山本彩「TRUE BLUE」を今読み直す 卒業後1年目の”走者の曲”

夜明けの陸上トラックに差す青い光と、疾走感を象徴する軌跡のイメージ 楽曲

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山本彩のTRUE BLUE🛒楽天を、いま2025年の視点から改めて聴き直してみると、当時見えていなかった線がすっと通る。この曲は、ソロシンガーソングライターとしての山本彩が「走り続ける自分」を初めて音にした一本のラインだった。

数字や順位より、彼女がその後どこまで走ったかで、この曲の意味は静かに書き換わっていく。

ひとつ、いま置いておきたい読みがある。駅伝走者に向けて書かれた曲を、卒業後1年目の自分にも書いた。そう仮定して聴くと、サビの伸びが違って聞こえる。

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この曲の要点

  • 2019年12月にリリースされた楽曲で、大木伸夫(ACIDMAN)がプロデュースを手掛けた疾走感のあるアッパー・チューン。日本テレビ系女子駅伝・マラソン中継の応援ソングに起用された。
  • 作詞・作曲は山本彩自身、編曲は大木伸夫。
  • グループ卒業後初のオリジナルアルバム『α』(2019年12月25日発売・ユニバーサルシグマ)に収録された1曲で、アルバムは全曲を山本彩が作詞作曲している。
  • MVは柿本ケンサク監督によりロンドンで全編撮影された。

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2019年12月、彼女は何を鳴らそうとしていたのか

結論から言えば、この曲は「アイドル出身のソロ活動」という枠から一歩踏み出すための、いちばん角の立ったカードだった。作詞・山本彩、作曲・山本彩、編曲・大木伸夫。クレジットの並び自体が、すでに彼女の意思表明になっている。

時系列を整理しておく。2010年結成のNMB48に1期生で加入、キャプテンを務め、AKB48の選抜メンバーとしても活動。2016年にアルバム『Rainbow』でソロデビューし、2017年に2ndソロアルバム『identity』を発表。2018年11月にNMB48を卒業、2019年からソロ活動を本格始動した。そして同年2月のライブハウスツアー「I’m ready」を挟み、4月にUNIVERSAL SIGMAより移籍第1弾シングル「イチリンソウ」をリリースしている。

その流れの終着点として、12月にアルバム『α』が出る。TRUE BLUEはそのアルバム収録の新曲だ。

ここで面白いのは、シングル群のプロデューサー布陣との対比だ。アルバムには亀田誠治プロデュースの「イチリンソウ」、根岸孝旨プロデュースの「棘」、小林武史プロデュースの「追憶の光」といったシングル曲が並ぶ。いわば「日本のロックの背骨」みたいな面子である。その中にACIDMAN大木伸夫が入る意味は、いま振り返ると大きい。

亀田・小林・根岸は”うたを立てる”職人だ。大木は違う。大木がプロデュースしたTRUE BLUEは疾走感溢れるアッパー・チューンで、要はギターの塊が前に出る。山本彩の”ロック好き”という長年の側面を、遠慮なくラウドスピーカーに繋いだ選曲だと、いま聴くとよくわかる。

走るための曲、そして”走り続けるための曲”へ

タイアップの選ばれ方が、この曲のキャラクターを決めた。2019年12月25日発売のニューアルバム収録曲として、大木伸夫プロデュースの新曲「TRUE BLUE」が日本テレビ系の女子陸上中継を盛り上げる応援ソングに決定。10月27日開催の第37回全日本大学女子駅伝、12月8日の東京五輪女子マラソン日本代表選考レースなどが対象だった。

駅伝・マラソン。つまり、勝つ瞬間より、走り続ける時間のほうがずっと長い競技だ。

この起用は、当時は「アスリート応援ソング」の文脈で語られた。ただ、2025年の今から振り返るなら別の読みが出てくる。当時の山本彩自身が、まさに”卒業後の長距離走”を走り始めた1年目だった、ということだ。1stシングル、2ndシングル、3rdシングル、そしてアルバム。ソロで年間を通してこの本数を回すのは、体力の話で言っても相当きつい。

だから、TRUE BLUEを”駅伝の曲”としてだけ聴くのは、いま考えるともったいない。走者への曲であり、走者としての彼女の曲でもあった。

サウンドの読み — 大木伸夫が仕掛けた”抜け”

結論を先に置く。この曲のプロダクションで一番効いているのは、ボーカルの”上”の空間だ。

山本彩のボーカルは、地声の芯が強い。それをそのまま前に出すと、ロックの塊に対して声が”詰まって”聞こえてしまう危険がある。3分04秒の中で、ギターの縦のノリと声の横の伸びを両立させるには、上に抜ける空間が要る。イントロからサビにかけての音場を注意して聴くと、ボーカルの上に薄いリバーブが乗っていて、声を”ロックの塊の上を滑らせる”ように配置しているのがわかる。

ACIDMANの大木伸夫が自分のバンドで長年やってきた”開けた空”のプロダクションが、そのまま山本彩のボーカルの逃げ道になっている。ここは、いま改めて聴いてほしい。

BPMも面白い。駅伝タイアップの応援ソングは、意外と”速すぎる”と走者のリズムから外れる。TRUE BLUEはアッパーだが、疾走の中に一定のグライド感がある。走る人が並走できる速度、と言っていい。作詞作曲を自身で担当した山本彩と、編曲の大木伸夫、それぞれのバランス感覚が噛み合った結果だと思う。

もう一つ気づく点。A→Bメロの繋ぎ方に、ロックバンドの手癖が入っている。素材そのものはJ-POPの構造なのに、”ここで一段テンポ感を上げる”という手つきがバンド的だ。この辺の判断は、ソロシンガー用のトラックメイクからは出てこない発想だと思う。編曲者のバンド脳が、いい方向に働いた曲。

そして、彼女自身のギターの立ち位置。山本彩はステージでギターを弾くアーティストとして知られていて、ソロデビュー以降その姿勢はほぼ変わっていない。TRUE BLUEのギター・アレンジは、そのステージ像とちゃんと接続している。単に”かっこいいギターロック”を発注したのではなく、”自分が抱えて弾ける音像”として設計されている——そう聴くほうが自然だ。

聴きどころ3点

  • イントロからAメロへの導入部 — ギターの前傾姿勢と、そこに乗る声の”体温差”。この曲の設計思想が最初の20秒に凝縮している。
  • サビの空間処理 — ボーカルの上に確保された”空”の広さ。塊で押しつつ声を潰さない、大木プロデュースの美点。
  • アウトロの引き際 — 3分ちょっとで畳む潔さ。長く引き伸ばさないから、”もう一度再生”の指がつい動く。

この曲は”朝の準備曲”として効く、という読み

これはあくまで作風からの読みなのだけれど。TRUE BLUEは”何かに向かう前”の時間に効くように設計されている気がする。

駅伝の応援ソングという出自を差し引いても、この曲の疾走感は”到着後”ではなく”出発前”のテンションに近い。仕事に出る前の10分、大事な打ち合わせの前、練習に向かう車の中。3分04秒という尺は、家を出る前のもう一杯のコーヒーとちょうど同じくらいの時間だ。

もし、この曲を”応援ソング”として一括りにしていたなら、来週の月曜の朝に一度、通勤や通学の直前に流してみてほしい。走者じゃなくても、輪郭が少し変わる曲だと思う。

『α』の中での位置 — 全曲作詞作曲、が意味していたもの

結論。TRUE BLUEはアルバム『α』の”走る筋肉”を担っていた曲だ。

『α』は山本彩の3作目のアルバムで、2019年12月25日にユニバーサルシグマより発売された。アルバムそのものの成り立ちが、彼女のキャリアの転換点だった。グループ卒業後初となるアルバムで、全曲作詞作曲を山本彩が手掛けている。

ここは、いま2025年の位置から見ると、当時の想像以上に重い一線だ。アイドル出身のシンガーが、卒業後のオリジナルアルバムを”全曲自作”で出す、というのは、業界の慣習で言えばかなりの覚悟がいる。プロの作家陣に発注すれば安全にまとまる。そうしなかった。

そのアルバムの中でTRUE BLUEは、いちばん”バンド寄り”の音を担った。アルバムの他の曲はACIDMAN大木伸夫プロデュースのTRUE BLUE以外に、Mori Zentaroプロデュースのミッド・グルーヴ「Homeward」、トオミヨウがプロデュースするアブストラクトなロックバラードなど新曲3曲を収録している。ミッド、バラード、そしてアッパー。TRUE BLUEは明確に”疾走”を担当した曲だった。

アルバム全体の中で1曲だけ聴くならバラード、というリスナーは多いと思う。ただ、『α』というアルバムの構造を理解する上では、TRUE BLUEを外すと骨が抜ける。

プロデューサーの人選も、いま振り返ると”教科書”としてよく組まれている。亀田誠治で歌もの、小林武史でスケール感、根岸孝旨でロックの芯、大木伸夫でバンドの疾走、Mori Zentaroで同時代のグルーヴ、トオミヨウでアブストラクトなロック。カバー範囲が広いのに、通しで聴くとバラけない。それは、全曲の作詞作曲を1人が担っているからで、要はメロディの筆致がアルバム全体を縫っている。

この構造の中で、TRUE BLUEは”バンドの熱量”を担当する位置に置かれている。他のプロデューサー曲では出せない温度を、大木伸夫が担った。だから、この曲を抜くと『α』のグラデーションが急に狭くなる。

MVはロンドンで撮られた — その選択の意味を、今から読む

「TRUE BLUE」のミュージックビデオは、柿本ケンサク監督が手掛け、ロンドンで全編撮影された。柿本監督は「ロックの本場、ロンドンで山本さんの素顔を捉えました。演出のない、これまでのイメージとは少し違う新しい山本さんの表情をご覧ください」とコメントしている。

ロンドンで撮る、という選択自体はいまや珍しくない。ただ、”卒業後1年目のアーティストのMVをロンドンで全編撮る”というのは、レーベル・アーティスト双方の意思がないと成立しない座組だ。

ここで大事なのは、監督のコメントの中の”演出のない”というフレーズだと思う。アイドル出身のアーティストのMVで、”演出のない素顔”を撮る、と監督が明言している。山本彩自身も「色んなシーンで撮影したので、オシャレなロンドンでどんどん変わっていく場面、映像を楽しんで頂けると思います」とコメントしている。

いま2025年から見ると、この”演出を抜く”方向は、その後の彼女のビジュアル戦略とも重なる。

2025年の位置から振り返る — TRUE BLUEはどこに繋がったか

結論。この曲は、彼女の”走者としての5年間”のスタートラインに立っていた。

その後の歩みを整理する。2024年9月〜10月には初のアコースティックツアー『Sayaka Yamamoto Acoustic Tour 2024「Organic」』、11月には初の対バンツアー『山本彩×ライブナタリー Zepp TOUR「SYnergy」』を開催、12月25日には1st EP『U TA CARTE』をリリースした。そして11月23日より全国ホールツアー『Sayaka Yamamoto Hall Tour 2025-26 “home away from home”』を開催している。

この5年間の連続性を振り返ってみると、TRUE BLUEの位置がはっきり見える。彼女はソロ活動を短距離走ではなく、明確に長距離走として設計した。2024年12月には音楽ナタリーが「山本彩×ACIDMAN、爆発的なエネルギーにあふれた夜」というライブレポートを掲載していて、5年経ってなおACIDMANとの繋がりが続いていることも興味深い。

2019年のTRUE BLUEでACIDMAN大木伸夫と組んだ関係が、2024年のツーマンライブへと繋がっている。TRUE BLUEは、”駅伝の応援ソング”であると同時に、彼女自身が長距離走に踏み出した最初のペースメーカーだった、という読みが、いまだからできる。

もう一つ大事な補助線を引いておく。2024年にはアニメ『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』EDテーマ「ブルースター」のMV公開、2023年からの3か月連続配信リリース、2025年には『小学一年生』創刊100周年記念ソング「ボクたちのスタート」の歌唱など、活動の幅が広がっている。タイアップの種類も、応援ソング/アニメ主題歌/記念ソング/ゲーム楽曲と、明確に複数のフィールドに拡張されている。

この拡張の”最初の外貨”がTRUE BLUEだった、と考えると腑に落ちる。日本テレビ系の駅伝・マラソン中継という、音楽メディアの外側の場に彼女の曲が届いた最初の主要タイアップの一つだ。ここが開いたから、その後のタイアップの受け皿も広がった、という読み方はできる。

いま聴き直すときのヒント

当時この曲をリアルタイムで聴いていた人にとって、TRUE BLUEはたぶん”卒業後の彼女のロック側”を象徴する1曲だった。それは正しい。ただ、ここに補助線を1本足したい。

この曲を”疾走感のあるロックナンバー”として消費するのではなく、”走り続けるための曲”として聴き直してほしい。駅伝走者に向けて書かれた曲を、卒業後1年目の自分に向けても書いた——そう仮定して聴くと、サビの伸びが違って聞こえる。

ここは解釈が分かれるところだと思う。単純にアスリート応援ソングとして受け取る読み方も間違いではない。ただ、いま2025年の位置から聴くと、”走る側”の視点で書かれた曲、という読みが自然に立ち上がってくる。

入門動線

TRUE BLUEから山本彩のソロ活動に踏み込むなら、まずアルバムαを頭から通して聴くのがいい。「イチリンソウ」(亀田誠治プロデュース)、「棘」(根岸孝旨プロデュース)、「追憶の光」(小林武史プロデュース)と、プロデューサーごとに手触りが違う11曲がひと繋ぎで聴ける。作詞作曲は全曲彼女自身なので、”曲を書く人としての山本彩”の初期像がまとめて掴める。

次の1曲を挙げるなら、同アルバムから「イチリンソウ」を。TRUE BLUEの疾走との対比で、彼女のバラード側の設計思想がよくわかる。そこから、卒業後5年を経て2024年末にリリースされた1st EP『U TA CARTE』に飛ぶと、TRUE BLUEからの距離と、変わらない骨が同時に見えてくるはずだ。

まとめ — 数字で語れない曲

TRUE BLUEはチャート的な瞬発力で語られる曲ではないと、個人的には思ってる。むしろ、リリースから5年経ったいま、彼女のキャリアの走行距離が伸びるほど、この曲の”意味”のほうが伸びていく、そういう種類の曲だ。

2019年の年末、卒業後1年目の彼女が、駅伝走者に向けて自作の1曲を書き、ACIDMAN大木伸夫と組み、ロンドンでMVを撮った。この事実を1本の線として繋げて眺めると、”走者の曲”は、そのまま走者としての彼女の自己申告だったと感じる。

いま初めて聴く人は、応援ソングとして。ずっと聴いてきた人は、5年ぶんの走行距離を重ねて。同じ3分04秒が、2回、違って聞こえるはずだ。

まずこの作品から聴く

  • α — 全曲自作の3rdアルバム
  • イチリンソウ — 亀田誠治編のバラード側
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  • 追憶の光 — 小林武史編のスケール感
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  • U TA CARTE — 2024年末の1st EP
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