山本彩の音楽を今から聴くなら|ソロシンガーとしての5年を辿る

アコースティックギターと譜面が置かれた薄暗いステージの抽象的イメージ アーティスト

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山本彩の名前を今週のチャートで見かけて、ふと立ち止まった人は多いと思う。アイドルという枠から離れて、ギターを抱えたシンガーソングライターとして歩き出してから、もう5年以上が経つ。彼女の曲は派手な仕掛けで押してくるタイプじゃない。むしろ地味だ。地味なのに、聴き終わったあと胸のあたりに何かが残る。今回はその「残るもの」の正体を、経歴と作品を辿りながら書いてみたい。

正直に言うと、初めて彼女のソロ音源を聴いたときは戸惑った。NMB48時代のセンター像が頭にこびりついていたからだ。でも2曲目、3曲目と進むうちに、これは別の人の音楽として聴くべきだと切り替えた。切り替えた瞬間、風景が変わった。

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このアーティストの要点

  • 山本彩は大阪出身のシンガーソングライター/ギタリストで、元NMB48・元AKB48。2019年3月にNMB48を卒業しソロ活動に本格移行した
  • ソロ名義でアルバム『α』『&(アンド)』などをリリースしており、『&』は2023年5月17日発売の4thアルバムにあたる
  • シングル「ゼロ ユニバース」は彼女にとって初の地上波ドラマ主題歌となった作品として発表されている
  • 作詞・作曲を自ら手がけ、ロック/ポップスを軸にギターを前面に出したサウンドを展開している。

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チャートで再び名前を見る理由

結論から言えば、山本彩の楽曲がチャートで動く理由は、単発のバズではなく積み重ねだ。SNSで一夜にして跳ねるタイプのシンガーではない。むしろ真逆で、ライブ、配信、タイアップ、そして地道な音源リリース——この4本柱をコツコツと回してきた結果、いま再び名前が見える位置に戻ってきている。

ライブ映像を見ると分かるが、彼女の武器は歌そのものより「声とギターの距離感」だと思う。マイクとの距離、弦を弾く強さ、息継ぎのタイミング。これがハマった曲は、スタジオ音源でもライブ音源でもぶれない。ぶれないから、リスナーが安心して繰り返し聴ける。ストリーミング時代のチャートは、この繰り返し再生に強い。派手なフックがない代わりに、日常のBGMとして生き延びる。彼女の曲はまさにそういう強さを持っている。

もうひとつ。彼女は世代を跨ぐ稀有なポジションにいる。10代からアイドルとして知られ、20代でソロシンガーとして再構築し、いまは30代の作家的な視点も混ざり始めている。この重層性が、チャート上の露出だけでは測れない「厚み」を作っている、と個人的には感じている。

大阪の少女から、ステージの真ん中へ

山本彩は大阪出身。NMB48の1期生として選ばれ、10代でグループの中心に立った。ここまでは公に知られた話だ。だが、彼女のキャリアを追うときに大事なのは、アイドルとして完成される前から「音楽が好きな子ども」だったという事実のほうだと思う。ギターを弾き、歌を書き、いつか自分の音を鳴らしたい——その原型が、後のソロ活動に一直線に繋がっている。

NMB48時代の彼女は、アイドルグループの一員でありながらセンターとしての重圧を背負い続けた。当時のパフォーマンス映像を見返すと、10代半ばの少女が何百人の前で表情を作り、汗を流している。今の彼女のインタビューでの落ち着きは、あの時間で作られた地層の上に乗っている気がする。

そして2019年3月、彼女はNMB48を卒業した。日本経済新聞のインタビューでは、卒業後に目指したい姿として「カッコいい」存在になりたい、と語っている。この一言はけっこう象徴的だと思う。「かわいい」でも「愛される」でもなく、「カッコいい」。アイドルの語彙ではない言葉を、卒業の会見で口にした。ここに、その後の音楽性の方向が予告されていた。

ソロ以降、彼女は自分でギターを持ち、自分で曲を書き、バンドを従えてステージに立つスタイルを選んだ。アイドル出身シンガーのソロ転向は珍しくないが、多くはアイドル的な華やかさを引きずる。彼女は違った。むしろアイドル的な記号を意識的に脱いでいった。派手な衣装より、シンプルなセットアップ。振り付けよりも、ギターとの一体感。この選択は当初、賛否あったと思う。だが結果として、彼女はアイドル卒業後も長く聴かれる稀な存在になった。

音楽性の核——ロックの背骨とポップスの体温

結論を先に書くと、山本彩の音楽の核は「ロックの背骨を、ポップスの語り口で伝える」ことにある。ここが多くのソロシンガーと差別化されている点だ。

ジャンルで言えばロック/ポップスの中間帯。ギターの歪みを効かせた曲もあれば、アコースティックで囁くように歌う曲もある。共通するのは、演奏を「装飾」ではなく「もう一人の歌い手」として扱っていること。バンドサウンドの中で、ボーカルと楽器が対等に会話している。この距離感が、彼女の曲を聴き心地良くしている。

初期のソロ作と最新作を並べて聴き直すと、明確に変化が見える。初期は「アイドルを抜けた自分」を音で証明しようとする力みがあった。ギターの音は攻撃的で、ボーカルも張った瞬間が多い。ところが4thアルバム『&(アンド)』の頃になると、力みが抜けて、逆に低音域の余白が増える。歌詞の視点も、自分の内側から他者との関係性へと外向きにひらいていく。作家としての成熟が、5年で確実に進んでいる。

彼女の作曲で個人的に好きなのは、サビの手前で一拍タメる癖だ。Aメロ、Bメロと来て、サビに雪崩れ込むかと思わせて、コード進行だけ先に開いてボーカルが半拍遅れて入る——こういう仕掛けが何曲もある。派手ではない。でも、その半拍の遅れに人間の呼吸を感じる。打ち込み全盛のいま、この生の呼吸感はけっこう貴重だと思っている。

聴きどころ3点

  • ギターと声の距離が近い。弾き語り曲でもフルバンド曲でも、演奏と歌が同じ空気を吸っている手触りがある。
  • サビ前の半拍のタメ。譜面には書きづらい呼吸のズレが、彼女の曲に人間味を与えている。
  • 作詞の視点が「自分→他者→世界」と広がる構造。1枚のアルバムの中でも視座が動くので、通しで聴くと物語のように読める。

代表作を辿る——ディスコグラフィの読みどころ

結論として、彼女のディスコグラフィは「時系列で聴く価値がある」タイプだ。ベストから入るより、リリース順に追ったほうが変化のグラデーションが見える。

ソロ活動を象徴する一枚として挙げたいのがα🛒楽天。ここには、アイドルグループから独立した直後の彼女の緊張感と決意が同居している。曲間の隙間、ギターの選び方、ボーカルのアタック。すべてが「これから始める」音として設計されている。まだ完成しきっていない部分もあるが、その未完成さが逆に生々しい。

そこから数年を経て届いたのが、4thアルバムの&🛒楽天2023年5月に発売されたこの作品は、シンガーソングライターとしての彼女が一段階上に登った瞬間を捉えている。アルバムタイトルの「&」が示すように、他者との共同作業、コラボレーション、そして音の「足し算」がテーマになっている。前作までのソロ感が強い作りから、開かれた場の音楽へと重心が移っている。個人的には、これがいまの彼女を理解する起点になる一枚だと思う。

シングル単位で聴くなら、ゼロ ユニバース🛒楽天は外せない。彼女にとって初の地上波ドラマ主題歌として発表されたこの曲は、シンガーソングライターとしての作家性と、タイアップに求められる普遍性の両方に応えている。曲構造は比較的シンプルだが、ボーカルの押し引きに独特の色がある。ドラマの映像と合わせて聴くと、また違う輪郭で立ち上がってくる曲だ。

ディスコグラフィ全体を眺めて感じるのは、彼女がリリース間隔をあえて詰めていないことだ。1年に何作も出すタイプではない。1枚1枚に対して時間をかけ、書き溜め、演奏を練り、そのうえで出してくる。ストリーミング時代の逆を行く姿勢だが、結果として過去作の寿命が長い。3年前の曲が、いまも普通に再生される。これは作家として強いと思う。

アイドル出身という肩書との付き合い方

アイドルグループを卒業してソロシンガーになる。この道は日本の音楽シーンで何度も繰り返されてきたが、成功例は意外と少ない。多くは数年で失速する。理由はシンプルで、アイドル時代のファンダムが「新しい音楽」より「アイドル時代の延長」を求めるからだ。ここで折り合いをつけるのが本当に難しい。

山本彩がこの罠を抜けられた理由は、大きく2つあると私は見ている。ひとつは、卒業前から自作曲を発表していたこと。ソロ以前から「書く人」としての種を撒いていた。もうひとつは、卒業後のライブ運営を、アイドル的ではなくアーティスト的な形式に切り替えたこと。バンド編成、セットリストの組み方、MCの温度。すべてを再設計している。

結果として、彼女のライブには元アイドルファン、ロック好き、シンガーソングライター好き、いくつもの層が混ざっている。単一のファンダムに支えられていないぶん、地盤が広い。この地盤の広さが、いま彼女がチャートに戻ってこられる背景でもある。

作詞家としての山本彩を読む

ここで少し、彼女の作詞面に絞って書いておきたい。歌詞そのものは引用しないが、テーマの選び方と語彙の癖には、明確な特徴がある。

まず、彼女の書く曲には「夜」と「移動」のモチーフが多い。深夜の街、走る車、駅のホーム、飛行機。人が場所から場所へ移る瞬間の感情を描くのが得意だ。これは10代からライブツアーで日本中を回ってきた人の身体感覚だと思う。移動が生活の一部だった人の書く景色は、机上で書かれた景色と手触りが違う。

もうひとつの特徴は、断定と保留のバランス感覚。強く言い切る一行の直後に、ふっと弱気な一行を差し込む。この振れ幅が、彼女の歌詞を「強い」だけの曲にも「弱い」だけの曲にもさせていない。人間の実像は、その両方の間を揺れているものだ。彼女の詞は、その揺れをそのまま置いてくれる。

そして意外と語られないのが、彼女の言葉の音の選び方。母音の並びが滑らかで、歌ったときに口が疲れない。これは弾き語りをしてきた人特有の職業技能だと思う。声に出して歌える言葉を書く癖。この癖のおかげで、彼女の曲はカラオケで歌っても気持ちいい。ここも人気の隠れた要因だと個人的には見ている。

ギタリストとしての山本彩

忘れがちだが、彼女はギタリストでもある。それも装飾としての楽器ではなく、曲作りの起点として弦を弾く人だ。この事実が、彼女の音楽全体の骨格を決めている。

ライブでの彼女のギターは、派手なソロを取るタイプではない。むしろコードストロークとアルペジオの中間で、歌の呼吸に合わせて音の粒を整えるプレイが目立つ。この地味な仕事を、自分でできる。だから彼女の曲は、デモの段階でボーカルとギターだけでもほぼ完成している。バンドアレンジは足し算で、削ってもまだ曲として成立する。この強度が、シンガーソングライターとしての彼女の本体だと私は思っている。

楽器を自分で扱える強みは、他人のプロデュースに音楽を委ねなくて済むという点にも及ぶ。誰かに任せた音は、任せた人が離れると再現できない。自分の指で作った音は、いつでも自分の手元にある。彼女がソロ活動を長く続けられている技術的な下支えは、まさにここにある。

同時代のシーンとの位置関係

結論から言うと、山本彩は「シンガーソングライター系女性アーティスト」の系譜に自然に接続できる位置にいる。しかし、その系譜内でも独特の立ち位置を持っている。

2020年代の日本の女性シンガーソングライターは、宅録/ベッドルーム系、シティポップ回帰系、ロックバンド系、多様な流れが並走している。山本彩はこの中では、明確にバンドサウンド寄りだ。生ドラム、生ベース、ギター2本という編成を基本に据える。打ち込みで作った空気感というより、スタジオで人間が音を出している空気感。これは今のトレンドから見るとやや古典的だが、逆に飽きが来ない。

そう。ここが強い。トレンドに寄せない選択が、5年10年のスパンで見ると資産になる。トレンドに寄せた曲は、トレンドが変わると賞味期限が切れる。彼女の曲は、その意味で長持ちする設計になっている。

他アーティストとの関係でいうと、彼女はライブでのゲスト出演、共同制作、フェス出演などを通じて、アイドル業界の外側との接点を丁寧に増やしてきた。この越境の積み重ねが、彼女を「元アイドル」ではなく「シンガーソングライター」として認知させることに成功した最大の要因だと思っている。

ライブで見えるもう一つの顔

音源だけで山本彩を語るのは、正直もったいない。彼女の本質はライブに出る。というより、ライブで初めて「なぜ彼女がソロを選んだか」が腑に落ちる。

ステージ上の彼女は、音源のときより一段階声を張る。ギターを持って歌う時間と、マイクスタンドだけで歌う時間、両方がある。MCは思いのほか短い。曲間の余韻を大切にするタイプで、拍手を煽らずに次の曲へ移ることも多い。この間の取り方が、コンサート全体を一本の映画のような流れにしている。

そして、バンドメンバーとの距離。ソロ名義とはいえ、彼女のライブは実質バンド公演に近い。ドラマー、ベーシスト、ギタリストとのアイコンタクトが多く、ソロ回しの時間もしっかり取る。この構成は、彼女がバンドサウンドを「借り物」ではなく「自分の音楽の一部」として扱っている証拠だ。バンドを従えているのではなく、バンドと一緒に鳴らしている。この違いは大きい。

今チャートで見える立ち位置

今週のチャートで彼女の名前を見つけた人へ、少し補助線を引いておきたい。彼女はチャートを賑わすタイプの派手なリリースを頻繁にはしない。だからこそ、チャートに顔を出しているタイミングは、何らかの節目——タイアップ、ライブ絡み、新譜——が動いている合図であることが多い。

この記事を読んでいるあなたが、たとえば通勤の電車で流れてきた曲でここに辿り着いたのなら、それは偶然じゃない。彼女の曲は、そういう「日常のBGMから引っかかる」タイプの作りをしている。派手なフックで捕まえるのではなく、生活の呼吸に沿って染み込んでくる。染み込んだ後で、名前を検索したくなる。この動線を、彼女は意図してか無意識にか、5年かけて作り上げてきた。

チャート上の順位そのものより、名前が定期的に浮上し続けること。これが山本彩というアーティストの真の強みだと私は思っている。数字はスナップショットに過ぎない。彼女が積み上げているのは、もう少し長い時間軸の資産だ。

これから聴くならどこから

結論を先に書く。まずシングルを1曲、次にアルバムを1枚、深めるならさらに1枚。この3ステップが最短ルートだと考えている。

まずこの作品から聴く

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  • α — ソロ初期の生々しさ
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入門動線

  • まずこの1曲——「ゼロ ユニバース」。地上波ドラマ主題歌として書かれた曲で、彼女のソングライティングの現在地が凝縮されている。数分で全体像が掴める。
  • 次にこの1枚——アルバム『&(アンド)』。4thアルバムにあたる本作は、シンガーソングライターとしての成熟が最も分かりやすく出た1枚。通しで聴くと、彼女がいま何を書こうとしているかが立体的に見える。
  • 深めるならこの1枚——アルバム『α』。ソロとしての初期衝動が閉じ込められた作品。最新作と並べて聴くと、5年間の変化が手に取るように分かる。

この順番で聴いてから、あとは気になった曲をライブ映像で追いかけると、山本彩というアーティストの立体像が組み上がる。音源→ライブ→音源、と往復するのが一番おいしい聴き方だ。少なくとも私はそうやって聴き直してきたし、そのたびに発見がある。彼女の音楽は、まだ育っている途中だ。次のリリースがどこに着地するかは、正直、予想がつかない。予想がつかないから、追う価値がある、と思ってます。

より詳しい活動情報・最新のリリースについては、公式サイトや所属レーベルの発表を確認するのが確実。ここに書いたのはあくまで、いま彼女の曲がチャートで動いているタイミングに合わせた、リスナー目線の見取り図です。

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