Ariana Grandeという歌手の正体 代表曲と声で辿る12年

淡いピンクとラベンダーのグラデーションに、マイクの輪郭がぼんやり浮かぶ抽象イメージ アーティスト

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Ariana Grande(アリアナ・グランデ)は、いま「ポップスターの再定義」を静かにやっている数少ないアーティストだ。2024年3月に7thアルバム『Eternal Sunshine🛒楽天』を出し、同じ年の11月には映画『Wicked』のグリンダ役で音楽映画の主役に立った。歌手と俳優を行き来する人はいる。ただ、その両方でグラミー圏の水準を保ち続けている人は、いまの世代では彼女くらいだと思う。

彼女の武器は高音の飛距離ではなく、囁きと絶唱の間で揺れる”距離感”の作り方だ。ホイッスルボイスの人、と紹介されがちだけど、長く聴いてきた人ほど本当の凄みが別のところにあると気づいている。息だけで持たせる低い語りから、フル出力の高音までを、一曲の中で数センチずつ動かしていく。その細かい階段の作り方が、他の同世代ポップスターとは違う。

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このアーティストの要点

  • Ariana Grandeは1993年6月26日生まれの米フロリダ州ボカラトン出身、2011年にRepublic Recordsと契約し2013年に『Yours Truly』でデビューしたシンガー・ソングライター兼女優。
  • 4オクターブに及ぶ声域とホイッスルレジスターを操るボーカリストとして知られ、Sweetener期(2018〜19年)にはグラミー賞最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞を受賞している。
  • 2024年3月に7thアルバム『Eternal Sunshine』をリリース、2025年3月にはデラックス版『Brighter Days Ahead』を発表。
  • 2024年11月公開の映画『Wicked』ではグリンダ役で主演を務め、俳優としても本格的に再評価された。

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プロフィールと歩み ボカラトンの子役からRepublicの看板へ

結論から言うと、彼女はいわゆる「オーディション勝ち抜き型」のポップスターではない。子どもの頃から舞台の人だった。イタリア系アメリカ人の家庭にAriana Grande-Buteraとして生まれ、10代前半で南フロリダのフィルハーモニックと共演していたという記録がある。この「クラシック寄りの環境で耳を作った」経歴が、後年の緻密なハーモニー設計に効いていると私は見ている。

15歳のとき、ブロードウェイのミュージカル『13』(2008年)で舞台デビュー。翌2010年からNickelodeonのドラマ『Victorious』でキャット・ヴァレンタイン役として顔を売り、2013年〜2014年にはスピンオフの『Sam & Cat』にも主演している。日本だと「元子役の歌手」というカテゴリで語られがちだけど、彼女の場合は演技と歌が同じ地層にあって、後の『Wicked』出演は突然の転身ではなく、むしろ元の場所に帰ったに近い。

2011年にRepublic Recordsと契約。2013年8月にデビューアルバム『Yours Truly🛒楽天』を発表し、初週で全米アルバムチャート1位を獲得した。ここから始まる10年は、単純化すると「マライア・キャリー的なR&Bポップの継承者」から「Max Martinチームと組んだトップ40ポップの主役」へ、そして「自作性の強いアートポップ」へ、と3段階に分けられる。

個人的な話をすると、私が最初に彼女を「これは別格だ」と思ったのは2014年の『My Everything』でも2016年の『Dangerous Woman』でもなく、2018年の『Sweetener』を通しで聴いたときだった。Pharrell Williamsが半分近いトラックを手掛けていて、それまでの分かりやすいポップの外側に急に足を伸ばした。声のうまい歌手が「うまさを見せない曲」を作ったら化ける、というのはこのアルバムで学んだ気がする。

音楽性の核と変遷 R&B寄りのポップ、そのグラデーション

Ariana Grandeの音楽的な出自はR&Bで、そこにMax Martin流のスウェーデン式ポップ設計が乗っている、というのが私の読みだ。デビュー期のレトロR&Bから、EDM期を挟み、トラップ&Bを吸収した『Sweetener🛒楽天』『thank u, next🛒楽天』期を経て、2020年『Positions🛒楽天』ではストリングスと生ドラムの艶を強調したベッドルームR&Bに近づいた。

そう。彼女は”ポップの真ん中”の人だと思われているけど、実際はR&B側からポップの真ん中に手を伸ばしているタイプで、その角度が声質と噛み合っている。息をたっぷり含んだミックスボイス、ソウルシンガー的なメリスマ、そしてホイッスル。この3つの引き出しを、その曲がポップ寄りかR&B寄りかで配合を変えている。

2024年の『Eternal Sunshine』で明確になったのは、彼女がプロダクションを削るほうに舵を切ったことだと思う。35分という短さ、Max MartinとIlya Salmanzadehを中心にした限定的な布陣、シンセと薄いドラムだけで支える曲の多さ。声の実在感を上げるためにトラックを引き算する、という判断が全編を貫いている。若手の女性ポップスターが「壮大化」で自己更新するなか、彼女は逆をやった。ここが面白い。

ライブ映像を見ると分かるが、彼女の生歌はスタジオ録音より攻める。ホイッスルの登場回数はむしろ増えることもあるし、ハーモニーの厚みも耳で組み直してくる。2019年『thank u, next』のリリースツアーである”Sweetener World Tour”の映像はいまでもYouTubeに残っていて、Positions以降のツアー未実施期間の長さを考えると、あの記録は貴重だ。

聴きどころ3点

  • ミックスボイスの引き算:地声で押し切らずヘッドボイスに逃がす瞬間の柔らかさ。「we can't be friends」のサビが分かりやすい。
  • 裏声とホイッスルの距離感:頂点の音を”見せる”のではなく、フレーズの一部として通り抜ける処理が上手い。派手さより設計。
  • コーラスワークの緻密さ:メインボーカルの周りに数十トラックの自身のハーモニーを重ねる。ソロで一人ゴスペル、と評されることがある所以。

代表作の読みどころ 7枚のアルバムで辿る

『Yours Truly』(2013)はレトロ寄りのR&Bポップで、「The Way」のfeat. Mac Millerが有名。『My Everything🛒楽天』(2014)は「Problem」「Break Free」でEDMポップに接続し、世界的スターへ押し上げた1枚。『Dangerous Woman』(2016)はソウル/ファンク寄りに戻ってきた作品で、Nicki Minaj参加の「Side to Side」など、大人のセクシャリティを扱い始めた転換点。

『Sweetener』(2018)と『thank u, next』(2019)は、私見ではキャリア最大の飛躍。2017年5月のマンチェスターでのテロ、その後の”One Love Manchester”、パーソナルな喪失を経て、彼女はスタジオに戻り、たった半年の間隔で2枚を出した。『thank u, next』は制作から発売まで約4か月というポップスターとして異例の速度で、SNS時代の即応性を音楽側に持ち込んだ最初期の成功例だと思っている。両作あわせてグラミー賞ノミネートが続き、『Sweetener』は最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞を受賞している。

『Positions』(2020)は、コロナ禍のロックダウン下で作られたR&Bアルバム。ストリングスを多めに敷いた「pov」のような曲は、後の『Eternal Sunshine』の音像の予告編に聴こえる。そして2024年3月8日リリースの『Eternal Sunshine』。約4年ぶりのオリジナル・スタジオ盤で、13曲35分の凝縮された1枚だ。1st SG「yes, and?」でハウス寄りのダンスに振り、続く2nd SGの「we can't be friends (wait for your love)」で一気に叙情R&Bに戻す構成が、そのままアルバムの振れ幅になっている。

2025年3月28日には『Eternal Sunshine Deluxe: Brighter Days Ahead』が出て、収録6曲を追加。総尺は約55分に伸び、synth-pop寄りの色が強くなった。オリジナル版で削ったものを、デラックスで戻す。この二段構えの見せ方は、Taylor Swiftの”Vault”的アプローチとも違って、原盤の輪郭を崩さない範囲での増補になっている。ファンにとってはご褒美的な1枚だと思う。

ファンはこの曲をどう聴いているか 生活に寄り添う聴かれ方

『Eternal Sunshine』は、夜に効くアルバムとして設計されている気がする。「intro (end of the world)」からアルバム冒頭の入り方、35分という尺、シンセの帯域の低さ。日中に鳴らすには少し内向的で、車の運転中や、電気を落とした部屋、寝る前のスクロールに紛れ込むように鳴らすと、輪郭が変わる。

逆に『thank u, next』は昼の曲だと思う。あれは失恋の当事者の曲というより、失恋を”通過した後”の景色を歌った曲で、朝の支度中や、金曜の18時に鳴らすと妙に肩の力が抜ける。同じ人が同じ声で歌っていても、アルバムごとに”使い方”が変わる。この使い分けを自然にできる作り手は、実はそんなに多くない。ファンなら、自分のプレイリストがそう分岐しているのに、気づいていると思う。

ライブに行ったことのある人と話すと、みんな「音源より生の方が上手い」と口を揃える。これは実はポップスターとしてはかなり珍しいことで、大半のアーティストはスタジオ盤が最大出力だ。彼女は逆で、目の前でやるほど手数が増える。この体質を持っている人が、映画音楽の主演を任される流れは、いま思えばとても自然な移動だった。

Wickedと女優としての回帰 2024年秋の意味

2024年11月22日、Jon M. Chu監督の映画『Wicked』が全米公開された。Ariana GrandeはGalinda(後のGlinda)役で、Elphaba役のCynthia Erivoと2枚看板を張った。同月のサウンドトラック盤『Wicked: The Soundtrack』はビルボード200で好スタートを切り、続編『Wicked: For Good』のサウンドトラックは2025年11月21日リリースと発表されている。

この配役は、キャリアの補助線として重要だと思う。彼女はもともと『Wicked』のオリジナルキャストであるKristin Chenowethに憧れてブロードウェイの道を歩んだ人で、Glindaを演じるのは長年の夢だと本人が語ってきた。ポップスターがミュージカル映画に出ると「歌手だから当然歌える」と見られがちだけど、ポップの発声とミュージカルの発声は別物で、彼女はここで後者のフォーマルな発声に丁寧に切り替えた。ソプラノ域の使い方、語尾のヴィブラート、劇音楽特有のフレーズ回し。これが自然にできるポップスターは、ほんとうに少ない。

ここに一つ、ファンの間で解釈が分かれる問いがある。彼女は今後、ポップスターとしての活動と、俳優/ミュージカル俳優としての活動の、どちらを本業に据えていくのか。本人は両立を表明しているけれど、『Eternal Sunshine』が4年ぶりだったこと、Wicked二部作の宣伝期間が2025年末まで続いたことを考えると、次のオリジナル・スタジオ盤までの間隔は今度も長くなる可能性がある。答えを急ぐ話ではなく、私たちはしばらくその「往復」を見守る側になる。

いまチャートで起きていること

2024年前半のグローバル・ポップは、Ariana Grandeの「we can't be friends (wait for your love)」が中核の一つだった。曲はTikTokでのショートムービー使用を経由してストリーミングで長い滞留を見せ、初動より2〜4週目からじわじわ伸びるタイプの動きをしていた記憶がある。これは彼女の楽曲としては珍しく、通常はデビュー週に高く入ってから減衰する曲が多い。

2024年秋以降は『Wicked』サウンドトラックが並走し、2025年に入ってからは「Brighter Days Ahead」のデラックス版収録曲がもう一段延命の役割を果たしている。ポップスターの寿命が「1アルバムのサイクル=約18か月」と言われる中で、彼女は同じ盤で2年以上引っ張っているわけで、これは近年のポップ市場だと相当健闘している側だ。

とはいえ、数字の話に落とし込みすぎない方がいいと思っている。今のポップ市場は総視聴数のインフレが激しく、順位はスナップショットに過ぎない。彼女が積み上げているのは、Wicked二部作、Eternal Sunshineの拡張、そして次の8thアルバムに向けた助走を含む、もう少し長い時間軸の資産だ。

これから聴くならどこから 入門と深掘りの動線

結論を先に書くと、初めての人は『Eternal Sunshine』を通しで聴くのが今いちばん近道だと思う。35分と短く、彼女の”今の声”が最も素直に鳴っている。良ければそこから逆走して『Positions』『thank u, next』へ、大袈裟なポップに触れたければ『My Everything』へ、というのが最短ルートになる。

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  • Sweetener — グラミー受賞の到達点
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  • thank u, next — 疾走感と即応性の名盤
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  • Positions — R&B寄りの深い1枚
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入門動線

  • まずこの1曲:「we can't be friends (wait for your love)」。彼女のいまの声質・プロダクション・情緒の全部が3分半に入っている。
  • 次にこの1枚:『Eternal Sunshine』(2024)。短尺で構成が緻密。夜に通しで。
  • 深めるならこの1枚:『Sweetener』(2018)。グラミー受賞作。ポップとR&Bの折り合いを、Pharrell以下のプロダクションで最も攻めた1枚。

もしすでにファンで、次に何を掘るか迷っているなら、私は『Positions』の後半5曲、特に「pov」「safety net」あたりを推したい。派手なシングルヒットではなかったけれど、『Eternal Sunshine』の音像がどこから生まれたのか、いちばんはっきり分かるパートだ。聴くと「あ、そういうことか」と一度腑に落ちる瞬間があると思う。

最後に個人的なことを書くと、私は彼女のキャリアの一番好きな瞬間は、2018年『Sweetener』の「no tears left to cry」を初めて聴いたときだ。あの曲だけは、いまでも冒頭のワンフレーズで空気が変わる。ポップスターは何度も”再デビュー”する仕事で、彼女はもう3回くらいそれをやっている。次にどんな顔で戻ってくるかは、正直まだ想像がついていない。それを待てる歌手が同時代にいる、というのは、思っている以上にありがたいことだと思う。

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