YOASOBIの現在地|「アイドル」以降を代表曲で読み解く

夜の街を思わせる青と紫のグラデーションの中に、開かれた本のシルエットが浮かぶ抽象的な音楽イメージ アーティスト

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YOASOBIをチャートで見かけない週の方が、この5年間は珍しかった。夜に駆けるの初出から数えて、もうすぐ折り返し10年。彼らを語るとき、順位や再生回数の話だけで済ませるのは惜しい。YOASOBIの本当の発明は「小説を原作にする」という制約を、逃げ場のない創作エンジンに変えたことだ。その発明が、いまも新曲のたびに違う顔で現れる。だから飽きない。

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このアーティストの要点

  • YOASOBIはコンポーザーのAyaseとボーカルのikura(幾田りら)による2人組で、ソニー・ミュージック系の小説投稿サイトmonogatary.comを起点に2019年11月「夜に駆ける」で始動した「小説を音楽にするユニット」
  • 「夜に駆ける」はシングルCDを出さないまま2020年のBillboard Japan Hot 100年間1位を獲得し、配信主体のヒットで日本のチャート地図を書き換えた。
  • 2023年の「アイドル」(アニメ『【推しの子】』OP)はBillboard Japan Hot 100で21週連続首位Billboard Global Excl. U.S.でも1位に到達し、日本語楽曲としては例外的な世界規模の到達を実現。
  • 『THE BOOK』『THE BOOK 2』『THE BOOK 3』のバインダー型EPシリーズと、英語再録の『E-SIDE』シリーズを並走させる独特のリリース戦略を採る。
  • 2024年にはCoachellaの88rising Futuresステージに立ち、Number_iや新しい学校のリーダーズと同じ枠で海外の観客と直接向き合った。

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2人が「YOASOBI」に至るまで

YOASOBIは、コンポーザーのAyaseとボーカルのikura(幾田りら)による2人組ユニットで、2019年11月に第1弾楽曲「夜に駆ける」で世に出た。ここまでは事実として動かない。ただ、この一行だけで済ませるとYOASOBIの成り立ちの妙が見えなくなる。

Ayaseはユニット結成の直前まで、初音ミクを扱うボカロPとして活動していた作曲家だ。ネット発の速い曲、詰め込むタイプの譜割り、転調の多さ——ボカロシーンで鍛えられた身体感覚が、そのままYOASOBIの土台になっている。一方のikuraは、シンガーソングライター幾田りらとしても活動する歌い手で、フォーク的な素朴さと、澄んだ発声を持つ。この二つは本来かなり相性が悪い。速すぎる曲と、素直すぎる声。その組み合わせが破綻せず、むしろ独特の緊張感になっているのが、YOASOBIというユニットの最初の面白さだった。

そもそもの発火点は、ソニー・ミュージック系の小説投稿サイトmonogatary.comだ。ここで募集された小説を原作にして音楽を作る、というプロジェクトのコンポーザーとしてAyaseが呼ばれ、ボーカルにikuraが招かれた。だから「小説を音楽にする」というコンセプトは後付けの物語ではなく、そもそもの発注書に書かれていた条件だった。制約が先にあって、才能があとから流し込まれた——このタイプの成功例は日本のポップスでは意外と少ない。

デビュー翌年、2020年末には早くもNHK紅白歌合戦に初出場している。CDを1枚も出していないアーティストが紅白に立つ画は、当時のテレビ側の常識を静かに壊した。翌2021年1月にバインダー型のEPTHE BOOK🛒楽天が発売され、ここでようやく物理商品としてのYOASOBIが並ぶことになる。時系列としては、配信で世界的にヒット→紅白→CDという逆順で、これは今のJ-POPの流れを先取りする形になっていた。

「小説を音楽にする」という制約が生む音楽性

YOASOBIの音楽性を一言で言えば、「他人が書いた物語の、感情の輪郭を追いかけるための曲」だ。歌詞を作詞家の内面から立ち上げるのではなく、あくまで既存の短編小説の登場人物に憑依する。これが、他のシンガーソングライター系ユニットにない距離感を生んでいる。

音のうえでの特徴は、まずBPMの速さ。多くのシングルが150前後を平気で越え、そこにさらに細かく刻んだシンセの上物が重なる。Ayaseがボカロシーンで身につけた「音符の詰め方」がここで効いてくる。人間の歌唱では普通は避ける音数を、ikuraが軽い声質で綺麗に処理していく。ライブ映像を見ると分かるが、ikuraは大音量のバンド編成の中でも音圧で押さず、輪郭の細さで抜けていく歌い手だ。この非力そうに聞こえる声が、実は速い曲との相性がいい。

もう一つの核はコード進行の癖だ。初期作は転調の連発と、コーラス直前で一段テンションを上げる作りが多かった。夜に駆ける🛒楽天のサビ前で一瞬光が差すような転調は、その典型。ところが2022年以降の楽曲、特に『はじめての』プロジェクトの4曲——ミスター🛒楽天好きだ🛒楽天海のまにまに🛒楽天セブンティーン🛒楽天あたりでは、テンポを落として原作の情景をゆっくり描く曲が明確に増えた。初期の疾走感一辺倒だったYOASOBI像は、この頃から静かに更新されている。

個人的に、初期の「夜に駆ける」「ハルジオン」「あの夢をなぞって」あたりと、直近の「海のまにまに」「セブンティーン」を並べて聴き直すと、同じユニットとは思えないほど呼吸が違う。前者は息を止めて走り抜ける曲、後者は呼吸の長さで聴かせる曲だ。この差を「初期のほうが良かった」で片付ける聴き方は、たぶん損をしている。

聴きどころ3点

  • 速さの中の物語性:詰めた音符とストーリー展開が並走する。歌詞カードを追いながら1回聴くと、曲の設計が急にクリアに見える。
  • ikuraの声のレンジ:フォーク畑の柔らかい低音と、サビの伸びる高音を1曲で往復する。同じ人が歌っているのが不思議になるくらい表情が変わる。
  • 原作小説とのセット読み:YOASOBIは楽曲ページから原作小説にアクセスできる。曲を先に聴くか、小説を先に読むかで受け取り方が反転するのを試すと面白い。

代表作をどう聴くか

ディスコグラフィの中心はバインダー型EPシリーズだ。THE BOOK🛒楽天(2021年1月)、THE BOOK 2🛒楽天(2021年12月)、THE BOOK 3(2023年秋)と、およそ2年ごとに区切りを打つ形で編まれている。「アルバム」ではなくEPと呼びつつボリュームは十分あり、書籍のような装丁で並べる意匠は、原作小説を持つユニットとしての自己主張でもある。

『THE BOOK』は、CDを持たないまま国民的になったユニットが初めて出した物理作品だ。「夜に駆ける」「あの夢をなぞって」「ハルジオン」「群青」など、2020年前後のYOASOBIをそのまま封じ込めた1枚で、いま聴くとほとんどベスト盤に近い密度がある。『THE BOOK 2』は2021年のタイアップ祭りをまとめた1枚で、SDGs番組テーマの「ツバメ」、大阪桐蔭高校吹奏楽部と共演した「ラブレター」、朝の情報番組テーマ「もう少しだけ」など、公共性の強い曲が並ぶ。ここでYOASOBIは、ネット発の話題曲ユニットから、テレビの朝と夕方に流れるユニットへ座標を移した。

『THE BOOK 3』は言うまでもなくアイドルを含む1枚。加えてアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』OPの「祝福」、アニメ『葬送のフリーレン』OPの「勇者」、直木賞作家4人(島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都)が書き下ろした原作から作られた『はじめての』プロジェクトの4曲が入る。この作家陣の名前を見て「あ、これ本気で文芸に踏み込むつもりだ」と感じた人は多かったはずだ。実際、この4曲は音の作り方も歌わせ方も、初期のYOASOBIとは別の身体で書かれている。

並走する英語版シリーズも忘れがたい。『E-SIDE』『E-SIDE 2』『E-SIDE 3』と、日本語版の各EPに対応する英語再録EPを出し続けている。「Idol (English Version)」「The Brave(勇者)」「Loving You(好きだ)」など、日本語の詰め方をそのまま英語の音節に載せ替える難題を、Ayase側のプロデュースで解いていく作業。ここは正直、賛否ある。日本語の語感でハマっていたフレーズが英語で薄まるケースもあるし、逆に英語で聴くと構造の骨が浮かび上がる曲もある。両方を並べて聴くのは、YOASOBIの曲の分析としても意味がある。

「アイドル」で起きたこと

2023年4月12日にリリースされたTVアニメ『【推しの子】』オープニング主題歌「アイドル」は、漫画原作者である赤坂アカがYOASOBIのために書き下ろした『【推しの子】』のスピンオフ小説『45510』を元に制作されている。「小説を音楽にする」という創設時のコンセプトを、そのまま人気アニメのタイアップに接続した形だった。

数字だけ拾っても異常な曲で、Billboard Japan 総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で21週連続の総合首位を獲得し、Billboard JAPANの歴代連続首位記録を更新した。さらに米ビルボードのBillboard Global Chart“Global Excl. U.S.”で1位を記録ストリーミング再生数は史上最速の7ヵ月で5億回を達成MVは自身最速で5億回再生を突破した。日本の配信曲がこの規模で外に届いた例は、少なくとも近年ではほぼない。

面白いのは、これが「洋楽っぽく作った」から売れたわけではないことだ。「アイドル」は日本語の子音の詰め方、J-POPの転調、アニメ主題歌の様式——全部日本のポップスの文脈にどっぷり浸かっている。それが逆に、K-POPとも米ポップスとも違うテクスチャとして海外リスナーに刺さった。TikTokの短尺文化とアニメの世界配信が同時に成熟した2023年という時期の噛み合わせも大きい。

2023年12月31日の第74回NHK紅白歌合戦では、出場歌手や司会の橋本環奈、スペシャルダンサーを迎えた特別なダンスコラボレーションで「アイドル」を披露した。日本の音楽番組で初披露、というタイミングまで温存されていたのも珍しい話で、YOASOBI側の露出コントロールの厳密さが見えるエピソードだった。

シーンの中でのYOASOBIの位置

YOASOBIは「ボカロ以後」の作家性を、メジャーの真ん中に持ち込んだ最初期の成功例だ。ここでいうボカロ以後とは、コード進行の複雑さ、譜割りの過密さ、転調の連打、そして「歌い手/作曲者」の分業という文化のこと。米津玄師(ハチ)、ずっと真夜中でいいのに。、Adoといった名前と、Ayaseはそのまま同じ地層でつながっている。ただしYOASOBIは、その地層に「原作小説」という外部の物語を接続した点で立ち位置が違う。

2024年にはCoachella 2024の88rising Futuresステージに、Number_i、Awich、新しい学校のリーダーズと共に出演し、海外の観客に向けたパフォーマンスを行った。海外での本格的なフェス出演を積み始めた時期でもある。ここでikuraがどう歌うか、Ayaseが打ち込みとバンドをどう繋ぐか——ライブとしての強度は、ここ2年で明らかに更新されている。デビュー当時、ライブ実演についてはやや慎重に始めたユニットが、いまはむしろステージが強い。

並行して、ikuraは幾田りら名義でシンガーソングライター活動を続け、Ayaseも2022年9月30日にシンガーソングライター「Ayase」として活動を開始している。それぞれのソロが並走することで、YOASOBIというユニットが「本業の傍らの遊び」ではなく、二人が別の場所を持ちながら本気で組んでいる場所であることが明確になる。副業を持つバンド、というのは実は健全な形で、長続きの条件になりやすい。

いまチャートで起きていること

今週のHOT 100の位置は毎週の数字に譲るとして、YOASOBIがチャートに与えている影響は「1曲の順位」より「曲の寿命」の話になっている。「アイドル」の21週連続首位は象徴的な例で、彼らの曲は初動で跳ねて数週で消える、というJ-POPシングルの典型的な曲線を描かない。配信・アニメ・SNSの3方向から燃料が投下され続けるので、リリースから半年経ってからチャートを上がってくるパターンさえある。

この持続性は、ユニット側の作り方——タイアップの選び方、英語版の後出し、原作小説の存在——が全部効いている。1曲を1回のプロモーションで消費させない設計になっている、と言ってもいい。だから、順位の上下を週単位で見るより、四半期単位でどの曲がまだ生きているかを見た方が、このユニットの本当の強さは分かる。

ikuraの声と、Ayaseの設計図

ここまで曲やチャートの話をしてきたが、YOASOBIの根っこにあるのはやっぱり二人の個性の噛み合わせだ。ikuraの声はよく「透明感」と紹介されるが、実際に聴くと透明というより「輪郭が細い」表現の方が近い。厚みで押さず、輪郭の細さで前に出る。だから多層に重ねたシンセの上でも、声が埋もれない。逆にアコースティックな幾田りら名義の楽曲では、この細さが素直な語りかけになる。同じ声が、器によってこれだけ役割を変えるボーカリストは意外と少ない。

Ayaseの側は、作曲家というより設計者に近い。ボカロP時代からの癖で、曲を「聴かせる」だけでなく「聴き手の脳を疲れさせないギリギリで詰める」設計をする。詰め込みすぎるとJ-POPリスナーは離れる。緩めすぎるとボカロ的な快感が消える。この境界線をコード進行と譜割りで慎重に引き直す作業を、Ayaseは毎曲やっている。ここが上手いから、初聴で覚えられて、100回目でもまだ発見がある曲になる。

正直に言うと、初期の頃は「Ayaseの曲にikuraが乗っている」印象の方が強かった。作家と歌い手の関係。ところがここ2年ほどのライブ映像、特に2023年以降のフェス出演を観ると、ikuraが曲の解釈を明らかに前に押し出すようになっている。「アイドル」のライブでの歌い分け、「祝福」でのロングトーンの伸ばし方など、原音源と違うニュアンスを持ち込む余地が広がった。ユニットとしての成熟が、この時期に一段進んだ気がする。

これから聴くならどこから

入門経路は、聴き手の性格でだいぶ変わる。「話題曲から入る」タイプなら迷わず「アイドル」で、そこからTHE BOOK 3を通しで。「初期衝動を体験したい」タイプなら「夜に駆ける」→『THE BOOK』の流れ。「YOASOBIってポップスだけじゃないの?」と半信半疑な人には、『はじめての』プロジェクトの4曲、特に「セブンティーン」「海のまにまに」あたりを勧めたい。ここが一番、彼らの音楽的な射程の広さが分かる。

まずこの作品から聴く

  • アイドル — 世界規模の到達点
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  • THE BOOK 3 — 現在地が一番わかる
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  • THE BOOK — 初期衝動の保存版
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  • セブンティーン — 静のYOASOBIを知る
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入門動線

  • まずこの1曲:「アイドル」——YOASOBIの2020年代を1曲で理解できる。原作小説『45510』も併読すると受け取り方が変わる。
  • 次にこの1枚:『THE BOOK 3』——「アイドル」「勇者」「祝福」に加え、『はじめての』の4曲まで一気に届く。守備範囲の広さを1枚で確認できる。
  • 深めるならこの1枚:『THE BOOK』——「夜に駆ける」「群青」「ハルジオン」など、YOASOBIの初期衝動を丸ごと保存した1枚。ここから逆順で3→2→1と辿ると、変化の輪郭がはっきり見える。

YOASOBIはたぶん、今の日本のポップスで一番「制約から生まれるオリジナリティ」を体現しているユニットだ。原作小説という縛り、2人組という編成、配信中心の設計。全部が「窮屈」に見えて、実は逃げ場のなさが曲を強くしている。次のリリースがどんな原作から来るかを、いまも楽しみに待てる。それだけで、このユニットは長い時間軸で聴く価値がある。

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