ILLITという静けさの発明 K-POP第5世代を塗り替える5人組の現在地

淡いパステルの光が差し込む部屋に浮かぶ抽象的な音符と磁石のモチーフ アーティスト

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「囁き声のK-POP」が世界を掴んだ瞬間

K-POPガールグループの新譜がリリースされるたび、SNSのタイムラインには派手なコリオグラフィやハイトーンのサビが並ぶ。そんな中で、あえて音数を削り、囁くようなボーカルで勝負をかけたグループがある。ILLIT(アイリット)だ。2024年3月にデビューし、そのわずか数週間後にはBillboard Hot 100にランクインするという、韓国の新人グループとしては前代未聞の初速を記録した。デビュー曲の「Magnetic」は、韓国のみならず日本、東南アジア、北米、欧州のチャートを同時多発的に駆け上がっていった。

この現象を「BTSやLE SSERAFIMを擁するHYBE系だから」の一言で片付けるのは早計だと思う。ILLITが提示したのは、既存のK-POPが積み上げてきた「強く・派手に・分かりやすく」というフォーミュラの逆張りだったからだ。ハーフタイムのビート、ため息のようなボーカル、フックとしての小さな囁き。曲そのものが「大きな主張」を避けているのに、聴いた人の頭からは離れない。この矛盾を成立させた点で、彼女たちはK-POP第5世代の入り口を象徴する存在になった。

本記事では、この5人組がどこから来て、どんな音を鳴らし、なぜ今のチャートで存在感を放ち続けているのかを、事実ベースで掘り下げていく。派手なストーリーテリングよりも、音そのものと、それを支える文化的背景に光を当てたい。

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プロフィールと来歴 BELIFT LABが仕込んだ「静けさの新人」

ILLITは、HYBE傘下のレーベルBELIFT LABから2024年3月25日にデビューした5人組ガールグループ。メンバーはユナ、ミンジュ、モカ、ウォンヒ、イロハ。国籍は韓国と日本にまたがっており、多国籍編成が当たり前になった第5世代らしい構成だ。グループ名の由来については公式に「I’ll IT(アイル・イット)」というニュアンスが語られていて、要は「一番のトレンドは私たちが決める」という宣言に近い。控えめな音楽性とは裏腹に、名前は野心的である。

結成の直接の入口となったのが、2023年に放送されたサバイバル番組『R U Next?』だ。BELIFT LABは同じHYBE傘下でENHYPENを送り出した実績のあるレーベルで、練習生の選抜から番組を通じて公開する手法は、いまやK-POPの標準的な育成モデルになっている。この番組で最終メンバーが決定し、およそ半年強の準備期間を経て、彼女たちはミニアルバム『SUPER REAL ME』でシーンに登場した。

デビュー直後の動きは、正直に言えば異常だった。「Magnetic」は韓国の音楽番組で1位を獲得し、Spotifyのグローバル・チャートでも上位に食い込み、Billboard Hot 100にもチャートイン。デビュー週の新人グループがここまで一気に世界的な指標に乗ったのは、K-POP史でも数えるほどしかない。日本のオリコンやBillboard Japanでも継続的に上位に食い込んでおり、アジア圏を跨いだファンダムの厚さがうかがえる。詳細な受賞歴や数値の細かい部分は公式サイトや各国のチャート発表を参照してほしいが、少なくとも「デビュー年に世界的ヒットを持ったグループ」という位置づけは動かない。

面白いのは、この爆発的な初速の後、彼女たちが慌てて路線を派手方向へ振らなかったことだ。続くカムバックでも囁き声、ミッドテンポ、ドリーミーなサウンドという核をキープしている。ヒットの理由を自分たちで理解して、そこを軸に育てにいっている。この一貫性が、単発の話題で終わらない土台になっていると思う。

音楽性の核と変遷 ハーフタイムと囁きが作る「余白」

ILLITの音を一言で説明するなら「余白のあるK-POP」だ。ドラムのキックは重すぎず、ベースは低音でうねらせず、ボーカルは張り上げない。従来のK-POPガールグループが「勝負のサビ」で音数を最大化してきたのに対し、ILLITはむしろサビでも音を引き算する。この作法は、UKガラージやジャージークラブ、ハイパーポップ、Y2Kのドリーミーポップといった、2020年代のグローバルな若者音楽の潮流と地続きだ。

代表曲Magnetic🛒楽天に象徴される通り、ハーフタイムのビートが基調になっている。テンポは早くないのに、細かく刻まれたハイハットやパーカッションで疾走感を演出する。この「速いのに落ち着いている」という感覚が、TikTokの短い動画尺と相性が良かった。踊りやすく、口ずさみやすく、しかも耳障りではない。BGMとしても機能するし、フックとしても記憶に残る。ミドルスクールのK-POPリスナーからカフェで流したい大人まで、間口が異様に広い。

プロデュース陣にも触れておきたい。K-POPのヒット曲を数多く手掛けるスウェーデン系のソングライティングチームや、HYBEが継続的に組んでいる作曲家たちが関わっているとされる。特にNewJeansが切り拓いた「ダンサブルだけど落ち着いた」音の流れを、ILLITはさらに囁き寄りに、さらにドリーミー寄りに寄せた。同じ地層にありながら、質感を微妙にずらしている。これは意図的な差別化だろうと感じる。

聴きどころ3点

  • ハーフタイムのビートで作る「歩くようなグルーヴ」。走らないのに前に進む感覚が独特。
  • ボーカルを楽器化する編曲。囁き、ため息、短い掛け声がフックとして機能する。
  • ドリーミーなシンセと乾いたパーカッションの対比。ローファイと洗練の中間を狙う質感設計。

ボーカルの録り方も特徴的だ。各メンバーの声を近接マイクで拾い、リバーブは薄めにかけて、耳元で歌われているような親密感を作る。K-POPの伝統的なミックスが「劇場の後方まで届く声」を目指してきたのに対し、ILLITのミックスは「イヤホンの内側で鳴る声」を狙っている。ストリーミングとイヤホン視聴が主流になった時代の音作りだと言える。

代表作・ディスコグラフィの読みどころ

ディスコグラフィはまだ長くない。だからこそ、一枚一枚の役割が明確だ。デビュー作SUPER REAL ME🛒楽天は、彼女たちの世界観の設計図としてまず押さえたい。全体を貫くのは「等身大の女の子が、憧れと現実の間で揺れる」というテーマ性。歌詞の内容そのものには踏み込まないが、コンセプトとしては「夢見がちだけど自分の足で立っている」というスタンスが一貫している。ジャケットやミュージックビデオのアートディレクションも、パステル調で柔らかい光を使い、この音楽性を視覚で補強している。

そのリード曲Magnetic🛒楽天が、彼女たちの名刺代わりの一曲になっている。1分半を切るショート動画時代に最適化された曲構成で、イントロから15秒でフックに到達する設計。それでいて楽曲全体としてもきちんと起伏があり、フルで聴いても物足りなくない。短尺と長尺、どちらのリスニング体験にも耐えるバランスが巧みだ。

続くミニアルバムI’LL LIKE YOU🛒楽天では、デビュー作の路線を維持しつつ、より「恋愛のワクワク感」に振ったサウンドを提示した。テンポ感やビートの組み立てはMagneticの延長線上にありながら、シンセの音色をより明るく、ボーカルの表情をより多彩にしている。リード曲の「Cherish (My Love)」は、Magneticほど攻撃的なフックはないが、繰り返し聴いた時の中毒性がじわじわ効いてくるタイプの曲だ。

2024年後半以降の楽曲では、少しずつ音の幅を広げようとしているのが感じ取れる。ダンサブル寄りのトラックや、逆にバラード寄りのトラックにも挑戦し始めていて、囁き系の一発屋にならないための準備を進めている。この「振れ幅の作り方」がキャリアの分水嶺になるはずで、次のフルアルバム相当の作品でどんな地図を描くかが注目されている。

日本市場向けの動きも活発だ。日本語詞のバージョンや現地プロモーションを継続していて、Billboard Japanのランキングでも安定して顔を出している。日本人メンバーが2名(モカ、イロハ)在籍していることも、日本のファンダムの厚さに直結している。K-POPガールグループの日本展開としては、ここ数年でもかなり順調な部類に入る。

第5世代の文脈とNewJeans問題という影

ILLITを語るとき、避けて通れないのが2024年に表面化したHYBE内部の紛争だ。ADORのミン・ヒジン氏(NewJeansのプロデューサー)が、HYBE経営陣に対して「ILLITはNewJeansのコンセプトを模倣している」と公に主張し、大きな騒動になった。この件はメディアや裁判の場にまで持ち込まれ、K-POP業界内のクリエイティブ・オーナーシップの問題として国際的なニュースになった。

この話題に立ち入ると当事者の主張が入り組むので、ここでは事実関係だけを押さえておく。ミン・ヒジン氏がその主張を行ったこと、HYBE側とBELIFT LABが反論したこと、そしてこの騒動がILLIT本人たちの活動やメンタルにも影響を与えたと報じられていること。彼女たち自身は制作者ではなくパフォーマーであり、この論争の直接的な当事者ではない。それでもデビューまもない時期にこの規模の逆風にさらされたのは、キャリア上の大きな試練だったと言っていい。

音楽的な系譜として見た場合、NewJeansとILLITの間には確かに類似する土壌がある。ハーフタイムのビート、囁き系のボーカル、ドリーミーなシンセ。ただこれは2020年代の若い世代のポップが世界的に共有している語彙でもあって、ビリー・アイリッシュ以降のグローバルポップ、UKの新世代ガラージ、日本のヨルシカや藤井風的なミニマル美学とも連続している。「どこまでがオリジナルで、どこからが時代の空気か」という線引きは、音楽史のあらゆる局面で繰り返されてきた問いでもある。

個人的には、ILLITの音はNewJeansよりもさらに「囁き」に寄っていて、ビートの重心も違うと感じている。似ている、けれど同じではない。判断は聴き手それぞれに委ねられるべきだと思う。

カルチャー的インパクト SNSと世界同時性

ILLITの成功は、TikTokをはじめとするショート動画プラットフォームの生態系と切り離せない。Magneticのサビ部分を使ったダンスチャレンジは世界中で拡散され、K-POPファンダムを超えた一般ユーザーがカバーする現象が起きた。K-POPが「ファンダム内消費」から「一般消費」へと橋を架けるとき、その橋を渡す役割をILLITが担った側面がある。

もう一つ興味深いのは、彼女たちが北米やヨーロッパのポップリスナーからも支持されている点だ。K-POPは長らく「アジア発の熱狂的なファンダム音楽」として受容されてきたが、ILLITの音はむしろ「英語圏のインディーポップやベッドルームポップと並べて違和感のない音」として西側リスナーに届いている。BLACKPINKやTWICEが切り拓いた道の上を、彼女たちは違う質感で歩いている。

ファッション面での影響力も無視できない。パステルカラー、Y2Kノスタルジア、制服的なコーディネートといった要素は、韓国のみならず日本、東南アジアの若い世代のスタイルに反映されている。音楽と視覚と生活文化が一体になって輸出される、というK-POP産業の強さを最大限に活用したケーススタディでもある。

今チャートでの立ち位置

今週のチャートを見渡すと、ILLITは日本のラジオエアプレイ系ランキングでも継続的に存在感を保っている。デビュー年の一発ヒットで終わらず、リリースごとにきちんとチャートに反応が返ってくるのが強みだ。とくに日本市場においては、日本人メンバーの存在と丁寧なローカライズ戦略が効いていて、韓国本国と日本のチャートでのタイムラグがほとんどない。

チャートの数値の細かい部分は毎週動くので、最新の順位は各チャート発表を確認してほしい。ただ一つ言えるのは、彼女たちの曲が「一過性のバイラル」ではなく「継続的なエアプレイ」に耐えるタイプであること。ラジオで流れても違和感がなく、カフェでも部屋でもBGMとして機能する。この「日常に溶け込む強さ」が、チャート寿命の長さに直結している。

ライブ・パフォーマンスの評価も少しずつ積み上がっている。デビュー直後は歌唱面での議論もあったが、活動を重ねるごとに安定感が増していて、フェスや音楽番組でのパフォーマンス動画の再生数も伸び続けている。スタジオ音源とライブの距離をどう埋めていくかは、囁き系ボーカルのグループにとって永遠の課題だが、彼女たちは真面目に向き合っている印象だ。

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入門動線

  • まずこの1曲:「Magnetic」。囁きボーカルとハーフタイムのビート、彼女たちの核が3分弱に凝縮されている。
  • 次にこの1枚:『SUPER REAL ME』。デビューEPを通して聴くと、Magnetic以外の楽曲にある繊細さやニュアンスが分かる。
  • 深めるならこの1枚:『I’LL LIKE YOU』。1作目からの延長と変化を並べて聴くと、彼女たちが自覚的に進んでいる方向が見えてくる。

個人的にオススメの聴き方は、イヤホンで、少し照明を落とした部屋で聴くこと。この音は大音量のスピーカーよりも、耳元の親密な距離でこそ真価を発揮する。派手なK-POPに疲れた人にも、逆にK-POPに馴染みがなかった人にも、入り口として機能する稀有なグループだと思っている。

次のカムバックで何を出してくるか、正直まだ読めない。ただ、囁きを軸に「静けさで勝負する」という第5世代の選択肢を最初に鮮明に示したのは彼女たちだった。この事実は、これから何が起きても揺らがない。

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