King Gnu「一途」を今聴き直す 呪術0主題歌が刻んだ分岐点

夜の街に走る一本の光線と、鋭く抜けるバンドサウンドを想起させる抽象的なグラフィック 楽曲

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2021年の年末、劇場版 呪術廻戦 0 の公開に合わせて配信された一途🛒楽天が、いままたチャートの上位で息を吹き返している。当時は「呪術0の主題歌」という強烈な看板とセットで語られた曲だが、あれから数年が経ち、King Gnuというバンドの現在地から振り返ると、見えるものがだいぶ違ってくる。「一途」は勢いで押し切った曲ではなく、King Gnuが歌ものバンドへ舵を切った最初の号砲だった。今日はその補助線を、いくつか引いてみたい。

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この曲の要点

  • 2021年12月10日に先行配信、12月29日に両A面シングル「一途/逆夢」としてCDリリース。
  • アニメ映画『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌として書き下ろされた楽曲。
  • MVは映像作家・木村太一が監督。
  • 2023年11月29日発売の4thアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』に「一途 (ALBUM ver.)」として再構築され収録。
  • 常田大希本人が「全部サビみたいな曲」と発言した、疾走感重視の設計。

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「呪術0の曲」という看板を、いったん外して聴いてみる

結論から言うと、「一途」を作品タイアップの文脈だけで語ると、この曲の半分は取りこぼす。当時、2021年12月24日公開のアニメ映画『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌として書き下ろされた楽曲で、主人公・乙骨憂太と里香の関係性を表すような一途な想いが込められていると紹介され、その受け止め方は今も間違っていない。ただ、それだけだと「タイアップに合わせた書き下ろし」で話が閉じてしまう。

個人的には、初回でイヤホンを外したとき、頭に残ったのはむしろ曲構造のほうだった。イントロなしで叩きつけるように入るキメ、歌が入る前にリスナーの姿勢を変えさせる強引さ。あの2秒で、この曲は「アニメ映画の主題歌」の器を軽くはみ出していた。

常田大希は本人コメントで、呪術廻戦の世界観にピッタリの、ヒリヒリとパンチのある真っ直ぐな楽曲に仕上がったと語っている。「ヒリヒリ」と「パンチ」。この2語だけで、彼がこの曲をどう鳴らそうとしたかがわかる。物語の伴走ではない。単独で殴りに行く曲として設計している。

「全部サビみたいな曲」という設計思想の意味

この曲を語る上で外せない一節がある。King Gnu自身が「全部サビみたいな曲」と発言しているという記述だ。当時はこのフレーズが、疾走感やキャッチーさを説明する言葉として消費された印象がある。ただ、今の耳で聴くと、これはもっと踏み込んだ設計宣言だったと思う。

Aメロ→Bメロ→サビ、という日本のロックが数十年かけて磨いてきた「溜めて解放する」フォーマットを、この曲はほとんど信用していない。溜めない。ずっと解放している。TikTokの15秒プレビュー文化に対する適応、と読むのは早計で、むしろ映画の主題歌という長尺のフォーマットで「サビだけの3分半」を成立させられるか、というバンドとしての賭けだったように聴こえる。

面白いのは、その賭けが「一途」以降のKing Gnuの何曲かに、静かに影響を落としていることだ。溜めのある大河ドラマ的な楽曲(「三文小説」「白日」の系譜)と、頭から走り抜ける楽曲。両輪で走るバンドになった最初の一歩が、実はここにある。

サウンドの読みどころ ドラムとギターの立ち位置

プロダクション面で今こそ言えるのは、勢喜遊のドラムがこの曲の主役の一角だ、ということ。8ビートで押し切っているように聴こえて、実はキメの位置とフィルインの入れ方がかなり細かい。譜面化されたものを追うと「劇場版 呪術廻戦 0」オープニングテーマとしてのドラム譜が流通しており、いまも初心者から中級者の練習曲として選ばれ続けている。3分ちょっとの尺に、これだけ叩きどころが詰まっている曲は多くない。

常田のギターは、この曲では歌の伴奏に徹する時間帯が長い。むしろ耳を引くのは、コード進行が要所で「泣きの短調」に落ちる瞬間の設計だ。全部サビと言いながら、実は泣きどころの配置は妥協していない。歌詞世界の一途さが、脆さや切なさとしっかり噛み合うのはこの短調の落としどころがあるからで、この設計がないと曲は「勢いだけ」で終わっていた。

新井和輝のベースは、ドラムに寄り添う低音の役から一歩踏み込んで、サビの後半で対旋律のように動く瞬間がある。ここも聴きどころ。1回目より2回目、2回目より終盤、と音数が微増していく。同じ「全部サビ」を繰り返しているのに聴き飽きない設計は、ベースが担っている。

常田大希の作家性――劇伴脳とバンド脳のせめぎ合い

結論を先に言うと、「一途」は常田大希の中にある劇伴脳とバンド脳がもっともきれいに握手した瞬間の記録だ。彼にはmillennium paradeでの作家性がある。オーケストレーションと電子音、映像との共犯関係。一方でKing Gnuでは、4人が同じ部屋で音を出したときの物理的な塊感を優先する。この二つは同じ人格の中で常にせめぎ合っている。

「白日」や「三文小説」の頃は、そのせめぎ合いが歌の器の重厚さの方に振れていた。映画的な広さを、バンドの音で描ききる方向。「一途」はそこで一度、逆側にハンドルを切っている。映画のタイアップなのに、劇伴的な広さをあえて手放して、4人が生身で鳴らす3分半にした。

これが後の「SPECIALZ」の設計につながる、と私は読んでいる。映像作品に添えるとき、映像の情感を音で補完しない。むしろ真逆に、バンドが自分の速度で走り抜けるところに、映像側が乗ってくるのを待つ。作家の主従が反転している。「一途」で試したことが、「SPECIALZ」でひとつの型になった。

もちろん、これは全部後知恵だ。当時は「呪術0の主題歌が出た」で十分だった。ただ数年経って、常田がKing Gnuとmillennium paradeを両輪で走らせている現在を見ると、「一途」の位置がやたら鮮明に見える。

井口理のボーカルという、もうひとつの主題

この曲を語るとき、井口理の声の扱い方を外すわけにはいかない。King Gnuは常田のファルセットと井口のハイトーンを重ねることで独特の合成音を作る、と言われてきた。「白日」がその代表格だった。ところが「一途」では、井口のリードがほぼ単独で立っている時間が長い。ハモリで色をつけるのではなく、素で押し切る設計。

これはボーカリストにとって、たぶんかなりきついはずだ。逃げ場のない全部サビ設計で、コーラスの助けをあまり借りずに、3分半を体力で持たせる。ライブ映像で見ると、井口がこの曲だけ明らかに違う顔をしているのがわかる。歌ものバンドへの舵切り、と冒頭で書いたのは、この意味も含んでいる。バンドが4人の合成音で聴かせる時代から、ボーカリストが単独で背負う時代へ。「一途」はその境目に立っている。

個人的には、井口理というボーカリストの評価が「一途」以降、少し変わったと思っている。器用な人、から、勝負曲を任せられる人へ。この変化は、シングルチャートよりもライブ会場で先に共有されていた気がする。

聴きどころ3点

  • イントロ数秒の溜めない入り──歌に入る前の一撃で、リスナーの姿勢を変えさせる強引さ。
  • サビ内部の短調への落とし込み──全部サビ設計を「勢いだけ」にしない、泣きの一瞬。
  • 終盤に向けて増えるベースの動き──同じサビの反復を反復に聴かせない仕掛け。

「一途」以降のKing Gnu──歌ものバンドへの舵切り

ここが今日いちばん書きたかった話だ。「一途」を境に、King Gnuは劇伴的バンドから歌ものバンドに微妙にシフトしている。当時は気づきにくかった。「BOY」「逆夢」「SPECIALZ」「硝子窓」と続くタイアップ攻勢の第一波、その入口に立っていたのが「一途」だった。

2023年11月29日にリリースされた4作目のアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』は、前作『CEREMONY』以降の約4年間で発表してきた数々のヒット曲に象徴される普遍性に、持ち前の先鋭性を共存させた作品だった。全21曲をシームレスにつないだ本作は、ストリーミング全盛の時代におけるアルバム固有の表現である作品全体の流れ、サウンドのストーリー性を際立たせ、それと同時に、ダイナミックな流れの中で既発のヒット曲を最大限に引き立たせるべくリアレンジ、再ミックスされた。「一途」もこの中で ALBUM ver. として再構築され、シングル版よりも少し丸みのある鳴りに整えられている。

この再構築の判断が、いま振り返ると象徴的だ。「一途」の疾走感は残しつつ、アルバム全体の物語の中に居場所を作った。単発ヒットの寄せ集めではなく、バンドの現在地の地図としてアルバムを組んだとき、「一途」はどこに置かれるべきか──その回答が ALBUM ver. だった、と読んでいる。

今の耳で聴く「一途」──夜の運転で化ける曲

この曲、リリース直後は「映画の余韻を家で反芻する曲」として聴かれていた気がする。エンドロールで流れた「逆夢」とセットで、静かな部屋で聴く曲。ところが数年経って、聴かれ方が少し変わってきているように感じる。

個人的には、この曲は夜の運転中に化ける。首都高でも、地方の郊外バイパスでもいい。制限速度を守って走っているのに、体感速度だけが微妙に上がる。あの「全部サビ」設計は、たぶん止まって聴くより、動きながら聴くほうが本来の姿に近い。ドラムのキメが自分の視界の切り替わりと同期する瞬間があって、そのとき曲は映画の主題歌の外側に出る。

もちろんこれはひとつの読みで、朝の通勤で聴く人にはまた別の顔をしているはず。ただ、ヘッドフォンで静かに向き合う曲ではなく、体を動かしている時間帯に効くように設計されている気がする。ファンの人に聞いてみたい話だ。

チャートでの現在──カタログの強さが効いている

リリースから数年経ってなおチャートに顔を出すのは、単に呪術廻戦シリーズの継続的な人気だけでは説明できない。King Gnuというバンドが、シングル単位で聴かれるフェーズから、カタログ全体で聴かれるフェーズに入っていることの表れでもある。

プレイリスト単位の再生が中心になった時代に、「一途」のようにテンポが速く、頭から走り抜ける曲は、他のミッド〜スロー曲の合間で強い。バランサーとして機能する。ヒットの寿命が延びやすい構造にはまっている、とも言える。

チャートの数字の内訳を全部ここで語る資格は自分にはない。ただ、この曲がしぶとく残っている理由は、勢いの話ではなく、バンドがカタログを積み上げた結果だと思っている。

MVという補助線──木村太一の視点

MVについても触れておきたい。新曲「一途」のミュージックビデオは、映像作家の木村太一が監督。木村は、洗練された世界の中に、ロックバンドとしての荒々しさを融合したとコメントしている。この洗練と荒々しさの両立という言葉、実は曲そのものの設計と重なっている。整った作曲と、キメの粗い塊感。両方をひとつのフレームに収める試みだった。

木村太一のディレクションは、当時のKing Gnuの映像戦略を考えるうえでも見逃せない。ライブ質感と映像作家性のバランスをどう取るか、その一つの解が「一途」のMVには残っている。

入門動線

「一途」から King Gnu を掘るなら、次の一曲は同じシングルに収録された「逆夢」がいい。同じ映画の余韻を、真逆のテンポで受け止める曲で、この2曲を並べて聴くと、バンドの振れ幅の広さがはっきり見える。関連1枚は 4thアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』(2023年11月29日リリース)。「一途 (ALBUM ver.)」を含む21曲がシームレスに繋がる構成で、シングルで King Gnu を知った人がバンドの物語の中に入るための入口として設計されている。

「逆夢」との関係――シングルの中で対になる曲

「一途」を語るなら「逆夢」を切り離せない。同じシングルに両A面で収録され、同じ映画のオープニングとエンディングを担った2曲。ただ設計は真逆で、この対比構造そのものが、シングル『一途/逆夢』という作品の主題だった。

「逆夢」がバラードとして溜めきる曲だとすれば、「一途」は溜めない曲。時間軸で言うと、映画の入口で観客の姿勢を叩き起こすのが「一途」、余韻に沈めるのが「逆夢」。この2曲を並べたとき、King Gnuというバンドが持っている振れ幅の広さが、ひとつのシングルの中に凝縮される。

後追いで聴くなら、私は「逆夢」→「一途」の順を勧めたい。映画の時系列とは逆になるが、バラードで一度沈んでから疾走曲に叩き起こされる体験のほうが、この2曲の設計思想の違いを体で理解できる。同じバンドが同じ時期に、これだけ違う方向の曲を同時に完成させたことの凄みが、順番を逆にすると鮮明に出る。

後追いのリスナーへ――どこから入ってもいい理由

King Gnuは入口の多いバンドだ。「白日」から入る人、「三文小説」から入る人、呪術廻戦から入る人、CMから入る人、millennium paradeを経由する人。「一途」は、その中でも呪術廻戦経由でバンドを知った人にとっての、いちばん最初のバンドの顔だった。

ここで書いておきたいのは、後追いで聴くとき、リリース時期を気にしすぎなくていい、ということ。「一途」は2021年12月の曲だが、その本質は2023年のアルバム再構築を経て、いまも更新され続けている。シングル版を聴いても、ALBUM ver.を聴いても、ライブ映像を追っても、それぞれ違う顔が返ってくる。どこから入っても、その先の地図はちゃんと繋がっている。

数年前のヒット曲を今聴き直すことの意味は、ノスタルジーではないと思う。あの時聴き取れなかった仕掛けが、いまなら聴き取れる。作り手が数年後の自分たちに残したメッセージが、今の耳でようやく受け取れる。「一途」はそういう聴き直しに、静かに応えてくれる曲だ。

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  • THE GREATEST UNKNOWN / King Gnu — ALBUM ver.収録の4th
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  • SPECIALZ / King Gnu — 呪術廻戦タイアップ第二弾
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  • CEREMONY / King Gnu — 前作アルバム・原点
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ファンに問いたい、ひとつの余白

最後に、この記事で答えを出せなかった問いを1つ置いておきたい。「一途」のシングル版と ALBUM ver.、どちらがこの曲の本体だと感じるか、という問いだ。疾走感の純度で言えばシングル版。バンドの現在地の中での居場所という意味では ALBUM ver.。どちらも正解だと思うし、この問いに対する答えは、その人がKing Gnuのどこから入ったかで変わる。

2021年の年末、劇場に足を運んだ後で聴いた「一途」と、2023年のアルバムの流れの中で出会った「一途」は、同じ曲なのに違う曲だ。この重なりを丁寧に聴き分けられるのが、リアルタイムでこのバンドを追ってきた人の特権だと思う。数年経った今、あらためて両方を並べて聴く時間を持ってほしい。書き下ろしの緊張感と、カタログの中に落ち着いた曲の顔。どちらもKing Gnuで、どちらも「一途」だ。

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