2021年2月に配信された創造🛒楽天が、2025年のいま、また違う顔で聴こえる。当時は「スーパーマリオ35周年テーマ」というお祭りの旗印がまず前に立っていた。約4年経って、星野源が6年半ぶりのオリジナルアルバム『Gen』を出したあとに聴き直すと、印象が反転する。『創造』は祝賀ソングの顔をした、星野源のキャリアの分水嶺だった——と、いまなら言える。
この曲の要点
- 『創造』は2021年2月17日に配信リリースされた星野源の楽曲で、任天堂「スーパーマリオブラザーズ」35周年記念テーマソング。
- 作詞・作曲は星野源本人。同年6月23日にフィジカルシングル「不思議/創造」として発売され、TBS系火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』主題歌の「不思議」と両A面。
- ミュージックビデオのディレクションは映像作家・写真家の奥山由之。任天堂ハードの起動音やマリオシリーズのSEが楽曲内に散りばめられている。
- 2025年発表のオリジナルアルバム『Gen』にも収録され、シングル単体の曲から、キャリアの文脈の中で再位置づけされた。
祝いの曲、として片づけられていた4年間
『創造』はまず、任天堂のお祝いの曲だった。2021年当時、多くのリスナーはそう受け取ったし、そう受け取っていい設計になっていた。CMで流れ、MVには任天堂ハードやマリオのSEが忍ばせてあり、元ネタ探しが盛り上がった。祝祭のフォーマットだ。 ただ、いま並べ直すと少し違う。『創造』は、2018年の『POP VIRUS』でひとつの絶頂に達した星野源が、そこから2025年『Gen』までの6年半、何を考えていたかを最初に外に漏らした曲でもある。祝いの旗を借りて、自分の次の主題を先に置いた——そう読める。 「創造」というタイトルからしてそうだ。マリオの祝辞にしては、被写体側(任天堂)の話ではなく、作り手の姿勢の話に重心がある。「祝う」ではなく「作る」を主語にしている時点で、この曲は依頼仕事の枠を半歩はみ出していた。タイアップの事実関係と、曲の骨格
基本情報を整理しておく。創造🛒楽天は2021年2月17日に配信リリース、任天堂「スーパーマリオブラザーズ」35周年テーマソングで、星野源自身が出演した任天堂のTVCMでも使われた。作詞・作曲は星野源。曲中にはゲームキューブやディスクシステムの起動音、『スーパーマリオブラザーズ』のファイアボール音や敵を踏んだ音、『スーパーマリオランド』のステージBGMなどが差し込まれている。任天堂リスペクトの層と、星野源自身の音楽の層が、同じ4分弱の尺の中で二重露光になっている。 フィジカル化は同年6月23日、両A面シングル不思議/創造🛒楽天として。前作「ドラえもん」以来、シングルのフィジカルリリースは約3年4ヶ月ぶりだった。「不思議」はTBS系火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』主題歌、カップリングには2020年に外出自粛期間中に公開された「うちで踊ろう」のフルバージョンが収められた。この並びを見るだけで、『創造』が置かれた時期の空気がわかる。人が集まれない時期に、「作ること」「一緒に踊ること」を主題にした3曲が同じパッケージに入った。 MVを担当したのは奥山由之。8mmフィルムやiPhoneなど複数のカメラで撮影された膨大な素材を編集で組み上げた作りで、任天堂へのオマージュを画面の細部に散らしている。楽曲側の「元ネタの多層化」と、映像側の「素材のパッチワーク」が呼応している。「うちで踊ろう」との距離——同じ2021年の空気
『創造』を単体で語ると見落とすが、この曲は「うちで踊ろう」(2020年4月にSNS発)とセットで見た方が輪郭がはっきりする。両A面シングルにフルバージョンが同梱されたのは偶然ではないと思う。「うちで踊ろう」は集まれない状況下で「それでも動こう」と呼びかけた曲で、『創造』は「それでも作ろう」と自分自身に言い聞かせた曲だ。宛先が違うだけで、地続きの主題を扱っている。 この時期の星野源は、ドラマ主題歌の勝ちパターンから距離を取り、主題を「動く」「作る」に絞っている。ヒットの型を一度解体している時期、と言い換えてもいい。ライブができない、コラボもオンライン、番組収録も無観客——外向きの装置がほぼ止まっていた期間に、内側に向かって書かれた曲。だからこの2曲は、いま聴くと当時の生活の記憶ごと再生される。 『創造』が任天堂タイアップという「外向きの装置」を借りたのは、たぶん外側の装置がほぼ全部止まっていた時期だからこそ意味がある。動いていた数少ない一つを掴んで、そこに個人的な主題を混ぜた。祝辞の器を借りたのは、他に大きな器がなかった、というのが半分あるように思う。『Gen』の後から聴くと何が変わるか
いちばんの変化は、『創造』が「単発の依頼仕事」ではなく「6年半の助走の最初の一歩」に見えることだ。『POP VIRUS』(2018年12月)を最後に、星野源はしばらくオリジナルアルバムを出していなかった。『Gen』が2025年に出るまで、間にはコロナ禍、ドラマ、映画、Netflix『LIGHTHOUSE』、エッセイ、と別軸の仕事が重なっている。その助走期の入口に置かれたのが『創造』だ、と時系列で並べるとよくわかる。 この曲が『Gen』にも収録されているのは、たぶん象徴的な意味も含んでいる。祝いの旗の下でこっそり書いた「作ることについての曲」を、6年半の答え合わせとして再配置している。当時「マリオの曲」として消費された『創造』は、いまアルバムの文脈で聴くと、その後の星野源が何を作ろうとしていたかの見取り図に変わる。 少し個人的な話をすると、自分は2021年2月に配信初日で聴いたとき、正直「マリオの曲、上手いな」で止まっていた。ゲームSEの入れ方が巧妙で、鼻歌でも歌える。それだけで満足していた。4年経って『Gen』のインタビューをいくつか読んだあとにもう一度戻ると、この曲の中央にあるのは任天堂ではなく、星野源自身の「まだ作れる」という宣言だと気づく。同じ曲なのに、聴こえる主語が入れ替わる。岩田聡と横井軍平——引用の層をほどく
『創造』の面白さは、任天堂の「音」だけでなく「思想」まで引用しているところだ。歌詞には、故・横井軍平の「枯れた技術の水平思考」を思わせるフレーズや、故・岩田聡が2008年の経営方針説明会で語った「非常識と言われるような提案をするでしょう」という趣旨の言葉を連想させるフレーズが差し込まれている、と発売当時から指摘されていた。 ここが大事なところで、『創造』の引用は「マリオが好きです」で終わっていない。「作る人がどう考えているか」まで引用している。ゲームキューブの起動音は任天堂ハードの音だが、岩田聡の言葉は任天堂という会社の哲学だ。前者はガジェット的な祝辞、後者は職業倫理の祝辞。二層あるからこの曲は消耗しない。SEのネタバレが済んだあとに、思想の層がずっと残る。 4年経った目で見ると、星野源はこの二層のうち後者を、自分の主題として引き取ったのだと思う。「非常識と言われるような提案」を、その後の彼はドラマの主題歌ではない場所——Netflixのトーク番組『LIGHTHOUSE』の書き下ろしや、Louis ColeやSam Gendelとの共作——で実行に移していく。『創造』のときはまだ、任天堂の口を借りて宣言していた。サウンドの読みどころ——お祭りの下にある実験
音の作りを聴き直すと、『創造』はけっこう変な曲だ。イントロはハード起動音の引用から始まる。ポップスの導入としては極めて異例で、8bit以前の記号的な電子音を前面に出したポップソングは、少なくともメジャー・シーンではそれほど多くない。ここで「これは普通のJ-POPではないですよ」という札を最初に見せている。 Aメロに入ってから急にファンク/ソウル寄りのグルーヴに切り替わる。この落差が快感の中心にある。ゲーム音の記号性と、生々しいベース・ドラムの物質感が、同じ小節の中で殴り合っている。星野源はこれ以前から「YELLOW DANCER」以降のブラックミュージック志向を明確にしていたが、『創造』では、そのグルーヴに8bitのSEを噛ませることで、彼のポップ観の広さを圧縮して見せている。 サビの譜割りは、ゲームBGMのメロディが持つ短いモチーフの反復に近い。任天堂のBGMは限られた音源と尺の中で「覚えやすさ」を最優先に設計されている。『創造』のサビは、その設計思想を歌モノに翻訳している。だからこの曲は初回で口ずさめる。設計として「覚えられるように作られている」曲だ。祝辞であると同時に、任天堂の音楽設計へのオマージュにもなっている。 そう。この曲の面白さは、引用の対象が「音(SE)」「思想(哲学)」「設計(メロディの覚えやすさ)」の三層になっていること。ここまでやって、なお表向きはお祝いソングの顔をしている。過剰なのに軽い。聴きどころ3点
- イントロのハード起動音→Aメロのファンクへの落差:記号的な電子音から、物質感のあるバンドサウンドへの切り替わり。ここで曲の設計思想が一気に見える。
- SEが「歌の伴奏」として機能している瞬間:マリオのファイアボールや敵を踏む音が、効果音ではなくビートの一部として鳴っている箇所。作り手の遊びと敬意が同居する。
- サビの短いモチーフの反復設計:任天堂BGMの「覚えやすさ最優先」の設計思想を歌モノに翻訳している。初回で口ずさめる仕掛け。
『創造』の効き方——朝と、作業前と
この曲、「これから何かを始める時間」にやたら効く気がする。朝、机に向かう直前。制作に入る前の、まだ気分が乗っていない15分。BPMは走らせるほど速くないし、しっとりもしていない。「動き出す用」の温度に設計されている。 たぶんこれは偶然ではなくて、テーマ自体が「作ること」だからだと思う。祝辞や失恋やドライブの曲は、それぞれのシーンに引き寄せられて聴かれる。『創造』は「作る前に聴く」で最も効く。実際に自分は原稿を書き始める前のプレイリストに入れていて、これを流すと不思議と手が動く。曲の中身が「動き出せ」と言ってくれるからだと思う。 ファンの人でこの曲を朝によく聴いている、という人はけっこういるのではないか。夜のバラードではなく、朝の助走。そういう役割の曲として設計されている気がする。キャリアの中での位置づけ——分水嶺としての一曲
星野源のシングル史を並べると、『創造』の位置がはっきりする。「恋」(2016)で社会現象、「Family Song」(2017)で自身初のオリコン週間1位、「アイデア」(2018)で朝ドラ主題歌、「ドラえもん」(2018)で国民的キャラクターへの提供。ここまでが第一期のクライマックス。 『POP VIRUS』(2018年12月)でその集大成を出したあと、彼は「大衆的な代表曲」を積み上げる方向に急がなかった。次に来たのがコロナ禍と「うちで踊ろう」(2020)、そして『創造』(2021)。この2曲は、共に「作ること/作り手であること」に主題が寄っている。「恋」から「創造」への飛距離を見ると、テーマの主語が「あなたと私」から「作る私」に移っている。 この移動は、2025年『Gen』のインタビュー群で語られる「意味を手放して作る」というモードにまっすぐ繋がる。『創造』はその移動の入口だった。当時のマリオCMのお祭りの陰で、静かに舵が切られていた。 逆に言えば、『創造』を「マリオの曲」としてだけ聴いてきた人は、いま『Gen』を経由してもう一度聴くと、たぶん少し寂しい発見をする。この曲は当時も「祝辞に見せた個人の宣言」だったのだ、と後から気づく。気づいた瞬間、4年前の自分の聴き方がひとつ更新される。チャートと受容——数字よりも「持続」の曲
チャート上の瞬間最大風速でいえば、『創造』は「恋」ほどの社会現象は起こしていない。ただ、2021年配信・2021年フィジカル・2025年『Gen』収録という時系列で見ると、この曲は「短距離走で1位を取る曲」ではなく「4年後にも文脈が増える曲」として振る舞っている。TOKIO HOT 100圏の週次の動きより、リカレンス(何度戻ってきても新しく聴こえるか)で測るのが正しい曲だ。 MVは配信開始から早い段階で数百万再生を集めたと当時報じられている。数字は残っているが、この曲に関しては再生数の推移よりも「4年後にアルバム収録された」という事実の方が、価値の証拠として重い。時間に耐えたということ。解釈が分かれるところ——祝辞か、宣言か
『創造』を「任天堂への祝辞」として聴くか、「星野源自身のクリエイター宣言」として聴くかは、たぶん人によってきっぱり分かれる。両方成立するように作られているから、どちらも正解だ。 個人的にはいま、後者に寄せて聴いている。『Gen』を経由したあとだと、この曲の中央にいるのは任天堂ではなく星野源本人に思える。ただ、これは4年経ったからそう聴こえるだけで、2021年の受け取り方が浅かったわけではない。祝辞として聴くのがいちばん素直な曲だし、それでも十分にいい曲だ。 むしろ面白いのは、時間が経つと解釈の重心が動くように設計されていること。ここは意見が分かれてしかるべきで、あなたがいまどう聴いているかを一度言葉にしてみると、この曲との距離が変わると思う。 もうひとつ分かれるところ。この曲を、任天堂に敬意を払ったCM仕事の傑作と見るか、CMの器を使って自分の作家性を通した「乗っ取り」の一例と見るか。前者の見方は星野源を「良い仕事人」として尊敬する読み方で、後者は「クリエイターとしてしたたか」と評価する読み方だ。両方肯定できる。ただ、後者の読み方をした瞬間、この曲は少し違う光り方をする。CMソングというジャンルそのものの可能性が広がって見える。入門動線
『創造』から次の1曲を挙げるなら、同じシングルに収録されている「不思議」。ドラマ主題歌としての強度と、星野源のポップスとしての完成度が両立している曲で、『創造』の翌のモードがよくわかる。もう1枚広げるなら、2025年のオリジナルアルバムGen🛒楽天。『創造』が助走の入口だったことを、6年半の答え合わせとして体感できる。この2作を『創造』の前後に置くと、星野源の現在地の輪郭が急にはっきりする。「創造 星野 源」の関連作品
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まとめ——4年後に更新される曲
『創造』は、リリース当時に完結していなかった。2021年の任天堂35周年の祝辞として作られたが、2025年『Gen』を経ることで、そのときの意味が更新される。曲は変わっていない。周囲が変わって、聴こえる主語が入れ替わる。こういう曲は多くない。 いま『創造』を聴き直すのは、単なる懐古ではなく、星野源というアーティストの助走のスタート地点に戻る作業に近い。4年前にあなたがこの曲をどう聴いていたかを覚えているなら、その記憶ごともう一度上書きしにいく価値がある、と思ってます。まずこの作品から聴く
- 不思議/創造 — 同時発売の両A面シングル
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