BE:FIRSTが2026年7月31日に配信したBRUCE WAYNE feat. Flo Milli, ATL Jacob🛒楽天が、チャートでじりじりと上がっている。「英語詞の割合が増えた」「海外アーティストと組んだ」——そう説明してしまうと、この曲の面白さは半分こぼれる。英語詞の量ではなく、アトランタの現場に自分たちの体重を預けた——そこにこの曲の誠実さがある。バットマンの表と裏、ふたつの顔を持つあの富豪の名前をタイトルに置いた意味は、聴き込むほどに輪郭が見えてくる。
この曲の要点
- BE:FIRSTが2026年7月31日に配信リリースした新曲で、グループのグローバル展開に向けた楽曲として位置づけられている。
- プロデュースはSKY-HIとATL Jacob。ATL JacobはFuture、Drake、Nicki Minaj、Lil Baby、Kodak Blackらの作品を手掛けてきたアトランタ拠点のヒットメーカー。
- フィーチャリングは米アラバマ州モービル出身のラッパー/シンガーソングライターFlo Milli。2019年の「In the Party」「Beef FloMix」のバイラルヒットで名を上げた存在。
- 作詞はBrittany Hazzard、Jacob Canady、SKY-HI、Tamia Monique Carter、Taylor Rossの共作。作曲はATL JacobとSKY-HI。
- InstagramとTikTokでは配信に先駆けて2026年7月28日から一部が先行公開されていた。
誰と、いつ、何をやったのか
まず事実関係から整理する。BE:FIRSTが7月31日に新曲「BRUCE WAYNE feat. Flo Milli, ATL Jacob」を配信リリースした。この楽曲は、BE:FIRSTのグローバル展開に向けた新曲である。プロデュースの中心にいるのは、米・アトランタ出身のプロデューサー/ラッパー/起業家であるATL Jacobで、Future、Drake、Nicki Minaj、Lil Baby、Kodak Blackなど現代ヒップホップシーンを牽引するトップアーティストの作品を手掛けてきたヒットメーカーだ。
もう一人の主役、フィーチャリングのFlo Milliについては、米・アラバマ州モービル出身のラッパー/シンガーソングライターで、2019年にリリースした「In the Party」「Beef FloMix」のバイラルヒットで世界的な注目を集めた存在だ。TikTok以前・以後を跨いだ世代のアイコンで、キャラの立ったフロウがそのままミームになる稀有なタイプ。BE:FIRSTと組んだのは意外というより、必然に近い人選だと感じる。彼女は「隣に立たれると自分の芯が試される」種類のラッパーで、そういう相手をあえて呼んだ。
クレジットも面白い。作詞はBrittany Hazzard、Jacob Canady、SKY-HI、Tamia Monique Carter、Taylor Rossの共作。作曲はATL JacobとSKY-HI。Brittany HazzardはStarrahの名でRihanna「Needed Me」やMaroon 5「Girls Like You」に関わってきたトップライナー。日本語ポップスのメロディ職人的な発想ではなく、英語のプロダクションに乗るトップラインをどう組むかを知り抜いた作家陣で固めている。「海外っぽくした」ではなく、「向こうの現場のやり方で組んだ」。ここが大きい。
配信の前段には仕込みもあった。2026年7月28日(火)AM8:00より、InstagramおよびTikTokにて、楽曲の一部先行配信がスタートした。ローンチの3日前にショート尺で耳を作る、いまのグローバル定石を素直に踏んでいる。
タイトルの「Bruce Wayne」が指しているもの
タイトルの読み解きから入りたい。Black Teeにティンバーランド、レッドカーペットでもバギーパンツ。華やかなスポットライトの中心にいながらも、自分たちのスタイルを貫くBE:FIRST。その姿は、表と裏、ふたつの顔を持つBruce Wayneを彷彿とさせる——というのがレーベル側の公式説明だ。
ここで踏み込みたいのは、「Bruce Wayne」という比喩が、US HipHopの語彙のなかでは相当に手垢のついたモチーフだ、という前提。JAY-Zの旧名義もそう、Migosやリル・ウェインの引用もそう、ゴッサムの富豪はラップにおいて「表の顔(金・タキシード)と裏の顔(腕っぷし・秘密)」を一語で示す共通言語として長く機能してきた。BE:FIRSTがそこにあえて乗ったということは、翻訳された比喩ではなく、既に流通している比喩の「棚」に自分たちを並べにいったということ。つまり、輸入ではなく参入。ここに態度がある。
Batmanが刺さるのは、BE:FIRSTというグループの成り立ちとも噛み合う。オーディションから生まれ、シーンの中心でスポットを浴びながらも、そのメンバーはどこかしら「勝ち上がってきた過程」を身体に刻んでいる。表と裏、光と影。この楽曲のモチーフは、キャリアのメタファーとしても機能する。
サウンドの手触り——ATL Jacob流の”低さ”
音を聴いていくと、プロダクションの主導権がATL Jacob側にあることがすぐ分かる。イントロから鳴っている808の質感が、日本のポップスで慣れているそれと違う。輪郭が丸く、けれど床を叩く。この「丸くて重い」バランスは、Futureの近年作を手掛けてきた彼の癖に近い。ハイハットのロールは詰めすぎず、上物のシンセは薄いパッドとベルの中間。ラグジュアリーでありながらストリートの空気感も感じさせる——という一言で片付けられがちだが、実際は「派手にしない」判断の連続で作られている。
ボーカルの置き方も面白い。ヴァースではメンバーの声を極端に近くまで寄せて、ダブリングを最小限にしている箇所がある。日本のダンス&ボーカルグループが得意としてきた「厚い合唱」の作り方とは違う設計で、一人ひとりの声のディテールが痩せない。ラップパートに切り替わる場面でリバーブがふっと抜ける処理があって、そこが個人的にいちばん耳を掴まれた瞬間だった。
Flo Milliのヴァースは短い。長くない。けれど、彼女の声が入った瞬間に曲の”重心”がひとつ横に動く。あれは実力。BPMもテンポ感も、彼女がふだん活動しているレンジに寄せて組まれているように聴こえる。「海外の人に合わせてもらう」ではなく、「相手の得意な土俵に自分たちが降りていく」——そういう組み方だと感じる。
聴きどころ3点
- 808のチューニング:低音の輪郭が丸いのに床を叩く、ATL Jacob印のベース処理。ヘッドフォンで聴くと差がはっきり分かる。
- ラップ受け渡しのリバーブ処理:歌→ラップに切り替わる瞬間、空間の広さが一段狭くなる。声の距離感で構成を組んでいる。
- Flo Milliの短いヴァース:長さで押さない。入った瞬間に曲の重心が動く、その一発の凄み。
BE:FIRSTのキャリアにおける位置づけ
この曲は「英語詞に挑戦した曲」ではなく、「海外制作陣とフラットに組んだ曲」だと理解した方がいい。BE:FIRSTは2021年11月にデビューシングル「Gifted.」をリリースし、2022年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場、2023年にはヨーロッパ最大級の音楽授賞式「2023 MTV EMA」で「ベスト・アジア・アクト賞」を日本のアーティストで初めて受賞している。国内起点からアジア圏、そして北米・欧州の視線を受ける位置まで、時間をかけて登ってきたグループだ。
その流れのなかで『BRUCE WAYNE』を置いてみると、この曲の位置がはっきりする。デビュー曲『Gifted.』が「自分たちの物語を宣言する曲」だったとすれば、『BRUCE WAYNE』は「自分たちがどの現場で作れるかを見せる曲」だ。楽曲そのものの完成度で世界の同世代と並ぼうとしている。宣言から実装へ。フェーズが一段変わった、という手応えがある。
SKY-HIがこのプロジェクトを自分のプロデューサー名義でクレジットに残しているのも重要だと思う。作曲欄に自分の名前を並べてATL Jacobの隣に立った。マネジメント上の采配ではなく、音の設計の共同責任者として名を出した。BMSGの立ち上げから続く「アーティストの隣に立つ」姿勢が、こういう場面でも一貫している。
どう聴かれているか——夜の車内で化ける曲
これは個人的な観察だが、この曲は昼のスピーカーより、夜の車内やヘッドフォンで効いてくる気がする。808の低さがきちんと出る環境で、上物のミニマルさが逆にリッチに聴こえる設計になっている。BE:FIRSTのこれまでのポップサイドの楽曲が「日中の高揚」に向いていたとすれば、『BRUCE WAYNE』は「夜の余韻」に向いている。表と裏のうち、裏側の時間帯に鳴らすように作られている、と言ってもいい。
ファンの反応を見ていると、繰り返し聴くほどラップパートの解像度が上がっていく、という感想を目にする。これは808が主役の楽曲によくある効き方で、初聴で全部見せない曲は、その分だけ長く生きる。派手なフックで一気に持っていくタイプではないぶん、プレイリストに埋め込んで生活のBGMにしていくと、あるタイミングで急に「あ、この曲めちゃくちゃ良いな」と気づく——そういう遅効性がある気がする。
チャートでの動きと、その先
配信直後からストリーミングチャートで存在感を示している。数字はまだ動いている最中なので断定はしないが、初動より粘りが出るタイプの曲だと見ている。理由はさっき書いた通り、遅効性のプロダクションだから。1週目より4週目に強い、という曲の作り方をしている。
ただ、この曲の意味は順位の数字だけでは測りきれない。ATL JacobとFlo Milliの名前が並ぶことで、BE:FIRSTのSpotifyやApple Musicのアルゴリズム上の隣人が変わる。US HipHopのプレイリスト側からの流入経路ができる。数字が動くのは、たぶんそこから先だ。
この曲を「日本のグループが海外に挑戦した曲」と読むか、「海外の制作陣が日本のグループと組んで作った曲」と読むか。ここは解釈が分かれるところで、答えを急がない方がいい。個人的にはどちらでもなくて、「両方の側から書き足せる余白がある曲」だと思っている。同じ曲でも、聴く側の立ち位置で見え方が変わる。そういう曲は長く残る。
ATL Jacobという固有名を、もう少し
ATL Jacobという名前が日本のリスナーに広く共有されているとは、まだ言いにくい。ただ、この10年のUS HipHopのビート面を語るときに彼を外すのはかなり難しい存在だ。Wheezy、Southside、Metro Boominあたりが「アトランタ発のトラップを世界標準まで押し上げた世代」だとすると、ATL Jacobはそのすぐ隣に立っている作り手のひとりで、Futureとの継続的な仕事で名前が広く知られるようになった。Drakeのアルバムサイドでもクレジットに顔を出す。ラッパー/起業家としても動いていて、単なるビートメイカーの枠には収まらない。
そういう作り手を、日本のグループが「一発の話題作りのゲスト」ではなく、共同プロデューサーとして招いた。ここが決定的に違う。フックだけ書いてもらう、ビートだけ買う、というやり方ではなく、曲の骨格から一緒に組んだ。作曲欄にSKY-HIとATL Jacobの二人が並んで書かれているのは、そういう組み方だからだ。
もうひとつ、Brittany Hazzard(Starrah)の名前が作詞欄にあることの意味も強調しておきたい。彼女はUSポップスのトップライナーの第一線にいる人で、彼女が関与しているということは、この曲のメロディが「英語圏の耳で自然に流れる」ように削られている、という意味でもある。日本語の作曲家が英語詞を書くときに起こりがちな”リズムの余り”が、この曲ではほとんど気にならない。母音の置き方、子音のクセ、それを聴き分けている作家が入っているからだ。
「グローバル展開」という言葉を、疑ってみる
「グローバル展開に向けた新曲」——リリース時のリードで繰り返し使われたこの表現には、正直、少しだけ距離を取って読みたい気持ちもある。日本のポップスの文脈で「グローバル」という言葉は、しばしば結果より看板として先に立ってしまう。看板だけ立てて中身が追いつかない事例を、この10年で何度も見てきた。
『BRUCE WAYNE』が面白いのは、そこを裏返しているところだと思う。「グローバル」を掲げる前に、まずグローバルな現場のやり方で曲を組んだ。宣言が先ではなく、実装が先。ATL Jacobを共同プロデューサーに、Starrahを作詞に、Flo Milliをフィーチャリングに——このクレジット自体が、看板ではなく履歴書として機能している。「うちは向こうの現場で作れます」と、名前で示している。
もちろん、これが即座に大きな数字に化けるかは別の話。US HipHopのプレイリスト経済のなかで日本のグループがどこまで食い込めるかは、この1曲では決まらない。ただ、扉のノブに手を掛けた、という感触は確かにある。掛けた手を離さずに、次、その次と続けられるかどうか。そこが本当の勝負になる。
解釈の余白——何を語り継ぐか
この曲について、ファンとまだ話し切れていないと感じている論点がひとつある。「BE:FIRSTの日本語ポップスとしての持ち味を、この方向で伸ばしていくのか、それとも並行して残していくのか」という問いだ。『Masayume』や『Boom Boom Back』の系譜と、『BRUCE WAYNE』の系譜は、正直かなり肌触りが違う。どちらが本流かではなく、両方をどう束ねていくのか。
個人的には、両方あっていいと思っている。ポップスの引力とHipHopの重力、片方だけを軸にしなければならない理由はない。ただ、両輪でやるにはそれぞれの重心を強く持つ必要があって、『BRUCE WAYNE』はHipHop側の重心を一気に下げにいった曲だと感じる。次に出てくる楽曲でポップス側の重心がどう更新されるのか、そこを見たい。
ここは答えのある話ではなくて、ファンの側でも意見が割れていい部分だと思う。「HipHop寄りをもっと聴きたい派」と「ポップス寄りが好きだった派」と「両方いける派」と。曲そのものが議論の余白を持っているから、そこは無理に閉じないでおきたい。曲の価値を、こちら側で断定して蓋をしてしまうのは、いちばん退屈な読み方だ。
入門動線
『BRUCE WAYNE』から広げるなら、まずFlo Milliの「In the Party」を聴いてほしい。彼女の芯にある声の張りが分かると、本作での短いヴァースの重さが二度美味しい。BE:FIRST側からは、デビュー曲「Gifted.」を再訪すると、この4〜5年での彼らの音の変化——特にビートに対する体重の乗せ方——が見えてくる。プロダクション側に興味が湧いたら、ATL Jacobが手掛けたFutureの近作を辿るのが一番早い。
『BRUCE WAYNE』が置いた石
まとめると、この曲は「海外進出の看板曲」というより、「海外の現場で作れるようになった、その最初の実装記録」だと思っている。宣言の曲ではなく、実装の曲。派手に旗を振らないぶん、置いた石は重い。
Bruce Wayneというタイトルの選び方にも、そういう静けさがある。ヒーローの名前をタイトルにしたのに、曲そのものは低く、暗く、抑制的だ。バットマンではなく、Bruce Wayne。マスクの下の名前を、あえて置いた。派手に見せず、次の一手のためのカードを増やしていく——このグループのやり方が、タイトルの選択にも透けている気がする。次に何を出してくるか。楽しみに待っている。
まずこの作品から聴く
- Gifted. — 全ての始まり。声の変化を辿る
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