YOASOBI「オリオン」を解く 東京×琴×オーバーウォッチの共作曲

夜空に浮かぶオリオン座と近未来的な東京の街並みが重なる抽象イメージ 楽曲

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チャートでYOASOBIの新曲が動いている。2026年6月26日にリリースされたオリオン🛒楽天は、単なる新曲ではなく、世界的人気ゲームとのコラボレーションから生まれた挑戦作だ。近未来のシンセに琴の音が差し込まれる冒頭の数秒で、この曲が「いつものYOASOBI」の枠を意図的にはみ出しにきていることが分かる。キリコの目線で紡がれる兄弟の物語という、原作短編小説の芯を握ったまま、Ayaseは自分の作編曲を新しい方向へ振り切った。ゲーム10周年という節目にぶつけられた楽曲が、いまチャートを揺らしている。

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この曲の要点

  • 「オリオン」は2026年6月26日にリリースされたYOASOBIの4th EP『THE BOOK for,』の収録曲で、ゲーム『オーバーウォッチ』とのコラボ楽曲として書き下ろされた
  • 原作はBlizzard Entertainment監修による短編小説『地に堕ちた雀(英題:The Fall of a Sparrow)』で、ゲンジ・ハンゾー・キリコの3人の関係性を描いた物語
  • 作詞・作曲・編曲はAyase、歌唱はikuraが担当
  • 英語版「Orion」の訳詩はKonnie Aokiが担当し、2026年7月10日に配信リリースされた
  • 同EPのUS限定アナログレコードでは、『オーバーウォッチ』とのコラボジャケットを採用した特別仕様も展開された

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「オリオン」はどう生まれたか——ゲーム10周年に向けた書き下ろし

結論から言えば、この曲は「YOASOBIが小説を音楽にする」という看板コンセプトを、ゲーム発の物語に振り向けた稀な例だ。YOASOBIはこれまで恋愛小説、ミステリ、ノンフィクションと題材を広げてきたが、今回の原作は明確に「ゲームの一部として書かれた小説」である。ここが面白い。

情報公開は2026年5月28日の『「オーバーウォッチ」新シーズン発表会記者会見』で行われ、YOASOBIが登壇して楽曲制作を発表した。会見当日、ikuraが「気が引き締まる思い」と話していたのが印象に残っている。世界数千万人規模のプレイヤー基盤を抱えるIPに、日本語詞のポップスで飛び込む——プレッシャーの質がおそらく従来と違う。

『オーバーウォッチ』では2026年6月17日から”東京”を舞台にした新たなハイブリッドマップがローンチされ、その舞台設定に紐づくキャラクター、ゲンジ・ハンゾー・キリコの3人によって展開される短編小説『地に堕ちた雀』が公開された。舞台が東京、というのが今回のコラボの根幹にある。近未来の東京の路地に琴の残響が転がる——そういう画が音源から立ち上がるのは、この設定を作り手が本気で受け止めたからだ。

Ayaseは記者会見の場で近未来サウンドとJ-POP魂という言い方をしていた。実際に音を聴くと、この言葉は宣伝文句ではなく、そのまま設計思想として音に落ちている。

原作『地に堕ちた雀』——キリコ目線の兄弟物語

結論を先に言うと、この曲は3人の物語を、キリコの視点で1曲に畳んでいる。ここが読み解きの入り口になる。

短編小説『地に堕ちた雀(The Fall of a Sparrow)』はE. C. Myers著、Blizzard Entertainment, Inc. 監修『オーバーウォッチ』の新たな舞台となる”東京”を背景に、ゲンジ、ハンゾー、キリコの3人を描いた作品で、YOASOBIはこれを原作として楽曲を書き下ろした

YOASOBI公式のコメントによれば、EP収録の新曲「オリオン」はゲンジ・ハンゾー・キリコ3人の関係性を描いたストーリーを、キリコ目線で紡いだ楽曲となっている。ここが構造として巧い。3人称の物語を、あえて一人の視点に絞ることで、複雑な兄弟関係と外側から見る者の温度が同居する。

3人がそれぞれの記憶を辿りながら、自身の想いと向き合っていく姿が描かれている——原作のこの構造をそのまま歌にすると、おそらく散漫になる。キリコという「見届ける立場」を歌の主体に据えたことで、記憶と現在の往還が一本の線になった。ikuraのボーカルが最後にほんの少し裏返る箇所があるが、あれは狙って残された揺らぎだと思ってます。

キリコ、ゲンジ、ハンゾーの複雑に入り組んだ関係性や、その絆の部分を表現した楽曲になっているという制作陣の説明も、聴き終えた後に納得がいく。血縁、対立、和解の兆し——このモチーフはYOASOBIが得意としてきた「別れと再会」の系譜に、実は素直につながっている。

サウンドの読みどころ——近未来シンセに琴を差し込む設計

プロダクションの結論から書く。この曲は「和×近未来」を、意匠ではなく音の骨格として組んでいる。飾りの琴ではない。

Ayase自身が、近未来なサウンドにJ-POP魂を乗せ、ゲームから着想を得た楽曲に自信を見せているまた、近未来サウンドに”琴の音”を配し、JPOP魂を乗せてつくったと語っている。この「琴」の使い方が今回のキモだ。

イントロのリバーブ処理を聴くと、琴の減衰音が空間の広い場所——おそらく大聖堂系ではなく、屋外の夜の路地に近い響き方で処理されている。Ayaseの過去曲でよく聴かれるドライで詰め込むタイプのミックスとは違う。空白がある。ここが「東京の夜」の情景を担っている。

BPMの選択も興味深い。YOASOBIの代表曲は「夜に駆ける」「アイドル」「群青」と、疾走感のあるテンポで刻んできたが、「オリオン」はキャッチーさより情景描写を優先した中速域に落ち着いている印象。走らせない。歩かせる。この判断は原作物語の温度に合っている。

聴きどころ3点

  • 琴と近未来シンセの接合——飾りではなく主旋律の一部として和楽器の音色を配置している設計。イヤホンで聴くと定位の妙が分かる。
  • キリコ目線という語り口——3人の物語を1つの視点に絞った歌詞構造。散らばる記憶を1本の糸で束ねる手つき。
  • ikuraのボーカルの引き算——サビでの押し切り方を抑え、余白と裏声のニュアンスで感情を伝える方向にシフト。従来の”突き抜けるikura”とは別の顔。

4th EP『THE BOOK for,』の中での位置づけ

この曲は単体でも成立するが、EP全体の中で見るとまた別の顔が出てくる。

4th EP『THE BOOK for,』は過去3作品を上回るボリュームとなる全12曲を収録した1枚組CDに、シリーズお馴染みの特製バインダーが付属する仕様で、数量限定・完全生産限定盤として発売される最新曲となる『オーバーウォッチ』コラボレーション楽曲として書き下ろした「オリオン」を筆頭に、TVアニメ『花ざかりの君たちへ』オープニングテーマ「アドレ」なども収録されている

『THE BOOK』シリーズはYOASOBIにとってのフラッグシップ・パッケージであり、代表曲を集約する場所だ。そこに「オリオン」がリード的な位置で置かれた意味は大きい。過去3作を上回る12曲というボリュームも、シリーズの物量的な集大成感を出しにきている。

個人的には、シリーズ既存の楽曲群と並べて聴いたときに「オリオン」だけ手触りが違うのが面白い。YOASOBIというプロジェクトが、自ら型を破りにきている瞬間の記録として、EP全体を通して聴く価値がある一枚。

英語版「Orion」——Konnie Aokiの訳詩とグローバル戦略

この曲の広がり方を語る上で外せないのが、英語版の存在。日本語版から2週間強でリリースされた英語版は、明確に世界基盤を持つゲームIPと組んだ戦略の一部だ。

YOASOBIは2026年7月10日に楽曲「オリオン」の英語版「Orion」を、コラボ・ヴィジュアルが彩るジャケットデザインとともに配信リリースした英語版「Orion」の訳詩はKonnie Aokiが担当し、日本語歌詞の響きや情景、世界観を大切にしながら紡がれた英語詞になっているという

Konnie Aokiは、YOASOBIの英語版楽曲を継続的に手がけてきた訳詩家。単純な直訳ではなく、韻とメロディへの乗り方を優先した訳詞で知られる。今回のような和のモチーフを持つ曲を英訳するのは相当な難題のはずで、そこに継続的な信頼関係のある人選が入ったのは自然な流れ。

また、7月10日23時からは「Orion (English Version)」のミュージック・ビデオがYouTubeにてプレミア公開されたMVはA-1 Picturesと異次元TOKYOが制作を担当している。アニメーションMVの座組みまで含めて、日本のトップランナー同士のコラボレーションになっている。

ゲーム内コラボレーション——楽曲の外側で起きたこと

結論から言うと、「オリオン」は楽曲単体の完成度だけでなく、ゲーム内実装と連動した”体験”として設計されている。

ゲーム内コラボレーションは、日本時間7月21日(火)までの期間限定で開催され、ゲーム内にはYOASOBIの音楽や世界観、ビジュアルを取り入れたさまざまなコンテンツが登場した今回のコラボでは、スキンだけでなくエモートやスプレーなどのゲーム内アイテムが多数登場し、「YOASOBIメガ・バンドル」を購入すれば、対象ヒーローのコラボスキンをはじめ、エモートやスプレーなどをまとめてアンロックできる仕様となっている

ここが今回のプロジェクトの独自性で、楽曲はコラボ企画全体の一部として設計されている。CDやストリーミングで完結せず、プレイヤーがゲーム内で「オリオン」を耳にする——この動線までを含めて楽曲プロジェクトなのだ。J-POPとグローバルゲームIPの関わり方として、規模の面でも近年稀に見るスケール感になっている。

TBS系『CDTVライブ!ライブ!』での「オリオン」テレビ初披露パフォーマンス映像も期間限定公開された。テレビ音楽番組での披露、ゲーム内実装、英語版のMVプレミア公開——同じ楽曲に対して複数の入り口を用意する打ち出し方は、YOASOBIというプロジェクトが持つ発信力の現在地を示している。

YOASOBIのキャリアにおける「オリオン」の意味

キャリアの流れで見ると、この曲は「YOASOBIのブランドが第2フェーズに入った」ことを示す1曲だと思っています。

「夜に駆ける」(2019年12月配信)でシーンに登場し、「群青」(2020年)、「怪物」(2021年)、「アイドル」(2023年)とヒットを重ねてきたYOASOBI。ここまでは基本的に「小説投稿サイトの物語」「アニメ・ドラマとのタイアップ」を原資にしてきた流れだった。

「オリオン」はここに新しい原資を持ち込んだ。グローバルゲームIPというフィールドだ。「小説を音楽にする」というコンセプトを保ったまま、原作素材の出所を国際コンテンツに広げた。この意味は大きい。日本語詞のポップスで世界のプレイヤーに向き合うという構図は、これまでの延長線ではなく、明確に踏み込んだ一歩。

Ayaseの作編曲の面でも、この曲は挑戦の記録として残る。琴という和楽器を近未来のプロダクションに落とし込むアイデアは、ともすると「あざとい和モチーフ」に転びかねない。実際、そこに落ちなかったのは、原作の東京という舞台と、キリコという語り手を音の設計に反映させた結果だと思ってます。単なる意匠として琴を使っていたら、この曲は成立していない。

チャートでの動きと、この時期のYOASOBI

結論から書くと、リリース直後からストリーミング系チャートを中心に動きが出ている——具体的な順位・売上の数字はチャート運営元の公式集計を参照してほしい。

ここでは音楽ライターの観察として、いくつかの傾向だけ書いておく。ひとつは、日本語版と英語版の両輪リリースが功を奏していること。海外リスナーの流入経路がゲーム内でのBGM接触を含めて複数用意されているため、通常の日本語シングルより裾野の広がり方が速い。もうひとつは、EP『THE BOOK for,』本体の予約・購入が同時に走っており、CDフィジカル市場でも動きが出ていること。

近年、日本のJ-POPアーティストが世界チャートで戦うにあたっての手筋——英語版、海外IPコラボ、アニメーションMV——を、今回のYOASOBIは1曲の中にほぼ全部投入している。この総合戦の結果がどうチャート上に残っていくかは、リリース後数ヶ月のスパンで見ていくべき数字。

入門動線

「オリオン」から広げて聴くなら、まずEP『THE BOOK for,』を通して聴くのが一番。次の1曲として同EP収録の「アドレ」(TVアニメ『花ざかりの君たちへ』オープニングテーマ)を挙げておきたい。テンポ感もサウンド設計もオリオンとは対照的で、YOASOBIの引き出しの広さを対比で味わえる。関連1枚としては、コンセプトの原点を確認する意味で1st EP『THE BOOK』を。「小説を音楽にする」というアイデアがどこから始まったかを追体験できる。

「オリオン」を聴いた後に残るもの

この曲を数十回聴いて、残ったのは「静けさ」。派手なコラボ企画の中心にある楽曲が、意外なほど落ち着いた温度で終わる——そこが今回のYOASOBIの面白いところ。ヒットの型を知り尽くしたユニットが、あえて疾走感を選ばなかった。

キリコという語り手の視点、東京の夜の路地に響く琴、近未来のシンセ。素材のひとつひとつは尖っているのに、仕上がりは静か。この矛盾こそが、原作『地に堕ちた雀』の兄弟の物語と重なる。対立、記憶、和解の兆し——騒がしくないところで人の関係は動く。

チャートでの数字がどうなるかは今後の話として、この曲は「YOASOBIが次の10年に向かうときの1曲」として、後から振り返る価値のある楽曲になっていく気がする。詳細な制作エピソードや今後の展開は公式情報を参照しつつ、まずはEP全体を通して聴いてみてほしい。

まずこの作品から聴く

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  • アドレ — 同EP収録の対照的な1曲
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  • THE BOOK — シリーズの原点1st EP
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  • アイドル — 近年の代表的ヒット曲
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