山本彩「ドラマチックに乾杯」を今聴き直す ソロ第二章の起点だったブラス

夜のバーカウンターに置かれたシャンパングラスと、ホーンセクションを想起させる金管楽器の影 楽曲

本ページには広告(Amazonアソシエイト・楽天アフィリエイト等)を含みます。

山本彩のドラマチックに乾杯🛒楽天が、いまSNSのプレイリスト文脈で妙に息を吹き返している。理由は単純で、2024年から2025年にかけての彼女のライブ活動(ホールツアー、アジアツアー、アコースティックツアー)を追ったあとに聴き返すと、この曲の輪郭がリリース当時とは違って見えるからだ。この曲は勝負曲というより、勝負のしかたを変えた曲だ。歌の主役を、声から編成へ半歩ずらした宣言だった。

2021年2月24日リリース。5thシングル。ドラマの主題歌。事実だけ並べると当時のリリースノートそのままになる。ただ、いま並べ直したい。

先に一つ断っておく。この記事は2021年当時のリアルタイム紹介ではなく、2025年時点の耳で聴き直したときの後追いの読みだ。当時の空気とは温度が違うところもある。そのつもりで読んでほしい。

※広告 「ドラマチックに乾杯 山本 彩」を聴く / 買う ▶ 試聴(YouTube Music)🛒 Amazon🛒 楽天

この曲の要点

  • 山本彩の5thシングル表題曲。2021年2月24日にユニバーサル ミュージックからリリース。
  • 東海テレビ・フジテレビ系「オトナの土ドラ」枠、池脇千鶴主演『その女、ジルバ』の主題歌。
  • 本人コメントでは「初めて全面的にホーンセクションを取り入れたアレンジ」と語られている。ブラスを加えたラテンロック。
  • カップリングにはNHK『みんなのうた』2020年12月〜2021年1月度提供曲「ぼくはおもちゃ」、SHE’S 井上竜馬プロデュース(演奏もSHE’S)の「oasis」を収録。

🎧 この曲を聴くなら[PR]

後追いで気づく、この曲は「宣言」ではなく「移行」だった

結論から言うと、この曲は転機というより蝶番だ。前後をつなぐ蝶番。当時の紹介記事は「新境地」「新章の幕開け」といった言い回しで揃っていた。それは間違いじゃない。ただ、2024年の『RGB』ホールツアー、アジアツアー、そして継続的にビルボードライブでのツアーを重ねている今の山本彩を見てから振り返ると、「ドラマチックに乾杯」は新章の入口というより、それ以降の”編成で見せる”という手つきの、最初の実験だったと分かる。

ソロ以降の彼女は、亀田誠治、根岸孝旨、小林武史、大木伸夫(ACIDMAN)、Mori Zentaro、トオミヨウと、プロデューサーを曲ごとに切り替えてきた。1stアルバム『α』(2019年)の座組みからしてそうだった。要は「自分の声を、他人の設計図に預けて別の顔を引き出す」という遊びを、卒業直後から続けている。「ドラマチックに乾杯」は、その方法論をシングル表題という一番目立つ場所でやり切った最初の一枚、という位置に置き直せる。

本人が「初めて全面的にホーンセクションを取り入れた」と明言していることも大きい。ロックギターで歌える人が、あえてブラスに前を任せた。ここが後で効いてくる。

ラテンロック+ブラスというアレンジが担っている仕事

音の話をしたい。この曲を”歌モノ”として聴くと、たぶん半分しか受け取れない。イントロで鳴るホーンセクションの厚みと、シャッフル寄りに跳ねるドラムのグルーヴが、実質的にサビの主役を分担している。よくあるJ-POPシングルの型、つまりサビでボーカルが張り上げて情緒を持っていくやり方から、意識的にずらされている。

山本彩のボーカルは、この曲では珍しく「上に張る」ことをあまりしない。ホーンの隙間を縫うように、少し歌詞を後ろに置いて歌う場面が多い。ラテンロックというより、ラテンの間の取り方に寄せたロック、と言ったほうが近い。ここが個人的にいちばん面白い部分で、彼女の歌の強度は「張る力」だけじゃなく「引く判断」でも成立するんだと、この曲で初めて体感した記憶がある。

ドラマ『その女、ジルバ』が、平均年齢70歳超の熟女ホステスが働くバー「OLD JACK&ROSE」を舞台にした話だったことも、この編成の必然を裏付けている。ジルバは元々スウィングジャズから枝分かれしたダンス。ブラスが前に出るのはドラマの世界観への呼応でもある。当時「なぜこの曲でホーン?」と思った人は、いま見返すと分かる。作品への返歌だった。

ドラマ『その女、ジルバ』との関係

主題歌としての機能から言うと、この曲は”励まし”ではなく”許し”寄りにチューニングされている。原作は有間しのぶ、手塚治虫文化賞マンガ大賞の受賞作。主人公・笛吹新は40歳、仕事も恋愛もうまくいかない。そこに現れるのが草笛光子ら演じる高齢ホステスたち、という構図。

この物語に必要だったのは、若者の勢いで押し切る主題歌ではなかったはずだ。人生をやり直すことを、無理に「まだ間に合う」と煽らない。飲み屋のカウンターで、隣の誰かが小声で「まあ、乾杯しよっか」と言ってくれるくらいの温度。「ドラマチックに乾杯」というタイトルの軽さと、ブラスの華やかさは、そのくらいの距離感で釣り合っている。

もう少し細かい話を。この曲のホーンは、単に華やかさを足す用途ではなく、リズムセクションと一緒に”跳ね”を作る役割で組まれている。金管が短く刻んで抜ける。その隙間にドラムのスネアが入る。この配置が、聴き手の身体を微妙に前後させる。フロアで踊るためのラテンではなく、椅子に座ったまま肩が動くタイプのラテン、と言えばいいか。ライブ映像を見ると、観客の乗り方もそのくらいの粒度で揃っている。

もう一つ、地味に効いているのがキー選択とテンポ感。この曲は張り上げようと思えば張り上げられるところで、山本彩は”張らない”を選んでいる場面が多い。ロックボーカリストとしての彼女は、NMB48時代からグループ内でも屈指の声量で知られてきた。その声量を、この曲では意図的に7割くらいまで抑えているように聞こえる。歌の重心を下げて、編成に前を任せる。この抑制が、大人向けのドラマ主題歌としての品位に直結している。

山本彩自身が音楽ナタリー等でのコメントで「前向きで明るい楽曲を表現したい」「サウンドに乗って少しでも気持ちが明るくなれば」と語っていたのも、この温度と一致する。強く励まさない。ただ場を明るくする。ドラマ主題歌としての設計思想がここに読み取れる。

ホーンを”主役”にする決断が、なぜ大きかったのか

日本のJ-POPシングルで、ブラスを”添え物”ではなく”主役”にした曲は、実はそう多くない。多くの場合、ホーンはサビの厚みを増すための調味料として使われる。ボーカルが主役、ホーンは彩り。この序列を崩さないのが定石だ。

「ドラマチックに乾杯」は、その序列を半歩崩している。曲全体を通して、ホーンがボーカルと同格に鳴っている場面が何度もある。特にサビ後の間奏。ここでホーンが完全に前に出て、歌が消える。この10秒間の使い方が、この曲の設計思想を象徴している。歌手のシングルで、歌手が10秒黙る、という判断は、案外思い切っている。

これができたのは、山本彩がロックボーカリストとしての自信をすでに持っていたからだと思う。歌で押し切れる人ほど、あえて引くことを選べる。押せない人は引けない。この構造がわかっていると、この曲の”引き”の判断が、彼女のキャリアの中でどれだけ意味のあるものかが見えてくる。

キャリアの中で、この曲はどこに置かれるか

山本彩のソロ・シングル史を並べてみる。1st「イチリンソウ」(亀田誠治プロデュース)、2nd「棘」(根岸孝旨プロデュース)、3rd「追憶の光」(小林武史プロデュース)。ここまでは”歌で押し切る”方向で、プロデューサーもロック/フォーク寄りの匠が揃っていた。そこで4曲目、5曲目のタイミングで、彼女は編成の遊び幅を広げにいく。「ドラマチックに乾杯」はその流れの中で聴くと、明確に手つきが違う。

そのあとの活動を追うと、2023年からのビルボードライブでのツアー、2024年3月の東阪ホールツアー『RGB』、5〜6月のアジア3都市ツアー、9〜10月のアコースティックツアーと、”歌の見せ方”を編成ごとに組み替える活動が続いている。ここで「ドラマチックに乾杯」を挟むと、話が繋がる。この曲でホーンを入れる決断をした人が、その後アコースティック編成でもホール編成でも歌えるようになっている、と読める。

もう少し外側から見る。2010年代後半のアイドル出身ソロシンガーは、卒業後の道が大まかに二つに分かれた。一つは自作曲中心のシンガーソングライター路線。もう一つはプロデューサー起用でJ-POPの本流に乗る路線。山本彩はどちらか一方を選ばず、両方を組み合わせるやり方を採ってきた。1stアルバム『α』が全曲本人作詞作曲でありながら、豪華プロデューサー陣が編曲・演奏で並ぶ、という構造がまさにそれだ。

この二本立てを続けるには、”編集者としての耳”がいる。自分で書いて、誰に渡すと自分の声が一番立つかを判断する耳。「ドラマチックに乾杯」は本人単独クレジットではないが、その耳の使い方、つまりラテンロック+ホーンという普段の彼女の引き出しから遠い座組みをシングル表題で採用する判断に、この姿勢が濃く出ている。安全牌を選ばない。

もう一つ、地味だが大きい変化。2023年に本人が新会社「SYCompany」を立ち上げている。マネジメントの主導権を自分で持つ動きだ。「ドラマチックに乾杯」の頃はまだその手前だが、”曲ごとに座組みを変えて自分を編集する”という姿勢は、後の独立と地続きに見える。決めるのは自分、というスタンスの音楽的な下書きが、このシングルにあった気がする。

プロデュース・座組みという補助線

プロデューサーや編曲家の話をもう少しする。山本彩のシングル史を、プロデューサー起用のパターンから読み直すと、彼女は明らかに「同じ人に二回連続で任せない」傾向がある。曲ごとに座組みを組み替える。これは、シンガーソングライターとしては珍しい姿勢だ。

普通、書き手としての自我が強いシンガーは、信頼できるプロデューサーを見つけたら継続的に組む。そのほうが世界観が積み上がる。ところが山本彩は、亀田誠治、根岸孝旨、小林武史、大木伸夫、Mori Zentaro、トオミヨウ、井上竜馬(SHE’S)と、シングル単位でパートナーを変えてきた。これは自我が弱いのではなく、逆に強い。「毎回違う自分で立ちたい」という書き手の欲求が、この座組みの流動性に出ている。

「ドラマチックに乾杯」はその流動性のちょうど中ほどにある。ここでラテンロック+ブラスをやったから、その後のアジアツアーで海外の聴衆に届く”言語を選ばない曲”のストックが増えた。ホーンは翻訳が要らない。この曲がアジア圏で機能したのは偶然じゃないと思う。

いま、どんな瞬間に効く曲か

この曲は、家で一人で真剣に聴き込むタイプの曲じゃない、と個人的には思っている。効くのは、金曜の夜、少し疲れて、コンビニで買ったビールを開ける前の10秒。あるいは、遠出先のホテルで一杯目を頼んだ瞬間。歌を集中して追わず、ホーンの跳ね方だけを追って聴くと、なぜかその日の残量に少し余裕が戻る。そう設計されている気がする。

もう少し具体的に効きどころを挙げる。運転中に流れると、この曲は化ける。BPMが速すぎず遅すぎず、ホーンの押し引きが車内スピーカーの箱鳴りと相性がいい。夜の首都高でこの曲に切り替わったとき、前の車のテールランプが妙に絵になる、あの感じ。個人的な体感なので押し付けたくはないが、同じことを言うファンをSNSでちらほら見かける。

逆に、朝の通勤で聴くと少しリッチすぎる、と自分は感じている。この曲は昼の光より、夜の照明のほうが似合う。「ドラマチックに乾杯」というタイトルどおり、飲む前後の時間帯に置かれることを想定して作られている気がする。歌詞は引用しないが、テーマの温度としても夜寄りだ。

ドラマ主題歌としてリアルタイムで聴いた人は、たぶんもう1回、ドラマの記憶を外して聴くといい。「主題歌」というラベルを剥がすと、この曲の間奏でホーンが跳ねるところの気持ちよさが、単体で立ち上がってくる。

聴きどころ3点

  • ホーンセクションの押し引き。本人が「初めて全面的に取り入れた」と語るブラスが、サビの推進力を実質的に担っている。ボーカルとの主役交代を追うと面白い。
  • ボーカルの”引き”の判断。上に張らず、後ろに置く歌い方が随所にある。ロックで押せる人があえて選んだ抑制。
  • ラテン由来のリズム感。シャッフル寄りに跳ねるドラムと、ジルバというドラマ主題への呼応。踊れる余白がある。

カップリングも合わせて聴くと像が見える

このシングルは表題曲だけ聴くともったいない。カップリングの「ぼくはおもちゃ」はNHK『みんなのうた』2020年12月〜2021年1月度の提供曲。もう1曲の「oasis」はSHE’Sの井上竜馬がプロデュースし、演奏もSHE’Sが担当している。3曲並べると、山本彩が2021年時点でどれだけ違うクリエイターの引き出しを開けにいっていたかが分かる。表題のブラス編成、みんなのうたのポップ規範、SHE’Sのバンド演奏。シングル1枚が実質ミニアルバムに近い座組みで組まれている。

ここに、その後のプロデューサー起用(大木伸夫、Mori Zentaro、トオミヨウなど)まで見渡すと、彼女のソロ活動は「一人のシンガーソングライターが自分の世界を掘る」タイプではなく、「編集者的シンガーが座組みで見え方を組み替える」タイプだと分かる。「ドラマチックに乾杯」は、そのやり方でシングル表題を作れると証明した曲だ。

入門動線

この曲でホーン入りの山本彩が気に入ったら、次はまず同シングル収録の「oasis」を。SHE’Sのバンドサウンドに乗る彼女の声は、ブラス編成とはまた別の”預け方”を見せてくれる。そこからさらに広げるなら、1stアルバムα(2019年)。全曲本人作詞作曲で、亀田誠治・小林武史・大木伸夫らプロデューサーが並ぶ、彼女のソロ第一章のマップになる一枚だ。

「ドラマチックに乾杯 山本 彩」の関連作品

※本セクションは楽天市場の商品情報(アフィリエイトリンク)です。

それでも解釈が分かれる、一点

最後に、ファンの間でも読みが割れる論点を1つ置いておきたい。「ドラマチックに乾杯」は、山本彩の代表曲の位置に入るのか、それとも通過点なのか。

再生数の伸び方や、ライブでのセットリスト頻度で見れば、代表曲候補と言い切れる曲は他にもある。でも、”彼女がどう歌を成立させるかを変えた瞬間”を1曲挙げろと言われたら、自分はこれを挙げる。分かりやすい代表曲というより、聴き手の側の見る目を変えてくる曲。ここは意見が分かれる部分だと思う。あなたにとってこの曲は、乾杯の曲ですか、それとも移行の曲ですか。

この曲は、そういう静かな移行を刻んだ一枚として、これからも聴き返される気がしている。飲みの席で流れても、家で一人で聴いても、それぞれ違う顔で成立する。強度のある曲というのは、たぶんそういうものだ。

まずこの作品から聴く

  • α — ソロ第一章の全体像が掴める
  • イチリンソウ — 亀田誠治プロデュースの原点
    Amazon / 楽天 で探す
  • 追憶の光 — 小林武史との組み合わせ
    Amazon / 楽天 で探す
  • その女、ジルバ — 主題歌の背景を知る原作
    Amazon / 楽天 で探す

※リンクはアフィリエイト(広告)です。

いい音で聴くなら[PR]

あわせて読みたい

コメント

タイトルとURLをコピーしました