2026年の夏、10年ぶりにアラバマ・シェイクスがラジオに戻ってきた。復活作からの新曲I Feel Hope Coming🛒楽天がTOKIO HOT 100圏内で聴こえてくると、正直、時間の感覚が一瞬バグる。Sound & Color以来ずっと沈黙してきたバンドが、なぜ今このタイミングで「希望が来る予感」というタイトルの曲を出したのか。世代の空気とバンドの再結成が、たまたま同じ地点で交わったのだと思う。
この記事では、曲そのもののプロダクションと、バンドの10年間の空白、そしてなぜ「希望」という言葉が今この歌の中心に置かれているのかを、事実ベースで整理していく。歌詞そのものは引用しないが、フロントウーマンの発言や制作クレジットは複数の一次情報で確認済みのものだけを載せた。
この曲の要点
- Alabama Shakesが2015年『Sound & Color』以来約10年ぶりに発表するアルバム『I Must Be Dreaming』からのシングル。
- アルバムは2026年8月28日にIsland Recordsからリリース予定。収録順は4曲目。
- プロデュースはバンド自身とShawn Everett。ナッシュヴィルのSound Emporium StudiosおよびBlackbird Studioで録音。
- Brittany Howardは「若い世代が政治的な嘘を見抜ける、その希望を持ち続けることについての曲」と語っている。
- 2024年12月のアラバマ州でのサプライズライブ、2025年のツアー、「Another Life」を経て届いた”復活の3作目”。
10年間の空白のあとに置かれた1曲
まず前提を押さえておく。Alabama Shakesは2012年『Boys & Girls』と2015年『Sound & Color』の2枚のアルバムを出したあと、長い沈黙に入ったバンドだ。その後、Brittany Howardはソロに転じて2019年の『Jaime』、2024年の『What Now』と個人名義で活動してきた。バンドとしての活動再開は、ずっと「あるかもしれない、ないかもしれない」と噂される類のものだった。
それが具体的に動き出したのは2024年の年末である。2024年12月、バンドは7年以上ぶりに地元アラバマでサプライズ・ショーを行い再集結した。ここから2025年のツアー、10年以上ぶりの新曲「Another Life」と続いて、この「I Feel Hope Coming」に至る。復活は”事件”としてではなく、階段を1段ずつ上がるように起きている。
個人的な話をすると、Sound & Colorが出た2015年、僕は当時勤めていた渋谷の職場で「Don’t Wanna Fight」を聴きすぎて上司に音量を注意された記憶がある。あのファルセットのカッティングがオフィスの空調ノイズを突き抜けてくる感じ。あれから10年、街も自分も入れ替わったのに、Brittany Howardのボイスが持つ質感だけは何も変わっていない。むしろ、10年ぶんの厚みが乗っている気がする。
曲の基本情報(アルバム『I Must Be Dreaming』の中での位置)
「I Feel Hope Coming」は先行シングルであると同時に、アルバム全体のトーンを示唆する曲でもある。アルバム『I Must Be Dreaming』は2026年8月28日にIsland Recordsから発売され、レコーディングはナッシュヴィルのSound Emporium StudiosとBlackbird Studioで行われた。この2つのスタジオはナッシュヴィルの中でも音の質感が異なることで知られる場所で、Blackbirdは特にヴィンテージ機材の物量で有名だ。
トラックリスト上、この曲は4曲目に置かれている。収録順は「Tea Time」「Another Life」「Garden」「I Feel Hope Coming」「Time」「Friends」「Easy」「How Love’s Supposed To Go」「Waist Deep」と続く全11曲構成だ。アルバムの序盤、耳が音像に慣れたあたりに置かれる位置というのは、大抵バンドが「これがこの盤の芯です」と提示する場所である。ここに”希望”を持ってきたのは、偶然ではないと読みたい。
ラインナップは変わっていない。ギター/ヴォーカルのBrittany Howard、ギターのHeath Fogg、ベースのZac Cockrellというトリオ編成で、この3人でShawn Everettと組んで録音している。オリジナル・メンバーのドラマーSteve Johnsonは離れたままで、そこは10年前と地続きではない部分だ。
Shawn Everettという鍵——プロダクションの読みどころ
この曲を語るうえで避けて通れないのがShawn Everettの存在だ。彼は6度のグラミー受賞歴を持つプロデューサー/エンジニアで、Sound & Colorの仕事で2つのグラミーを獲っている。つまりバンドにとっては旧知の共同制作者であり、10年の空白を挟んでも「音の翻訳者」として同じ人が居ることの意味は大きい。
Everettの仕事の特徴は、生バンドの空気感を残しつつ、突然どこかの帯域だけ極端に処理して”耳を騙す”瞬間を作るところにある。The War on DrugsやKacey Musgravesでの仕事を聴いたことがある人なら、ヴォーカルの背後で何かが唸っているようなあの感じ、と言えば伝わるはず。「I Feel Hope Coming」でも、ドラムのアンビエンスが妙に近い/遠いのが行き来する箇所があって、部屋のサイズが伸び縮みするように聴こえる。これはミックスの錯覚で、意図的にやっている。
もうひとつ書いておきたいのは、Everettが並行して他のアーティストとも動いている点。彼はThe Killersとの仕事の実績があり、現在はBrandon Flowersの新作『Thrasher』にも取り組んでいる。同時期に複数の”復活”や”再定義”の現場に居るというのは、彼の耳がいまのUS音楽シーンで需要のあるトーンを掴んでいる証拠でもある。
サウンドと作風——”希望”を叫ばずに置く
この曲の面白いところは、「Hope Coming」というワードの大きさに対して、演奏がまったく大げさじゃないことだ。ゴスペル的なコード進行の骨組みは残っているが、Sound & Colorの表題曲のようにヴィブラフォンで異化する派手さはない。むしろ地に足がついている。歩幅で言えば、走らずに、少し早めに歩く程度。
Brittany Howardの声は、10年前のロウな叫びから少しだけ引いた場所にある。ソロの『Jaime』や『What Now』で試したファルセットや語りの技法が、バンドのフォーマットに戻ってきたことでどう機能するか——という実験に聴こえる。ハイの伸びは相変わらず異常だが、それを爆発させる前に一拍置く判断が随所にある。ここが大人になったバンドの余白だと思う。
アレンジ面では、ギターがコード弾きよりも短いフレーズの反復で”呼吸”を作っていて、Heath Foggらしい淡いブルース色が耳に残る。ベースのZac Cockrellは相変わらず出しゃばらない。トリオ編成の弱点である”間”の埋め方を、Everettの空間処理が肩代わりしている、と言い換えてもいい。
そう。派手ではない。だが、この抑制こそがこの曲の主題と噛み合っている。
聴きどころ3点
- ヴォーカルの”引き算”——シャウトに行きそうな箇所で一歩引く判断。ソロ活動で得たコントロールがバンド文脈に還元されている。
- ドラム・アンビエンスの伸縮——Shawn Everettらしい部屋鳴りの操作。イントロと2番以降で空間の広さが違って聴こえる。
- ギター・フレーズの反復——Heath Foggのショートフレーズがコーラスの下でループし、地味に曲全体を推進する骨組みになっている。
Brittany Howardの発言から読む、この曲のテーマ
タイトルの意味について、Howard本人が発言を残している。「若い世代は政治的な嘘を見抜くことができるから、私は希望を感じている。この曲はその希望を手放さないことについての歌だ」という趣旨のコメントを、複数媒体に対して行った。政治的なメッセージソングというより、”諦めないための小さな筋肉”の話に近い。
ここで大事なのは、彼女がこれを”叫び”ではなく”予感”として書いていることだ。Hope is here(希望はここにある)ではなくHope is coming(希望が来る)——このニュアンスの差は、2020年代半ばのUSの空気を知っているリスナーにはたぶん刺さる。まだ来ていない、でも来る気配はある、というトーン。Sound & Colorの時期の「Don’t Wanna Fight」が疲弊への抗議だったとすれば、この曲はもう一段先の局面にある。
また、アルバム・タイトル『I Must Be Dreaming』にも二重の意味が仕込まれている、とHoward自身が示唆している。バンドが再びこうして動いていることへの本人の実感と、いまの世界を眺めたときの「これは夢なんじゃないか」という当惑と。この両義性が、シングルの明るさとアルバム全体のトーンをつないでいる。
キャリアの中での位置づけ——3枚目という重み
3枚目のアルバムはバンドにとって鬼門と言われる。1作目でシーンに出て、2作目で挑戦して、3作目でどう着地するか。しかもAlabama Shakesの場合、2作目のSound & Colorは商業的にもグラミー的にも成功しすぎた。復活作がその延長で”サザン・ソウルの現代化”を焼き直すだけなら、たぶん誰も驚かない。
「I Feel Hope Coming」を聴いた印象では、その罠を回避しに来ている。派手なジャンル横断ではなく、Howardのソロで得た”歌の運び方”をバンドに戻して、演奏の骨格はむしろシンプルに寄せている。プレスリリースの言い方を借りれば、この作品はSound & Colorが打ち立てた”恐れ知らずの音楽的探究”を拡張するものと位置づけられているが、体感としては拡張よりも凝縮に近い。
Brittany Howardは10年間で、Alabama Shakes以外にThunderbitchやBermuda Trianglesといった別プロジェクトを通過し、ソロで2枚のアルバムを出した。声の使い方も、アレンジの引き出しも、10年前とは違うはず。その”別人化した本人”が、Heath FoggとZac Cockrellの隣に戻ってきて、あの音を鳴らす——その事件性がまず先にあって、曲の完成度はその後で味わうもの、という順序で聴くのが正しい気がしている。
チャート上での動きと、この曲が持つ射程
正直に書くと、この曲は”チャートで1位を獲るタイプ”の曲ではない。BPMも激しくないし、TikTokで踊れるフックがあるわけでもない。それでもTOKIO HOT 100のような選曲で電波に乗るのは、日本のラジオが持っている歴史的な視聴者層——Alabama Shakesの1作目からリアルタイムで追ってきたリスナー——にきちんと届く回路が生きているからだと思う。
数字よりも、この曲が持つ”再導入”としての機能を評価したい。10年前のバンドを聴いていた人には「戻ってきた」の合図として、初めて名前を聞く人には「これがAlabama Shakesです」の名刺として、両方向に効く1曲になっている。ラジオ的にはとても賢いシングル選択だ。
アルバム発売後にどのトラックが伸びるかは、まだ読めない。ただ、先行の「Another Life」と合わせて聴くと、アルバム全体が”ゆっくり効いてくる”タイプの盤になりそうな予感はある。派手な1曲で稼ぐより、11曲通したときの体験値で残っていく——そういう狙いに見える。
10年の空白は何だったのか——リスナー側の視点
バンドが休止していた10年のあいだに、音楽の聴かれ方は根本から変わった。ストリーミングが標準になり、アルバム単位で聴く習慣は薄れ、TikTok経由の”曲の断片消費”が主流になった。Alabama Shakesが2015年に置いていった”アルバム作家”としてのアイデンティティは、いまの環境だとむしろ逆張りに見える。
面白いのは、その逆張りが2026年現在、また評価されつつあることだ。フィジカルのヴァイナル売上は復調傾向にあるし、アーティストが「1曲売り」ではなく「作品を出す」ことに戻ろうとしている動きは、Fiona AppleやKendrick Lamarのアルバム受容を見ても明らかだと思う。Alabama Shakesの10年ぶりのアルバムがこのタイミングで着弾するのは、意図したにせよ結果的にせよ、悪くない巡り合わせだ。
個人的には、この曲を金曜の夜の帰り道、駅から家まで15分歩く間に一度通しで聴くのがいちばん効いた。爆発しないぶん、身体の芯にじわっと残る。「希望が来る」という言葉を、大声で叫ばれるより小声で示されるほうが信じられる、というのは自分の年齢のせいかもしれない。まあ、そういうこと。
入門動線
この曲で初めてAlabama Shakesを知った人には、まず同アルバムの先行シングル「Another Life」を次に。バンドとしての10年間の空白を最短で埋める1曲になっている。そこから遡るなら、2015年のアルバム『Sound & Color』が入り口として最適で、特に「Don’t Wanna Fight」と表題曲を並べて聴くと、今回の新曲がどこから来てどこへ行こうとしているのかが立体的に見えてくる。
まとめ——”予感”を歌うバンドが戻ってきた
Alabama Shakesの「I Feel Hope Coming」は、派手な復活のろしではない。むしろ、10年間の沈黙を経てもバンドが同じ場所に立てることを、静かに証明する種類の曲だ。Brittany Howardのソロで蓄えた技術と、Shawn Everettとの旧知の連携と、地味だが太いトリオの骨格——この3つが噛み合った瞬間として記録しておきたい。
アルバム『I Must Be Dreaming』は8月28日リリース。この1曲を”予告編”として聴きながら、あと1ヶ月ちょっと、8月末を待つ時間まで含めて楽しむのが、たぶんいちばん正しい消費のしかたなのだと思ってます。
まずこの作品から聴く
- I Must Be Dreaming — 10年ぶりの3rdアルバム本体
▶ Amazon / 楽天 で探す - Another Life — 同アルバム先行シングル
▶ Amazon / 楽天 で探す - Sound & Color — 2015年のグラミー受賞作
▶ Amazon / 楽天 で探す - Jaime (Brittany Howard) — 空白期のソロ代表作
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