JENNIE”You & Me”を2025年から読み直す ソロ独立への予告編

ピンクとネオンのライトが交差するステージ照明の抽象イメージ 楽曲

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2023年10月6日にリリースされたYou & Me🛒楽天を、2025年の地点から聴き直すと、当時の受け取り方とはずいぶん違って聞こえる。あのときは「Born Pinkツアーで先行披露されていた曲がついに音源化された」という文脈が全てだった。いま同じ曲を再生すると、別の輪郭が浮かぶ。YGの中で鳴らした最後のポップ・ソロ。それは離脱の前夜に置かれた、独立宣言の下書きだった。

この記事は当時のプロモを繰り返すためのものではない。2024年末にYG Entertainmentとの契約が切れ、自身のレーベルOdd Atelierを立ち上げ、2025年3月7日にRuby🛒楽天を出した——その後の景色から、あの2分59秒を巻き戻して読む試み。ファンならもう何度も聴いた曲だと思う。ただ、いまなら言える補助線が確かにある。

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この曲の要点

  • 2023年10月6日にYG Entertainment / Interscope Recordsからリリースされたジェニーの2枚目のソロ・シングル
  • 作曲はTeddy Park、24、Vince。作詞はTeddyとDanny Chung。The Black Label(Seoul)で録音された
  • Billboard Global 200で最高7位、Global Excl. U.S.チャートで1位を獲得(本人初のGlobal Excl.首位)
  • UK Singles Downloads Chartで、女性K-popソロアーティストとして初のNo.1
  • 収録音源は2018年。ソロデビュー曲の候補として録られていたが、結果的にデビュー曲は「SOLO」になり、5年越しに単独リリースされた

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まず基本のところ——「5年寝ていた曲」という異例

結論から書く。You & Me🛒楽天は2023年の新曲であって新曲ではない。実際のトラックはBLACKPINKデビュー前後、2018年に録音されていた。ジェニーは自身のYouTubeチャンネルにアップされた2023年1月の映像で、「録ったのは3〜4年前で、ソロの候補に入っていた」と語っている。つまり、いま僕らが2枚目のソロと呼んでいるこの曲は、本来なら1枚目になっていたかもしれない曲だ。

2018年11月に世に出たソロデビュー曲は「SOLO」だった。この選択が意味するのは、当時のYGが「ジェニーのソロ像」をどこに置くかで一度分岐した、ということ。「SOLO」はTeddyらしいアンセム型のダンス・ポップで、K-popメインストリームど真ん中の設計。対してYou & Me🛒楽天はもっと内向きで、ダンスホールで会話するようなミッド・テンポのEDM/ダンス・ポップだ。長さは2分59秒。切り詰められている。

クレジットを並べておく。作曲はTeddy Park、24、Vince。作詞はTeddyとDanny Chung。この面子は「Pink Venom」「Lovesick Girls」を書いたラインで、要するにBLACKPINK本体の音を作ってきたチームだ。スタジオはThe Black Label(Seoul)。レーベルはYGとInterscope。ここまでは完全にYGエコシステムの中で完結している。ここが後で効いてくる。

Coachella版が先に鳴っていた——「観客の記憶」を音源化した曲

この曲がユニークなのは、音源化の前にライブでの実演がすでに”公式”だった点だ。2023年4月のコーチェラでのBLACKPINKステージでジェニーはこの曲のパフォーマンス・バージョンを披露し、その後のBorn Pink World Tourのソロ・パートで各都市を回った。2023年10月のリリース時、シングルには「You & Me」オリジナル版と「You & Me (Coachella ver.)」がカップリングされていた。順序が逆。

普通のポップ・シングルは「音源→ライブ→ファンの記憶」の順で流れる。この曲は「ライブ→ファンの記憶→音源」だった。ドームで既に何万人もが振付ごと覚えていた曲を、後追いで音として固定した——という順番の異例さは、いま振り返るとかなり示唆的だ。要するに、この曲の初期のオーナーシップは半分ファンにあった。YGのプロモ計画より、ツアー会場での実体験のほうが先に流通していた。

プレスリリースでYGは「ファンがツアーの記憶を思い出すためのギフトになってほしい」というコメントを出している。当時はセンチメンタルなキャッチコピーに読めた。いま読むと、これはYG側の”公式音源としての位置づけの弱さ”を、ファンとの記憶に預けて処理したようにも読める。次の一手をどう打つかは、まだ誰にも決まっていなかった。

この曲のミュージック・ビデオについても触れておきたい。監督はDavid Camarena、映像のトーンは彩度の高いパステルと夜のネオンの往復で、ジェニーのソロMVとしては珍しく”物語を語らない”タイプの構成だった。ダンスとルック中心で、ドラマ的な起伏を作らない。この非物語性は、その後のRubyのMV群——特に「Mantra」の学園コメディ的な軽さ、「ExtraL」のファッション寄りの構成——に繋がっている。感情のドラマを作らないビジュアル戦略は、彼女がYouTube的な短い視認単位でどう存在するかを考え抜いた結果に見える。

サウンドを聴き直す——ミニマルさは「余白の設計」だった

プロダクションの話をする。You & Me🛒楽天のトラックは、Teddyのカタログの中では相当に引き算されている。ドロップの派手さで押し切るタイプではなく、ピアノの単音、乾いたクラップ、削ったベース、ボーカルに広く空間を残したリバーブ処理。BPMはミッドで、ダンスホールというよりホーム・パーティの照度に近い。「SOLO」や「Pink Venom」のような”アンセム設計”の対極にある。

A→サビの流れも独特で、盛り上げのカタルシスよりリピートの心地よさに賭けている。1コーラス目のサビ後にすぐ次のバースが来る詰め方は、TikTok以降のポップの語法とも言えるが、そう単純でもない。録音は2018年。ショートフォーム最適化の潮流よりも前の設計なのに、結果的にショート動画時代の耳と噛み合ってしまった、という時間の逆流がここにある。

ボーカルの処理も、いま聴くと過剰にレイヤーを重ねない選択が目立つ。ジェニーの声のミッドレンジ——少し鼻にかかる、あの独特の抜け——を隠さずに残していて、これは後のRuby収録曲での彼女のボーカル・プロダクション観に確実に繋がっている。2025年の「Mantra」や「Seoul City」で見られる”声を主役にした薄い伴奏”という美学は、実はここで一度予告されていた、と読める。

もう少し細かい話をすると、この曲のミックスにはK-popのメインストリームでは珍しい”隙間”がある。Verseの下に敷かれているのは、ほぼキックとクラップとピアノだけ。ベースは低域でうっすら鳴るが、輪郭を出さない。多くのK-popダンス・ポップは、Verseの段階からシンセのパッドやアルペジオで空間を埋めることで”止まった時間”を作らないよう設計されているが、この曲はあえて止まる時間を作っている。だから聴き手の脳が呼吸できる。この設計は、ヘッドフォンで一人で聴くリスニングと親和性が高い。ライブで拳を上げる曲ではなく、通勤電車で目を閉じる曲。振り返ると、これは相当に大人びた判断だ。

聴きどころ3点

  • イントロから入る乾いたクラップとピアノ単音の距離感——Teddy作品としては珍しく”埋めない”プロダクション。ここに彼女の呼吸が入る余白がある
  • 2:59という尺の切り詰め。ブリッジで一度盛り上げてから終わりに向かう構成ではなく、ループする気分のまま静かに閉じる。アンセム型のK-popメインストリームからの逸脱として聴ける
  • Coachella ver.との比較。オリジナルの内向きなグルーヴが、ライブ用に開かれるとどう変わるか。同じ声・同じ骨格で照度だけが違う二つのミックスは、彼女の”曲の解像度の変え方”を示す資料になっている

朝でも夜でもない曲——聴かれ方の話

この曲、たぶん多くのリスナーが「夜の曲」だと思っている。実際、シンセの湿度と控えめなBPMは深夜のドライブに合う。ただ、Coachella ver.を交互に聴いていると、少し違う気もしてくる。オリジナル版のほうは、夜というより”人と会う前と後の30分”に効くように設計されている気がする。予定の前の緊張が少しほどけていく時間、あるいはイベントの帰り道で頭の中がまだ音楽で鳴っている時間。ドロップの快感で気分を持ち上げる曲ではなく、すでにある気分の輪郭を静かになぞる曲。

だからストリーミングのプレイリストに入れると、この曲は前後の選曲を選ぶ。派手なフックの間に置くと沈む。逆に、ミッドテンポのR&Bやチルなポップの流れに入れると、途端に主役側に立つ。曲の強度は絶対値ではなく、置かれる文脈で変わる——そういう変わり身をする曲だ、と2年経っていまは思う。

チャートの記録——数字の意味を後ろから読む

結論から言うと、この曲はコマーシャル的には十分すぎる成功だった。Billboard Global 200で最高7位。Global Excl. U.S.(米国外の合算)では1位に到達し、これはジェニー個人としてこのチャートでの初の首位。UK Singles Downloads Chartでは、女性K-popソロアーティストとして史上初の1位を記録した。Spotifyのグローバル・チャートでもソロ曲としては彼女自身の最高記録でトップ20圏内にデビューしている。

だが、いま数字を並べ直して考えると、意味合いが少し変わる。2023年のこの時点でジェニーは、YGが所属している状態のまま——つまりレーベルの完全なバックアップの中で——ソロとしてグローバル1位を取れることを実証した。そう。証明済みだったのだ、独立の前に。

この事実は、翌年のOdd Atelier設立の交渉力を考えるうえで無視できない。「YGを離れたら数字が落ちるかもしれない」という不確実性を、この曲の実績が一定程度打ち消していた。Ruby🛒楽天のリード曲「Mantra」が2024年10月に自身のレーベルから出て、Global 200で高順位デビューしたときにも、この延長線を辿ることができた。You & Me🛒楽天は、単体で見ると2枚目のソロ・シングル。長い目で見ると、独立の”資本”を積んだ最後のYG時代のソロ曲だった。

もうひとつ補助線を引くと、この曲のリリース時、YG Entertainmentは所属アーティストの契約更新をめぐって国際的な注目を浴びていた。BLACKPINK4人のグループ活動継続契約と、個人活動契約の分離が2023年末に発表される流れの中で、You & Me🛒楽天は”最後の個人活動としてのYGソロ”に位置付けられることになった。この曲がリリースされた10月時点では、まだ交渉のカードは公になっていない。ただ、後から見れば、この曲の商業的な成功が、翌年の”個人活動は各自の判断”というカード配りの前提を作った、と読める。

キャリアの中の位置づけ——「SOLO」との5年、「Ruby」までの1年半

時間軸を整理する。2018年に「SOLO」でソロデビュー。5年空いて2023年にYou & Me。その間、2023年6月にThe Weekndとの「One Of The Girls」(HBO『The Idol』サントラ)で英語圏の外部プロジェクトに顔を出している。ここが実は重要な補助線で、YG外のプロダクション(The Weeknd陣営)と組む経験を挟んでから、You & MeでYG内に戻ってきている。

そして2024年、契約満了に伴いYGとの再契約はしないことを発表。自身のレーベルOdd Atelierを立ち上げ、2025年3月7日に15曲入りのデビュー・アルバムRubyをColumbia Recordsとの共同でリリース。参加陣容はDominic Fike、Doechii、Kali Uchis、Dua Lipa、Childish Gambinoなど、YG時代の音楽的な半径から明確に外に踏み出している。

この流れの中にYou & Meを置くと、あの曲は”内側で作れる最高値”の証明だったと読める。YGの音楽陣(Teddy、24、Vince、Danny Chung)というBLACKPINK本体の座組を使い、期間もリソースも完全な支援下で、グローバル1位を取れる曲を1本出しておく。そのうえで契約更新を選ばず、外に出る。順序として、これは相当に戦略的だ。当時は”5年ぶりのソロ”というエモーショナルな文脈で受け取っていたが、キャリアの棋譜として見ると別の意味が浮かぶ。

もうひとつ書いておきたいのは、この曲が英語圏の音楽メディアでどう扱われたか、という点。RollingStone、Billboard、NMEといった主要媒体は概ね”待望のソロ2作目”としてストレートに紹介した。批評的な深掘りより、リリースの事実とツアー文脈の紹介が中心だった。ここが後で効いてくる。Rubyのリリース時、同じ媒体群がジェニーを”ソロ・アーティストとしてのアイデンティティを確立した”という文脈で扱えたのは、You & Meという中間点があったからだ。批評的な議論の対象になる前に、まず”ソロで数字を出せる存在”として認知される——このステップを踏むための1曲だった、とも言える。

いま聴いて気付く「サウンドの伏線」

Rubyを通して聴いてからYou & Meに戻ると、いくつか伏線に見える要素がある。まず、英語詞と韓国語詞の比率。この曲は韓国語ベースだが、英語のフックが軽やかに混ざる。Rubyはほぼ英語中心の作りで、この配分の変化はこの1曲で予告されていた、と後追いで気付く。

次に、”アンセムでなさ”。BLACKPINK楽曲は基本的にサビで拳を突き上げる設計だが、この曲はそれをしない。Rubyの多くの曲——「Zen」のインダストリアルな内向きさ、「Seoul City」のミニマルなR&B——もアンセム構造を避けている。ジェニーのソロ観は「群衆を動かす音」ではなく「一人で聴かせる音」に軸がある、というのは、いま並べると2023年時点で既に見えていた。

もうひとつ、キャッチ―さの質。You & Meのフックは覚えやすいが、シンガロング型ではなく、口ずさみ型だ。Rubyの「like JENNIE」も同じ設計で、ラップとメロディの境界を溶かしながらループさせる。振付ありきの叫ぶキャッチではなく、日常の中に住み着くタイプのキャッチ——ここも一本の線で繋がっている。

ジェニーのボーカルの話を少し掘り下げる。彼女の声は、K-popの女性ボーカルの中でも独特のミッドレンジを持っていて、低音のハスキーさと中音の鼻抜けが同居する。BLACKPINK内では、この声を”クールで距離のあるヒロイン”として使ってきた。「Pink Venom」や「Shut Down」でのラップ・パートが典型で、感情を出しすぎず、聴き手との間に一枚膜を置く。You & Meではその膜がだいぶ薄い。歌詞のテーマ性(”あなたと私”の一対一)と相まって、ボーカルが聴き手のすぐ隣で鳴っているような距離感がある。この距離感の調整は、その後のRubyでさらに極端に振れていく——「Zen」ではほぼ独白の距離、「Seoul City」では夜の街を歩きながらの距離。距離を操るソロ・アーティストとしてのジェニー像は、この曲で一度公にセットアップされた、と言っていい。

解釈の分かれ目——これは”YG時代の最終作”か、”独立の予告編”か

ここは答えを一つにしない方がいい。You & Meを、YG体制で作れる最良の”締め”のソロ曲と読むこともできるし、Odd Atelier以降の音楽性を先取りした”序章”と読むこともできる。作編曲チームは完全にYG系なので前者、サウンドの引き算とアンセム回避の姿勢は後者、という具合に、証拠は両側にある。

個人的には、両方だと思っている。YGの内側で作りきったからこそ、外に出た後の方向性が”YG的でないもの”として明確に立てた。You & Meがなかったら、Rubyの英語中心・引き算プロダクション路線は、いまのようにはっきりとした対比では聞こえなかったかもしれない。ファンの読み方は分かれてよくて、この分かれ自体がこの曲の面白さになっている気がする。

入門動線

この曲から次の1曲へ進むなら、まずはRuby収録の「Mantra」。2024年10月にOdd Atelier第一弾として出た曲で、You & Meと直接繋がる”軽さ”の系譜が聴ける。もう1枚踏み込むなら、当然アルバムRubyの通し聴き。特にDominic Fikeとの「Handlebars」、Doechii参加の「ExtraL」あたりは、You & Meで見せた”アンセムでないキャッチ―さ”がどこまで拡張されたかを示す資料になる。時間があれば2018年の「SOLO」まで遡って、5年ごとの3点(SOLO→You & Me→Mantra)で聴くと、ジェニーのソロ観の変遷が一本の線として見えてくる。

K-popの外側から見ると、この曲は2023年の”ポップ回帰”の流れとも重なる。同じ年、Miley Cyrusの「Flowers」やDua Lipaの「Dance The Night」が、派手なプロダクションよりミッドテンポの落ち着きで成功していた。ドロップ全盛の2010年代後半から、少し息を抜いたポップに世界のプレイリストが振れた時期。You & Meはそこにきれいに乗った。Teddyがこの潮流を意識して2018年の録音を2023年に出したのか、それとも偶然の一致なのかは分からない。ただ、結果として”時代の耳と合った”ことは事実で、5年寝かせて出すという判断が、意外にも音楽的にも正解だった、というのは面白い後日談だ。

まとめ——2分59秒の”予告編”

2023年10月にこの曲が出たとき、僕らはこれを”待たされたソロ2作目”として受け取った。それは正しい受け取り方だった。ただ、2年経っていま同じ曲を再生すると、別のラベルも貼れる。独立の前夜に置かれた予告編。YG時代の集大成でありながら、次の章の入口でもある2分59秒。

ファンならもう何十回、何百回と聴いた曲だと思う。それでも、Rubyを通した後に一度、この曲を単独でプレイリストに戻して聴いてみてほしい。当時は聞こえなかった余白が、少し違う意味を持って鳴っているはず。曲は時間と一緒に読み直せる。You & Meは、そういう聴き直しに耐える曲だった、といまなら言える。

まずこの作品から聴く

  • Ruby — 独立後のソロ像の全景
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  • Mantra — Odd Atelier第一弾のリード曲
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  • SOLO — 2018年のソロ原点
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  • One Of The Girls — The Weekndとの英語圏コラボ
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