテン語のタイトルと、地中海を思わせるサウンドの開放感で外に開いたのが賢い。押しつけがましさが、風景に溶けていく。
個人的には、この選択に「町田発の日本のバンドが、自分たちの躍動をどの言語で名指すか」という問いへの答えを見た。英語圏でも日本語圏でもない、もっと古い、もっと共有された身体の記憶。そこに引き寄せて名前をつけた。
Billyrromというバンドの成り立ちを、あらためて
SALTAREを語る前に、Billyrromというバンドの立ち位置を整理しておきたい。Billyrrom(ビリーロム)は、日本の6人組バンド。2020年結成。ソウル、ファンク、ロックなど幅広いルーツを持つメンバーによって、次世代ポップミュージックを創出する——というのが公式の紹介文。
編成はMol(Vo)、Rin(Gt)、Taiseiwatabiki(Ba)、Shunsuke(Dr)、Leno(Key/Syn)、Yuta Hara(DJ/MPC)の6人組音楽集団で、東京都町田市出身のメンバーによって結成された。バンドにDJ/MPCが正規メンバーとして入っているのが、まずこの編成の要。ロックバンド的な4ピースにキーボードを足しただけの構成ではなく、そこに打ち込みとサンプリングを担うポジションが常設されている。SALTAREのラテン調のリズムも、この編成があってはじめて自然に鳴らせる。
バンド名の由来も面白い。敬愛するビル・エヴァンスが持つ流されないマインドと、移動型民族ロマ族が持つ、自分たちの音楽を様々な場所から発信していくという流動性を大切にする信念から名付けられた。ビル・エヴァンスとロマ。ジャズピアノの静と、放浪の民の動。この矛盾を看板にしているバンドが、地中海のラテンで踊るタイトルを掲げた——と考えると、SALTAREはむしろ本流のど真ん中に位置する。
Mol(Vo)は別のインタビューで、「その時の感覚でばっと作ったのが1曲目の「Babel」で。だから、最初から、自分たちがやりたいと思うものを作ってただけ」と結成当初を振り返っている。この「その時の感覚でばっと」という即興性は、SALTAREの跳ねるリズムとも地続きだ。設計図をきっちり描いてから鳴らすタイプではなく、鳴らしてから設計図を書き足していく。そういう作り方の空気が、6人の音像には残っている。
音の中身を聴く——ラテンとバンドサウンドの継ぎ目
結論から言うと、SALTAREの妙は「ラテンをやり切らない」ところにある。純粋なラテンポップに寄せれば、日本のリスナーからは異国情緒の消費物として距離を置かれる。逆にJポップに寄せれば、タイトルの選び方が浮く。この曲は、その中間の細い一本道を選んでいる。
軽快なビートとBillyrromらしい洗練されたバンドサウンドという公式の説明は、実は結構正確だ。ラテンのシェイカーやコンガ的な質感は入っているのだけれど、リズムの基盤は生ドラムとベースの粘り。ここが崩れないから、ラテン要素は「衣装」として機能する。骨格はあくまでソウル/ファンク仕込みのバンド。
Molのヴォーカルの置き方にも注目したい。ラテンのリズムに引っ張られると、歌もついつい前ノメリになる。SALTAREのヴォーカルは、少し後ろに引いている。ビートの上に踊るのではなく、ビートの少し奥に立って、そこから歌を渡す感じ。この距離感が、聴いていて疲れない理由の一つだと思う。
前作の“Boogie”を隣に置くとより分かる。あちらはファンクやディスコを基調にしたグルーヴィーなダンス・ポップトラック。印象的なベースラインやカッティングギター、DJによるアクセントが都会的な音像を生み出し——という都会寄りのダンスミュージックだった。BoogieがNYの地下のダンスフロアなら、SALTAREはバルセロナかナポリの、屋外の広場。地中を潜る音楽と、空に開く音楽。同じダンスでも、抜ける方向が違う。
聴きどころ3点
- タイトルの音節そのものが弾んでいる——S・A・L・T・A・R・E。意味を知らなくても、口に出すと踊ってしまう語感。曲名の音まで含めて設計されている。
- ラテンの衣装、ソウル/ファンクの骨格——シェイカー的な質感は入るが、リズムの基盤は生バンド。ここが崩れないから異国情緒に流されない。DJ/MPCの参加が効いている。
- ヴォーカルの引きの美しさ——ビートに乗って前へ出るのではなく、少し奥から歌を渡す。曲の主張が強いのに、聴いていて疲れない理由。
この曲は「昼のドライブに効く」ように設計されている気がする
SALTAREを繰り返し聴いていて気づくのは、この曲が屋内より屋外で化ける種類の音だということ。夜のダンスフロアで真価を発揮するBoogieとは対照的に、SALTAREはたぶん、休日の昼、車の窓を少し開けて走っているときにいちばん効く。ラテンの開放感は、閉じた部屋の空調の下では半分しか届かない。
「人生を踊る」というテーマも、頭で理解する言葉ではなく、身体で受け取る言葉だ。だからたぶん、リスナーの多くはこの曲を、意味を追わずに身体で受けている。歩きながら、運転しながら、朝の支度をしながら。そういう「ながら」の時間に強い曲として設計されているように感じる。
この曲を家で腰を据えて聴くのはもちろん自由だ。ただ、一度は外に持ち出して聴いてほしい、と言いたくなる。地中海はチェコにもここにもない。ただ、地中海を思わせる光は、日本の午後の道路にもふつうに落ちている。
キャリアの中での位置——メジャー2ndという段の意味
SALTAREは前作”Boogie”に続くメジャー2ndシングルにあたる。今年4月に「グローバルパートナーシップ」として〈UNIVERSAL MUSIC〉への所属を発表し、5月にはMajor 1st Single「Boogie」で新たなフェーズへ踏み出した——という流れの、直接的な続き。
メジャー1stは、いわば名刺代わり。バンドがこれまで積み上げてきたブラックミュージック的な武器を、都会のダンスミュージックとして提示した曲だった。ではメジャー2ndで何をするか。ここでの選択が、そのアーティストの中期的な方向を決める。
Billyrromが2ndに選んだのは、1stの延長線ではなく、少し横に踏み出す方向だった。同じダンスの語彙でも、Boogieの都会性からSALTAREの地中海的な開放感へ。この横のずらし方に、6人の「型に閉じない」姿勢が出ている。バンド名の由来にある流動性を大切にする信念を、実作で示した形。
加えて、『オールナイトニッポン0』初担当も決定という動きもある。深夜ラジオの新しい担当枠は、単なる露出ではなく、リスナーとの「地声」でのやりとりが増えるフェーズを意味する。SALTAREのタイミングでラジオが始まるのは、曲のテーマ(自分らしくいる、人生を踊る)とも噛み合っている。
MVがチェコで撮られた、という事実の重さ
地中海を思わせる音を、あえて地中海ではなくチェコで撮る。この選択、地味に効いている。
MVはチェコで撮影、現地の美しい街並みと異国情緒あふれる風景が楽曲の開放的なムードを鮮やかに映し出している。音がラテンで、映像が中欧。もし本当にスペインやイタリアで撮っていたら、この曲は「音も映像もラテン」というワンレイヤーの作品になっていた。チェコを選んだことで、音と映像の間に一枚の余白が生まれた。
これは想像だけれど、Billyrromというバンドがバンド名の由来に移動型民族ロマ族が持つ、自分たちの音楽を様々な場所から発信していくという設定を持っていることと、無関係ではない気がする。ロマは中欧を含む広い地域を移動してきた人々でもある。チェコの街並みでラテン調の曲を歌うという行為の中に、バンドのアイデンティティがそのまま入っている、と読むこともできる。
「音楽の産地」と「映像の産地」を意図的にずらす。この程度の解像度でMVを作れるバンドは、そんなに多くない。
チャートでの動き、そしてその外側
SALTAREのチャートでの伸び方は、いわゆる爆発型ではない。派手なタイアップで一気に上位に飛び込むタイプではなく、リリース後にじわじわと定着していく——という広がり方が、この曲の性格と合っている。ラテン調のダンスポップは、日本のチャートで即効性を出しにくい代わりに、季節を越えて残る。夏の曲として消費されて終わるのではなく、翌年の同じ季節にもう一度戻ってくる余地がある。
数字はそのうちついてくる、と言い切りたくなる。ただ、この曲に関して言えば、順位より「どこで鳴っていたか」の記録の方が後々効いてきそうな気がする。ラジオで、車の中で、休日の午後の店内で。数字にはならないけれど、生活の中の風景として残る種類の広がり方だ。
チャートを追う側としても、瞬発力のあるヒットと、長く効くヒットを同じ物差しで測るのは限界がある。SALTAREはたぶん、後者の測り方が似合う。
ここから聴きたい人へ——Billyrromの入り口として
SALTAREでBillyrromを初めて聴いた、という人にとって、この曲は入り口として悪くない。ただ、この曲だけで判断してしまうと、バンドの持ち味の半分しか見えない。もう半分は、都会の夜の側にある。
入門動線
次の1曲として推したいのは、直前のメジャー1stBoogie🛒楽天。SALTAREが屋外の昼だとしたら、Boogieは屋内の夜。同じダンスの語彙が、環境を変えるとここまで表情を変える、というのが体感できる。印象的なベースラインやカッティングギター、DJによるアクセントを耳で追うだけでも、6人のバンドとしての厚みが分かる。
もう少し遡って全体像を掴むなら、1stアルバムWiND🛒楽天。バンドのChapter IIのスタートを飾る作品で、SALTAREやBoogieに至る流れの根が入っている。ソウルもファンクもロックも、まだ「洗練」という言葉で塗り固められる前の、生の素材として並んでいる。
問い——「人生を踊る」を、あなたはどう受け取ったか
SALTAREのテーマである「人生を踊る」は、解釈が分かれる余地のある言葉だと思う。前向きな肯定として受け取る人もいれば、もう少し諦めの入ったユーモアとして受け取る人もいる。人生に対して「踊る」という動詞を選ぶ、というのは、実は結構複雑な態度だ。全面的な肯定でも、否定でもない。
Billyrromの6人が、どちらの色をどれくらい混ぜてこの言葉を置いたのか。あるいはリスナーの側で自由に配合してほしい、という設計なのか。ここは断定しない方がいい気がする。曲の価値を評価で閉じてしまうと、この余白ごと蓋をすることになる。
個人的には、この曲を聴いた後、上機嫌になるより先に少しだけ静かになる瞬間がある。跳ねているのに、どこかに落ち着きがある。それが、ブラックミュージックを土台にしてきた6人が地中海の光を借りに行った、その借り方の絶妙さなのだと思う。派手に踊るための曲、というよりは、踊り方を思い出すための曲。少なくとも、自分にはそう届いた。
まずこの作品から聴く
- Boogie — 都会の夜側の姉妹曲
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