WONKはなぜ特別か 10年続くエクスペリメンタル・ソウルの現在地

深い青と紫のグラデーションに、鍵盤とドラムのシルエットが重なる抽象的な音楽イメージ アーティスト

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WONKというバンドの名前を、フェスのタイムテーブルや誰かのプレイリストで見かけるようになって久しい。エクスペリメンタル・ソウルという肩書きを、これほど長く矛盾なく背負ってきた日本のバンドは、思い返してもそう多くない。

WONKの本質は、ジャンル横断ではなく「実験を続けられる編成」を10年以上維持していることにある。

ソウル、ジャズ、ヒップホップ、ロック——バックグラウンドが違う4人が、解散も交代もなくアルバムごとに音を作り変えている。派手な数字の話ではない。ただ、日本の音楽シーンで彼らのようなポジションを取り続けているバンドは、片手で数えられるくらいだと思う。

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このバンドの要点

  • WONKは荒田洸(Dr)が中心となり2013年に東京で結成された4人組バンドで、「エクスペリメンタル・ソウル」を標榜している。
  • メンバーは荒田洸(Dr)、長塚健斗(Vo)、江﨑文武(Key)、井上幹(B)の4人。全員がプレイヤー/プロデューサー/エンジニアを兼ねる。
  • 2016年の1stアルバム『Sphere』は第9回CDショップ大賞ジャズ賞を受賞。2017年には『Castor』『Pollux』の2枚を同時リリース。
  • キーボードの江﨑文武は常田大希(King Gnu)主導のmillennium paradeにも参加している。
  • 2022年5月にアルバム『artless』をリリース。制作現場を追ったドキュメンタリー映画も全国で上映された。

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4人がどこから来たのか — 結成の経緯

WONKの結成は2013年。バンドリーダーの荒田洸が、大学の音楽サークルで出会った仲間たちに声をかけたのが始まりだった。慶應義塾大学クロスオーバー研究会でベースの井上幹と出会い、井上と旧知だった長塚健斗、そして早稲田大学モダンジャズ研究会で顔を合わせていた江﨑文武を誘った、というのが公式に語られている経緯だ。

この「大学サークル発」という出自は、意外と重要だと思っている。日本のバンドで、ロックバンドの延長ではなくジャズ/ソウル/ヒップホップの語彙を最初から共有してスタートした集団は少ない。彼らはJ Dillaの系譜に連なるビートミュージックをバンドで具現化する、というコンセプトを最初期から掲げていた。この設計思想が、その後の10年でぶれなかった。

荒田は幼少期、ライブハウスでスティーヴ・ガッドを目撃してドラマーを志したと本人が語っている。ソウルのバックビートも、ジャズの複雑なメーターも、ヒップホップのヨレも、同じ体で叩き分けられる人がリーダーにいる。そう。ここが出発点として大きい。

ボーカルの長塚健斗の声は、日本語ロックの発声とは別系統にある。R&Bやゴスペルの湿度を通ってきた声で、英語詞と日本語詞のどちらでも同じ密度を出せる。ここがフロントにいる時点で、WONKが向かえるレンジは他のバンドよりずっと広い。ソウル歌唱の教科書的な技術を持ちながら、それを主役にしすぎない自制も同居している。日本人ボーカリストで、この配分ができる歌い手は稀だ。

ベースの井上幹は、バンドの低音を”座らせる”タイプのプレイヤー。派手なフレーズで前に出るより、ドラムのキックとの距離を1ミリ単位で調整する仕事に徹する。キーボードの江﨑文武はピアニズムの下地を持ちながら、シンセ/プログラミング/オーケストラアレンジまで担う。この4人の分業と越境の設計が、WONKの音の厚みの正体だ。

まずこの作品から聴く

  • Sphere — 受賞1stで原型を掴む
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  • Castor — ソウル面の入口
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  • EYES — 音源完成度の頂点
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  • artless — 引き算の実験作
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「エクスペリメンタル・ソウル」の中身

エクスペリメンタル・ソウルという言葉は、便利な分だけ空洞化しやすい。WONKの場合、この言葉が指しているのは「4人が生演奏するだけでは到達できない音の質感を、プロダクションの側で作り込むこと」だと自分は読んでいる。

初期のアルバムSphere🛒楽天(2016年)を今の耳で聴き直すと、当時「新人バンドの1st」としては明らかに音のレイヤーが多い。ドラムのキックひとつとっても、生の胴鳴りとサンプルの重ね方が緻密で、ライブハウスのバンドサウンドではない。むしろヒップホップのビートテープに近い設計だ。ここが、日本のいわゆる”生バンド”の系譜と明確に分岐した地点だと思う。

2017年のCastor🛒楽天とPollux🛒楽天の同時2枚リリースは、当時のシーンでちょっとした事件だった。ソウルに振り切った『Castor』と、ビートミュージックに傾倒した『Pollux』。同じバンドが同時に2つの方向へ全力で振れることを、作品として提示した。バンドの内訳を分解して見せる、みたいなことをアルバム2枚使ってやってしまう。ここでWONKの”実験”の意味が確定した気がする。

2020年のEYES🛒楽天では、コロナ禍の入り口でフル3DCGによる配信ライブを実施し、Twitterのトレンド上位に入る話題になった。ここも見逃せない。ライブハウスが止まった時期に、彼らはただ配信するのではなく、ライブという体験そのものを別のメディアに置き換える方向に動いた。プロダクション側の筋肉が強いバンドだからこそ取れた選択肢だった。

興味深いのは、彼らが”実験”を”難解さ”と同義にしていないことだ。プロダクションは複雑でも、曲そのものはメロディが立っていて、フックがある。ここが、日本のジャズ/実験系のバンドがしばしば陥る”内輪の音楽”のトラップを避けている理由だと思う。実験と間口の広さを両立させる設計は、口で言うほど簡単ではない。

代表作を時系列で読み解く

結論から言うと、WONKのディスコグラフィは「毎回コンセプトを変える」ことで一貫している。同じ音を延長した続編がない。

『Sphere』(2016年)——バンドとしての名刺代わりの1作。第9回CDショップ大賞ジャズ賞を受賞し、いきなり業界の目線を集めた。ソウル、ジャズ、ヒップホップの語彙が同居した、彼らの原型と呼べる作品。今聴くと荒削りな部分もあるが、そのざらつきが良い。この1枚で2017年夏の第16回東京JAZZ、SUMMER SONIC 2017、Blue Note JAZZ FESTIVAL in Japan 2017など大型フェスへの出演が決まった、というのも思い返すと相当なスピード感だ。

『Castor』/『Pollux』(2017年)——双子星の名を冠した同時2枚。『Castor』はソウル寄り、『Pollux』はビートミュージック寄り。翌年にはこの2枚を素材にしたリミックス作『GEMINI:Flip Couture #1』が出て、DJ Spinnaも参加した。自作を素材として解体・再構築する回路が、この時期から明確に組み込まれている。ここで彼らは”アルバムはゴールではなく素材だ”という姿勢を宣言したように見える。

『EYES』(2020年)——4枚目のフルアルバム。配信全盛期に入ったタイミングで、音の情報密度がさらに上がった。前述の3DCG配信ライブと合わせて、”アルバム=音源”という定義を少し押し広げた時期でもある。シングル「HEROISM」「Rollin’」もここに紐づく。2021年2月には香取慎吾との「Anonymous(feat.WONK)」もリリースされ、テレビ的な広さの受け皿としても機能した。

artless🛒楽天(2022年)——タイトル通り、装飾を削いだ質感が印象的な作品。制作現場を追ったドキュメンタリー映画も全国上映され、彼らが”作品を作るプロセス”を作品と同じ強度で見せに来た点でも記憶に残る。FUJI ROCK FESTIVAL ’22、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022への出演も同年。1st『Sphere』から6年、加算方向に走ってきたバンドがはっきり減算に向かった1枚として、キャリアの折り返し点に置ける作品だ。

初期作と近作を並べて聴き直すと、彼らが単にジャンルを増やしているのではなく、「引き算」に向かっていることがわかる。音の隙間の作り方が、この10年でずいぶん変わった。埋める勇気より、鳴らさない勇気のほうが難しい。近作はそちらに賭けている。

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周辺人脈 — シーンのどこに立っているか

WONKを語るとき、メンバーそれぞれのバンド外での活動を無視するとバンドの位置が正しく見えない。

キーボードの江﨑文武は、常田大希(King Gnu)が主導するmillennium paradeに参加している鍵盤奏者として広く知られる。2019年の初ワンマン以降、鍵盤・オルガン・ピアノ・オーケストラプログラミングを担っていて、映画音楽的な広がりのある編成でも中心に居続けている。ここに江﨑がいることで、WONKと日本のポップスの最前線が地続きになっている。

2020年1月には香取慎吾のソロアルバム『20200101』に「Metropolis(feat.WONK)」で参加。2021年2月には香取とのコラボ曲「Anonymous(feat.WONK)」もリリースされた。テレビ的な文脈のど真ん中とも仕事をしている一方で、iri、堀込泰行らともメンバーそれぞれが仕事をしていて、”どこにも属さないが、どこにでもいる”種類のバンドになっている。

2017年にはニューヨークのフューチャーソウルバンドThe Love Experimentとコラボアルバム『BINARY』を制作。単なるフィーチャリングではなく、両バンドが1枚のアルバムを共作した実験的なプロジェクトで、この時期から海外シーンとの距離感も日本のバンドの平均値ではなかった。日本のバンドが海外アーティストと”やってみた”ではなく、対等な共作として1枚組み上げるのは、当時としても数少ない試みだ。

この外仕事の分布が示しているのは、WONKが単独のバンドではなく、”ハブ”として機能しているということ。彼らを起点に、日本のブラックミュージック周辺のプレイヤー地図が可視化される。ここが個人的にはこのバンドを長く追い続けている理由のひとつだ。

聴きどころ3点

  • ドラム&ベースのグルーヴ設計:荒田洸のヨレとタイトの使い分け、井上幹の低音の”座らせ方”。バンドの土台が、生演奏なのに打ち込みのような精度で置かれている。
  • 長塚健斗の声のダイナミクス:ささやきからファルセット、ミックスボイスまで、1曲の中の音量差が広い。歌詞の情報より、声の質感で情景を作るタイプのボーカル。
  • プロダクションの余白:音数を足すより引く方向の実験が近作で顕著。特に『artless』は”何を鳴らさないか”の判断が細かい。

WONKはどう聴かれているか

これは統計ではなく、自分と周囲の観察からの読みだが——WONKの曲は「夜、家の作業中にかける音楽」として機能している気がする。歌詞をがっつり追う音楽としてより、部屋の空気の密度を上げる音楽として使われている、と言ってもいいかもしれない。

ボーカルが前面に張り出さず、リズムセクションと同じ位置に置かれる曲が多い。だから聴き手の集中を奪わない。それでいて、意識を向けた瞬間に発見が出てくる密度がある。この二面性が、彼らを”作業BGMプレイリストの常連”にしていて、同時に”ちゃんと座って聴いても持つバンド”にしていると思う。

ライブ映像を見ると分かるが、彼らはステージ上でもクリック(メトロノーム)を細かく走らせるタイプのバンドではなく、演奏している4人がリアルタイムに反応し合う瞬間が多い。同じ曲が音源と別物になる。そこに立ち会うためにフェスに行っている人が、ファン層の中に確実にいる。実際、フジロックや日比谷音楽祭のような場でのWONKは、音源で構えた印象より、もっと肉体的だ。

逆に言うと、音源で入って”綺麗に整いすぎ”と感じた人は、ライブ音源やライブ映像に一度触れてみる価値がある。バンドとしての伸縮性がわかると、音源の聴こえ方も変わる。ここは解釈が分かれるところだと思うが、自分は音源とライブで別々の楽しみ方をするバンドとして接している。

今チャートの中でのWONK

WONKのようなバンドが週間チャートに登場する意味は、順位そのものより「このタイプの音楽がまだ聴かれている」というシグナルとして大きい。日本のヒットチャートは、テレビ主題歌やアニメタイアップに寄る週が多い中で、10年目のエクスペリメンタル・ソウルバンドがランクインする現象は、リスナー側の耳が育ってきた証拠でもあると思う。

数字はスナップショットに過ぎない。彼らが積み上げてきたのは、”1週間の話題”に還元されない種類の資産だ。だからこそ、今週の順位を入口に、過去10年分のアルバムに戻れる導線として、このチャート露出は良い機会になる。

入門動線

  • まずこの1曲:『Castor』のリード曲「Gather Round」——WONKのソウル面の入口として最適。バンドとしての体温が一番わかりやすい。
  • 次にこの1枚:『EYES』(2020年)——プロダクションの完成度が跳ね上がった作品。音源としてのWONKの現在地に近い。
  • 深めるならこの1枚:『artless』(2022年)——引き算の実験がわかる1枚。ドキュメンタリー映画と合わせるとさらに立体的に聴ける。

10年目のバンドが持つ地力

2013年結成のバンドが10年を超えて活動を続けるとき、多くの場合、音は保守化する。売れ線の再生産に傾くか、逆にマニアックに閉じるか。WONKはそのどちらでもない道を歩いているように見える。

要因のひとつは、メンバー全員が”外仕事”を持っていることだと思う。江﨑文武はmillennium paradeで、荒田洸はソロ名義でトラックメイカーとして。それぞれがバンド外で得た知見を持ち寄る回路がある限り、WONKというバンドは一種の”共有ドキュメント”のように更新され続ける。

もうひとつは、彼らが”アルバム単位で世界観を作る”というアルバム時代の作法を、ストリーミング時代にも捨てなかったことだ。1曲単位で消費される音楽が主流になった今、6曲・9曲・12曲を通して聴かせる設計を維持しているバンドは減っている。WONKのカタログをアルバム単位で追うと、10年分の思考の変遷が読める。ここは古典的な聴き方に思えて、実は今こそ贅沢な体験になっている。

これから聴く人へ

WONKは、”どのジャンルの棚に置くか”で迷わせるタイプのバンドだ。ソウルの棚に置いても違和感はないし、ジャズのコーナーに並んでいても収まる。ヒップホップのプレイリストに混ぜても浮かない。この居場所のなさが、彼らの居場所そのものになっている。

入り口はどこでもいい。フェスで観てから遡るのもいいし、江﨑文武の名前をmillennium paradeで知って戻ってくるのもいい。The Love Experimentとの共作から入ってブラックミュージック側から接続するのもアリだ。10年分のカタログはそのどの入口にも応えるだけの厚みがある。

ひとつだけ言えるのは、次のアルバムがまた今までと違う顔をしている可能性が高い、ということ。それがこのバンドを追う面白さの中心にある。詳細な最新情報は公式サイト・各種SNSを参照してほしい。

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