2021年10月27日に配信されたあいまって。🛒楽天を、いま2020年代半ばの地点から聴き直すと、リリース当時に感じた「新しい山本彩」という言葉が、少し違って響く。あの曲は宣言ではなく、自分の輪郭を静かに書き換える作業の記録だった、と今なら言える。yonkeyとの共作という一点を軸に、その後の展開まで含めて追い直してみたい。
- この曲の要点
- 2021年秋、ツアーの現場から出てきた曲
- yonkeyという共作者が示した越境点
- サウンドの読みどころ ライブ体温と打ち込みの折衷
- いま振り返って言える「越境点」としての意味
- キャリアの中での位置づけ ソロ以降のもう一つの節目
- この曲がどう聴かれてきたか 生活に接地した読み
- 2021年という文脈 山本彩を取り巻いていた音の風景
- 「あいまって。」というタイトルの読み直し
- リリックビデオとライブ映像 現場の温度を残す選択
- 共作というモード ソングライターの自我をどう置くか
- 2020年代半ばから聴くと見える”引き算”の勇気
- いま「あいまって。」を紹介するとしたら
- 聴きどころと入門動線
- 残る問い 二面性はどこへ向かうか
- あわせて読みたい
この曲の要点
- 「あいまって。」は山本彩とyonkeyの共作楽曲で、2021年10月27日に配信リリースされた。
- 全国ツアー「SAYAKA YAMAMOTO TOUR 2021 ~re~」の初日から披露されていたナンバーで、ツアーの現場から生まれた曲でもある。
- 作詞・作曲はyonkeyと山本彩の連名。エレクトロニックとヒップホップの要素を混ぜたプロデュースが特徴。
- 2023年5月17日リリースの4thアルバム『&(アンド)』に、先行配信曲群の一つとして収録された。
2021年秋、ツアーの現場から出てきた曲
まず時系列を整理しておく。山本彩が新曲「あいまって。」を10月27日に配信リリースすることを発表し、本楽曲は先月末から開催されている全国ツアー「SAYAKA YAMAMOTO TOUR 2021 ~ re ~」にて初日公演からすでに披露されてファンの間で話題となっていた。順序が独特で、CDやサブスクの配信より先に、客席が音を知っていた曲だ。
これは意外と大事なことだと思ってる。多くのシングルは「配信→ライブで披露」の順に消費されていくけれど、この曲は逆。ツアーで鳴ったものが、後から音源化された。だから初期のリアクションが「音源で聴くとこう聞こえるのか」という確認の反応になっていた。
そう。当時のファンにとってこの曲は、まずフィジカルな鳴り物として身体に入った曲だった。ここが後の位置づけを考えるうえでずっと効いてくる。
yonkeyという共作者が示した越境点
「あいまって。」の音を語るとき、避けて通れないのがyonkeyの存在。作詞・作曲はyonkeyと山本彩、発売日は2021年10月27日で、単なるアレンジャーやプロデューサーの起用ではなく、曲の骨格から一緒に組んでいる。
プロデューサーとしてのyonkeyは、ラッパーの空音の楽曲プロデュースやchelmicoのRemix、ATARASHII GAKKO!関連の仕事などで名前が挙がってきた人で、山本彩と組む前のバンド的なJポップ文脈とは別の水脈から来ている。バンドサウンドで培われた歌の重心を、打ち込みのグリッドに乗せ直す作業だった、と考えると分かりやすい。
興味深いのは、山本彩の側にも下地があったこと。同じ2021年の7月14日、誕生日にリリースされたのがyonder🛒楽天で、こちらはMori Zentaroがアレンジ。「yonder」は、SIRUPなどのサウンドプロデュースでお馴染みのMori Zentaroがアレンジを手がけ、山形日産グループ60周年のCMソングとして制作された楽曲だ。SIRUP周辺のR&Bの温度感を通った直後に、yonkeyのエレクトロ/ヒップホップ寄りのアプローチが来ている。半年で2回、質の違う越境をしていた計算になる。
この2曲を並べて聴くと、「あいまって。」は単発の実験ではなく、2021年の一連の作業の到達点として置かれていたと分かる。
サウンドの読みどころ ライブ体温と打ち込みの折衷
作風の話。エッジの効いたローエンドの上に、細かいハイハットとチョップされた声の断片が舞う。ここはヒップホップ以降の質感。ただ、歌のライン自体は歌謡的な運びを崩さない。「新しい音の上で、自分の声の重心を動かさずに乗れるか」という試みに聞こえる。エレクトロニックサウンドやヒップホップの要素が取り入れられているという紹介はその通りで、要素の取り入れ方が過剰でないところに設計の巧さがある。
もう一つ、Aメロからサビへの重心移動が独特。Aメロは呟くように処理して、サビで初めて胸から声を出す構成になっている。バンドサウンド時代のようにサビでギターと一緒に張り上げるのではなく、トラックの隙間に声が抜けていく設計。ライブで先に鳴らしていたのに、実は音源のミックスがかなり細かく作り込まれている曲だ。
短い。切ない。でも湿っぽくない。ここが後述するキャリア文脈と結びついてくる。
いま振り返って言える「越境点」としての意味
2023年5月17日、4thアルバム&(アンド)がリリースされる。前作『α』以降のシングルCD「ゼロ ユニバース」、「ドラマチックに乾杯」の収録曲に加え、デジタルシングル「yonder」、「Don’t hold me back」、「あいまって。」、さらに未発売曲「ラメント」他、新曲2曲を含む全12曲収録で、『&』と名付けた今作は、一人一人、その時代時代を形作る上で表れる様々な面(二面性、多代性)に着目している。ここで初めて「あいまって。」が、アルバム上の一つのピースとして所定の位置に置かれる。
この視点で並べ直すと、2021年の「yonder」→「あいまって。」の流れは、後の『&』というアルバムコンセプト、つまり「二面性・多代性」を前提にした自分の書き方を、2年前から準備していた記録として読める。当時は単発の意欲作に見えたものが、アルバム完成後の視点からは「複数の自分を認める」というテーマの伏線として機能していた。
ここが後追いで言える補助線の一つ。「あいまって。」は新しい方向への転向表明ではなく、”どちらか一方を選ばない”という選択の記録だったと思ってる。バンド寄りの歌唱もやめない、電子音の中の細い声もやる、この両方を並置する。タイトルそのものが、二つ以上の要素が絡み合って初めて意味を持つことを指している、と読むこともできる。
キャリアの中での位置づけ ソロ以降のもう一つの節目
山本彩のソロ活動は、2016年のソロデビュー、NMB48卒業を経て、フルアルバムを重ねながらバンドサウンド中心に組み上がってきた流れがある。1stシングルの評として 収録曲すべてを山本が作詞作曲した1stシングルで、余韻のあるヴォーカルとチル・アウトできるトラックでアーバンな仕上がり、新しい挑戦でソングライターとしての可能性も感じさせた充実作という声が出ていたことは覚えておきたい。ソングライター側面はソロ活動の初期からずっと評価されていた。
その流れの中で「あいまって。」は、外部の作家と組んで自分の輪郭を再定義する試みだった。全部を自分で書ききる路線から、共作で新しい語彙を得る路線への切り替え。結果として、ソングライターとしての力を捨てずに、プロデューサーの感覚を借りる形になった。ここが2020年代前半の山本彩のソロにおける、静かだが確かな節目だと感じてる。
正直、リリース直後の2021年秋の時点では、この位置づけまでは見えなかった。年内にツアー配信も予定されるほど動いていて、話題は次々に更新されていった。でも2023年に『&』が出て、2020年代半ばまで活動が続いた今、あの1曲だけを取り出したときに輪郭がくっきりする。
この曲がどう聴かれてきたか 生活に接地した読み
「あいまって。」って、どんな時間に効く曲だろうか。個人的に何度か聴き直してみて思ったのは、夜のプレイリストというより、平日の夕方に効く曲として設計されているような気がする。仕事終わりの電車、家に着く前の10分。派手なカタルシスは用意されていない代わりに、疲れた身体の重心をそっと真ん中に戻す働きがある。
3分45秒という長さ(再生時間3分45秒)も、この設計と噛み合ってる。長すぎない、感情を煽らない、でも聴き終わったあとに何かが少し整理されている。ヒップホップ由来のトラックの上に歌謡的な旋律を乗せる折衷は、こういう”疲れた時間帯”に一番効く気がする。
ファンによって効く時間は違うと思う。朝のルーティンで鳴らしている人もいるだろうし、深夜に鳴らしている人もいると思う。ただ、”何かを盛り上げる曲”ではなく”隣に置いておく曲”として機能しているのは、多くのリスナーで共通していそう。
2021年という文脈 山本彩を取り巻いていた音の風景
もう少し外側の話をしておきたい。2021年秋というタイミングは、J-POPの側で”バンドサウンドから電子音/ヒップホップ寄りへの越境”がゆるやかに広がっていた時期でもある。日本のR&B/シティポップ再興の流れと、TikTok経由でのヒップホップ的なビート感の普及が重なり、ソロで歌う女性ヴォーカリストが打ち込みの上に乗る事例が急速に増えていた。
山本彩がyonkeyと組んだのは、この地殻変動の少し内側の話だ。ど真ん中のトレンドに乗ったというより、自分の歌の質感を保ったまま、新しい床の上に立ってみた、という感触に近い。2021年7月の「yonder」でSIRUP周辺のプロデューサーであるMori Zentaroと組み、10月にyonkey。半年の間に、いま起きている音の変化のうち別々の分岐点を、それぞれ一度ずつ通した形になる。
これは意外と勇気のいる選択だと思ってる。バンドサウンドで確立していた歌唱像を維持したまま、別の音場に自分を置くというのは、ファンの期待と自分の探究心の間で綱引きが起きやすい作業。安全策を取れば、これまでの延長でもう1〜2枚シングルを出せた時期だったはず。そこで別の作家と組む選択をしたのが、今から見て静かに効いてくる。
「あいまって。」というタイトルの読み直し
タイトルの話も少し。「あいまって」は日常語としては”相まって”、二つ以上の要素が絡み合って結果を生むことを指す。歌詞そのものには触れないけれど、タイトルの選び方それ自体が、この曲の設計思想を露わにしている。
「〜」でも「and」でもなく、「あいまって。」。しかも文末の「。」がついている。これはかなり意識的な選択で、句点を置くことで単語が一度完結する。絡み合うという動作が、宣言や進行形ではなく、”すでに起きた状態”として置かれる。
この読み方は、2年後にリリースされる4thアルバムのタイトル『&』と対で見ると腑に落ちる。「&」は関係の記号、「あいまって。」はその関係が実際に絡み合った後の状態。同じテーマを、記号側と動詞側から二回書いていた、と考えるとタイトルの選択が一貫している。
ここまで書いておいて、あくまで一つの読みだと断っておきたい。曲名の解釈はリスナーの数だけあっていい。ただ、後追いで振り返るときに、この補助線を1本引いておくと、2021〜2023年の一連の作品が繋がって見える。
リリックビデオとライブ映像 現場の温度を残す選択
もう一点、ビジュアル面の記録も残しておく。yonkeyとの共作曲でエレクトロニックサウンドやヒップホップの要素が取り入れられており、リリックビデオにはライブ映像が使用されており、山本がバンドメンバーやダンサーとともにパフォーマンスを見せている。ここも小さいけれど大事な選択。
打ち込み中心の音であれば、スタジオで撮ったスタイリッシュなMVを作る選択肢もあった。実際、そういう方向で作ったほうがサブスクリスナーには”新しい山本彩”として届けやすかったかもしれない。それをやらずに、ツアーの映像で映像を組んだ。この選択は、曲がツアー現場から生まれてきたという出自と、綺麗に対応している。
音源だけを切り出すのではなく、ライブの体温を残したまま流通させる。この判断が、後から効いた気がしてる。曲の位置づけが”実験”ではなく”自分のライブに組み込まれる曲”として最初から提示されたので、その後のセットリストの中で自然に定着していった。
共作というモード ソングライターの自我をどう置くか
もう少し踏み込んで、”共作”という制作モード自体の話をしたい。1stシングルの時点ですでに全曲作詞作曲を手がけていた書き手が、外部の作家と対等に組む。これは実は難易度が高い作業で、自分の書き癖を守るのか、相手の語彙に寄せていくのか、毎小節ごとに判断が要る。
「あいまって。」で興味深いのは、その判断が曲全体で揺れていること。トラックの語彙はyonkey側の色が濃い。ビートの跳ね方、ハイの抜け方、コードの繋ぎ方に彼のプロデュース仕事の指紋が残っている。一方で、メロディの跳躍の仕方や、フレーズの息継ぎの位置は、山本彩のこれまでの書き癖と地続きだ。
どちらかが勝った折衷ではなく、境界線が曲の途中で何度も引き直されている。この揺れがそのまま曲の魅力になっていて、聴き返すたびに”ここはどっちが引いたラインだろう”と考えさせられる。共作というモードを、”混ぜて均す”のではなく”境界を残したまま同居させる”方法で処理した、と言ってもいい。
2020年代半ばから聴くと見える”引き算”の勇気
最後にもう一つ、後追いで言えることを。当時のリリース時、”最先端のエレクトロニックサウンドとHIPHOPのエッジ”という紹介コピーが繰り返し使われた。この言い回しだけを見ると、足し算の曲――新要素を積み込んだ意欲作――に見える。
ただ、実際の音を今の耳で聴くと、むしろ引き算の曲だと感じる。バンドサウンドの厚みを外し、ストリングスの豪奢さを外し、コーラスワークで埋めることもしない。残っているのはビートと歌と、必要最小限のシンセだけ。歌の輪郭を邪魔する音は、かなり慎重に削られている。
この引き算の勇気は、キャリアを積んだ書き手だからこそ効くもの。デビューしたばかりの新人が同じ音を出しても、痩せて聞こえる可能性が高い。積み重ねてきた歌の重心があるから、要素を減らしても曲が痩せない。だからこそ、この曲は”越境”というより”自信のある人が音数を絞った作品”として、いまの位置から聴ける。
いま「あいまって。」を紹介するとしたら
もし2020年代半ばの今、山本彩のソロを聴いたことがない人に1曲だけ渡すとしたら、何を選ぶか。バンドサウンド期の1曲か、アルバム『&』からの1曲か、あるいはこの「あいまって。」か。
個人的には、”越境点”としてこの曲を渡してみたい気持ちがある。ソロ活動の変化の起点であり、その後の作品を聴くための座標軸にもなる。3分45秒という短さは、初対面のリスナーに対する提示にちょうどいい長さでもある。
逆に、ファンにとってはもう一度この曲に戻る意味がある気がする。2021年秋にツアー会場で最初に浴びた音を、いまの耳で改めて確認する作業。当時見えていなかった補助線が、今なら何本か見える。それだけでも、聴き直す価値は十分にあると思ってる。
聴きどころと入門動線
まずこの作品から聴く
- yonder — 同2021年の別方向の越境
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- ゼロ ユニバース — 同時期の別路線シングル
▶ Amazon / 楽天 で探す - ドラマチックに乾杯 — 『&』に至る流れの補助線
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聴きどころ3点
- Aメロの声の置き方。マイクにかなり近づけて、囁きに近い成分を残したまま録っている。ライブ体温を意識したうえで、ヘッドホンでも成立する近接感になっている。
- ビートの隙間。四つ打ちではなく、拍を微妙に食う/遅らせるノリで、歌が呼吸できる余白を作ってある。yonkeyの手癖が一番出ている場所。
- サビの音数の絞り方。盛り上がるのに、要素はあまり増やさない。歌のラインで持たせる構造で、山本彩のヴォーカルが最も気持ちよく抜けるポイント。
入門動線
まず同じ2021年のyonder🛒楽天を続けて聴くのがおすすめ。yonkeyではなくMori Zentaroのアレンジで、同時期に別方向の越境をしていたことが分かる。次に、これらを含めて全体像として掴むなら、4thアルバム&(アンド)。デジタルシングルで散らばっていた2021年前後の曲群が、アルバムというフォーマットの中でどう配置されているかを一度体験してみると、「あいまって。」の位置がよりくっきりする。
残る問い 二面性はどこへ向かうか
最後に、断定せずに置いておきたい問いがある。「あいまって。」が示した”折衷”の路線は、その後どこまで深化しているのか。アルバム『&』の副題的な「二面性・多代性」というテーマの入り口として2021年のこの曲があったとして、次の到達点はどこに置かれるのか。
ここは正直、聴き手によって答えが分かれる部分だと思う。バンドサウンドに戻る動きに惹かれる人、電子音との折衷の路線をもっと聴きたい人、あるいは共作路線の広がりを見たい人。それぞれに次の1曲は違うはず。あの曲を”どう聴くか”は、この先の作品が出るたびに、少しずつ書き換わっていく気がしてる。
2021年10月に鳴り始めた3分45秒の曲を、2020年代半ばの位置から聴き直すと、当時の”新しい山本彩”というより、いまの山本彩の輪郭を先に描いていた曲として見える。ライブの現場で先に鳴っていた記憶を持つファンなら、なおのこと。もう一度、頭から通してみてほしい。


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