シンリズムという設計者 神戸の高校生が独りで組み立てたポップの現在地

夜明け前の街と、机の上に並んだギター・ベース・鍵盤・ドラムマシンをやわらかい光が包む抽象イメージ アーティスト

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チャートを追っていると、たまに順位の数字より「そこにいること自体」が意味を持つ名前に出会う。シンリズムはその一人だ。2015年、17歳で『NEW RHYTHM』を出してから、彼はずっと同じ体温で作品を積み上げてきた。派手なバイラルがあるわけではない。ただ、聴くと必ず「ああ、この人まだ静かに強くなってるな」と思わされる。彼の曲は速報ではなく、10年かけて積み直せる家具のような手触りで作られている。今週このチャートで彼の名前を見つけた人に、その手触りの正体を少しだけ言葉にして渡したい。

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このアーティストの要点

  • シンリズム(本名・新 理澄)は1997年7月17日生まれ、兵庫県神戸市出身のシンガーソングライター/マルチプレイヤー。ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラム、シンセ、トロンボーン、プログラミングまで一人でこなす。
  • 高校1年時の2013年、中学から作りためた曲をSoundCloudに投稿。ネットで話題となり、2015年にアナログ/CDアルバム『NEW RHYTHM』でデビュー。
  • 2017年、リクルート「カーセンサー」の書き下ろしCMソング「FUN!」でお茶の間に到達。原田泰造出演のシリーズCMで長く流れた。
  • 2023年秋、NBCユニバーサル制作のTVアニメ『川越ボーイズ・シング』の音楽をYUKI KANESAKA・横山潤子と共同で担当。
  • 所属はエレファントカシマシやSHISHAMOと同じフェイス系。2023年「POPSONG」、2024年「光の街」など、配信を軸にコンスタントに新曲を出し続けている。

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神戸の10代がSoundCloudにアップした日から

シンリズムの物語は、2013年の神戸の自室から始まっている。中学の頃から父親の影響で音楽に浸り、宅録で曲を組み上げてはSoundCloudに上げていた高校1年生。当時のインディ音楽リスナーの間で「17歳の何者かがすごい」という噂が回った時期があった。この「発見の順番」が後の彼のキャリアをかなり決めている。まずネットの耳の早いリスナーが見つけ、そのあと業界が追いつく。彼はデビュー前から、少数だけれど濃い聴き手を先に持っていた。

2015年、ANO(t)RAKSからアナログ盤『NEW RHYTHM』を出し、続いて全国流通でアルバム・デビュー。所属はフェイス系で、エレファントカシマシやSHISHAMO、plentyといった名前が並ぶチームに、10代の宅録少年が入ったことになる。当時のインタビューを読み返すと、彼は驚くほど落ち着いていて、自分の音楽の来歴を淡々と話している。ハイプに乗せられていない。18歳前後の音楽家として、これはかなり珍しい。

そして2017年、リクルート「カーセンサー」の中古車CMのために書き下ろした「FUN!」で、彼の音は初めてお茶の間の平場に出た。原田泰造が出演し、「中古車は、新しい未来をつれてくる。」というコピーの横で軽やかに鳴った曲。テレビ画面から流れてくる音楽としては、いい意味で「浮いていた」。作り込みの密度が明らかに高かった。ここで彼の名前を覚えた人が、遡って『NEW RHYTHM』を掘り、SoundCloud時代の音源に辿り着く。動線が逆方向に流れ始めた瞬間だった。

その後、神戸から東京に活動拠点を移し、フェスやライブハウスでバンド編成のステージも重ねてきた。宅録の人という第一印象は、ライブを一度観ると更新される。骨太。これが彼のもう一つの顔だ。

「マルチプレイヤー」という言葉で片付けたくない理由

結論から言うと、シンリズムの本質は「全部弾ける器用な人」ではなく「全部を一人で組み立てるからこそ生まれる、独特のバランス感覚を持った編曲家」だ。ここを見落とすと、彼の音は「上手いね」で終わってしまう。

ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラム、シンセサイザー、トロンボーン、プログラミング。プロフィールに並ぶ楽器の数はたしかに壮観だ。ただ、面白いのは、彼が「全部を主張しない」ことだ。トロンボーンを吹けるのにトロンボーンの主役曲を作らない。ドラムを叩けるのに派手なフィルで埋めない。10代のマルチプレイヤーがやりがちな「できるからやる」ではなく、曲に必要な音を必要な分だけ配置していく。宅録なのに、部屋の匂いがしない。

デビュー期にはNONA REEVESの小松シゲル(ドラム)、SOIL&”PIMP”SESSIONSのタブゾンビ(トランペット)、チェリストの四家卯大、キーボーディストの高野勲がサウンドアドバイザー/演奏で参加していた。10代の宅録作品にこの布陣が集まるという事実そのものが、彼の設計図の完成度を物語っている。器の大きさに大人が呼ばれた、という順番なのだ。

初期作と最新作を並べて聴き直すと分かるが、ギターのカッティングの粒立ちや、ベースの選ぶポジションの好み、シンセパッドの残し方に、はっきり彼の指紋がある。誰かに寄せて作った曲でも、10秒聴けばシンリズムだと分かる。マルチプレイヤーの器用貧乏に落ちないのは、この指紋があるからだ。

音楽性の核と変遷 シティ・ポップの語彙を、外へ

デビュー当初、彼の音楽はよく「シティ・ポップ」「ニュー・ソウル」「AOR」といった言葉で語られた。実際、キリンジや山下達郎、シュガー・ベイブに通じる洒脱なコード感、ホーンとストリングスの入れ方、跳ねるベース。ここまでは10代のセンスとしても十分驚異的だった。

ただ、彼の面白さは、そこで止まらなかったところにある。2017年の『Have Fun』以降、ニューウェイヴやインディロック、ルーツロック、ソウル、ファンク、R&Bの語彙が少しずつ混ざり始める。2019年の『ファルセット』ではファルセット歌唱を軸にした曲、2020年のポルトガル語タイトル作『Musica Popular Japonesa』ではブラジル音楽の空気を借りた曲、2023年の「POPSONG」ではダンスチューンへの舵切り。彼はシティ・ポップの箱に収まる気がなかった。

その変遷は「時代に合わせて変えている」というより、「引き出しを増やして、その日の気分の曲を出している」ように見える。長く追ってきた人は分かるはずだが、彼の新曲を初聴で好き嫌い判断するのは早計だ。3周聴くと、たいてい景色が変わる。骨格が地味に凝っているからだ。

歌詞のテーマも一貫していて派手さがない。日常、人の関係、街の情景、時間の流れ。大声で叫ばないし、社会に対して声高に語らない。生活の解像度を上げる方向に言葉を使う人だ。だから彼の曲は、聴く側の生活の質感で意味が変わる。20歳で聴いた「心理の森」と、30歳で聴き直した「心理の森」は、同じ曲なのに違う場所を刺してくる。

代表作・ディスコグラフィの読みどころ

まず入り口として押さえたいのは、デビュー作NEW RHYTHM🛒楽天(2015)。17歳の宅録作品としてはあまりに完成度が高く、いま聴いても違和感がない。「心理の森」の跳ねるリズムと洒脱なコード、「処方箋」の落ち着いた歌唱、「喫茶aori」のインスト的な遊び。10曲通して聴くと、この時点で彼のポップの骨格がほぼ全部揃っていることが分かる。以降の作品は、ここからの派生と拡張だと言ってもいい。

次に触れておきたいのがFUN!🛒楽天(2017)。カーセンサーCMの書き下ろしで、彼にとって初めての商業タイアップだった。2分台のコンパクトな尺に、ホーンセクションと軽やかなカッティングを詰め込んだ、いい意味で「CMサイズに最適化された」ポップ。ただ、フルで聴くとCMで刈られていた部分の面白さが残っている。タイアップ曲を「フルで聴くと化ける」曲に仕上げるセンスは、以降の彼の重要な武器になった。

2017年のアルバムHave Fun🛒楽天は、彼のセカンドアクトの始まり。宅録少年からバンドの現場を経たソングライターへの脱皮が記録されている。ドラムの生々しさ、コーラスワークの厚み。ここで彼はいわゆる「シンリズム的シティ・ポップ」の外に出ようとし始めた。

2020年のMusica Popular Japonesa🛒楽天はコロナ禍の中で出された配信主体の作品群で、家にこもった時間から生まれた音が並ぶ。プロダクションの手数が減り、ヴォーカルと少ない楽器で成立する曲が増えた。派手ではないが、彼の音楽の芯が見える一枚だ。近年のシングル「POPSONG」(2023)、「光の街」(2024)は、この芯を保ったまま踊れる方向に振った近作で、ライブでの馴染みも良い。

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聴きどころ3点

  • ベースラインの選び方。ルート弾きに逃げず、コード進行の中で意外な音を踏むことが多い。ヘッドフォンで低音側を追うだけで一曲もつ。
  • コーラスとリードの距離感。全部一人で歌っているのに、コーラスがリードに寄りかからず独立して機能している。宅録なのに合唱の呼吸がある。
  • 2〜3分の短い曲の完成度。長尺で押さない。短い尺の中で起承転結を組む設計の巧さが、CMやアニメの現場でも効いている。

アニメ『川越ボーイズ・シング』で見えた作家の別の顔

2023年10月から2024年1月にかけてTOKYO MXほかで放送されたTVアニメ『川越ボーイズ・シング』は、シンリズムのキャリアの中で少し特別な位置にある。NBCユニバーサル完全自社制作のオリジナルアニメで、埼玉県川越市のボーイズ・クワイア(少年合唱)部を舞台にした青春群像劇。音楽はYUKI KANESAKA、シンリズム、横山潤子の3人体制で担当した。

合唱部が舞台なので、当然クワイア(合唱)楽曲が物語の背骨になる。ソロ作品では「一人で全部やる人」だったシンリズムが、複数の声のためのアレンジ、シーンに寄り添う劇伴、他二人の作家との協働を経験した現場だ。連載インタビューの中で彼は、それぞれの作家性を尊重しながら作品全体のトーンを揃えていくプロセスを話していた。ソロで完結してきた作家が、共同作業の現場で見せる譲り方と芯の残し方。ここに新しいシンリズムがいる。

アニメを観てから彼のソロ曲に戻ると、コーラスの重ね方や声部の分け方の意識が少し変わっていることに気づく。逆にソロを聴き込んだ耳でアニメ内の音楽を聴くと、随所にシンリズムの指紋がある。作家として一段深いレイヤーの引き出しが増えた仕事だった、と言えるはずだ。

カルチャー的な文脈 「発見される才能」から「使われる作家」へ

2010年代前半、SoundCloud経由で発掘された日本の若い作家というと、tofubeatsやSeihoといった名前がまず浮かぶ。シンリズムは彼らより数年後、10代の中盤で同じ動線に乗った世代だ。ただし、tofubeatsたちが「トラックメイカー/DJ」の文脈を強く持っていたのに対し、シンリズムはあくまで「歌のあるポップスの書き手」として現れた。ここが彼の独自性でもある。

同時代のシティ・ポップ再評価の波(2010年代後半〜2020年代前半のグローバルな流れ)とも、彼は微妙な距離を保った。竹内まりや「Plastic Love」がYouTubeで再ブレイクした頃、彼の音は簡単に「和製シティ・ポップの新星」のラベルで消費されそうな位置にいた。実際、そう紹介された記事も多かった。それでも本人は次の作品でファンクに寄り、ダンスに寄り、ブラジルの空気を借り、と少しずつ位置をずらし続けた。ラベルに固定されない体幹の強さが、10年続く理由になっている。

そして2017年のカーセンサーCM、2023年の『川越ボーイズ・シング』を経て、彼は「発見される才能」から「呼ばれて使われる作家」へと立場を移してきた。ソロ名義の派手なチャートアクションだけでは測れないタイプの音楽家で、こういう作家の存在は、日本のポップ・シーンの層の厚さを支えている。

今チャートでの立ち位置 数字の外側にあるもの

今週のこのチャートで彼の名前を見つけたなら、それはたぶん、単発のバイラルというより、10年積み上げてきた仕事のどれかが、いま誰かの生活のBGMになっている結果だ。彼は「今週の話題曲」の作家であることをずっと避けてきた人で、その代わり「5年後も普通に聴ける曲」を残し続けている。順位の高低より、そこにいることの継続性のほうが、彼の場合ずっと本質に近い。

シンリズムの曲は、朝の通勤の車の中で急に効くタイプの音楽な気がする。眠さの残った耳にも刺さらず、目を覚まそうとする気分にも邪魔をせず、ちょうどよく背中を押す。夜に聴くと逆に輪郭がぼやけて、部屋の家具の一部みたいになる。時間帯ごとに聴こえ方の変わる曲を書ける人は、実はそれほど多くない。ファンが長く彼のプレイリストに残し続けるのは、そういう「生活の中で強い」音楽だからだと思う。

数字はスナップショット。彼が積み上げているのは、たぶんもっとゆっくり効いてくる別のレイヤーだ。

これから聴くならどこから

初めてシンリズムを聴く人にまず薦めたいのは、CMで耳に残っているかもしれない「FUN!」ではなく、あえてデビュー作『NEW RHYTHM』の1曲目「心理の森」だ。17歳の彼が組み立てた最初のポップ。ここが原点で、以降の作品は全部この曲の派生として聴ける。イントロの跳ねるリズムから、彼のバランス感覚に触れられる。

「心理の森」で入り口を掴んだら、次はアルバム『Have Fun』を通しで聴く。宅録少年からバンドサウンドへ広がっていく過程が一枚に収まっていて、彼の作家としての可動域が分かる。そこからは好みで、シティ・ポップ寄りの気分ならデビュー作をもう一度、ダンス寄りなら「POPSONG」、静かな夜の気分なら『Musica Popular Japonesa』、と選び分けられる。

まずこの作品から聴く

  • NEW RHYTHM — 17歳の完成された原点
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  • Have Fun — 宅録からバンドへ拡張
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  • FUN! — CM書き下ろしの入口曲
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  • POPSONG — 近年のダンス志向を象徴
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入門動線

  • まずこの1曲:「心理の森」(2015/『NEW RHYTHM』収録)。彼のポップの骨格がすべてある。
  • 次にこの1枚:『NEW RHYTHM』。17歳の宅録作品としては異常に完成度が高いデビュー・アルバム。
  • 深めるならこの1枚:『Have Fun』(2017)。宅録からバンドへ、シティ・ポップからその外側へ拡張していく過渡期の記録。

最後に 静かに長く続く作家の話

デビューから10年経った今のシンリズムは、17歳のときの「天才少年」ラベルからほとんど抜け出している。ラベルに助けられた時期を通り過ぎて、いまは「作品でしか語られない作家」の場所に立っている。これはたぶん、10代でデビューした音楽家にとって一番難しい移行で、彼はそれを派手なリブランディングなしでやってのけた。

彼の曲を長く追ってきた人は、たぶん「昔の曲のほうが良かった」とも「最近の曲のほうが良い」とも言わない。どの時期の曲にも、ちゃんとその時のシンリズムがいて、通して聴くと一本の線になる。線を切らない作家は、意外と少ない。ここは解釈が分かれるところで、彼のキャリアで最も光る作品はどれかと聞かれれば、答えはたぶん人によって違う。デビュー作を推す人、『Have Fun』を推す人、コロナ禍のミニマルな配信曲を推す人、アニメの劇伴を推す人。全員が正解だと思う。あなたにとっての「シンリズムのど真ん中」は、どのアルバムだろう。

今週このチャートで彼の名前に出会ったなら、その出会いは、たぶん最初の1曲では終わらない。3年後、通勤路の信号待ちで、彼の古いアルバムがふっと頭の中で鳴る日が来る。彼はそういう作家だ。

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