Alabama Shakesの磁力|『Hold On』から『Sound & Color』へ続く南部の熱

夜明けのスタジオ、アンプの真空管が赤くにじむイメージ アーティスト

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アラバマの町から届いた、いまも古びない声

Alabama Shakesの曲がプレイリストに戻ってくる瞬間がある。新譜のリリースが止まって数年経つのに、なぜかまた聴かれる。ストリーミングの並びに「Hold On」が挟まっている、そういう聴かれ方をするバンドだ。彼らが鳴らしているのは南部の再現ではなく、南部で育った四人が今このスタジオで新しく組み直した音だ。この一文を、この記事の入口に置いておきたい。

ソウル、ブルース、ガレージ・ロック、ゴスペル。ジャンルの棚をひとつ選べと言われても、彼らのどのアルバムも半分はみ出す。Britannicaも彼らを「ジャンルを規定しないサウンドで批評的・商業的成功をつかんだアメリカのルーツ・ロック・カルテット」と紹介しているくらいで、書き手も定義に困る。そこがこのバンドを長く聴かせる磁力になっている、と個人的には思ってる。

初期作と最新作を並べて聴き直すと、Brittany Howardの声質が段階的に変わっているのが分かる。デビュー時の粘度が、二作目でシャープに研がれ、余白に光が差し込むようになる。四人の演奏はゆるくない、けれど窮屈でもない。この揺らぎ幅の広さが、彼女たちの底力だ。

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このアーティストの要点

  • Alabama Shakesは2009年にアラバマ州アセンズで結成されたアメリカのロック・バンドで、リード・ヴォーカル兼ギターのBrittany Howard、ギターのHeath Fogg、ベースのZac Cockrell、ドラムのSteve Johnsonという固定編成を保っている。
  • 未契約の状態でプロデューサーAndrija Tokicとナッシュビルでデビュー・アルバム『Boys & Girls』をレコーディングし、オンラインでの評判からATO Recordsが契約、2012年にリリースされ批評的成功を得た。
  • 2ndアルバム『Sound & Color』(2015年)はBillboard 200で初登場1位を記録し、「Don’t Wanna Fight」でベスト・ロック・パフォーマンスとベスト・ロック・ソング、アルバムはベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバムのGrammyを受賞した。
  • Brittany Howardは2019年にソロ・デビュー作『Jaime』をリリースし、Alabama Shakesは活動休止状態に入った。

結成と、The Shakesだった頃

結成は2009年、アラバマ州アセンズ。人口2万人台の小さな町だ。最初のバンド名は「The Shakes」。BrittanyとベーシストのZac Cockrellが二人で曲を作り始めたのが原型で、そこにドラムのSteve Johnson、後にギターのHeath Foggが加わってラインナップが固まった。この経緯を追うと、彼らがまずスタジオ・バンドではなくカバーと自作曲を並べて演奏するライヴ・バンドだったことが分かる。

ここが大事。地元のバーで鍛えられた四人が、ネットに落ちた粗いデモから世界に見つかった、という順序だ。『Boys & Girls』(2012)と『Sound & Color』(2015)を出し、その後フロントウーマンのBrittany Howardがソロ活動へ移っていったという流れは、要するに現場で作った信頼を、そのままスタジオに持ち込んだ話でもある。

正直、初めて彼らのライヴ映像を観たときは驚いた。音源の粘り気を、そのまま生でやってる。声の摩擦、ギターの詰まり方、ドラムの座り方。四人しかいないのに音の層が厚い。この、生のまま録れた手触りが、後にプロデューサーとの組み方を選ぶ基準になっていく。

『Boys & Girls』——ナッシュビルで録られた、契約前のデモ

1stアルバムBoys & Girls🛒楽天は、まだ契約すら取れていない頃に録音された。プロデューサーAndrija Tokicとナッシュビルで、未契約のまま制作され、オンラインでの評判を受けてATO Recordsが契約したという順番だ。ここが物語として珍しい。普通は契約が先で、レコーディングは後だ。彼女たちはその順序を逆にした。

収録曲Hold On🛒楽天は、いま聴いても入口として強い。2012年2月6日リリース、2011年録音、サザン・ロック/ブルース・ロックに分類され、作曲者はBrittany Howard。3分46秒のあいだに、ためらいと決意のあいだで揺れる声の起伏がある。Aメロの低い呼吸から、サビでいきなり喉を開くあの瞬間、初めて聴いたとき車のスピーカーで音量を上げ直した記憶がある。

アルバム全体としては、泥っぽさの残し方が絶妙だ。整えすぎない。かといって荒れっぱなしでもない。60〜70年代のスタックス/マッスル・ショールズの匂いを、2010年代の若いバンドがどう自分たちの手つきで拾い直すか、という当時の空気の答えのひとつが、この1枚に入っていた気がする。

ATOに拾われる前、彼らの音源はネット経由で少しずつ広がっていった。ブログ、ラジオ、口コミ。2010年前後というのは、ちょうどそういう発見のされ方がまだ機能していた最後のあたりだ。TikTokの1曲バズより前、Spotifyのアルゴが世界を覆う前。人が人に手渡すように音源が回っていた時代の、最後の受益者のひとつとも言える。

だから彼らの1stを聴くとき、私はいつも少し古い時代のインターネットの匂いも一緒に思い出す。個人ブログの太字と、埋め込みプレイヤー、コメント欄の熱。あの手触りごと、この1枚の中に閉じ込められている気がする。

『Sound & Color』——粘土から金属へ、素材が変わった2作目

2015年のSound & Color🛒楽天で、四人は明らかに別の場所へ移った。Billboard 200で初登場1位、Grammyでベスト・ロック・パフォーマンス、「Don’t Wanna Fight」でベスト・ロック・ソング、そしてベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバムを受賞。数字だけ見れば大成功だが、面白いのは音の方向転換だ。

リード・シングルDon’t Wanna Fight🛒楽天。2015年2月10日リリース、ブルース・ロック/ソウル/ファンクの混成、レーベルはATO、プロデュースはBlake Mills、作曲はBrittany Howard。冒頭の高音のフレーズ、あれをシングルの頭に置く判断がまずすごい。バンドはこの曲を2015年2月28日にSaturday Night Liveで初めてライヴ演奏し、その後2016年2月15日の第58回Grammy賞で2部門を受賞している。

粘土の質感だった1stから、金属を叩いたような硬さと反射が加わる。プロデューサーがBlake Millsに替わったことも大きい。彼の空間の取り方、余白に低い響きを残しつつ輪郭は磨く、というやり方が、Brittanyの声の別の面を引き出した。初めて聴いた人は「同じバンドか?」と一瞬迷う。私はそのくらい戸惑って、そして三度目で腑に落ちた。

個人的に印象に残っているのは、”Sound & Color”のタイトル曲だ。ヴィブラフォンの一音目で、それまでの1stの世界観がひっくり返る。この一音を頭に置いた判断は勇気がいる。ファンの多くは”あのHold Onのバンド”を期待して針を落とすからだ。その期待の中に、静かな金属音を置く。ここに彼らの美学が凝縮されている、と思う。

アルバム全体のミックスも、1stとは別物だ。楽器の間の空気が増え、低音が座り、ヴォーカルが少しだけ引かれた位置に置かれる。近接した熱ではなく、部屋の広さそのものを聴かせる作り。ヘッドフォンで細部を追うと、拍の裏に置かれた小さな音の粒がいくつもある。ここが2ndの再生ボタンを何度も押させる部分だ。

『Sound & Color』はGrammyで6部門にノミネートされ、ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバム、ベスト・エンジニアド・アルバム(ノン・クラシカル)、ベスト・ロック・パフォーマンス、ベスト・ロック・ソングなどを含んでいた。アルバムは2015年4月にBillboardチャートの首位で登場し、初週96,000枚以上を売り上げている。数字の羅列に見えるかもしれないが、これはルーツ寄りのバンドがオルタナ枠でも取ったという珍しい越境の記録でもある。

音楽性の核——ジャンルより先に、温度がある

Alabama Shakesを一言で説明しろ、と頼まれると私はいつも詰まる。サザン・ロック、と言えば近いが半分。ソウル・リバイバル、と言うと二作目の実験性が抜ける。ブルース・ロック、では甘い曲の柔らかさが零れる。だから最近は「温度で聴くバンド」と答えている。

Brittany Howardの声はダイナミクスが極端に広い。囁きから咆哮まで、同じ曲の中で行き来する。しかもその往復がドラマではなく、呼吸として置かれている。ここが上手い。感情の見せ方ではなく、感情のまま録れている、という手触り。だから何度も聴ける。

もうひとつ補助線を引いておきたい。彼らの音は”アメリカ南部の伝統”を借用したのではなく、その伝統が育った空気を吸って育った四人の身体から出ている、という点だ。借り物と自前は、聴けば必ず違いが出る。粘度の残り方、リズムの前後のもたれ方、コーラスの絡ませ方。彼らのそれは、明らかに自前の方だ。

そして残り3人。派手なソロで持っていくタイプではない。Zac Cockrell(ベース)、Heath Fogg(ギター)、Steve Johnson(ドラム)はBrittanyと共作もしており、第58回Grammyの「Don’t Wanna Fight」のベスト・ロック・ソング受賞は共作者としてバンド全員でシェアしている。この事実は地味だが重い。フロントの陰に隠れる伴奏隊、ではないということだ。

聴きどころ3点

  • ダイナミクスの往復——同じ一曲で囁きと絶叫が並ぶ。Brittanyの声帯の使い方は、テクではなく設計として聴くと面白い。
  • 四人の間の取り方——ドラムとベースが走らず、ギターが埋めすぎない。空白のまま置かれる小節が多い。
  • ローの厚み——特に2ndではベースとキックの重なりが再設計されている。低音のいいスピーカーやヘッドフォンで化ける。

ライヴ・バンドとしての強度

この項は音源と別に立てておきたい。彼らは配信映像で見ても分かる通り、生演奏で音源を下回らない。むしろ超えてくる。Brittany HowardはLollapalooza 2015のステージなど大規模フェスでもAlabama Shakesとして演奏している。フェス向きに派手にアレンジを盛るのではなく、逆に密度で押し切るタイプのライヴだ。

個人的な話をひとつ。彼らの映像を運転中に流したことがある。深夜、地方の高速。歌詞は聞き取れない速度で流れていくのに、声の起伏だけがはっきり刺さってくる。この曲、車で化ける、という気がする。朝の目覚めよりは、夜の帰り道の運転中や、少し疲れた金曜の夜に効く音として設計されている気がしている。ファンで似た体験のある人は、たぶん頷いてくれると思う。

ライヴ盤としての公式音源は多くない。だからこそ、公式のセッション映像やSNL出演の記録を辿るのが、いまの入門の裏道になっている。

Brittany Howardのソロ、そしてバンドの休止

2作目の大成功のあと、バンドは長い沈黙に入る。Brittany HowardはAlabama Shakesを一時停止し、2019年にソロ・デビュー作『Jaime』を出した。二つのGrammyノミネートを獲得し、He Loves MeやStay Highなどの楽曲で年末ベスト・リストの評価を集めた。バンドの活動休止は、燃え尽きではなく、書きたいものが個人の名義でしか出せない領域に入っていったから、というのが本人の言葉に近い。

『Jaime』の後、彼女はさらに『What Now』へと歩を進めている。『What Now』では芸術的な進化と、脆さ、解放のプロセスが語られている。この二作は、Alabama Shakes名義では絶対に出なかった音だ。逆に言えば、彼女がソロに行かなければ、いつかバンドの音を薄めていたかもしれない。

だからファンとしては、二つの棚を並べて持っておくのがいい。Alabama Shakesの2枚と、Brittany Howardのソロ作。同じ声が、違う設計図の上でどう鳴るか、という比較の楽しみが、ここには残されている。

カルチャー的な位置——2010年代のソウル・リバイバルの中で

2010年代前半、いわゆるソウル/ルーツ回帰の波があった。Sharon Jones & the Dap-Kings、Charles Bradley、そしてUKからはAmy Winehouseの遺した衝撃。その流れの中で、Alabama Shakesはひとつ違う立ち位置にいた。彼らはリバイバルというより、次の1章を書きに来ていた。

南部出身、若い、黒人と白人の混成、女性がフロント、しかもギターを持って歌う。この組み合わせが2010年代のロック・シーンではまだ珍しかった。Brittany Howard自身、20代でカミングアウトしたLGBTQのアーティストでもある。政治的な発言を大声でやるタイプのバンドではないが、彼らの存在そのものが、ロックの主語を静かに更新していた。

Brittany HowardはAlabama Shakesと、Thunderbitchというロック・バンドのリード・ヴォーカル/ギター/メイン・ソングライターとしても知られており、ソロ活動で7つのGrammyノミネート、そしてAlabama Shakesとして9ノミネート中4勝を挙げている。この受賞歴は、批評とアカデミー双方で認められた稀な例のひとつだ。

いま聴くという行為の意味

新譜が長く止まっているバンドを今聴く理由は何か。私はこう考えている。彼らの音源は耐用年数がとても長い、と。2012年の1stを2026年に聴いても違和感がない、というより、時代の空気を吸ってさらに味が出ている。時代の後追いをしなかった曲は、時代が変わっても古びない。

チャート上での動きに一喜一憂するバンドではない。新譜が出ていない期間に何度もプレイリストに戻ってくる、そのタイプの残り方をしている。数字は結果として付いてきただけで、彼らが積み上げていたのはもう少し長い時間軸の資産だった、と今なら分かる。

そして問いをひとつ残しておきたい。Alabama Shakesの1stと2ndのどちらをより本質と感じるか、これはファンの間でも意見が割れる論点だ。荒さを愛する人は1stを推す。実験性と広がりを取る人は2ndを推す。あなたはどちらだろう。答えが分かれること自体が、このバンドが単一のジャンルに収まらなかった証拠でもある。

入門動線

まずこの1曲:「Hold On」。声の低い入りからサビへの跳躍を体で感じてほしい。
次にこの1枚:『Boys & Girls』。1stの粘度をそのまま浴びる。
深めるならこの1枚:『Sound & Color』。同じバンドが素材から作り替えた2作目。ここまで来て、彼らの幅が見える。

これから聴くならどこから

順序は決まっている。1stから2ndへ。そして必要ならBrittany Howardのソロへ。この順路を守ると、四人がいた頃のバンドとしての音の重心がまず理解できる。そこから彼女個人の探求へ進むと、なぜソロに行く必要があったかが自然に見えてくる。

逆順で入ると、彼女のソロの実験性に慣れた耳では、バンド初期作の素朴さが物足りなく聞こえてしまうことがある。もったいない。だから、時系列で聴くことをおすすめしたい。急がなくていい。1週間かけて1枚でいい。

最後にひとつ。彼らを聴いた後、他のどの音楽に進むかは自由だ。ソウルの旧盤に戻る人もいる。現代のR&Bに寄っていく人もいる。ロックの太い幹をさらに掘る人もいる。地図の中心にAlabama Shakesを置くと、四方に道が伸びる。そういう聴かれ方をする数少ないバンドだ、と思ってる。

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  • Jaime — Brittanyのソロ第一歩
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