20年を超えて第一線にいる歌手というのは、実はそんなに多くない。ヒットを一度出すのは才能の話だが、20年立っていられるかは別の資質がいる。JUJUという歌い手は、その別の資質のほうで長く生き残ってきた人だと思っている。JUJUの歌は、感情の勝ちどきではなく、感情のあとに残る余韻を歌っている。だから曲が終わっても、しばらく耳の奥に低い残響が残る。今週チャートで名前を見かけて、ふとそう思った。
ジャズから入って、J-POPで大衆を掴み、歌謡曲のカバーで居場所を広げた。この経路をひとりで通ってきた歌手は、日本のポップスの中でも数えるほどしかいない。以下、経歴と音楽性、代表曲の位置づけを、長く追ってきた人にも新しい補助線が引けるように整理していく。
このアーティストの要点
- JUJUは2004年8月25日にソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズからデビューした日本の女性シンガー。18歳で単身渡米しニューヨークでジャズを学んだ経歴を持つ。
- 代表曲は「やさしさで溢れるように」(2009年・亀田誠治プロデュース/日産キューブCMソング)、「奇跡を望むなら…」、「また明日…」(フジテレビ系ドラマ『グッドライフ』主題歌)、「東京」(映画『祈りの幕が下りる時』主題歌)など。
- 邦楽名曲を歌い直す『Request』シリーズ、80年代歌謡曲を扱った『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』(2016年)などカバーアルバムの成功でも知られる。
- 2023〜2024年にはデビュー20周年イヤーとして全国ツアーおよび東京ドーム公演を開催。
- ジャズ/R&B/バラード/歌謡曲カバーを横断する数少ない「ジャンル横断型のバラード歌手」。
プロフィール、18歳の渡米から、遅咲きの本格ブレイクまで
JUJUの経歴を短くまとめると、こうなる。ジャズを志して18歳で単身ニューヨークに渡り、現地でジャズやR&B、ヒップホップに浸って歌を鍛えた。日本に戻って2004年にメジャーデビュー。そこからしばらく低迷期があり、5年目の2009年に「やさしさで溢れるように」で一気に一般認知を得た。ブレイクは早くない。むしろ遅い。
この「遅い」が重要だ。2004年から2008年までのJUJUは、ジャズシンガー寄りの立ち位置で、シングルを重ねてもチャートには跳ねなかった。2009年に亀田誠治プロデュースで届いた「やさしさで溢れるように」が、日産キューブのCM経由で着うたに火がつき、そこからJ-POPの人ということになった。数字で言えば、着うた配信開始からわずか数日で10万ダウンロードを超えた記録がある。ここでキャリアが折り返す。
翌2010年以降はドラマ主題歌の常連となり、「また明日…」(フジテレビ系『グッドライフ』主題歌)、「What You Want」(日本テレビ系『偽装の夫婦』主題歌)、「believe believe」(同『レンタル救世主』主題歌)、映画『祈りの幕が下りる時』主題歌の「東京」など、映像作品と組んだ曲でリスナー層を広げていく。声質の甘さと、下支えのある低音、そして声を張らない選択、この三点がドラマの尺に合った、というのが個人的な見立てだ。
2018年8月にデビュー15周年、2023〜2024年に20周年を迎え、20周年イヤーには「あのママ」名義で全国ツアー『スナックJUJU』を仕立て、2024年2月に東京ドーム公演を開催した。デビューから20年経って初のドーム公演というテンポも、この人らしい。焦って上に行かなかったから、まだ上がある。
音楽性の核、「上手さ」を目立たせない上手さ
JUJUの音楽性を一言で言うと、ジャンルの真ん中を狙わないことだと思っている。ジャズ出身なのに、ジャズシンガー然としたトリッキーな崩しはあまりやらない。J-POPで売れたのに、いわゆる歌唱王選手権的な高音アピールもしない。歌謡曲を歌っても、演歌側には寄り切らない。全部の「真ん中」から半歩ずつ引いている。この立ち位置は、真似ようとしても真似られない。
技術的な話をすると、JUJUの声は中低域の密度が濃い。多くのバラード歌手が、サビで音域を上に開いて感情のピークを作る設計で書かれているのに対し、JUJUはサビで声を張らずに、むしろ息を混ぜて質感を落とす瞬間を意図的に置く。「やさしさで溢れるように」のサビを聴き直すと分かるが、いちばん熱い場所で声量を上げないでいる。ここに彼女の独自性がある。
もうひとつ、フレーズ末の処理が独特だ。日本語のバラードは母音で伸ばす言葉の設計になりやすいが、JUJUはその母音を張るのではなく、微妙に落とす。ジャズのフレージングを日本語に持ち込んだと言えばそうなのだが、演奏家的な理屈っぽさが表に出ないので、ふつうに聴くと「情感がある」で処理されてしまう。ジャズ由来の技巧を、技巧に見えない場所に置いた歌手、長く追っている人ほど、ここに頷けると思う。
聴きどころ3点
- サビで張らない設計、感情のピークで声量を上げないので、聴き手が自分の感情を持ち込む余白が残る。カラオケで再現しにくい理由もここにある。
- 中低域の密度、多くの女性J-POP歌手が高音で個性を出すのに対し、JUJUは胸に近い音域で聴かせる。夜に馴染むのはこの帯域の効果。
- フレーズ末の『引き算』、語尾を張らずにわずかに落とすジャズ的な処理が、日本語歌詞に大人の質感を与えている。
代表作の読みどころ、シングル、そしてカバーの二本立て
JUJUのディスコグラフィは、オリジナルとカバーの二階建てで見ると分かりやすい。オリジナルのほうは、2009年やさしさで溢れるように🛒楽天がまず最初の錨だ。亀田誠治プロデュースのミディアム・バラードで、着うたを主戦場にしていた時代の空気を象徴する一曲でもある。ここでJ-POPの真ん中に来た。
そこから「奇跡を望むなら…」、また明日…🛒楽天と続き、2011年のオリジナルアルバムYOU🛒楽天でシンガーとしての「大人のバラード担い手」像が定着する。『YOU』は「Trust In You」「また明日…」「この夜を止めてよ」「つよがり」を含み、シングルの延長ではなく通しで聴くと、声の質感の設計が一貫していることに気づくアルバムだ。2018年のI🛒楽天は、映画『祈りの幕が下りる時』主題歌の「東京」を含む7枚目のオリジナル。ここに至って、JUJUは「都市の夜」を歌える歌手として輪郭を得たと思う。
もう一本の柱がカバー・シリーズ。邦楽カバーのRequest🛒楽天シリーズ、そして80年代歌謡曲を丁寧に扱ったスナックJUJU 〜夜のRequest〜🛒楽天(2016年)は、単なる企画盤ではなく、キャリアの中で戦略的に効いている。理由はシンプルで、カバーは自分より前の世代のリスナーを引き込むからだ。母親世代と娘世代が同じ曲で頷けるアーティストは、そう多くない。「あのママ」というキャラクターを2020年代に本格化させたのも、この土壌があってのことだと思う。
ジャズ盤の系譜も忘れてはならない。『DELICIOUS 〜JUJU’s JAZZ〜』シリーズは、毎年恒例のブルーノート東京でのライブと並走してきた作品群で、ここでのJUJUは、J-POP版とは別人のような温度でスタンダードを歌う。同じ人がやっているのに、モードが違う。長年のファンほど、この「二枚看板」を切り替えて聴いていると思う。
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「あのママ」という発明、キャラクターが器を広げる
2020年代のJUJUを語る上で外せないのが「スナックJUJU」のフォーマットと、そこから派生した「あのママ」というキャラクター展開。2023〜2024年の20周年ツアーは、この「ママ」がお客を迎えるという構造で全国を回った。53公演全完売、11万人動員というスケールで、その延長線上に2024年2月の東京ドーム公演が置かれている。
これは単なる演出ではなく、キャリア設計として見るとよくできている。バラード歌手は、40代以降にどう更新するかで寿命が決まる。しんみりし続けても飽きられるし、はしゃぐと違和感が出る。「ママ」は、笑いを持ち込みながら歌唱の芯は動かさない、という絶妙な逃げ道だ。カバー作品で耕してきた歌謡曲リスナーとの距離感が、この装置と結びついている。
個人的には、ここに20年やってきた人の頭の良さを感じる。声を張らない歌い手が、名前を張らない売り方を選んだ、と言ってもいい。長く追ってきた人ほど、この一貫性に頷けるはずだ。
カルチャー的な文脈、2000年代後半のバラード地図の中で
2009年前後のJ-POPは、着うたフルからストリーミングへの端境期で、大人のバラード枠が空いていた時期だった。90年代のディーヴァ勢が第一線を退き始め、宇多田ヒカルが休止に入り、ドリカムやMISIAはより上のレイヤーへ動いていた。そこにJUJUが「やさしさで溢れるように」で入っていった。タイミングの妙もあったと思う。
プロデューサー人脈も面白い。亀田誠治、島健、島田昌典、武部聡志、松浦晃久といった、J-POPの表現を長く支えてきた作編曲家陣を横断的に使っている。特定の色に染まらない布陣の組み方で、これも「真ん中を狙わない」思想と一致する。プロデューサーの顔ぶれを追いかけるだけでも、日本のポップスの一角の見取り図になる。
ドラマ主題歌の起用歴を並べると、フジテレビ、日本テレビ、TBS、NHKと、局を跨いで長い付き合いをしてきたことが分かる。局と局の色に合わせて曲の温度を変えられる歌手、というのは制作サイドから見て相当扱いやすいはずで、この「便利さ」も20年続いた背景として無視できない。褒め言葉として書いている。
「夜の歌手」としての聴かれ方
JUJUの曲は、どんな時間帯に効くかを考えると、面白いことが見えてくる。個人的には、朝でも昼でもなく、日が落ちてからの時間、それも家に帰り着いた後の時間に効くように設計されている気がする。中低域の密度、張らないサビ、フレーズ末の『引き算』、ぜんぶ、部屋の照明を落としたときの空気に合う要素だ。
カバーアルバムのタイトルに「スナック」「純喫茶」「夜のRequest」と、夜〜夕方〜深夜の匂いのする単語が並ぶのも、たぶん偶然ではない。JUJUの側も、自分の歌が『夜に効く』ことを自覚して、その時間帯の器を意図的に整えている。ファンが「運転中に化ける」「深夜1時にプレイリストを差し替える」と語りたくなるのは、そう設計されているからだと思う。ここは断定するより、聴き手それぞれの時間帯を思い出してもらう余白として残しておきたい。
逆に言えば、朝の通勤や運動中には合いにくい。JUJUを外して1週間過ごしてみると、生活の『夜側』の音が薄くなる。長く聴いてきたファンほど、ここは体感で分かっているはずだ。
音源だけでこの人を語ると、半分しか語ったことにならない。JUJUは、ライブでの立ち姿・MC・選曲順の設計に、キャリア設計の癖が滲む歌手だ。20周年ツアー『スナックJUJU』の映像を観ると分かるが、ステージにセットを組んで「ママの店」に見立て、客席を「常連」として遇する構造になっている。歌の合間のMCの温度が、いわゆるアリーナ・アーティストのそれとかなり違う。近い。
選曲も面白い。ヒット曲を頭に固めず、途中で歌謡曲カバーを挟み、ジャズ寄りのブロックを挟み、ラスト前でオリジナルの大曲、というふうに、時間帯の温度をわざと揺らす。バラード一辺倒だと客席が疲れる、というのを経験で知っている歌手の並べ方だ。ブルーノート東京での毎年恒例のジャズライブが、この「配分の感覚」を鍛えた土台になっていると思う。
2024年2月の東京ドーム公演は、キャリア初のドームだった。20年目にして初、というテンポの遅さを、この人の場合はネガティブに読まないほうがいい。順番通りに階段を上がってきた結果として、20年目にドームが来た。ここが次のスタートラインになっている、と個人的には思っている。
今チャートでの立ち位置
ラジオ/ストリーミングを合わせた週次チャートでJUJUの名前を見るとき、意識したいのは、瞬間風速の順位より曲の『寿命』のほうだ。デビューから20年経った歌手が今の若い層にも当たり前に聴かれているのは、単曲の再生数が跳ねているというより、複数の曲がそれぞれ別の入り口を持って回っているからだと思う。ドラマ主題歌経由、カバー経由、ジャズ経由、東京ドーム公演の話題経由、チャネルが分散している歌手は強い。
今週の順位そのものより、この歌手の場合は、来年、5年後、10年後にも同じあたりで名前を見かけるだろう、という予感のほうが本質だ。順位はスナップショットだが、JUJUが積み上げてきたのは、もう少し長い時間軸の資産だと感じている。
数字で振り返る20年、遅咲きの美学
年表を並べてみる。2004年8月25日デビュー、2009年2月「やさしさで溢れるように」、2010年『Request』シリーズ開始、2011年『YOU』、2016年『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』、2018年『I』・映画『祈りの幕が下りる時』主題歌「東京」、2018年8月にデビュー15周年、2023〜2024年に20周年イヤーとして全国53公演を完売し合計約11万人動員、2024年2月に東京ドーム公演。区切りごとに、次の器を用意してから移動していることが分かる。
目を引くのは、2009年から2011年の2年間の詰め方と、その後の10年でカバー路線を混ぜていく判断だ。2009年から2011年は、J-POPの主戦場で「バラード歌手JUJU」の像を一気に固めた期間。ここでもし同じ路線を10年続けていたら、たぶん今の位置にはいない。カバー、ジャズ、そして「あのママ」というレイヤーを重ねたから、ジャンルの流行に左右されにくい足場が育った。
この歩き方は、いまSpotifyやApple Musicで新人が世に出るスピードとは対極にある。1曲がバイラルで跳ねてすぐ次を求められる時代に、JUJUは「跳ねないで20年」を体現している数少ない例で、若い書き手や歌い手が長く続けるヒントとして参照する価値のあるキャリアだと思う。個人的にはここが、この人の一番のメッセージだと感じている。
これから聴くならどこから
入門の順路は、その人の入り口に合わせて選ぶといい。J-POPのバラードから入るなら、まず2009年の「やさしさで溢れるように」を1曲通しで聴いてほしい。声を張らない設計に気づくと、ほかの曲もぜんぶ聴こえ方が変わる。ドラマ主題歌が好きなら「また明日…」と「東京」を続けて聴く。映画『祈りの幕が下りる時』を観たことがある人は「東京」を先にどうぞ。
カバーの入り口としては『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』がいちばん外さない。80年代歌謡曲の名曲群を、いまの声で歌い直している。オリジナル世代の耳でも「新しい聴こえ方をする」という感想が返ってきやすい選曲になっている。オリジナル・アルバムで一枚選ぶなら『YOU』。2010年代前半のJUJUの中心をまとめて浴びられる。
まずこの作品から聴く
- やさしさで溢れるように — JUJU入門の定番バラード
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入門動線
- まずこの1曲:「やさしさで溢れるように」。JUJUのJ-POP側の全部が3〜4分に入っている。
- 次にこの1枚:オリジナル・アルバム『YOU』。シングル群を通しで聴くと、声の設計の一貫性が見えてくる。
- 深めるならこの1枚:カバーアルバム『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』。カバー歌手としてのJUJUと、80年代歌謡曲の再解釈者としての側面が同時に聴ける。
最後に、長く聴いている人へ問いをひとつ残しておきたい。JUJUの歌の『効き』は、声の技術のほうから来ているのか、それとも選曲とキャラクター設計を含めたキャリア全体の設計から来ているのか。おそらく両方だが、どちらの比重で聴いているかは、リスナーごとにけっこう違うはずだ。手元の再生履歴を眺め直して、自分の耳がどっちに寄っているか、一度だけ考えてみてほしい。それがJUJUという歌手の面白さを、一段深く楽しむ入り口になる、と思ってます。

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