ねぐせ。名古屋発4人組の現在地|『グッドな音楽を』から武道館へ

淡い光の中で鳴るクリーントーンのギターと、リビングの窓辺に置かれたコーヒーカップを想起させる、生活の湿度をまとった軽やかなバンドサウンドの抽象イメージ アーティスト

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名古屋の4人組バンド、ねぐせ。がいま面白い局面にいる。2020年夏に生まれた小さなインディーズバンドが、2022年の「グッドな音楽を」でSNSの潮目を変え、気づけば日本武道館のステージに立っていた。派手なドラマ性で駆け上がったわけではない。ギターの粒立ちと、生活の目線と、少し不器用な口語。その積み重ねが、いまチャートの上位で鳴っている。

ねぐせ。は「バズって消える」の対義語みたいなバンドで、聴くたびに生活の湿度がすこし上がる。この一文が、たぶんこのバンドを長く追ってきた人の実感にいちばん近い。

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このアーティストの要点

  • ねぐせ。はメンバーのしょうと・りょたち・なおとにより、2020年8月27日に結成された名古屋発の4ピースバンド(現体制はりょたち/なおや/しょうと/なおとの4人)。
  • ボーカル・ギターのりょたちがねぐせ。のすべての楽曲を作詞作曲しているバンドの中心メンバーで、リードギターのなおやは残響Pという別名義でボカロPとしても活動している。
  • 知名度を大きく押し上げたのは2022年7月にリリースされた代表曲「グッドな音楽を」で、キャッチーなメロディとMVで一気に広まった。
  • 2025年1月クールのTVアニメ『メダリスト』ED主題歌に「アタシのドレス」が起用され、初のアニメタイアップを獲得。
  • 2024年6月には日本武道館公演「ファンタジークライマックス」を開催し、2025年3月にはねぐせ。5周年として初のホールツアーへ突入している。

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名古屋の一室から始まった、句読点つきのバンド名

ねぐせ。は名古屋のバンドだ。2020年8月に結成した愛知県 名古屋発のバンド「ねぐせ。」名古屋を拠点とした軽やかなギターサウンドのバンド、というのが公式の自己紹介にあたる。コロナ禍のちょうど入口で、対バン文化もライブハウスも一度立ち止まっていた時期に、彼らはスタート地点に立っている。この時系列は地味に効いていて、活動の最初期からSNSと配信を主戦場にしているバンドだという事実は、後のブレイクの伏線として読み替えられる。

バンド名の由来もこの人たちらしい。「ひらがなで字面がかわいい」「覚えやすく誰もが知っている言葉」などの条件から考案されて付けられました。句読点の「。」を付けたのも「ねぐせだけでは何か物足りないから加えてみよう」というメンバーのアイデアだという。そこに「寝る間も惜しんで癖になるバンドになっていきたい」という思いが後付けで語られる。この順番、語感が先で意味は後、というやり方は、彼らの楽曲の作り方にもうっすら重なる。

編成は4人。ボーカル・ギターのりょたち、リードギターのなおや、ベースのしょうと、ドラムのなおと。りょたち(本名:志賀遼太)は全ての楽曲の作詞作曲を行っており、柔らかな歌声が特徴で、影響源としてMrs.GREEN APPLE、その後インディーズにはまりMr.ふぉるてやKALMAの名前を挙げる。この系譜図は重要で、ねぐせ。の音を語るときに外せない座標になる。

なおやの二足の草鞋も見逃せない。なおやはリードギターを務めるメンバー。メンバー最年長らしいですが、出生年までは公表されていないという書き方に、このバンドの匿名性への距離感がにじむ。ボカロP「残響P」としてのモードと、ねぐせ。のギタリストとしてのモードは音の作り込みの粒度が違う。この二面性は、後述するアレンジの層の厚みに直結している。

「グッドな音楽を」以前と以後

ねぐせ。を語るときに避けて通れないのが、2022年夏の一曲だ。ねぐせ。の名を広く世に知らしめたのは、2022年7月にリリースされた代表曲「グッドな音楽を」がきっかけです。耳に残るキャッチーなメロディとポジティブな歌詞が印象的で、MVの仲良く楽しそうなメンバー全員、という一節に、当時のバズの温度がだいたい入っている。ショート動画で切り取られたサビが独り歩きし、そこから本編を辿るという2022〜2023年的な導線を、ねぐせ。はきれいに引き当てた。

ただ、ここで一歩踏み込んで書いておきたい。「グッドな音楽を」以前のねぐせ。と以後のねぐせ。は、実は音の作りがそこまで断絶していない。バズ前の楽曲を並べ直して聴くと、テンポ感、ギターのカッティングの立ち位置、リードの単音がボーカルの隙間を縫うようにフレーズを差し込むやり方、どれもすでに完成している。「グッドな音楽を」は、その完成度が世間の耳のチューニングと偶然合った瞬間の一曲で、路線変更のヒットではない。ここが、後発の類似バンドと決定的に違う。

この曲以降、彼らはSNSでのバイラル特化に振れなかった。むしろリリースの間隔と長さを整え、シングルとアルバム、ワンマンとフェスの往復運動をきちんと踏んでいる。派手なタイアップに全乗っかりせず、ひらがなの句読点つきのバンド名のまま、じわじわとフロアを広げてきた。武道館の話が現実になったのは、この地味さの積分だと思う。

音楽性の核と変遷、「軽やかなギター」の内訳

ねぐせ。の音を一言で言えば、公式が名乗る通り「軽やかなギターサウンド」だ。ただし、この「軽やか」の中身をもう少し分解したい。彼らのギターは音圧で殴らない。歪みも深くない。かわりに、ボーカルの後ろに常に細かい単音が動き回っていて、それが曲全体の呼吸をコントロールしている。ドラムも重たいバスドラで沈めるのではなく、リムショットやハイハットの粒で時間を進める。ベースは中低域を主張しすぎず、コードの下に薄く引かれた線として機能する。この4人の音量差の設計が、ねぐせ。の「軽やかさ」の正体だ。

りょたちの歌は、上手さでねじ伏せる声じゃない。中性的で、少し掠れて、語尾を素早く切る。この歌い方は、歌詞の生活感と地続きになっている。恋の話も、日常のうっすらとした違和感も、彼はほぼ同じ声量で歌う。ドラマチックに盛り上げないから、逆に聴き手の側の記憶が勝手に色をつける。この「余白の設計」が、ファンが自分の生活の一場面を曲に貼り付けられる理由だ。

影響源として挙げられるMrs.GREEN APPLEやKALMA、Mr.ふぉるての名前は、ジャンル分類のためではなく、態度の系譜として読むのが正しい。「ポップスとして聴ける強度を持ったバンドサウンド」「叙情と軽さを両立させる」「叫ばずに刺す」、この態度の系譜に、ねぐせ。は正しく接続している。この5年でJ-POPのフォーマットが4分から3分弱に短くなり、イントロが痩せ、サビが前倒しになる流れの中で、彼らは短尺の要請にきれいに乗りながらも、間奏のギターに1〜2小節分の”景色”を残す。この残し方が、彼らを他のショート動画バンドから静かに分けている。

聴きどころ3点

  • 単音リードの動き:なおやのギターは伴奏より一枚上のレイヤーで動く。歌の裏で鳴っている旋律だけを追いかけて2周目を聴くと、曲の景色が変わる。
  • 語尾の切り方:りょたちのボーカルは、日本語の助詞と語尾の処理が独特。伸ばさない、粘らない、突き放さない。この中間の温度が「ねぐせ。らしさ」の芯。
  • ドラムの間の取り方:なおとのドラムは、フィルで前に出るより、ハットとリムでグルーヴを刻む型が多い。この抑制がバンド全体の”軽さ”を担保している。

代表作・ディスコグラフィの読みどころ

入口としてまず挙がるのは、やはりグッドな音楽を🛒楽天だ。2022年7月リリース。ねぐせ。というバンドの語彙が全部詰まった、ある意味”名刺曲”にあたる。ミドルテンポ、抜けのいいギター、日常語のフック。この一曲を聴いて刺さらなければ、たぶん相性の問題で、逆に刺さるならディスコグラフィをどこから触っても大丈夫だ、というくらいの基準曲になっている。

次に触れておきたいのがアタシのドレス🛒楽天2025年1月、初のアニメタイアップとしてTVアニメ『メダリスト』ED主題歌に「アタシのドレス」が起用され、3月に初の映像商品「ファンタジークライマックス at 日本武道館 -2024.06.13-」、1st Single「アタシのドレス」同時リリースという流れで世に出た。フィギュアスケートを題材にしたアニメのEDという枠は、リンク上の張りつめた時間の”あと”に鳴る音楽で、ねぐせ。の呼吸の浅さ・軽さがハマる場所だった。作品のトーンと楽曲の距離感がきれいに合っていて、これは偶然のマッチングではなく、選ぶ側がちゃんと聴いていた結果に見える。

その前後にはキスがしたい🛒楽天織姫とBABY🛒楽天といった配信シングルが並ぶ。4月「キスがしたい」配信リリース、6月「織姫とBABY feat.という記述が公式のバイオに残っている。タイトルだけを並べると軽やかだが、実際に通して聴くと、恋愛の一場面を大声で叫ばずに描くというねぐせ。の作法が、より研ぎ澄まされてきているのが分かる。5年目のバンドの成熟が、派手なジャンル拡張ではなく、同じ場所を深く掘る方向に向かっているのは興味深い。

初期作から順に聴き直すと、ドラムの粒感が年を追うごとに整理されているのが分かる。バズ期は勢いでラフに録っていた質感が、武道館以降は明らかに音の分離が良い。プロダクションの層が厚くなっても、曲の”軽さ”は失っていない。この矛盾を成立させているのが、なおや=残響Pの耳だと自分は勝手に思っている。ボカロP出身の作り手は、少ないパーツで空間を作る訓練を積んでいる。バンドが売れてトラック数が増えたときに、逆に引き算ができるのは、この経歴の資産だ。

カルチャー的な文脈、名古屋・SNS世代・そして武道館

ねぐせ。を語るとき、名古屋という土地の話は外せない。東京発でも大阪発でもない、名古屋のライブハウス圏を主戦場にしてきたバンドが全国区になるルートは、この10年でぐっと増えた。SNSと配信が地方バンドの地理的ハンデを溶かしたからだ。ねぐせ。はその代表例のひとつで、彼らの動線は、名古屋のライブハウス→YouTube/TikTok→ワンマン全国→フェス→武道館、という新しい直通ルートに近い。かつてなら在京レーベル移籍が必須だった規模まで、地元の空気を残したまま来ている。

同時代のシーンで並べるなら、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、Vaundy、Mrs.GREEN APPLEの再ブレイク以降のロックバンド世代、このあたりの流れに、ねぐせ。はしなやかに接続している。ただしポジションはやや独特で、彼らは「文学的な影」でも「圧倒的なポップの多幸感」でもなく、その中間、”生活の湿度”みたいなところに立っている。フェスのアクトで前後にどんなバンドが来ても、自分たちの温度で押し通せる稀有な立ち位置だ。

そして2024年6月13日の日本武道館。初の映像商品「ファンタジークライマックス at 日本武道館 -2024.06.13-」として残されたこの日のライブは、彼らのキャリアの分水嶺だ。武道館という場所は、”どの規模まで行けるバンドか”を可視化する舞台装置として、いまも機能している。名古屋発の、句読点つきの、SNSで火のついたバンドが、この舞台にきちんと立った。この事実がねぐせ。を「一発屋」の圏外に永久に押し出した、と言っていい。

いまチャートで起きていること

2025年に入ってから、ねぐせ。のチャート上での動きは加速している。1月のアニメタイアップ、3月の1stシングル『アタシのドレス』と武道館ライブ映像の同時リリース、4月・6月の配信リリース、そしてホールツアー。ここまで密度の高いスケジュールを組めるのは、フェス動員とストリーミング再生の両輪が回っている証拠だ。数字の細かい上下は週ごとに揺れるが、”リリースするたびに一定以上を叩き出す”というフェーズに入ったバンドは、そこから先の景色が違う。

ここで一つ言い添えておきたいのは、いま彼らに起きているのは”爆発的な瞬間最大風速”ではなく、”安定して高いフロア”だという点だ。SNSのバズは半減期が短い。半年もあれば別の曲が話題を持っていく。それでもねぐせ。の楽曲群は、リリースから1年、2年経っても、通勤中や作業中のプレイリストに残り続けている。これはストリーミング時代のバンドの生存戦略として、実は最も難しい形の結果だ。

これから聴くならどこから

ねぐせ。を初めて聴くなら、まずは代表曲から入るのが素直に効く。そこから時系列を遡ったり、最新シングルへ進んだりする往復運動をしていくうちに、このバンドの”変わっていない芯”と”少しずつ変わっている質感”の両方が見えてくる。

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  • アタシのドレス — アニメ『メダリスト』ED、現在地
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  • キスがしたい — 日常語で恋を描く近作の軸
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  • ファンタジークライマックス at 日本武道館 -2024.06.13- — 音量差の設計を可視化した記録
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入門動線

  • まずこの1曲:「グッドな音楽を」。バンドの語彙の全部が3分半に詰まっている名刺曲。ここで相性を確認する。
  • 次にこの1枚:1st Single「アタシのドレス」。アニメ『メダリスト』EDとしての外向きの顔と、バンドの現在地が同居した2025年の到達点。
  • 深めるならこの1枚:ライブ映像商品「ファンタジークライマックス at 日本武道館 -2024.06.13-」。スタジオ音源では見えない4人の音量差の設計を、視覚と一緒に味わえる。

ライブでのねぐせ。、スタジオ音源との差分

スタジオ音源の印象だけでねぐせ。を判断すると、ライブで一度更新されると思う。音源だと”軽やか”に振れて聴こえるバンドが、フロアではきちんと生音のバンドとして立ち上がる。ギターの単音は音源より少しラフに、ドラムは音源より少し前のめりに、ベースは音源より輪郭がはっきり出る。この差分の設計が上手いバンドは長く生き残る。ねぐせ。はそこに自覚的だ。

MCの温度も特徴で、りょたちのステージ上のしゃべりは、歌のときの語尾処理とほぼ同じテンションで進む。テンションを上げないから、フロアも無理に上げない。かわりに、曲頭のワンフレーズが鳴った瞬間に空気が一段沈む。この”沈む”感じは、大型フェスの盛り上げ型のバンドとは真逆の作法で、いまの若いリスナーが実は求めている距離感でもある。

武道館のライブ映像を見ると分かるが、演出も過剰に足していない。バンドを中心に置き、照明は曲の呼吸に合わせて色を変える程度。ここに”背伸びのなさ”がある。5年目のバンドがアリーナ級の会場でこれを選択できるのは、自分たちの音がどの規模まで自然に届くかを掴んでいる証拠だ。派手な演出で埋めるのではなく、音そのもので空間を持たせる方向に賭けた。この選択は、次のツアーでも効いてくるはずだ。

ファンとバンドの距離、そして”ねぐせ。”という語感

ねぐせ。のファンダムの空気も、一度書き留めておきたい。SNS上の反応を眺めていると、”推し”というより”日常のBGM”としてこのバンドを話題にしている人が多い。朝の支度、通勤の駅、深夜のコンビニ、寝る前の部屋。そういう生活の隙間の話とセットで曲名が語られる。この語られ方は、アーティストと音楽の関係としてかなり健康的だ。

バンド名「ねぐせ。」という語感も、この距離感に一役買っている。ひらがなで、かわいくて、句読点付き。ロックバンドらしい強い名前ではないから、生活のなかに置いても浮かない。名前に対する第一印象の柔らかさが、そのまま曲の受け取り方に影響している。ネーミングの戦略というより結果論に近いが、この一致は大きい。

付け加えるなら、りょたちがソロで弾き語りのYouTubeチャンネルを持っていることも、この距離感を担保している。バンドの音源=完成品、弾き語り=作曲プロセスの手前、という二層構造がファンから見えている。曲が”降ってくる”のではなく、”作られている”のが分かる。この透明性は、いまの若いリスナーが信頼を寄せる指標のひとつだ。

最後に、彼らが残している”余白”

ねぐせ。というバンドの面白さは、まだ全部の色を出し切っていない、というところにある。アニメタイアップも通った。武道館も通った。ホールツアーも回っている。次に何が来るのか、正直、自分にもまだ読み切れない。海外のフェス動線に踏み出すのか、映画やドラマ側からの声がかかるのか、それとも意外な形でコラボレーションが起きるのか。ここは書ききらず、聴く側に委ねたい論点だ。

ひとつだけ確かなのは、この4人はチャートの数字より少し長い時間軸で動いているということだ。バズを”ゴール”にしなかったバンドが、5年目でようやく本来のフォームに入ってきている。派手な断言はしないでおく。ただ、名古屋の一室から始まった句読点つきのバンド名を、これから何年も口にする機会は、確実に増える。詳細やライブ情報は公式サイトを参照してほしい。

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