peridotsという静かな異物|タカハシコウキの声とバンド化以降の歩み

淡い緑色の宝石が薄明かりの中で静かに光る抽象的なイメージ アーティスト

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チャートの上位を賑わすタイプの名前ではない。それでも、名前を知っている人はだいたい深く知っている——peridots(ペリドッツ)はそういう位置にいるバンドだと思ってます。今週のチャート周辺の会話で名前が挙がったのを機に、この機会にちゃんと書いておきたい。peridotsの価値は、ヒットの派手さではなく、20年以上一本の声を折らずに更新し続けているという事実そのものにある。その一点を軸に、来歴・音楽性・代表作・聴き方までを整理していく。

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このアーティストの要点

  • peridotsはタカハシコウキを中心とした日本のシンガーソングライターのソロプロジェクト/バンドで、2002年からソロで活動を開始し、2006年に東芝EMIよりメジャーデビュー、2007年にユニバーサルミュージックのアイランド・レーベルへ移籍している。
  • グループ名はジョニ・ミッチェルの楽曲“Dawntreader”冒頭の気になる歌詞を調べたら、自分の誕生石だったことに由来する。
  • デビュー10周年を目前にした2015年9月、久保田光太郎(Gt.)、FIRE(B.)、中畑大樹(Dr.)の3人が加入し、4人編成のバンドになることを発表した。
  • タカハシコウキは山形県出身、1973年8月4日生まれのボーカリストで、「歌うために生まれてきた」と評されるその声で音源リリースがないにもかかわらず、2005年にZher the ZOO代々木で行われた初のワンマンライブが完売した逸話を持つ。

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peridotsとは何者か——「声で場をひらく」タイプの音楽家

peridotsをひとことで説明するなら、タカハシコウキという一人の歌い手のプロジェクトである。ただし「シンガーソングライター」という穏当なラベルで片付けたくない。声そのものが企画書のような人だ。楽曲の設計より先に、声の実在感が空間を占める。だから未リリースの段階でワンマンが売り切れるという、通常あり得ない順序が起きる。

日本のシンガーソングライター、タカハシコウキを中心としたソロプロジェクトとして動き出したのが2002年。2002年からソロで活動を開始し、2006年に東芝EMIよりメジャーデビュー、2007年にユニバーサルミュージックのアイランド・レーベルへ移籍という道筋を辿った。メジャーの真ん中で花火のように打ち上がる系ではなく、確度の高い批評家・同業ミュージシャンから先に評価が届くタイプの動き方だった、と後追いでも把握できる。

ちなみにグループ名の由来がいい。ジョニ・ミッチェルの楽曲“Dawntreader”冒頭の気になる歌詞を調べたら、自分の誕生石だったことから付けられている。この由来の話は、彼らの音楽の質感をそのまま予告している気がする。派手な宣言ではなく、洋楽の細部を丁寧に手繰ったら自分の輪郭に当たった、というささやかな符号。音源にもその温度が流れている。

プロフィールと来歴——山形の少年が「地下生活」を経てステージに立つまで

核となるタカハシコウキは山形県出身、1973年8月4日生まれ、本名は高橋孝樹。地方で育った音楽リスナーの原体験がそのまま彼の音楽的DNAになっている。

音楽のルーツは松田聖子、チェッカーズに始まり、中学校にかけての時期にMADONNA、PRINCE、JANET JACKSONといった洋楽のヒット曲を聴き、高校に入ってからはTHE BEATLES、ROLLING STONESといったロック・クラシックを、さらにはAretha Franklin、Sly & The Family Stoneなどのファンクやソウルまで興味を広げていく。日本の歌謡ポップスから入って洋楽の主流を経由し、ブラックミュージックの深いところまで自然に潜り込んだ——この経路は、いま彼の楽曲を聴いたときの「和と洋の混ざり方」の説明になる。J-POPの回路とソウルの回路が同じ胸のなかに並置されている感じ。

面白いのはその後だ。高校卒業後、自宅録音による楽曲作りを始めるものの、それはどこにも発表せず謎の地下生活。26歳で初めてバンド「no pen」を結成している。プロを目指して直線で来た人ではない。宅録の時間を長く持ってから他者と鳴らし始めた——この順序が、あの声のフレージングの独特な自足感につながっているように思う。人前で完成された人ではなく、まず自室で完成した人の歌い方だ。

そして2005年。音源リリースがないにもかかわらず、2005年にZher the ZOO代々木で行われた初のワンマンライブが完売している。ここは何度書いても不思議な事実だ。翌2006年、東芝EMIからミニアルバム『PERIDOTS』でメジャーデビューJames BluntやBECK、Elliott Smithを手掛けるTom Rothrockが4曲をミックス、笹路正徳がサウンド・プロデュース、ギターにジャパニーズロック・オリジネイターのひとり、鈴木茂が参加という布陣だった。この座組を眺めるだけで、彼の音楽が「洋楽の細部の質感」と「日本のロックの土台」を同じ皿の上に載せようとしていたことがわかる。

そして節目の2015年。デビュー10周年を目前にした2015年9月、久保田光太郎(Gt.)、FIRE(B.)、中畑大樹(Dr.)の3人が加入し、4人編成のバンドになることを発表久保田光太郎は加入の理由に「俺にとってperidotsは僅かに残された音楽への希望のようなもの」と語ったそうで、これは同時代のミュージシャンから見たperidotsの立ち位置をよく表している。中畑大樹は青森県出身、Syrup 16g、VOLA & THE ORIENTAL MACHINEなどでも知られるドラマーで、FIREは大阪府出身、SUPER TRAPP、the Badassesの活動でも知られるベーシストである。器の側もかなり歴戦だ。

音楽性の核——声・メロディ・言葉の「三重のねじれ」

peridotsの音楽性を一枚で言うなら、「ポップスの骨格・ソウルの血・パンクの態度」が同居している、というのが個人的な結論だ。中毒性の高い歌声とブラックミュージック〜90年代パンクまでもを独自の切り口で消化した楽曲を、光太郎のシンプルで的確なアレンジと激しくも歌に寄り添ったFIREと大樹のリズムが彩っていく。どこかにありそうでどこにも存在し得なかったロックバンド、それがperidotsである——公式が自分でこう書いてしまっている以上、外野があまり別の言葉を上塗りしても意味がない。ここは正直に引き受けたい。

ただ、書き足したい観点がある。彼の歌はメロディが親しみやすいのに、フレーズの終わりで必ずどこかがねじれる。J-POPのシンガロング的な着地を予測させておいて、ソウル/ブルースの微分音で軽く外す。これがクセになる。だから一度聴き終わったあと、頭のなかで反復するのはサビ全体ではなく、サビの語尾——たいてい語尾一音の残響だ。

もうひとつ。バンド化以降の音源では、ドラムとベースが「歌を邪魔しない」以上に「歌に応答する」設計になっている。中畑大樹のドラムは、フィルの手数で押すのではなく、ハイハットの粒立ちで歌のニュアンスをなぞる時間が長い。ライブ映像を見ると分かるが、ボーカルが少し引くと同時にスネアの音圧が引く。この呼吸が、彼らの音源が「録音」ではなく「対話の記録」に聴こえる理由だ。

言葉の側もねじれている。歌詞の内容についてはここで転載しないが、代表曲としてよく挙がる「異常気象」「オールライト」「9月のソーダ」「ライフワーク」「労働」(MUSIC ON! TVのアーティストページで代表曲として掲出されている)というタイトル群を並べるだけでも、彼の題材の選び方が透けて見える。天候・季節・生活。政治や恋愛の巨大なテーマではなく、生活の湿度に触れる語をひとつだけ残して曲名にする。あとは声が全部持っていく。

聴きどころ3点

  • 声の残像:サビ全体ではなくサビの語尾一音が耳に残る。日本語のポップスとしては珍しい、フレーズ末尾のニュアンスで勝負するタイプ。
  • バンド化以降のグルーヴ:中畑大樹のハイハットの粒とFIREのベースの遅延気味の間合いが、歌に「返事」をしている。ドラマー・ベーシスト目線で聴き直しても発見が多い。
  • 言葉の湿度:曲名に「天候」「季節」「労働」など生活語を一語だけ据える設計。派手なフックはないのに、聴き終えたあと自分の一日を思い返してしまう。

代表作・ディスコグラフィの読みどころ

結論から言うと、peridotsは「一枚ずつ表情が違うのに声だけがずっと同じ」というディスコグラフィを持っている。だから入る順番はそこまで神経質にならなくていい。ただ、時期の分節は押さえておくと聴きやすい。

まずメジャーデビュー作PERIDOTS🛒楽天Tom Rothrockが4曲をミックス、笹路正徳がサウンド・プロデュース、鈴木茂がギターで参加したミニアルバムで、洋楽的な質感と日本のロックの土台が同じ皿に載っている一枚。SSW名義としての起点であり、いま聴くと逆にプロダクションが控えめで、声の生々しさに耳がいく。

ソロ期を締めくくり、バンド化への橋渡しになった4thアルバムが4×4🛒楽天公式ショップの紹介では「日本の良質なポップミュージックに飢えている人にぜひ聴いて欲しい。peridotsを聴いたことがない人は、ここから入っても良いかもしれない」とされる、魅力たっぷりな4thアルバム。この制作終了と共にタカハシコウキのソロプロジェクトはperidotsというBANDに生まれ変わった——つまり作品自体が転機のドキュメントになっている。初めて聴くならここから、というのは公式の推奨でもある。

個別曲としては、先ほど挙げた異常気象🛒楽天が象徴的だ。作詞・作曲:タカハシコウキ、発売日は2012年1月25日。タイトルは強いのに、鳴らされる音はふしぎと穏やか。この「タイトルと実感のギャップ」がperidotsの一つの型で、オールライト🛒楽天9月のソーダ🛒楽天労働🛒楽天あたりを続けて聴くと、その型の一貫性が体感できる。

派生形も面白い。プロデューサー/アレンジャーの河野圭のピアノを中心に、violinの須原杏、celloの林田順平がperidotsタカハシコウキの楽曲を再構築する、歌におけるピアノと弦の可能性を果敢に押し広げていく4人組——それが「Gen Peridots Quartet」だ。バンド編成の直線的なドライブとは違う、室内楽としてのタカハシの歌が聴ける。ファンならバンド版と弦版で同じ曲を並べて聴く楽しみがある。

peridotsの曲はどう聴かれているか——「平日の帰り道」で効く音楽

これは客観データではなく、作風からの読みとして書いておく。peridotsの曲は、朝でも夜でもなく、「平日の帰り道」で一番効くように設計されている気がする。金曜の21時、電車の窓に映る自分を見ながら聴くと、輪郭がすっと合う。

理由は二つある。ひとつはテンポ帯。彼らのミディアム曲の多くは、歩行のリズムより少しだけ遅い。走らせない代わりに、歩きを止めもしない。もうひとつは声の距離。マイクとの距離感が全体的に近く、耳元でつぶやかれる質感がある。だからイヤホンで聴くと生活と密着する。カーステレオよりイヤホン、休日より平日、朝より夕方——そんな聴かれ方をしている気がする。ファンに聞いてみたい部分でもある。

カルチャー的な文脈——同時代の日本のロックにおける「静かな異物」

2000年代半ば以降の日本のロックシーンを俯瞰すると、大きなラウドロックの波、フェスの拡大、ボカロ/ネット発の台頭、シティポップの再解釈——といった潮流が交錯していた。peridotsはそのどれか一本の潮流に乗っていたわけではない。むしろ、どの潮流にも隣接しつつ、どこにも完全には属さないという位置にいた。どこかにありそうでどこにも存在し得なかったロックバンドという自己記述はこの文脈にきれいに当てはまる。

それを支えたのが、同業ミュージシャンからの信頼の網目だ。バンド化で加わった三人は、それぞれ久保田光太郎はSUPER TRAPPFIREはSUPER TRAPP、the Badasses中畑大樹はSyrup 16g、VOLA & THE ORIENTAL MACHINE、YakYakYakと、日本のオルタナ/ロックの中核で長く鳴らしてきた面々。彼らが集まってくること自体が、peridotsの音楽性への評価そのものになっている。

初期作品では鈴木茂がギターで参加している事実も改めて重い。はっぴいえんど以降の日本のポップスの系譜が、直接ではないにせよ、peridotsの音源の中に手渡されている。個人的な感覚で書けば、peridotsは「はっぴいえんど以降のJポップと、ソウル/ファンクと、90年代パンクの間にできた小さな空洞」に居るバンドだ。空洞に居るから、大きなムーブメントには乗らない。でも空洞は空洞のまま長く残る。

今チャート周辺での立ち位置

peridotsは大量再生・大量露出で数字を取りに行くタイプの活動体ではない。ここ数年もチャートの上位を占め続けるといった動きは目立たない。ただ、大型フェスの周辺、ラジオの選曲、同業ミュージシャンの推薦、地方の音楽イベントへの出演——といった長期の毛細血管でずっと生きている。だから今週のオンエア・チャート周辺で名前を見かけた瞬間は、いつもの動線が少しだけ地表に出た、という受け止め方が近い気がする。

数字はスナップショットに過ぎない。peridotsが積み上げているのは、もっと長い時間軸の資産だ。20年以上、同じ声を折らずに更新し続けている、というただ一点。この事実の価値は、順位表の外側にしか記録されない。

これから聴くならどこから——入門動線

まずこの作品から聴く

  • 4×4 — ソロ最終形にしてバンド化の直前
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  • PERIDOTS — 洋邦が交叉するデビュー作
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  • 異常気象 — タイトルと音のギャップを体感
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  • オールライト — 生活語の一語で立ち上がる代表曲
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入門動線

  • まずこの1曲:「異常気象」。2012年発表、作詞作曲タカハシコウキ。タイトルの強さと音の穏やかさのギャップに触れれば、彼らの型が一発で入ってくる。
  • 次にこの1枚:4thアルバム『4×4』。公式ショップが「peridotsを聴いたことがない人はここから入っても良い」と推す一枚で、ソロ最終形にしてバンド化直前のドキュメント。
  • 深めるならこの1枚:メジャーデビュー作『PERIDOTS』(2006年、東芝EMI)。Tom Rothrockのミックス、笹路正徳のプロデュース、鈴木茂のギター参加という布陣の起点作。声の生々しさと洋邦の交叉が最も裸で聴ける。

peridotsは、リスナーごとに「自分の一曲」がぜんぜん違うタイプのバンドでもある。ここに挙げた三つは入口にすぎない。しばらく聴き込んだあと、あなたが「自分にとってのperidots」をどの曲に置くのか——それは一度、周りのファンと話してみてほしい問いだ。だいたい、誰も同じ答えを言わない。それがこのバンドの豊かさの、いちばんの証拠だと思ってます。

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