Poolsideという処方箋|Daytime Discoが10年以上鳴り続ける理由

夕暮れのプールサイドに反射する光と、揺れる水面のイメージ アーティスト

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チャートを眺めていて、ふと”温度が低い曲”が入ってくると耳が止まる。Poolsideは、その典型だ。ビートは走らない。声も張らない。それでも夏の終わりのプレイリストに、10年以上のあいだ静かに居残り続けている。Poolsideは夏を歌っているのではなく、夏の終わり際にだけ差す光の角度を録音している。

今週のチャートで再び名前を見かけたので、あらためて彼らの仕事を整理しておきたい。ロサンゼルスの裏庭のプールハウスから始まったプロジェクトが、なぜここまで長く鳴り続けているのか。数字の外側にある話を書く。

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このアーティストの要点

  • Poolsideはロサンゼルス拠点のグループで、2010年に裏庭のプールハウスをスタジオに改装したところから始まった。自称ジャンルは「Daytime Disco」。
  • 創設は Jeffrey Paradise と Filip Nikolic のデュオ。2018年頃に Nikolic が脱退し、以降は Paradise が中心となって活動している。
  • 2011年のシングル「Do You Believe」で注目を集め、2012年にデビュー・アルバム『Pacific Standard Time』をリリース。Neil Young「Harvest Moon」のカバーが同作の顔となった。
  • 2020年『Low Season』、2021年『High Season』を経て、2023年10月20日に Ninja Tune 傘下の Counter Records から『Blame It All On Love』を発表。
  • ジャンル表記は Nu-disco / chillwave / synthpop。ゆるやかなBPM、生っぽいコンガ、アナログ鍵盤の温度感が中核にある。

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プールハウスから始まった、静かな革命

結論から言うと、Poolsideの出発点は「夏に自分たちが聴きたい音がなかったから作った」という、それだけの話だ。派手な起源譚はない。むしろその素朴さが、彼らの音の質感をそのまま説明している。

Poolsideは2010年に結成されたロサンゼルスの「Daytime Disco」グループで、裏庭のプールハウスを改装した場所でのレコーディング・プロジェクトとして始まった。この「裏庭のプールハウス」というディテールがやたら効いている。プロ用の防音スタジオではなく、日光が入って、たぶん虫の声も混ざるような場所。彼らの音が持つ、あの妙にくつろいだ空気感の出どころは、たぶんそこにある。

片方の Filip Nikolic はデンマーク出身のプロデューサーで、LAに移り Ima Robot でベースを弾いていた人物。もう片方の Jeffrey Paradise は、サンフランシスコで Blow Up というクラブ・パーティを主宰していた側の人間だ。ダンスフロアを回してきたDJと、ロックバンドのベーシスト。この配合が地味に重要で、Poolsideの曲はダンス構造の骨格を持ちながら、鍵盤やギターの手癖はバンド的なゆるさを引きずっている。

両者は合流後、「Daytime Disco」という言葉を自分たちの音を説明するために作った。ここが分岐点だった。夜のクラブではなく、真昼のプールサイド。ミラーボールではなく西日。ディスコという言葉を昼側に引き剥がした人は、それまであまりいなかったと思う。

「Harvest Moon」がすべてを変えた、あの2012年

Poolsideという名前を世界に届けた曲は、彼らの自作曲ではなくカバーだった、というのが面白いところだ。

2011年のシングル「Do You Believe」で最初の注目を集め、2012年のデビュー・アルバムPacific Standard Time🛒楽天に繋がった。このデビュー作の顔になったのが、ニール・ヤング1992年の「Harvest Moon」のカバーだ。オリジナルの「Harvest Moon」は1992年11月2日にReprise Recordsから発表されたアルバム表題曲で、プロデュースはNeil Young本人と Ben Keith。フォーク/カントリー・ロックの静かな名曲を、Poolsideはテンポを落とし、コンガとメロウなキーを敷いた「昼のディスコ版」に翻訳した。

初めて聴いた人の多くが「これって何?」と検索した、あのタイプの曲だ。ラジオ局KCRWは『Pacific Standard Time』を、日光浴とマルガリータのピッチャーづくりに完璧なサウンドトラックだと評し、Poolsideを「daytime discoの戴冠した王」と呼んだ。表現がいちいちビール臭くて笑ってしまうが、こういうふうに”生活のシーン”にひもづく形で語られたのは、彼らにとって幸運だった。ジャンル名ではなく、時間帯と一緒に記憶されたからだ。

個人的な話をすると、自分がこのカバーを最初に聴いたのは友人が編んだ夏のDJミックスの中で、たぶん2013年か2014年。誰の曲かも知らずに「これいいね」とだけメモしていて、後から辿ったらPoolsideだった、というルートを通っている。この「作者名より先に曲の温度で覚えられる」ケース、Poolsideには驚くほど多い。

Nikolic脱退という分岐点と、Paradiseの再定義

デュオという看板は、途中で外れている。ここは公式サイトの表記だとサラッと流されがちだが、音を追ってきた人にはむしろ重要な変化だ。

プロジェクトはデュオとして始まり、2011年のシングル「Do You Believe」で最初の注目を集め、2012年のデビュー作『Pacific Standard Time』へと繋がった。2020年のLow Season🛒楽天は共同創設者の Filip Nikolic が2年前にグループを離れて以降、初めてリリースされたアルバムだった。つまり2018年頃を境に、Poolsideは Jeffrey Paradise 単独のプロジェクトへと形を変えていた。

面白いのは、体制が変わっても音の芯が揺らがなかったことだ。2020年『Low Season』のあと、2021年にはよりアップビートな姉妹編High Season🛒楽天を発表している。『Low Season』と『High Season』を並べて聴き直すと分かるのだが、同じ光源をシャッタースピード違いで撮ったような対の作品になっている。片方は雨上がりの午後4時、片方は真昼のプールデッキ。この「1つの世界観を2作で照らし返す」構成、少数体制になってからのほうがむしろ研ぎ澄まされた印象がある。

Wikipediaの表記でも、出身はロサンゼルス、活動年は2011年〜現在、ジャンルはNu-disco / chillwave / synthpop、レーベルはPacific Standard Records、メンバーはJeffrey Paradise、過去メンバーとしてFilip Nikolicが記載されている。この整理を頭に入れて聴くと、2020年以降の曲がなぜ少しシンセ寄り、プロダクション寄りに舵を切って聞こえるかの補助線が引ける。

音楽性の核 ― Daytime Discoという発明

Poolsideの音楽性を一言で言うなら、「BPMを下げたディスコ」だ。ただ、これは技術的な説明にすぎない。もう一段踏み込むと、彼らがやってきたのは「ダンスミュージックから”急がなきゃいけない感じ”を抜く」という編集作業だと思う。

Daily Bruinのインタビューで、Jeffrey Paradise 自身が彼らのスタイルを「Daytime Disco」と説明しており、それは典型的な夏の1日のための音楽で、コンガとオールドなアナログ鍵盤の音がふんだんに使われるスタイルだと語っている。コンガとアナログ鍵盤。この2つの楽器選定はけっこう象徴的で、どちらも「機械の正確さ」から少しずれた温度を持つ音源だ。BPMを落とした4つ打ちに、微妙にヨレたコンガと、湿度のある鍵盤を重ねる。それだけで音楽の”体温”は変わる。

もう一つ見過ごせないのが、彼らのシングル「Do You Believe」が発表当時、Todd Terje、Dimitri From Paris、The Magician といった同時代のダンス・シーンの重要人物たちから好意的に受け止められたという事実だ。Todd Terjeが真剣に聴くタイプの音楽性、と考えるとPoolsideの立ち位置が急にはっきりする。ノスタルジックなディスコをただ懐古するのではなく、あくまでいまの耳のために再設計している側の音楽。ここの解像度を持って聴くと、彼らの曲がクラブDJのセットにも混ざる理由が分かる。

聴きどころ3点

  • BPMの遅さ ― 100前後まで落としたグルーヴは、走らないダンスを可能にする。踊るというより体を揺らす音楽になる。
  • 生楽器の粒立ち ― コンガ、ギター、アナログキーの生っぽい輪郭が、シンセの層の上に必ず一枚残る。全部をデジタルで塗り潰さない。
  • ボーカルの脱力 ― 歌い上げず、ため息の一歩手前で止めるフレージング。感情の輪郭を強く出さない代わりに、風景の側を鳴らしている。

代表作・ディスコグラフィの読みどころ

結論から言えば、Poolsideは「アルバム単位で世界観が閉じている作家」だ。シングル聴きも悪くないが、季節と天気が揃った1枚をまるごと通すほうが、たぶん彼らの意図に近い。

『Pacific Standard Time』(2012)は、彼らの言語辞典のようなアルバムだ。Daytime Discoという単語がこの盤の中で定義されていて、以降の全作はこの1枚に対する脚注として読める。「Harvest Moon」カバーはこの盤に収録。ジャンルの発明者が発明した瞬間を、あとから追体験できる貴重な1枚。

『Low Season』(2020)は、体制変更後の最初の返答だった。先行シングルは Panama をフィーチャリングした「Can’t Stop Your Lovin’」で、2020年2月7日にリリースされている。Panamaはオーストラリアのプロジェクトで、Poolsideとは長年にわたるコラボ関係にある。この「外部の声を招く」やり方が、以降のPoolside作品の重要なパターンになっていく。

2023年10月20日、Ninja Tune傘下の Counter Records からBlame It All On Love🛒楽天が到着した。2023年6月28日には Panama を再び迎えたシングル「Back To Life」が先行公開されており、Paradise 自身がこの曲を「良いことは3つ重なると言うので、Panamaとの3度目のコラボを出せて嬉しい」と説明していた。アルバム全体を通しても、Poolsideのフォーマットは変わらない。ただし、シンセの解像度と共作者の幅は明らかに広がっている。ここは初期作から続けて聴いたときに一番はっきり感じる進化だと思う。

ライブの手触りと、コラボレーションの地図

Poolsideをレコードだけで理解していると、たぶん半分しか掴めない。彼らはツアーに出るバンドで、しかもツアーメンバーの顔ぶれが渋い。

現在のバンド編成は Jeffrey Paradise を中心に、ツアー・メンバーとして Vito Roccoforte(the Rapture)、Mattie Safer(the Rapture)、Alton Allen、Casey Butler(Pharaohs)が参加している。the Rapture の元メンバーが2人。ここ、地味に驚くべき点だ。ニューヨークのダンスパンク・シーンを2000年代に牽引したバンドの2人が、LAのDaytime Discoに合流している。ジャンル的にはむしろ遠いはずの2つのシーンが、Poolsideという場で自然に握手している。

面白いのは、Paradise 自身も the Rapture の前身にあたるバンドに一時期在籍していたことがあり、その後サンフランシスコでDJをしていたという経緯があることだ。人脈が音に返ってきている、と言い換えてもいい。彼らの曲にダンスミュージックとしての骨格がしっかり残っているのは、この人脈が偶然ではなく必然だからだと思う。

コラボ相手のもう一つの軸が Panama。2020年『Low Season』の先行シングル「Around The Sun (feat. Amo Amo)」は Rolling Stone の「Song You Need To Know」に選ばれた。ゲスト・ボーカルを迎える型を彼らはずっと磨いてきていて、これは自身のプロデューサー性が強くなっていく過程とも重なる。

チャートに残り続ける理由 ― プレイリスト時代との相性

Poolsideがなぜ10年以上プレイリストの定位置を守っているのか。答えのひとつは、彼らの曲が「シーンと結びついている」ことにあると思う。

ストリーミング時代のプレイリストは、感情ではなく状況で編まれる。「夕方の運転」「日曜の朝」「初夏のBBQ」。この状況キュレーションの中で、Poolsideの曲はほぼ確実に候補に入る。なぜなら彼ら自身が最初から「昼のプールサイド」という具体的な情景を音の設計に埋め込んでいるからだ。作った側の設計意図と、聴き手の使い方が、あらかじめ一致している。ここが強い。

ジャンルとしてはNu-disco / chillwave / synthpopに分類されるが、実際にはこのどれとも微妙にズレていて、Poolsideの棚は独立して開いている。似た温度の作家を挙げるなら Toro y Moi、Washed Out、初期の Air France あたりが近いが、Poolsideほどコンガとギターの生々しさを残しているアクトは少ない。この差分がプレイリストの中で「他の曲に埋もれない一枚のサイン」として機能している。

そして忘れてはいけないのが、彼らの音楽が「加齢しない」ことだ。トレンドを追いかけていないから、10年前の曲と最新曲を並べても違和感がない。逆に言えば、聴き手側の年齢が上がってもそのまま横に居続けてくれるアーティストで、これが長期プレイリスト残存率の高さに直結している。

これから聴くならどこから

結論を先に言うと、初めての人は「Harvest Moon」から入って何も間違えない。ただし、その入口を通ったあとにどこへ進むかで、Poolsideの解像度は大きく変わる。

まずこの作品から聴く

  • Pacific Standard Time — Daytime Discoの原典
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  • Low Season — 体制変更後の再定義
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  • High Season — 対になる姉妹編
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  • Blame It All On Love — 現在地を示す最新作
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入門動線

  • まずこの1曲:「Harvest Moon」(Neil Youngのカバー)。Poolsideの音の温度がこの1曲でほぼ伝わる。
  • 次にこの1枚:『Pacific Standard Time』(2012)。Daytime Discoの原典。夏の入り口から真ん中までを1枚で通せる。
  • 深めるならこの1枚:『Blame It All On Love』(2023)。10年以上経ってもコアが揺らがず、プロダクションだけがアップデートされている現在地。

最後に、ひとつ問いを残しておきたい。Poolsideの曲は「夏の音楽」として広く消費されているが、自分は最近、彼らの本領はむしろ「夏が終わりかけている9月のプレイリスト」にあるんじゃないかと思っている。全盛期の陽射しではなく、影のほうを鳴らしている音楽、と言い換えてもいい。ここは聴き手によって解釈が分かれるところで、あなたにとってのPoolsideがどの季節の、どの時間帯の音なのか。よければ、いちど自分のプレイリストの中で位置づけを確かめてみてほしい。

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