Penthouseはなぜ武道館まで来られたのか|東大発シティソウル6人組の現在地

都市の夜景に浮かぶ最上階の部屋の窓明かり、ネオンとピアノの旋律が交差するイメージ アーティスト

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東大の軽音サークルOBが社会人と兼業でバンドを続けている。この情報だけを聞くと、いかにも「賢そう」「小綺麗にまとまっていそう」というレッテルが先に立つ。実際に音を鳴らしてもらえば、その予断はだいたい外れる。Penthouseの音は、頭で組んだ設計図の上に、湿度と体温を後から丁寧に足していったような、独特のバランスで成り立っている。

ツインボーカル、鍵盤、ダブルギター、ベース、ドラムの6人編成。ジャンルは「シティソウル」と自称している。よくある邦楽シティポップのリバイバル勢とはどこか手触りが違う。理屈っぽいのに、汗をかいている。効いているのは、彼らが「賢いバンド」だからではなく、賢さの使い方を間違えていないからだ。

頭で作ったバンドが、頭で作ったことを隠さずに、体温で鳴らしている。これがPenthouseの矛盾であり、強さだと思っている。

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このバンドの要点

  • Penthouseは東京大学のバンドサークル「POMP」のOBを中心に2019年6月から活動を始めた6人組シティソウルバンド。
  • 2021年11月24日に1st EP『Living Room』でビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー。
  • 男女ツインボーカル(浪岡真太郎・大島真帆)と、ピアニストのCateen(角野隼斗)を含む鍵盤・ギター・ベース・ドラムで構成される。
  • 1st Album『Balcony』(2023年3月29日)はオリコンデイリーアルバムチャートで7位を記録。
  • 2025年3月16日に初の日本武道館ワンマンを完遂し、2026年夏に3rd Album『Neon Garden』のリリースが発表されている。

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東大POMPの合宿から始まった、少し変わったバンド

Penthouseの成り立ちは、日本のバンドとしては珍しい。事の起点は、東京大学の音楽サークル「POMP」のOB合宿だ。ハードロックバンドを組んでいたボーカルの浪岡真太郎(岩手県盛岡出身、東大農学部卒)が、「目的とする音楽があったわけではないが、人間性も含めて楽しくやっていけそうなメンバーを集めた」と語っている。まず音楽性で集めていないのがミソだ。人選が先で、音は後から擦り合わせている。

結成は2019年6月。事務所には所属せず、メンバーの大半が音楽以外の仕事も続けながらバンドを回すという、当時の日本の6人バンドとしてはかなり異例のフォーメーションで動き出した。会社員あり、YouTubeで別名義の活動をするピアニストあり。役割分担が最初から機能的で、音を作る人と数字を回す人が同居している。

YouTubeでのオリジナル曲・カバー動画を主戦場に、地道に再生数を積んだ。結成から1年強でV6への楽曲提供の話が舞い込み、2年目には日本テレビ『スッキリ』のスタジオで生演奏している。ピアニストの清塚信也が「いまオススメしたい3組」の1つとして推薦したのが表向きの経緯だ。テレビ露出の前にYouTubeで基礎体力を作り、業界の口コミで橋を渡した。順序として正しい。

2021年1月の「26時10分」はiTunesのR&B/ソウルランキングで3位を記録、同年4月の「…恋に落ちたら」は同ランキングで1位を獲得した。ここまで完全にインディーである。同2月、タワーレコードのレビューサイトMikikiが「2021年期待の新人音楽アーティスト20」に選出。ここまで来て、2021年11月24日、1st EPLiving Room🛒楽天でビクターエンタテインメントからメジャーデビューした。

ここで一つ補足しておきたいのは、東大POMPというサークル自体が、日本のバンド輩出源としては地味に厚みがあるという点だ。世代を跨いで音源制作と演奏の両方が真剣に回っているコミュニティで、Penthouseの周辺にも別ユニット・別プロジェクトで活動している人が多い。彼らのアレンジ精度の高さは、天才が偶然集まった、というよりも、そういう場所で長時間音を合わせてきた成果として理解した方が近い。

だいたいのバンドは、メジャー契約が転機になる。Penthouseの場合、メジャー契約が「積み上げた戦略の結果」として置かれている。この順番の違いが、後の作品づくりに効いてくる。

「シティソウル」という自称が、意外と正確な理由

Penthouseは自分たちの音楽を「シティソウル」と呼ぶ。ジャンル呼称としてはかなり手作り感のある言葉で、最初に聞いたときは「シティポップとR&Bのつなぎ方に困った人の造語」に見えなくもなかった。ただ、アルバム3枚分を通して聴くと、この造語は思ったより正確だと分かる。

シティポップのおしゃれ感とソウルのパワフルなリズムが融合したサウンド、というのが公式側の説明だ。要素を分解すると、コード進行の洒脱さ、都市の情景を切り取る歌の距離感、そしてアンサンブルの見晴らしのよさ。ここに、ソウルの成分としてグルーヴの粘り、ボーカルのメリスマ、ホーンやオルガンっぽい音色の艶が乗る。ふつうシティポップと呼ばれるサウンドは、リズムがあくまで整然としていて、聴き手を涼しくさせる方向で作られる。Penthouseはそこにもう一段、汗の温度を混ぜてくる。

この温度差を作っているのは、圧倒的に男女ツインボーカルの設計だ。浪岡のボーカルはR&B寄りのフェイクとフックの強いメロディが得意で、大島真帆のボーカルは澄んだミドルレンジで浪岡の熱をクールダウンさせる働きをする。片方がソウルフルに寄れば、もう片方が都市の風景側に引き戻す。この「引っ張り合い」がジャンル名の由来として機能している、と考えるとしっくりくる。

初期作と最新作を並べて聴き直すと分かるのは、ミックスの重心が確実に下に降りてきていることだ。デビュー期は鍵盤とボーカルが前面に出て軽やかに聴かせる設計だったのが、『Balcony』以降はベースとドラムのボトムがはっきりし、ソウルの粘りが体で受け取れるようになる。この変化は、ライブを重ねてきたバンドが「体で分かった」ことを録音物に反映してきた過程だと見ている。

そしてピアノのCateen——ピアニストとしても膨大な登録者数を持つ角野隼斗——の鍵盤が、曲によってはジャズやクラシックの語彙をふっと差し込む。J-POPのアレンジャーがやる装飾ではなく、演奏家として弾ける人の即興的な選択で音が置かれている。だからPenthouseの曲は、リズム隊のリピートの上に鍵盤が旋律を「歌う」瞬間が唐突に立ち上がる。ここが他のシティポップ系バンドと明確に違うところだ。

聴きどころ3点

  • 男女ツインボーカルの温度差設計。ソウル側とシティ側を、浪岡と大島が交互に受け持つ。
  • Cateen(角野隼斗)のピアノが、コード伴奏に留まらずソロ楽器として頻繁に前へ出る。
  • アンサンブルの「隙間」の作り方。6人編成なのに音数を絞る判断ができるバンドで、間の余白が曲ごとの表情を作っている。

3枚のアルバムで追える、音の変化

Penthouseのディスコグラフィは、EPと2枚のフルアルバム、そして2026年夏にリリース予定の3rd AlbumNeon Garden🛒楽天で骨格を作っている。1枚ずつ聴き直すと、自称「シティソウル」の中身がどう変わってきたかがはっきり見える。

メジャーデビュー作の『Living Room』は、タイトル通り、部屋の中の温度感で鳴っている。既発シングル群のリマスターと新曲を組み合わせた構成で、YouTubeで積み上げてきた曲たちを「作品として提示し直す」性格が強い。ここではまだ、シティポップ寄りの洒脱さと、R&B的なグルーヴの比率が半々に近い印象がある。

1st AlbumBalcony🛒楽天(2023年3月29日)で、音の輪郭が一段はっきりした。オリコンデイリーアルバムチャート7位。タイトルが「Living Room」から「Balcony」へと物理的に外へ出ているのが象徴的で、アレンジのスケール感も、演者としての自信の乗り方も変わっている。ホーンやコーラスワークが増え、6人編成の重心をキープしたまま、音像だけを外に開く。ライブで映える曲がここで一気に増えた。

2024年の2nd AlbumLaundry🛒楽天では、さらにR&B・ソウル側に振り切った瞬間と、ポップスとして開いた瞬間の落差が大きくなる。パシフィコ横浜 国立大ホールで史上最大規模のワンマンライブを開催したのも、この作品期だ。この頃から、「東大発のちょっと変わったバンド」という文脈を切り離して聴いても、単純に日本のポップスとして水準の高い作品が並ぶようになった、と感じる。

そして2025年3月16日、Penthouse ONE MAN LIVE in 日本武道館「By The Fireplace」を完遂。武道館開催記念CD『By The Fireplace』もリリースされている。ここまでの流れを俯瞰すると、Living Room→Balcony→Laundry→By The Fireplace→Neon Garden という、家の中を歩き回るような作品タイトルの連続が、そのままバンドの導線設計だったと分かる。武道館で「暖炉のそば」まで来て、次のアルバムでは「ネオンの庭」へ出ていく。タイトルだけでも、ちゃんと物語になっている。

V6提供、そして「兼業」のまま武道館まで来た合理性

Penthouseの経歴でよく話題にされるのが、結成1年ほどでレコード会社からのオファーを受けてV6への楽曲提供が実現した件だ。バンドとして自分たちが世に出るより先に、「書ける人たちがいる」という認知が業界内で先行した、という順序である。この事実は、後のメジャーデビューの座組にも影響していると思う。

もう一つ、当のバンド以上に周囲を驚かせているのが「兼業を維持したまま、ここまで来ている」ことだ。事務所に所属せず、メンバーの多くが会社員や別分野の音楽活動を並走させている。日本のバンドカルチャーで、これはかなり少数派の運営だ。フルタイムのミュージシャンとして生活を賭けるのが標準に近い中で、Penthouseは「賭けない選択肢」を最初から取っている。

この体制はしばしば「合理的で現代的」と紹介される。ただ、実際にライブ映像や近年のインタビューを見ていると、合理だけでこの規模までは来られない。武道館クラスの現場を回すためには、練習量も、リハーサル日程の確保も、感情のマネジメントも、それなりに重い。兼業を続けるということは、その全部を「他の仕事と並列で」処理し続けることでもある。合理を貫くのに、実は一番非合理的な粘りが要る。

だからこそ、6人の残留率がずっと保たれていることの意味が大きい。結成の時点で「音楽性より人間性で選ばれた」メンバー編成が、7年目の武道館まで解散も脱退もなく続いている。これは戦略とか合理とかいう言葉より、単純にバンドとして幸運な作られ方をした、と思っている。

同時代のバンドシーンの中でのポジション

2020年代前半の日本のバンドシーンで、シティポップ/R&B寄りの領域は一気に賑やかになった。Vaundy、Omoinotake、Nulbarich、Awesome City Club、そして少し先輩世代のSuchmos。この辺りの磁場の中にPenthouseを置くと、彼らの座標がはっきりする。

Suchmosが「都市の風を切るクールさ」でシーンを更新し、Awesome City Clubが「男女ツインの物語性」でJ-POPに寄せていったとすれば、Penthouseはその両方の中間にいる。クールでもあるし、物語もある。ただ、Suchmosほど記号的に振り切らず、Awesome City Clubほど歌謡的にも寄せない。中庸に見えて、聴くとちゃんと固有の指紋が残る、というのは実は難易度が高い。

2026年5月には東京・大阪のZeppでOmoinotakeとの2マン企画「M2 presented by e-Broad」が組まれている。ここは分かりやすい相似形の掛け算だ。両者ともに、ピアノとボーカルが軸で、ポップスとしての完成度で勝負するタイプ。Penthouseの側から見れば、Omoinotakeとの並びで「兼業6人編成」というフォーマットの独自性が、より浮き立つはずだ。

2020年代前半のシティポップ/R&Bリバイバルの中で、Penthouseの独自性は「兼業バンドが到達可能な最大値をどこまで押し上げられるか」という実験にもなっている。専業でしか到達できないと思われていた場所——武道館、大型フェス、複数のホールツアー——に、事務所なしの体制で立っている。ここは同世代のバンドマンからも真剣に注目されているはずで、業界の運営ノウハウとしての価値も持っていると思う。

もう一点、Cateenこと角野隼斗の存在は、シーンの文脈をひとつ超える力を持っている。クラシックピアノの領域で世界的な露出を持つ演奏家が、6人バンドの1メンバーとしてリズム隊の内側に収まる。これは日本のバンドシーンの中でかなり異例で、Penthouseの音像がどこか別ジャンルの気配を帯びる根拠になっている。ライブ映像を見ると分かるが、彼が弾き始めた瞬間に、曲の重心がふっと持っていかれる場面が確かにある。

今チャートでの立ち位置

チャートの数字は、彼らのようなバンドを測る指標としては、いつも少し粗い。ストリーミング寄りのグローバル指標では、6人編成のアンサンブル勝負よりソロ・ラッパー・SNSバイラルの方が有利に働く。それでもPenthouseは、シティソウル領域の中で確実に持ち場を広げている。

iTunesのR&B/ソウル部門で2021年に1位を取った「…恋に落ちたら」以降、彼らのシングルは同ジャンルの上位を安定して取ってきた。1st Album『Balcony』のオリコンデイリー7位は、事務所を持たない6人組バンドとしては十分に強い。3rd Album『Neon Garden』のリリースを控える2026年夏は、武道館の熱を作品に定着させる位相にあたる。

順位は瞬間風速で、彼らが積み上げているのは違う種類の資産だ。7年かけて壊れなかったバンドの土台と、兼業のまま武道館を埋めたという事実。この二つは、来年のチャートには反映されないが、10年後のシーンには確実に効いてくる。

これから聴くならどこから

Penthouseの入口は多いが、迷ったら、「バンドの自己紹介として作られた曲」から入るのが早い。ツインボーカルの機能とアンサンブルの温度が、代表曲群の中に一番凝縮されている。

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  • Laundry — ポップスとソウルの幅
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入門動線

  • まずこの1曲:「…恋に落ちたら」。iTunes R&B/ソウル1位を取ったキャリア初期の代表曲。バンドの温度感の基準点として、ここから聴くのがいちばん早い。
  • 次にこの1枚:1st Album『Balcony』。デイリー7位を取った、彼らの音像が外に開いた1枚。ここでバンドとしての骨格が掴める。
  • 深めるならこの1枚:2nd Album『Laundry』。ソウル寄りとポップス寄りの落差が最も大きく、演者としての幅がここに定着している。次作『Neon Garden』を待つ間に、必ず通っておきたい作品。

東大発、事務所なし、兼業維持、武道館。並べると特殊事例のようだが、聴いていると案外そんな属性はどうでもよくなる。都市の空気の中で、ちゃんと汗をかいて鳴っている6人組がいる。それだけで十分だと思っている。

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