離婚伝説というバンドの正体|『愛が一層メロウ』から『大空港』までの現在地

夜の街の窓越しに滲むネオンと、テーブルに置かれたレコード盤の抽象イメージ アーティスト

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チャートに「離婚伝説」の四文字が並ぶと、初見の人は必ず二度見する。バンド名のインパクトだけで語られがちなこの2人組は、しかし中身を聴けば、驚くほど落ち着いた仕事をしている。この2人がやっているのは派手なバンド名で笑わせることではなく、愛という古い主題を令和のシティポップの語法で更新する作業だ。そう言い切ってしまいたくなる程度には、彼らの音は一貫している。

ボーカルの松田歩、ギターの別府純。この2人で作る音は、ネットのバズを狙った瞬発力の音楽ではない。むしろ逆で、じわじわ効く。TikTokで一瞬火がついたバンドが数ヶ月で消えていく中、彼らは2022年の初出から着実に階段を上がって、2024年にメジャーデビュー、2026年夏にはゴールデン帯のドラマ主題歌まで来た。この記事では、その歩みを事実だけで追いながら、離婚伝説の音楽が「なぜこう聴こえるのか」を、自分の言葉で書いてみたい。

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このアーティストの要点

  • 離婚伝説は松田歩(Vo)と別府純(G)による日本の2人組バンドで、2022年1月に結成、2024年にソニー・ミュージックレーベルズのアリオラジャパンからメジャーデビュー。
  • バンド名はマーヴィン・ゲイが1978年に発表したアルバム『Here, My Dear』の邦題に由来する。
  • 2022年6月に初の楽曲「愛が一層メロウ」を発表し、SNSと配信を起点に注目を集めた。
  • 音源・映像・スタイリングまでセルフプロデュースで制作している。
  • 2026年7月期テレビ朝日系木曜ドラマ『大空港〜GATE24〜』の主題歌として新曲「大空港」を書き下ろした。

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バンドカラオケ屋のホールとギター——ぬるっと始まった2人

離婚伝説の始まりは、ドラマチックではない。むしろ、そのドラマの無さがいい。鹿児島県出身の松田歩と、埼玉県出身の別府純が出会ったのは2018年頃、店員が演奏して客が歌うバンドカラオケ屋のアルバイト先だった。松田はホール、別府はギター。同じ店の中で、片や接客し、片や演奏していた2人が、後に同じユニットを組むことになる。

結成の経緯もまた、拍子抜けするほど自然だ。2020年のコロナ禍で時間が空いた時期に、簡単な弾き語りの楽曲をLINEで送り合うようになり、ある程度弾き語り曲ができた段階で本格的な楽曲制作を開始した、と本人たちがインタビューで語っている。遊びが、いつのまにか作品になっていた。このぬるっと始まった感じは、離婚伝説の楽曲全体を貫く体温——熱すぎず、冷たすぎず——にそのまま繋がっている気がする。

そして2022年1月、正式に離婚伝説として動き出す。同年6月5日に初の楽曲「愛が一層メロウ」を公開し、翌2023年1月18日には初のフィジカル作品となるEP『愛が一層メロウ』をリリース。ここから先の加速は、あとで書く通りだ。

バンド名の元ネタ——マーヴィン・ゲイという地図

「離婚伝説」という名前を初めて見た人は、ほぼ全員が同じ質問をする。なぜこの名前なのか。答えは、彼らが好きな音楽の座標を、ほとんど剥き出しに掲げているからだ。バンド名はマーヴィン・ゲイの1978年発売のアルバム『Here, My Dear』の邦題から採られている。

『Here, My Dear』は、マーヴィン・ゲイが元妻に慰謝料代わりに贈った——という逸話ごと語られる、ソウル/R&Bの一大ドキュメントだ。愛憎、後悔、諦め、それでも残るもの。そういう感情の細部を、ファンクとメロウなグルーヴで包んで提示した作品。この一枚を看板に選んだ時点で、離婚伝説の音楽的な出自と目線は、かなりはっきりしている。ソウル、ファンク、そして愛という主題への執着。

だから「離婚」という物騒な単語に引っ張られて聴くと、たぶん少し外す。彼らが引き受けているのは離婚の陰惨さではなく、そこに至るまでの感情の襞——甘さ、めまい、退屈、諦めの手前——のほうだ。ネーミングの派手さの下に、驚くほど古典的な主題の選び方が隠れている。

音楽性の核——シティポップの新譜として鳴っている

離婚伝説の音は、いまの日本のバンドの中でも輪郭が独特だ。歪んだギターで押し切るタイプではないし、打ち込みで塗り固めるタイプでもない。生っぽいドラムと、少し湿ったギター、そして松田の、ややかすれてピッチの揺れる歌。全体としては、70〜80年代のシティポップ/AORの語法を、令和の解像度で組み直した音——という言い方が近い。

初期作を並べて聴き直すと分かるが、彼らの曲はテンポが速くない。BPMを上げてキャッチーさで殴りに来る、いまのメジャーの主流とは真逆の方向を向いている。にもかかわらず耳に残るのは、コード進行とメロディの「少し外す」癖のせいだ。素直に着地しそうな小節で、半音ずらしてくる。予定調和にしない。この癖は、松田がインタビューで語る、男性目線と女性目線を書き分ける作詞のスタンスにも通じていて、単純な感情に落とし込ませない。

そしてもうひとつ。ライブ映像を見ると分かるが、この2人は静けさを怖がらない。2人組という編成上、音は薄い。その薄さを、無理に足して埋めない。空白を残したまま歌を置く。この判断ができるバンドは、日本にそう多くない。

もう一つ、離婚伝説を語る上で外せないのが、松田のボーカルの「抜き方」だ。日本のバンド・ボーカルの多くは、サビで音量と感情のギアを一段上げる。彼は上げない。むしろ抜く。息を混ぜて、力を逃がしながらメロディの高いところを渡っていく。この選択は、ソウル/R&Bの歌唱を通ってきた人間の判断で、和物のバンドではあまり出会わない。カラオケで真似ようとすると、真っ先に「力を入れない」ことの難しさに気づくはずだ。

そして別府のギター。歪みで押さず、コードトーンをアルペジオ気味に散らして置くスタイルが、松田の抜けた歌のちょうど隙間を埋めるように設計されている。2人しかいない編成で、ここまで役割分担が緻密に組めるのは、単純に長い時間一緒に音を出してきた蓄積があるからだと思う。バンドカラオケ屋のバックヤードから始まった関係性が、そのまま音になっている感じがする。

聴きどころ3点

  • 湿度のあるギター:別府のギターは、歪ませず、コードを分散させて置く。空間の使い方が古き良きAORに近い。
  • 揺れる歌:松田の歌は正確無比ではない。むしろ少し揺れる。この揺れが「作り物ではない体温」を作っている。
  • 愛を主題にした語彙選び:ラブソングでありながら甘くなりすぎない、少し斜に構えた語彙センス。「メロウ」「メルヘン」「本日のおすすめ」といったタイトルからしてそれが分かる。

代表作を辿る——『愛が一層メロウ』から『本日のおすすめ』まで

離婚伝説の名前を世に知らしめた最初の一撃は、愛が一層メロウ🛒楽天だ。2022年6月に初の楽曲として公開されたこの曲は、当時まだ何者でもなかった2人組を、SNSと配信の波に乗せた。ファンク寄りのシティポップ的な軽やかさで街を抜けていく——という表現がしっくりくる曲で、離婚伝説の音の骨格がすでに完成している。

続くメルヘンを捨てないで🛒楽天は、初期の代表曲群の中でも印象の強い一曲。2023年1月18日にリリースされた初のフィジカルEP『愛が一層メロウ』には、この曲と「スパンコールの女」も収録されており、初期離婚伝説の世界観がここでいったんまとめられた。バンドカラオケ屋のバイトから始まった2人が、フィジカルの1枚を出すところまで来た——という節目の作品でもある。

そして転機になったのが、本日のおすすめ🛒楽天だ。2024年3月23日にZepp Shinjuku(TOKYO)で初のワンマンライブを開催した際、この新曲がTVアニメ『ラーメン赤猫』のエンディングテーマに決定、あわせてソニー・ミュージックレーベルズのアリオラジャパンからのメジャーデビューが発表された。同じタイミングで1stアルバム『離婚伝説』を3月20日にリリースしている。個人的には、この時期の彼らの動きが一番きれいだった。ワンマン→タイアップ発表→メジャー化→アルバム、という順番に破綻がない。

1stアルバム離婚伝説🛒楽天は、シングルの寄せ集めではなく、通して聴くと1本の恋愛の時間軸として読めるように並んでいる、と語るファンやリスナーも多い。実際、松田自身も男性目線と女性目線の歌詞を書き分けていることをインタビューで語っている。順番に耳を通すと、1つの関係の始まりから終わりまでを、複数の角度から覗き見しているような感触が残る。

その後も彼らは筆を止めない。2024年8月「まるで天使さ」、2025年1月「しばらく」、2025年4月「紫陽花」、そして2025年10月にはファーストキス🛒楽天——このシングルはHonda VEZEL e:HEV RSのCMソングにもなった。2026年はTVアニメ『ハイスクール!奇面組』エンディングテーマの「ステキッ!!」など、タイアップの現場から呼ばれる存在になっていく。

2026年夏の到達点——ドラマ主題歌「大空港」

2026年、離婚伝説はまた一段上のフィールドに立っている。7月24日に配信リリースされた新曲大空港🛒楽天は、テレビ朝日系木曜ドラマ『大空港〜GATE24〜』の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。夏の気配に触れるたびにフラッシュバックする出会いと別れを、過去の記憶にするのではなく、未来を照らす光として抱き続ける気持ちを綴った、聴く人の内側にある感情と時間の変化を丁寧かつ繊細に描いた楽曲——と、公式には紹介されている。

ここで注目したいのは、「大空港」というモチーフだ。バンド名の元ネタが1978年のソウル・アルバムであり、離婚伝説の音自体が70〜80年代の空気を引く。そこに空港という、これも昭和歌謡が繰り返し歌ってきた場所を持ってきた。過去と現在の橋渡しをする曲として、これほど彼らに似合うテーマは無かった気がする。

ドラマの現場から書き下ろしを依頼されるバンドになった、という事実は、それだけで彼らの位置を物語る。2022年6月に無名の弾き語り上がりで発表した1曲目から、地上波ドラマ主題歌までの距離を、4年で歩ききった。

2020年代の日本のバンドシーンでの位置

離婚伝説を、いまの日本のバンドシーンのどこに置くか。個人的な整理を書いておく。2020年代前半のシーンは、YOASOBIやAdoに象徴されるボーカル×ネット出自の縦軸と、King Gnuやミセスに象徴される王道J-POPバンドの横軸で語られがちだ。離婚伝説はそのどちらでもない。近いのはむしろ、Bialystocks、Tempalay、TOMOOあたり——生楽器の質感を軸にしつつ、シティポップ/R&B/AORの再解釈を令和のコード感で試みている一群だ。

この一群に共通するのは、テンポと音圧に頼らない、という選択。派手さより「もう一度聴きたくなる」の設計に振っている。離婚伝説は、その中でも「愛」という主題への集中が突出している。他のバンドが都市の風景や、時代の空気を扱うことが多い中、彼らはほぼ全曲、男女の感情の細部に焦点を絞っている。テーマの狭さが、逆にブランドの輪郭になっている。

もう一つ書いておくと、彼らはセルフプロデュースを貫いている。音源、映像、スタイリング、SNSの見せ方まで、外部の色を入れない。メジャー化した後もこの姿勢を崩していない。これは、2020年代のインディー〜メジャー移行組の一つの成功例として、後続のバンドに参照される仕事になっていく気がする。

評価——数字にならないところで積み上げてきた

離婚伝説の面白いところは、爆発的な瞬間最大風速で語られるタイプのバンドではないところだ。ソニーの公式サイトの記載によれば、アルバム『離婚伝説』はCDショップ大賞を受賞し、それを記念して2025年7月23日にリパッケージ盤がリリースされている。全国のCDショップの現場——つまり、いちばん音楽に向き合う仕事をしている人たち——から評価されたわけで、これは短期的なチャート順位より意味のある勲章だと思っている。

またSpotifyの「RADAR: Early Noise 2024」に選出されるなど、次にくるのフラグは早い段階から立っていた。テレビでは『バズリズム02』『関ジャム完全燃SHOW』でもピックアップされている。派手な炎上や仕掛けなしで、地道な媒体露出とライブで積み上げてきた4年、と言い換えてもいい。ツアーは常にソールドアウトが続き、2025年11月からのZeppツアーも即完だった。

離婚伝説はどう聴かれているか——夜、車、帰り道

個人的な観察を書く。離婚伝説の曲は、朝の目覚ましには向いていない。仕事のブースト用にも合わない。彼らの音がいちばん効くのは、日が落ちてからだと思う。運転中の夜の首都高、飲み終わって1人で歩く帰り道、風呂上がりに部屋の照明を半分落とした時間帯。そのあたりで鳴らすと、輪郭が変わる。

これはBPMやミックスの効果というより、彼らが扱う感情が「人前で見せる用のもの」じゃないからだ。愛の甘さ、面倒くささ、諦めの手前で立ち止まっている感じ。昼間の元気には邪魔な感情ばかりで、それが夜になるとちょうどよく起動する。ファンの人が「気づけば夜ばかり聴いている」と言うのを何度か目にしたが、たぶん偶然ではない気がする。曲の側が、そういう時間帯に聴かれる用に設計されている気がする。

今チャートでの立ち位置

ドラマ主題歌「大空港」のリリースと放送スタートで、離婚伝説の名前は再び動いている。ドラマ主題歌がチャートに与える波及は、放送の後半——視聴者の中で「あの曲なんだっけ」の検索が始まる時期——にじわじわ来るのが常だ。彼らの音は瞬発力より持続力で効くタイプなので、この波は長い。

とはいえ、彼らを順位だけで語るのはたぶんズレる。音源・映像・スタイリングまでセルフプロデュース。数字より、世界観の総量で見せてくるバンドだ。チャートを見るときも、その週の順位より、今週も並んでいるかを数ヶ月単位で追ったほうが、離婚伝説の実像は掴みやすい。

これから聴くならどこから

離婚伝説を初めて聴く人に、どこから入ってほしいかを整理する。SNSの断片で見かけて気になっていた、という段階の人にこそ、順序を用意しておきたい。

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入門動線

  • まずこの1曲:「愛が一層メロウ」——彼らの音の骨格が3分半に凝縮されている。ここで反応した人は、まず間違いなく先まで行ける。
  • 次にこの1枚:1stアルバム『離婚伝説』——シングルの寄せ集めではなく、通して聴くと恋の始まりから終わりまでの時間軸として読める構成。順に聴くのを勧める。
  • 深めるならこの1曲:「大空港」——2026年の到達点。ここまで来て、初期からの一貫性と成長の両方を確かめてほしい。

最後に——愛という古い主題を、いま鳴らすということ

離婚伝説を聴いていて、いちばん驚くのは、彼らが選ぶ主題の古さだ。愛の甘さ、めまい、退屈、別れの気配。これらは、ポップスが100年前からずっと歌い続けてきた古典的な主題で、いま新規参入するのはむしろ勇気がいる。飽きられている領域だ。

それでも彼らは、そこを選んだ。しかも、マーヴィン・ゲイの一番私的なアルバムを看板に掲げて。派手なコンセプトも、時代性に張り付いたテーマも持たない。ラブソングだけを、丁寧に、令和の解像度で更新する——たったそれだけの仕事を、4年続けている。

この選び方が、教科書に載るような音楽になるかどうかは、まだ分からない。ただ、少なくとも自分は、10年後もこの2人組の新譜を追っている気がしている。派手さで先に消耗しないバンドだから。ファンの人はここで、どの曲がいちばん自分の夜に効いているか——を、良かったら教えてほしい。答えは、たぶん人によって全部違う気がする。

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