BLACKPINKの活動休止期間中、メンバー4人がそれぞれソロ作を出し切った。最後にバトンを受け取ったのがJENNIEだった。15曲入りのソロ・デビュー・アルバム『Ruby』は2025年3月7日にリリースされ、K-POPの外側で長く聴かれる作品になった。順位よりも、この人が”何を選ばなかったか”に価値がある。
JENNIEを語るとき、ラップの切れ味やビジュアルの強さに話が偏りがちだ。ただ、ソロ以降の彼女を追っていると、もっと静かな軸が見えてくる。JENNIEは”目立つ選択”ではなく”編集する選択”を積み重ねてきたアーティストで、ソロ『Ruby』はその編集作業がついに一枚のアルバムの規模で通った瞬間だ。
このアーティストの要点
- JENNIEはBLACKPINKのメインラッパー/リードボーカルで、2016年8月8日にシングル『Square One』でグループ・デビュー
- ソロとしては2018年11月12日にシングル『SOLO』でデビュー、2023年に自身のレーベルOdd Atelier(OA)を設立
- 2025年3月7日にColumbia Recordsとの提携でソロ・デビュー・アルバム『Ruby』を発表、全15曲・約41分の構成
- 『Ruby』にはDua Lipa、Doechii、Dominic Fike、Childish Gambino、Kali Uchis、FKJらが客演で参加
プロフィール:14歳の練習生から独立レーベル運営者まで
JENNIEのキャリアは、10代半ばの決断から始まっている。2010年にソウルに戻り、同年YG Entertainmentのオーディションに合格して6年間の練習生生活に入った。ニュージーランド留学経験を持つ帰国子女で、英語が流暢なのはこの時期のバックグラウンドが大きい。
グループとしての本格始動は2016年。2016年6月1日にBLACKPINKの最初のメンバーとして公開され、同年8月8日に最初のデジタル・シングル『Square One』でグループ・デビューを果たした。この”最初に発表されたメンバー”というポジションは象徴的で、彼女は当初からグループの顔として設計されていた。
ソロ活動の起点は2018年だ。2018年11月12日、最初のシングル・アルバム『SOLO』でソロ・デビューを果たしている。ここから2023年までは長い沈黙が続く。2016年のBLACKPINKデビューから2023年まで、彼女がリリースしたソロ・シングルはわずか2曲で、いずれもグループのレーベルYG経由。2018年の『SOLO』と、2023年のダンス・ポップ『You & Me』だった。7年で2曲。数字だけ見れば少ない。しかしこの”少なさ”こそ、後のOdd Atelier設立への伏線だった。
転機は2023年末。2023年12月、彼女は自身の独立レーベルOddAtelier(通称OA)を設立する。2024年初頭にはロサンゼルスで”アルバム・ジャーニー”を開始し、プロジェクトの99%をそこで作業したと語っている。9月にはColumbia Recordsとのパートナーシップを発表、10月にリード・シングル『Mantra』をリリースした。K-POPアイドルが所属大手を出て自前のレーベルを回し、米メジャーと直接組む。このルートを実際に走り切った例はまだ多くない。
音楽性の核:ラッパーの重心とR&Bの余白
JENNIEの音楽性を一言で言えば、ラップの重心の上に、R&B寄りの余白を広く取る作りだ。BLACKPINK時代の彼女はメインラッパーとしてトラックの推進力を担う役割だったが、ソロ以降はその推進力を抑え、ボーカル・トーンの艶と余白の使い方で聴かせる方向にシフトしている。
2024年10月の『Mantra』は分かりやすい転換点だった。強気で軽やかなダンス・ポップ寄りの一曲で、それまでのYGサウンド的な”重厚さ”から一段軽くなっている。この軽さは意図的で、『Ruby』全体を貫くトーンでもある。K-POPの標準的なドロップとBメロの型から距離を取り、洋楽ポップ/R&Bのリズム感に寄せている。
『Ruby』の音のバラつきは大きい。15曲のプロジェクトはK-POP、R&B、ヒップホップ、オルタナティブなサウンドを混ぜ、FKJ、Dua Lipa、Doechii、Dominic Fike、Childish Gambino、Kali Uchisといった顔ぶれの客演を並べた。フランス人マルチ奏者のFKJがイントロを担当し、Dua Lipaとポップな掛け合いをやり、Doechiiと今のヒップホップの温度を通す。この人選は”K-POP側から見た豪華ゲスト”ではなく、”アルバム側から必要な音だけ選んだ”ように並んでいる。
もう一つ、ソロ以降のJENNIEを聴いていて気づくのは、”リズムの解像度”が上がっていることだ。BLACKPINK時代のトラックは4つ打ちや強いキックで押す設計が多かった。ソロ作では、キックを間引いてハイハットの刻みで走らせたり、ベースラインを前に出したりと、細かい粒でリズムを組む場面が増えた。声の乗せ方も、ビートの隙間を縫うようにフレーズを配置する場面が多い。ラッパーとしての耳が、プロダクション選定にも効いている。
そして地味に大きいのが、”英語詞と韓国語詞の混ぜ方”の変化。初期は英韓を交互に置く分かりやすい配分だったが、Rubyでは英語のフレーズが韓国語の文中に自然に入り込み、区切りが目立たない。バイリンガル環境で育った人にしか出せない、切れ目のないコード・スイッチが、そのままフロウの武器になっている。
聴きどころ3点
- ラップの重心とボーカルの余白の同居:語尾を切る強さと、音を残す柔らかさが同じ曲の中で行き来する。BLACKPINK時代の切れ味は消えていない。
- プロダクションの”間”の作り方:ドロップで押し切らず、間を残す。ダンス・トラックでも呼吸ができる。
- 英語と韓国語の切り替えの自然さ:バイリンガル環境で育った素地が、フロウの継ぎ目を目立たせない。
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代表作・ディスコグラフィの読みどころ
ソロ作品を時系列で並べると、JENNIEが何を試してきたかが見えてくる。まずSOLO🛒楽天(2018)。300万YouTube再生を6ヶ月以内に超え、韓国人女性ソロ・アーティストとして最初にその記録を作ったとされる作品で、K-POP女性ソロの規模を一段書き換えた。振付・ビジュアル・声のトーン、全部を一人で背負えると示した最初の答えだった。
次にYou & Me🛒楽天(2023)。5年の沈黙を経て出た1曲で、フェスやコンサートで先行披露していたトラックの正式リリース版だ。ライブでの手応えを起点にレコード化するという順番は、アイドル・ポップの通常運転とは逆で、この時点から”自分のペースで出す”方向に舵が切れていたのが分かる。
もう一つ外せないのがOne of the Girls🛒楽天。2023年のThe Weeknd、Lily-Rose Deppとの共演曲『One of the Girls』はBillboard Global 200で10位に達し、女性K-POPソロ・アーティストとして米ビルボードHot 100で最高位(51位)を記録、同国で最初にプラチナ認定を得た曲となった。HBOドラマ『The Idol』関連の一曲で、K-POPの文脈ではなく、米ポップの棚に置かれた曲として広く聴かれた点が重要だ。
そして本命のRuby🛒楽天(2025)。『Ruby』は15曲入りのソロ・スタジオ・アルバムで2025年3月7日リリース、Columbia Recordsを通じて配給、彼女自身が設立したレーベル経由という座組だ。『Intro: JANE』(FKJ)、『Like JENNIE』、『Start a War』、『Handlebars』、『With the JE (Way Up)』、『ExtraL』、『ZEN』、『Damn Right』、『F.T.S.』、『Filter』、『Seoul City』、『Starlight』といった収録曲が並ぶ。全体で41分。1曲平均3分弱の潔いサイズ感で、長すぎない。
先行シングルは3枚。『Ruby』は『Mantra』、『Love Hangover』(Dominic Fike客演)、『ExtraL』(Doechii客演)の3シングルに先導される形でリリースされた。3枚のシングルで異なる温度を出しておいて、アルバム本編でその温度差を回収する構成になっている。
Odd Atelierという選択:アイドルの外側で立つ
Odd Atelier設立は、JENNIEのキャリアで最も重い意思決定だったと思う。K-POPの大手事務所を出て自分のレーベルを回すというルートは、契約構造上ずっと難しかった。それを実際にやり、米メジャー(Columbia)と直接組んで、洋楽側の制作陣・客演を巻き込んだ。この体制で1st Full Albumを出し切るまでを、彼女は約1年強でやっている。
ここで面白いのは、Odd Atelier以降の彼女が”K-POPを捨てた”わけではないことだ。『Seoul City』というタイトルの曲を最終盤に置き、韓国語のトラックも残している。むしろ「K-POPの外に一度出て、K-POPを一つの選択肢として持ち直した」という位置取りに見える。所属大手のフォーマットに従うのではなく、自分でフォーマットを選ぶ側に回った。この違いは大きい。
ラベルの世界観も含めて彼女は”編集者”に近い。曲順、客演の並べ方、リード曲の温度、MVのビジュアル・トーン。それぞれを分業に投げて豪華にするのではなく、自分の耳と目で選び直している気配がある。だから15曲入っていても、散らからない。
Odd Atelierを立てた時期の判断も冷静だ。BLACKPINKの契約更新問題が2023年に業界を騒がせた中で、彼女は自分のレーベルを立ち上げ、そのうえでグループ活動継続の道も残した。二者択一にしなかった。この折り合いのつけ方は、K-POPの構造の中で新しい前例になりうる。BLACKPINK4人がそれぞれ異なる形でソロ体制を敷いた中でも、JENNIEは”自分の会社を立てて米メジャーに配給を委ねる”という、最も経営者的な選択を取ったといえる。この横並びの比較そのものが、今後のK-POPソロ・キャリア設計を考えるうえでのケーススタディになっていく。
ファッションとカルチャー:音の外側にある文脈
JENNIEを音だけで語ると片手落ちになる。彼女はファッション業界の顔でもあって、Chanelのグローバル・アンバサダーとして長く活動している。ステージ衣装、ジャケット写真、MVのビジュアル・トーンまで、”服の選び方”がそのままアーティスト像の一部として機能してきた。
音楽的な文脈でいえば、彼女はK-POPの外側のアーティストとの共作を積極的に選んできた。2023年のZico『SPOT!』への客演、同年のMatt Champion『Slow Motion』への参加、そしてThe Weeknd/Lily-Rose Deppとの『One of the Girls』。K-POP内の水平コラボではなく、韓国ヒップホップ/US R&B/USポップと、それぞれ違う棚に片足を置く動き方だ。この蓄積があるからこそ、Rubyのコラボ陣が急に呼んだ豪華ゲストではなく、必然の並びに見える。
この点でRosé、Lisa、Jisooと比べても、JENNIEはビジュアル領域の話法が独特だ。ラグジュアリーの記号を素直に使いつつ、ソロ・ワークではストリートやオルタナのテイストも入れる。『Mantra』のMVはロサンゼルスで撮られ、複数のルックを切り替える構成だった。ファッション文脈の広さが、そのままアルバムの音の選択肢の広さと連動している。
そしてこの”ビジュアルの強さ”が、逆に音楽の評価を難しくしてきた側面もある。ファッション・アイコンとしての存在感が先に立つと、音楽の緻密さは見えづらい。『Ruby』はそのバランスを、音の側から少し引き戻した作品だと感じる。
今チャートでの立ち位置と、聴かれ方の読み
今週のチャートに『Ruby』収録曲が入ってきているのは、リリース直後の話題だけでは説明がつかない。BLACKPINK本体のツアーとタイミングが重なり、ソロ作品が”BLACKPINKの補助線”ではなく”JENNIEの本編”として受け止められる下地ができている。
聴かれ方の話をしておく。『Ruby』はアルバム通しよりも、気分で数曲抜いて回すタイプの聴き方に強い気がする。朝の支度中にMantra、夜のドライブでLove Hangover、家事のBGMにZEN、みたいな使い分けができる作りになっている。K-POPアルバムは”通しで一気に浴びる”設計が多い中で、Rubyはむしろプレイリストの素材として設計されているように聴こえる。ストリーミング時代の聴取スタイルを前提にした構造だ。
だからチャートの動きも、リリース直後のスパイクよりも、収録曲が個別に長く残る形になりやすい。数字はスナップショットに過ぎない。この人が積み上げているのは、もう少し長い時間軸の資産だ。
実際、Rubyを1週間くらい通勤の行き帰りで流してみて気づいたのは、最初は派手なMantraやHandlebarsに耳が行くのに、途中から地味な曲、ZENやFilterあたりが引っかかってくることだった。派手さで押し切らない曲がプレイリストに残る。これはアルバムとしての体力を意味している。話題作は一発で消費されて終わることも多いなかで、Rubyはそこに落ちない設計になっている気がする。
もう一つ、聴かれ方の話。彼女のソロ曲は、意外と静かに一人で聴く時間に強い。パーティ・アンセム的な派手さで語られがちだけど、実際は夜のドライブや、深夜に洗い物をしながら流す時間に馴染む。声の艶が、その手の時間帯の空気を持っていける音色だからだと思う。ファンの人が「気づいたら夜のプレイリストにRubyの曲ばかり並んでる」と言うのを何度か見たけど、あれは偶然ではなく、たぶん作りがそっちを向いている。
これから聴くならどこから
JENNIEを最初から追う人にも、Rubyから入る人にも、動線は用意しやすい。BLACKPINK時代の彼女のパートを先に浴びてもいいし、ソロだけを縦に聴いてもいい。どちらから入っても、たどり着く先は2025年の『Ruby』になる。
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入門動線
- まずこの1曲:『Mantra』。現在のJENNIEの声とプロダクションの温度が最短で分かる。
- 次にこの1枚:アルバム『Ruby』。15曲通して聴くと、シングルだけでは見えない色数が出てくる。
- 深めるならこの1枚:シングル『SOLO』(2018)。出発点。ソロとしての最初の答えを聴き直すと、7年間の距離が実感できる。
最後に一つだけ問いを残しておく。JENNIEがOdd Atelierで示した”独立して大手と組む”モデルは、彼女個人の特異な事例で終わるのか、それとも今後のK-POPソロ・アーティストが選べる標準ルートになっていくのか。答えはまだ出ていない。ただ、『Ruby』がその判断材料の一つになっていくのは確かだと思ってます。

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