フェス会場のいちばん後ろで、初めてGalantisを浴びたのは2016年の夏だった。前方の人波が跳ねるたびに、あの甲高い”きゅるん”としたボーカルサンプルが空を切る。名前も知らないまま、家に帰ってShazamをかけた曲がRunaway (U & I)🛒楽天だった。あれから10年近く経ってもまだ、この人たちの音は”耳で見つけやすい”。今週のチャートで名前を見て、久しぶりに全アルバムを頭から流し直している。
このアーティストの要点
- Galantisはスウェーデンのエレクトロニック・ミュージック・プロジェクトで、中心人物はBloodshy名義でも知られるChristian Karlsson。Miike Snowのメンバーでもある。
- 結成は2012年頃、2013年にBig Beat Records(Warner系)と契約してメジャー展開を開始した。
- デビュー・アルバムPharmacy🛒楽天(2015年)収録の「Runaway (U & I)」で第58回グラミー賞Best Dance Recording部門にノミネート。
- もう1人の創設者Linus Eklöw(Style of Eye)は2021年末をもって脱退し、以降Karlssonが単独で活動を継続している。
- スタジオ・アルバムはPharmacy、The Aviary、Church、Rxの4作(2024年時点)。
なぜ、いまGalantisをもう一度聴くべきか
結論から書く。彼らは”EDMバブル後”を最も上手に生き延びたスウェーデン勢のひとつで、その理由は”サウンドの署名”を最初に確立していたからだ。ドロップに突入する瞬間、加工されたピッチ高めのボーカルが鳥の羽ばたきのように舞う。あの一手だけで曲名が特定できるアーティストは、正直そう多くない。
2015年前後、EDMは「ビッグルーム」と呼ばれる巨大なシンセ・ドロップに寄りすぎて、飽和した。多くの匿名的なプロデューサーが同じ質感のキックとサイド・チェインを競い合っていた頃、Galantisはあえてポップスの旋律とボーカル・チョップの人格化で勝負した。ここが分岐点だった、と今でも思う。
もうひとつ。中心人物のChristian Karlssonはもともとポップスの作曲・プロデュース畑の人で、2000年代からBloodshy & Avant名義でスウェディッシュ・ポップの裏方として動いていた。ダンス畑のプロデューサーが「歌モノ」を後付けするのではなく、歌モノを作れる人が”最後にダンスの服を着せる”順番で作っている。この順序が、10年経っても曲を古くさせない要因になっている気がする。
そう。要は、メロディが強い。
プロフィール——ふたりの”裏方”が表に出た瞬間
Galantisはスウェーデン発のエレクトロニック・ミュージック・ユニットで、Christian ”Bloodshy” KarlssonとLinus ”Style of Eye” Eklöwの2人によって2012年頃に始まった。KarlssonはインディーポップバンドMiike Snowの一員としても知られ、Eklöwはミニマル/ハウス寄りのプロデューサーとして先に名を上げていた。ジャンルの違う2人が同じテーブルに着いた——この化学反応が、初期音源の面白さを決めている。
2人は2007年頃から交流があったと本人たちが後年のインタビューで語っている。数年間、互いの現場を行き来しながらデモを溜め、2013年に米Big Beat Records(Atlantic/Warnerの傘下レーベル)と契約して国際的な流通ラインに乗った。ここから世界が一気に開ける。
Karlssonの経歴で押さえておきたいのは、Bloodshy & Avant名義でのポップス仕事だ。Britney Spearsをはじめ、2000年代のスウェディッシュ・ポップ職人チームの一員として世界的ヒットに関わってきた。ダンス・プロデューサーとしての瞬発力ではなく、”ヒットの構造”を身体で覚えている作家である、と考えるとGalantisの音の作りが腑に落ちる。
Eklöwは2021年末を最後にプロジェクトを離れ、以降はKarlsson単独名義でGalantisが継続している。ライブ現場では引き続き”Galantis”としてツアーが組まれ、リリースも止まっていない。一般的なDJユニットの解散劇と違って、ブランドとしての連続性を保ったまま人数だけが変わった、というのが実態に近い。
音楽性の核と変遷——”Seafox”と呼ばれた声
結論を先に言うと、Galantisの音楽性の核は「ピッチシフトで人格化されたボーカル・チョップ」にある。ファンの間ではその高音サンプルが”Seafox”(アザラシと狐を掛け合わせたようなキャラクター、というプロジェクト側のアートワーク由来)と呼ばれている。声を楽器化し、それをフックの最前列に置く。ドロップで鳴るのはシンセの咆哮ではなく、加工された誰かの声だ。
初期のPharmacy🛒楽天期は、この手法がいちばん過激に効いていた時期だ。「Runaway (U & I)」のあの畳みかけるようなフック、「Peanut Butter Jelly」のディスコ寄りのグルーヴ、「Gold Dust」の疾走感——どれも人間の声を”打楽器”として使い切っている。ライブ映像を見ると分かるが、観客はサビでシンセに合わせて叫ぶのではなく、そのボーカル・チョップに合わせて跳ねている。フックの主役が”歌”ではなく”声の断片”に移っている珍しい構造だ。
2017年のThe Aviary🛒楽天期になると、フックの多幸感を維持したまま、少しトロピカルハウス寄りのマイルドな音像に寄せてくる。EDMバブルが萎み始め、シーン全体が”聴きやすさ”に振れた時期と符合している。「No Money」「Hunter」あたりを並べて聴くと、キックの重心が下がり、リバーブが増え、”アリーナ”より”プレイリスト”を意識した作りに変わっているのが分かる。
2020年のChurch🛒楽天期は、コラボの幅を広げてポップ側にさらに寄った。ダンスホール、フューチャーベース、アコースティック・ギターの導入まで、”ダンスの一形式”としてのGalantisから”ポップスとしてのGalantis”への移行が明確になる。個人的にはこの過渡期の曲がいちばん好き嫌いが割れる時期で、初期のあの尖ったSeafoxが恋しくなる瞬間もあった。正直に書けば、フェスで聴きたいのは初期、家で流したいのはこの時期、という感覚。
そして2024年のRx🛒楽天。タイトルがデビュー作Pharmacy(薬局)への回帰を明らかに意識している。処方箋の”Rx”、つまり原点に戻るという宣言だ。Karlsson単独体制になって初めての本格アルバムでもあり、初期のフック志向が現代の音圧・音場で鳴り直されている。ここは通して聴いてほしい。
聴きどころ3点
- 加工ボーカルの”人格化”——ドロップで鳴る高音のフックは、単なるサンプルではなくキャラクターとしてデザインされている。声を楽器化する技術のひとつの完成形。
- ポップスの骨格——コード進行とメロディが、ダンス曲としてではなくポップソングとして成立する強さを持つ。BGMではなく口ずさめる。
- フェス設計の的確さ——ブレイクからドロップまでの尺、フックの反復回数、テンポ感が、屋外の大空間で最も効くようにチューニングされている。
代表作・ディスコグラフィの読みどころ
スタジオ・アルバムは現時点で4作。それぞれ役割が違うので、順に触れておく。
Pharmacy(2015)——デビュー作にして、いちばん”発明”が詰まった1枚。「Runaway (U & I)」は同作からのシングルで、第58回グラミー賞Best Dance Recording部門にノミネートされている(受賞はJack Ü feat. Justin Bieberの「Where Are Ü Now」だった)。「Peanut Butter Jelly」はDragonetteのMartina Sorbaraがボーカルで参加した、ヌーディスコ色の強いトラック。「Gold Dust」は初期の名刺代わりの1曲で、いまライブでも定番。フックの詰め込み方が過剰で、この過剰さこそがPharmacyの魅力だと思っている。
The Aviary(2017)——「Aviary」は鳥小屋の意。ジャケットも含めてSeafoxモチーフの世界観をアルバム全体で拡張した2作目。「No Money」「Hunter」「True Feeling」あたりが軸で、Pharmacyの尖りをやや丸めて汎用性を上げた作り。1作目より聴き疲れしないので、通勤中に流しやすいのはこっち。
Church(2020)——コラボ主体でジャンルの引き出しを広げた3作目。OneRepublicのライアン・テダーやDolly Partonといった、ダンスの外側の歌い手を積極的に招いている(Dolly Partonとの共作「Faith」は特に話題になった)。パンデミック期のリリースで、フェスで浴びる前提の音作りから、”家で心を上げる”方向にシフトしていたのも印象的だった。
Rx(2024)——タイトルがPharmacyへの目配せである通り、初期の”声を楽器化する”アプローチが現代的な音圧で復活している。Karlsson単独体制での本格作という意味でも節目。ここ数年のダンス・ポップの潮流を踏まえた上で、あえて自分たちの発明に戻ってきている感覚がある。
アルバム外の重要曲としては、David GuettaとLittle Mixとの3組共作「Heartbreak Anthem」(2021年)がある。ポップ・ダンスのど真ん中の1曲で、Galantisの名前を”クラブ客以外”に届けた曲でもある。この時期を境に、Galantisは”EDMの人”から”世界のヒット・ダンス・ソングをつくる作家チーム”に肩書きが更新された、と個人的には見ている。
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カルチャー的な文脈——スウェディッシュ・ポップの系譜のなかで
Galantisを語るとき、スウェーデンという国のポップス生産力に触れないわけにはいかない。ABBAから始まり、Max Martin、Cheiron Studiosの職人たち、そして2010年代のAviciiやSwedish House Mafia。世界のヒットチャートに”スウェーデン印”のメロディが並ぶ現象は、もう40年近く続いている。KarlssonがBloodshy名義で関わってきたのは、まさにその系譜の内側だ。
その文脈で見ると、Galantisは「ダンス側から見たスウェディッシュ・ポップの継承」に位置づけられる。Aviciiがフォーク/カントリーの歌モノをダンスに接続したように、Galantisはピッチアップされた”顔のない歌”を主役に据えることで、ボーカロイド以降の耳にも刺さる形にしていった。この2人が独立してキャリアを組み立てたわけではなく、20年続くヒット製造のエコシステムの上に乗っていた、という視点は外せない。
コラボ相手の顔ぶれも興味深い。同世代のダンスプロデューサー(Hook N Sling、East & Youngなど)との共作から、Dolly Parton、OneRepublic、Little Mix、David Guettaといったジャンル横断まで幅が広い。特に「Faith」でのDolly Partonとの共作は、”ダンスとカントリーの越境”としてアメリカのメディアでも大きく取り上げられた。この越境性が、フェス以外の場所——たとえばラジオ、映画やCMのタイアップ、スポーツ中継のBGM——にGalantisの音が浸透していった経路になっている。
あと、忘れてはいけないのがヴィジュアル戦略。Seafoxというマスコット的キャラクターを軸にしたアートワークとMV展開は、”顔を売らないアーティスト”の見せ方として2010年代に成功したケースのひとつだ。GorillazやDaft Punkほど徹底したフィクションではないが、DJ2人の顔よりキャラクターが先に立つ設計になっている。プレイリスト時代に、アーティスト像を”アイコン化”することの威力を早い段階で理解していた——そう思う。
ライブとフェス——サマソニ来日と、日本での受容
日本での受容について書いておきたい。Galantisは複数回来日していて、なかでもサマーソニックへの出演でダンス側とロック側の両方の観客に顔が知られた。日本のEDM受容は2013〜2016年頃にひとつのピークがあって、Galantisはちょうどその波に完璧なタイミングで乗ってきたアクトだった。
初来日以降、彼らのライブ体験は年々”歌モノフェス”寄りに整理されてきた印象がある。ドロップで曲を分断せず、フックからフックへスムーズに繋いでいく構成。BPMを揃えて2〜3曲を”組曲”のように扱う手つき。単なるDJセットではなく、”バンドがセットリストを組む”に近い構造で、これはKarlssonがMiike Snowでライブバンドの現場を踏んでいることと無関係ではないと思う。
ここは主観だが、日本のリスナーにとってGalantisは”EDMを”敷居低く”聴かせてくれた入口”のひとつだった。当時のクラブに行かない層——たとえば私の周りだと、ロックフェスに行くけどEDMは食わず嫌い、という30代の友人4人が5人中4人、Galantisだけは「これは分かる」と反応した——それくらい”歌モノとしての強度”があった。
今チャートでの立ち位置
直近の週間チャートで名前が上がってきているのは、ダンス・シーンの潮流が一周して”ボーカル・ハウス”や”メロディック・ダンス”に戻ってきたことと無関係ではないと見ている。2022〜2023年にかけてハウス・リバイバル、フィルターハウスの再評価、そしてDavid GuettaやCalvin Harrisらベテラン勢のヒット復帰があった。Galantisはこの潮流のど真ん中にいる作家チームで、”ラジオで流れて違和感のないダンス”の書き手として重宝される時期に入っている。
個別の数値順位についてはチャート原盤に譲るが、”新曲でチャートに入ってくる”のか”旧譜のプレイリスト効果でロングテールに入ってくる”のかで、彼らの見え方は結構違う。Galantisはどちらの入り口からもチャートに戻ってこられる稀有なアクトで、Runaway (U & I)は10年経ってもプレイリストからほとんど落ちない。この”減衰しにくさ”が、いまの立ち位置を支えている。
これから聴くならどこから
もし今日初めてGalantisを聴くなら、順番が大事。いきなり最新作から入るより、”発明”の瞬間を体験してから現在地に向かうほうが、この人たちの面白さは伝わる。
まずこの作品から聴く
- Runaway (U & I) — 全てが詰まった名刺の1曲
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入門動線
- まずこの1曲——「Runaway (U & I)」。フックの高音チョップがGalantisの”顔”。3分半で全部わかる。
- 次にこの1枚——アルバム『Pharmacy』(2015)。1作目の勢いを頭からケツまで浴びる。Peanut Butter Jelly、Gold Dust、In My Headまで揃っている。
- 深めるならこの1枚——最新作『Rx』(2024)。初期の発明が現代の音圧で鳴り直されている。1作目と並べて聴くと10年の変化と一貫性が同時に見える。
もうひとつ、コラボ曲を1本挟むならDavid Guetta & Little Mixとの「Heartbreak Anthem」を。Galantisが”クラブの外”でどう機能するかがいちばん分かる。歌モノとしての完成度が高くて、車の中でも家事中でも入ってくる曲だ。
まとめ——”声を楽器にする”という選択の強さ
結局のところ、Galantisが10年以上第一線に残っている理由は、シンセの音色でもBPMでもなく、”声のサンプルを主役にする”という選択そのものにあると思っている。流行のBPMは3年で変わる。プラグインのプリセットは半年で古びる。でも、”人の声のフックが強い”は古びない。ここに賭けたのが、この人たちだった。
Eklöwが抜けてKarlsson単独になっても、Galantisという名前で音が出続けているのは、”発明”の側が中心人物とともに動いているからだ。ブランドが機能で定義されている。だから存続できている。次のアルバムでこの発明がどこまで更新されるか、正直、いちばん楽しみにしているのは私かもしれない。
まずはRunaway (U & I)を1回、それからPharmacyを頭から。もし気に入ったら、10年後のRxで答え合わせをしてほしい。詳細な最新情報・ツアー日程は公式サイトを参照。


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